ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん)   作:嫉妬憤怒強欲

8 / 17
最近流行りのスパイや呪術のアニメ見てる時にふわっとインスピレーションが湧きました。
タグに『呪術廻戦要素あり』を追加しました。


自己紹介で第一印象が決まる

 平日の朝靄の漂う早朝。クイーバーク街にある万屋レイちゃんという事務所にある寝室にて。

 

「うーん、頭痛いよ~一睡もできていないよ~」

 

 社長であるレイが絶賛魘されていた。前日遅くまで酒をしこたま飲んで二日酔いになったという自業自得の理由で一睡もできていない。

 だが現実とは残酷なものだ。レイが苦しんでいる間も時計の針は進み続ける。

 そして……

 

 ジリリリリッ!

 

 苦しむレイの側で、無慈悲にもマヌケな顔をしたコケシ人形の形をした目覚まし時計から、セットした時間になったと知らせる合図のベルが鳴った。

 

「うるせええぇ!もうとっくに起きてるわぁ!」

 

 ガシャアアアン!

 

 あまりの五月蠅さにイラついたレイは目覚まし時計を掴み、盛大に壁に叩きつけて大破させた。

 

「ちょオォおおお!?何やってんだぁアンタぁああ!?」

 

 目覚まし時計が粉砕された壁の横にあった押入れが開き、中からレイのところに居候することになったショウが東方風の寝間着姿で出てきて悲鳴を上げた。

 

「それオイラが実家から持って来た目覚まし時計だろ!なに壊してんだ!?」

「うるせえなぁ、大きな声出すな。頭にガンガン響くんだよ。つーかなんでそんなもんが俺の側にあんだ?」

「今日仕事があるからって昨日アンタが無理矢理取ったんだろうが!」

「そうだっけ?俺過去は振り返らない男だから覚えてねえよ」

「こ、こいつ……!」

 

 まったく悪びれない家主に、怒りで眉間にシワを寄せるショウだが、壁にかけてある時計が目に入ってすぐに我に返った。

 

「ヤベッ、もうこんな時間か!」

「あ?なんか用事でもあんのか?」

「昨日話しただろ。今日から学校に行くんだよ。学校」

 

 ショウは一度押入れを閉じ、数秒して学校の制服のような衣装に着替えて玄関へと向かった。

 

「それじゃあ行ってくるからな!」

「おう、行って来い行って来い」

 

 レイは布団から出ずに手をひらひらと振るだけだった。

 玄関のドアがバタンとしまったのが聞こえた後、レイはふとあることに気づく。

 

「あれ?そういやアイツどこの学校に行くって言ってたっけ?つーかあの制服なんか見覚えが………ウプッ」

 

 考える間もなく吐き気を催したレイはトイレへと駆け込み、胃の中の物をリバースしたのだった。

 

 

『そう言えば若』

「あ?どうしたタマフミ?」

『学校までの道はわかってますかにゃ?』

「あっ」

 

 クイーバーク街をでてすぐのところでタマフミに指摘され、ショウはフェジテの地理に疎かったことを失念していた。

 

「まずい。初日早々迷子になって遅れましたなんてシャレになんねえぞ……」

『誰かに道を聞くしかないですにゃ』

「そうだな」

 

 ショウは周りをキョロキョロ見回す。すると、前の道を自分と同じ制服を着た少年が歩いてるのが見えた。

 

「お、おーい!ちょっといいか?」

「?」

 

 ショウが呼びかけると、少年は振り返り此方に気付く。

 

「なにか用か?」

 

「いやぁ、実は今日からお前と同じ学校に通うんだけど道が分かんなくてな」

「奇偶だな。オレも今日から転入だ」

「え!?」

「だが安心しろ。道は把握してる」

「そ、そうか」

 

 助かったと安堵したショウは少年の後をついていく。

 

「オイラ、ショウ=ソウマ…お前は?」

「オレは――――」

 

 

♢♦♢

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院、東館二階。

 ある日、魔術学士二年次生二組の教室ではある話題が上がった。

 

「アイザ君聞いた?このクラスに新しいメンバーが増えるらしいよ」 

 

 SHL前。ペンナイフで羽根ペンの先を尖らせていたアイザにルミアが話しかけてくる。先の事件以降最近ルミア

 

「ああ、噂で聞いている。どうやら日輪の国からの留学生らしいな」

「どんな子だろうね?男子か女子かはわからなかったし」

「さあな。そもそも他の学院ならともかく他国からのは非常に珍しいからな」

 

 何年か前は他国との交流でそれはあったが、アルザーノ帝国にいる外道魔術師の犯罪件数の増加や隣国の宗教国家レザリア王国との緊張状態などの関係からすっかり無くなっていた。自国の人間が他国で巻き込まれるのを避けたいのは当然だ。

 

「…ところで、さっきからお前の親友大丈夫か?」

 

 ルミアがいつも座る席の隣では、彼女の親友であるシスティーナが物凄くそわそわしていた。それを見てルミアは苦笑いを浮かべる。

 

「あはは……システィってば留学生の話を聞いてすごく緊張してるんだよ」

「なんであいつが緊張するんだ?」

 

 アイザが口にした疑問にシスティーナがピクリと反応して此方を向く。

 

「知らないのアイザ?日輪の国ってことは陰陽師が来るってことなのよ!」

「ああ、向こうではそう呼んでいるらしいな」

「いい?陰陽師よ?そもそも住む大陸が違うからまずお目にかかることができないって言われるような人達よ?彼等の使う陰陽術って詳しいことがまだ分かっていないのよッ。できることなら一度は見てみたいもの!」

「あ、ソウデスネ」

 

 システィーナの熱の入った弁にアイザは返しが片言になる。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 予鈴が鳴るとともに教室の前のドアを開けて担任……ではなく副担任の先生が入ってきた。

 

「皆さーん、おはようございまーす!」

「「「おはようございますセラ先生!」」」

「今日も一日勉学に励みましょうね」

「「「はーい!」」」

 

 セラ=シルヴァースが副担任となって数週間が経ち、彼女はクラスから慕われていた。容姿端麗なことと担任のグレンと違って人当たりがよいことからクラスに馴染むのにそう時間はかからなかった。

 そして肝心のグレンの姿がいまだに見当たらない。というのも、グレンがいつも適当なのでセラが担当しているのだ。

 

「それでは、SHLを始めましょう。まず最初に皆さんも知っての通りこのクラスに新しいメンバーが加わります。しかも二人も!」

「「「え!?」」」

 

 セラから発せられた予想外の情報に教室がざわつく。

 

「…一度に一つの教室に二人も来るなんてないよね?」

「だよな、普通。例の留学生が二人ってことなのか?」

「いや流石にそれは………」

「はいはい、静かにしてっ」

 

 セラが手を打ち鳴らす。

 

「私もよくわからないんだけど、なんかもう一人の方は前から来ることは決まってたけど偶々留学生と来る日が被ったみたいだよ。まあとにかくクラスの仲間が増えることに変わりはないから皆さん仲良くともに学びましょうね」

「「「はーい!」」」

 

 セラの言葉に生徒達はソワソワする。

 

「今日から来る転校生、可愛い女の子かな〜」

「俺は可愛かったら放課後誘おうかな〜」

 

 主に男子が。

 

「セラ先生、グレン先生はまた遅刻ですか?」

「ううん、今グレン君は学院長に呼ばれてるの」

「えっ…今度はいったいなにやらかしたんですか?」

 

 このクラスでは『グレンが学院長に呼び出されたイコールなにかやらかした』が共通認識になっていた。

 

「あ、あはは、今回は違うの…」

「悪い悪い遅れたわー」

 

 そこに教室前方の扉が開かれ、教室にグレンが入ってきて教壇に立つ。

 

「先生遅いですよ!」

「だから悪いって学院長に呼び出されてたんだから大目に見ろよ白猫」

「だから私の名前はシスティーナですって!」

「はいはい知ってるって。えーSHLを適当に始める前にこのクラスに新しいメンバーが加わるぞ」

「先生、それもう知ってます」

「え?マジで、俺はついさっき知ったばっかなのに」

「なに言ってるのグレン君。この前の講師会議で説明されてたよ」

「あ?そうだっけ?話が長いから聞き流してたわ」

「なにやってるのグレン君……」

「先生はもう私達の担任なんですからしっかりしてくださいよもう」

 

 グレンの怠惰さに、セラ(白犬)とシスティーナ(白猫)は呆れる。

 質の高い授業はともかく、面倒臭がって試験は実施はしない、魔術研究はやる気なし、学院の講師会議はサボる、魔術実験の後片付けから逃げる、違法な魔術をこっそり生徒達に教える、怠惰で、いい加減で、子供じみた悪ふざけを繰り返す、そして魔術を小馬鹿にした数々の問題発言………例を挙げれば枚挙に暇がない。

 

「まったく……毎日きちんとしなさいって言ってるのに、人の言うことをたまには聞いて――」

「はいはいそれ何度も聞いたから。というか、今から紹介するから静かにしろ。廊下でずっと待たさせる気か」

「うぐっ………」

 

 グレンにしては最もな指摘に、システィーナは押し黙る。

 

「おーい、入ってくれ」

 

 グレンの呼びかけにあまり間を置かない内にガタンという音と共にドアが開き、男子用の制服を着た二人の生徒が入ってきた。

 

 一人は身長が160くらい、前髪を長めの二つ分けにしたセミショートの黒髪、たれ目のふわっとした柔らかい印象の表情をした中性的な顔立ちの少年。

 もう一人は身長170くらい、中肉中背の体格で外ハネの茶髪。目立った特徴は無く地味ではあるが整った顔立ちをしている少年だ。

 

「どっちがそうなんだ?」

「なんだどっちも野郎かよ」

 

 生徒達の反応は様々で、どっちが留学生か予想したり、落胆するのもいた。主に男子が。

 

「本日から新しくお前らの学友となる。まぁ、仲良くしてやってくれ。ほら、自己紹介しろ」

「はーい……オイラは日輪の国から留学生としきたショウ=ソウマだ。趣味は…のんびりすること。わからないことも多いから、色々と聞くかもしれないけど、教えてくれると助かる。よろしくなー」

 

 のんびりとした口調で自己紹介したショウ。

 

「こっちが留学生か」

「なんかゆるい奴だな……」

「趣味がのんびりすることって……なんかグレン先生みたいだね」

「けど目は腐ってませんわ」

「はいはいまだあと一人残ってるから静かにしろ」

 

 グレンはざわめくクラスの生徒達の注意を強引に集めた。すると、クラス中が静まり返り、注目が茶髪の少年に一斉に集まった。

 そして、茶髪の少年の言葉に傾聴しようとする。

 

「えー……えっと、アヤト=キヨハラです…………えー、趣味や得意なことは特にありません。えー、皆と仲良くなれるように頑張りたいです」

 

 茶髪の少年、アヤトの自己紹介に生徒達は

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

……沈黙。

 

(……失敗した)

 

「あー…………自己紹介が終わったみたいだから授業を始めるぞ」

 

 グレンにまで滅茶苦茶気を遣われる始末。

 

 多分、良くてコミュ障、悪くて根暗そうな奴だと認識されたに違いないとアヤトは確信した。

 

 

 

♢♦♢

 

「…………とまあ、おさらいするとこんな感じだ」

 

 グレンは黒板上にチョークで呪文と魔術式を書き連ねながら、来たばかりのショウとアヤトにも分かるように今までやった授業の内容を懇切丁寧に解説した。

 

「二人共わかったか?」

「おぉ、頭の悪いオイラでも内容がするすると頭に入ったぞ」

「……分からない所もちゃんとわかるように砕いてるので助かります」

「ふふん!そうだろそうだろ。このグレン大先生の手にかかればこんなもんよ」

 

 席についているショウとアヤトの絶賛ぶりにグレンは有頂天になる。ウザいくらいに。

 

「いやぁ、オイラここに来る前に参考書読んでもチンプンカンプンでどうしようかと不安だったけど助かったぁ~」

「………というより、書いてることが抽象的過ぎて参考書というよりただの暗記本じゃないかかと思った」

「そうだよな~そうだよな~暗記しただけで極めたつもりになってるとか恥ずかしいよな~?ぷぷぷ」

 

(((こ、こいつ………!)))

 

 席を見回しながら小バカにするようなグレンの物言いに、生徒達は苛立ちを覚える。とはいえ事実のため大きく出れないでいた。

 

「もう、グレン君ふざけないの」

 

 セラに注意されて、グレンは「えーもうちょっと楽しませろよ」と不満そうにしながらもやめる。

 

「まっ、ここの教科書は『細かいことはいいんだよ、とにかく覚えろ』と言わんばかりの論調だからあんま参考になんねえと思うぞ」

「えっ、これ買うのに結構金かかったのにとんだ詐欺じゃん。後で返却して金返してもらお」

「ショウ、それは流石に言いすぎだ。せめて紙資源の無駄遣いだと言え」

「いや、アヤトも大概だろ」

「ぷぷぷ、確かにそうだよな~」

「グレン君ものらないの」

 

 二人の意見に生徒達はぐうの音も出ない。

 

 

 

「あ、あはは……凄いハッキリ言う二人だねシスティ」

「事実なだけに言い返せない。それより早く休み時間にならないかしら。陰陽術について聞きたいことがいっぱいあるのに…」

「お前はぶれないな」

 

 知識欲の強いシスティーナが、まるで草むらから獲物を狙って構えている猫型の獣に見えて呆れるアイザの視線が、アヤトの方に向く。

 

 

(……アヤト=キヨハラ。何者なんだ?)

 

 

 

 

 時間は早朝にまで遡る。

 

 落ち着きのある小さなカフェのテラス席に一人の少年が腰かけていた。簡素な服装にベレー帽といった装いのその少年、手に持った新聞の内容に目を通していたところに、頬に引っ搔き傷がある40代くらいの中年男性が声を掛けてくる。

 

「すまない若いの。今日の新聞を少し見せてくれないか?」

「ええどうぞ。今日はとてもいい天気ですね」

「ああ、だが傘は持っている」

 

 少年が新聞を手渡すと、受け取った中年男性は少年に術式が描かれた小さな紙切れを渡し、少年の背後にあった椅子に座る。

 

『連絡は例の爆破未遂事件ぶりだな。あれから調子はどうだ?』

 と、少年の頭の中へ直接、声の様なものが聞こえてきた。

 

『愚者と女帝の二人が俺の担任だという以外なら今のところ問題はないですよ長官』

『念話用の護符は問題ないようだ。それにしても相変わらず無愛想な奴だなエージェント77』

 

 エージェント77と呼ばれた少年と長官と呼ばれた中年男性はお互い顔を合わさないまま念話で会話を始めだす。

 

『次の定期報告まではまだ2週間もあるのになぜ呼び出したのです?同窓会があるわけでもないし』

『無視できない事態が起こってな』

『というと?』

『どうも政府内の情報が外部に漏れているようだ』

『――――はっ?』

 

 思わず振り返りそうになるも、少年はぐっと堪える。

 

『いきなりのことで信じられないのも無理はない。だが本当のことだ。最近、どうにも宮廷魔導士団の動きが天の智慧研究会に読まれているようだ。しかも捕虜の搬送ルートも筒抜けだったらしく、待ち伏せを受けてメンバーのジンとキャレルの二人が死んだ』

『内部にミゲール=ブラッカー千騎長のようなスパイが?』

『または他の派閥が奴らと手を組んでいるかのどちらかだ』

 

 アルザーノ帝国の政府内は一枚岩ではない。王室直系派、王室傍系派、反王室派、過激極右派、保守的封建主義者、マクベス的革新主義左派、帝国教会右派……アルザーノ帝国は様々な思想主義と派閥が渦巻く混沌の魔窟だ。しかも一年前の帝都での惨劇以降も責任問題で武断派と文治派との諍いが絶えない。

 

『長官は魔導省あたりが裏で天の智慧研究会と繋がっているとお考えで?去年の件で軍との仲は険悪ですし』

『まだはっきりとは断定できない。そもそも狂人連中が元王女を攫おうとしたのが政治的な目的とは思えない。またなにか仕掛けてくる可能性もあるからお前にはいつも以上に注意してほしい』

『情報漏洩の方は?』

『こっちで調べるからお前は護衛に集中しろ』

『了解』

『おっと、まだ伝えることがあった』

『なんですか?』 

『今日お前のクラスに二人、留学生と転入生が入るみたいだな』

『そうですが……調べたのですか?』

『用心のためだ。留学生の方は身元が確認できた。日の輪の国で由緒正しい家柄の人間で、怪しい連中との繋がりはない』

『…もう一人の方は?』

『まだ何も分からない。そっちの身辺調査を引き続きやるが、お前の方でも注意しろ』

『…………もし、そいつが天の智慧研究会と繋がっていたら?』

『―――やるべきことをやれ』

『…………了解しました』

『話はこれで終わりだ』

「新聞を貸してありがとう」

「どういたしまして」

 

 話は終わったばかりに、念話を解除して長官は新聞を少年に返して立ち去る。

 少年もしばらくしてから席を立って近くの人気のない路地裏へと歩を進める。

 

 路地裏に入ったところで少年の周囲の空間が一瞬、ぐにゃりと揺らぎ、少年の姿の焦点があやふやになり……再び焦点が結像した時には蒼髪の少年へと姿を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もしも奴が天の智慧研究会の人間だったらその時は――――)

 

 長官との会話を思い出したアイザの考えを他所に、今日の授業は続く。

 

 




追加オリキャラ設定。

・ショウ=ソウマ
妖怪タマフミを従者とする日輪の国からの留学生。実家はボンボンであることをレイはまだ知らない。また、レイのところに居候していることをまだ誰も知らない。
モチーフキャラはシャーマンキングの麻倉葉。

・アヤト=キヨハラ
ショウが道に迷ってたところで出会った転入生。自己紹介であえなく失敗。
モチーフキャラはよう実のキヨポン。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。