夢の中で二人の少女は出逢う。
それはまるで彼女を待っていたかのよう――

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夢の中で逢いましょう

「……ん、朝か……」

自室のベッドの上で目を覚ます魔理沙

まだ、意識が覚醒したばかりの回らない頭で体を起こす

「……今日は……雨か……」

顔に差し掛かる陽の光がいつもに比べ弱い。

湿気の匂いが鼻につく。

窓から外を覗くと空の色は灰色に染まり、霧雨が降っていた。

六月(みなつき)独特のじっとりと肌にまとわりつくような不快な空気にうんざりとする。

「さて……今日もこれは籠りパターンだな」

ここ三日程ほとんど家から出ず、魔法の研究に勤しんでいた。

彼女にとってそれは特段珍しいことではなく、時には一月ほど顔を見せないこともある。

研究に興が差して睡眠をとることさえ忘れることもある。

「……こうも上手くいかないと、また一から練り直しか」

ここ数日続けていた研究だが、どうやら上手くいかない様子で気持ちがすさんでいるようだった。

顔を洗った後にいつものところにタオルが無い……

研究の参考資料の本のページが上手くめくれない……

研究道具を肘でついて落としてしまう……

そんな、小さな不快が積み重なり、過ごしにくい気候もあってか全てのことが上手くいかない気分になってしまう。

「あぁ……駄目だなぁ」

自棄になって頭を掻きむしる。

結局その日も一日中、家に籠って研究を進めていたが特に大きな成果は無かった。

陽が落ちても相変わらず、森の中は湿気が多くじめじめとしていた。

「流石にこれは明日辺り気分転換に外に出るしかないな」

回らない頭でベッドに倒れ込むようにして体を預ける。

「……まさかと思うが、試してみるか」

ふと何かを思い出した彼女がぽつりと呟く。

枕を正し、ベッドに仰向きになって目を閉じる。

「昔々あるところに…一人の女の子と一人の女の子が住んでいました……」

 

ぽつりぽつりとゆっくり呟く。

 

「昔々あるところに…一人の女の子や一人の女の子が住んでいました……」

 

―昔々あるところに…一人の女の子とそれ以外の子が住んでいました……

 

―昔々あるところに…女の子が住んでいました……

 

―昔々あるところに……

 

――――

 

――

 

 

 

 

「……ここは?」

彼女は気が付くと、ある街角に立っていた

街は静かで誰も居ないが、不思議と寂しい雰囲気は感じなかった

むしろどこか懐かしく温かい雰囲気を感じる

街の建物は白レンガ造りで、街のあらゆるところに水路がありゴンドラが行き交っている。

どこか西洋な雰囲気を感じさせる町並みは一人げに動いていた。

「……そうか、あいつも来ているといいな」

彼女が歩き出すと、何処からともなく小動物が現れ自分の歩く先を進んでいく。

まるで道案内をしてくれているようだった。

「……ありがとうな」

小動物たちについて行くと、水路に浮かぶゴンドラの前に行き着いた。

ゴンドラに視線をやると、高身長な兎の姿をした者がお辞儀をしていた。

「これに乗れってことか」

小動物達と別れを告げてゴンドラに乗りこむ。

ゆっくりと、ゴンドラが進みだす。

しばらく乗っていると、街の橋の下をくぐったかと思ったら暫く暗いトンネルを進むことになった。

周りが暗くて見えないと不安になる彼女だったが、先ほどの兎がカンデラに火を灯し手渡ししてくれた。

何となくカンデラを見ていると心が落ち着く。

いつの間にかトンネルを抜けたらしく、小鳥の鳴き声で賑わう森の中の川を進んでいた。

そのゴンドラは、あるところで止まった。

先ほどの兎が再びこちらにお辞儀をしている。

「ここで降りろということか……」

ゴンドラを降りた彼女は、兎に別れを告げて森の中へと足を向ける。

暖かな陽の光で包まれた森の中を歩いていくと、レンガ造りの一軒の家の前にたどり着いた。

「……来ているといいな」

そう呟き、ドアをノックする。

コン、コン……

1秒、2秒の時間が長く感じる。

居なかったらどうしようという一抹の不安が彼女の頭の中をよぎる。

「ーどうぞ、入ってきて」

ドアの向こうから声が聞こえる。

安堵の思いを吐き、ドアを開ける。

「こんにちは、どうぞ中に入って」

部屋の中にはこちらを微笑むアリスの姿があった。

魔理沙が部屋の中に入ると、テーブルの上には焼き菓子と淹れたて紅茶が用意されていた。

「どうぞ、座って」

「ああ、わざわざありがとうな」

「ふふ、お礼を言われるとやっぱり嬉しいわね」

椅子に座り、カップを手に取り紅茶を口に運ぶ。

魔理沙の好みに合った風味と程よい温かさが口の中一杯に広がる。

「いつも以上に美味しいな」

「準備していた甲斐があったわ」

とても温かな表情を浮かべる。

まるで肖像画の美しい女性を見ているかのような錯覚に陥る程の姿を見せる。

「最近顔を見てないから上手くいっているかと思っていたけど、どうかしら調子は?」

「あぁ、そうだな。でもここ数日少し行き詰ってな……つい、ここに来ちまった」

「そう…じゃあ約束とかしないでここに来たということかしら?」

「……ああ、そうだな。何となく此処に居ると思ってな」

「なんて危ないことを……。お互いに信じあっているとは言っても、もし逢えなかったらって考えなかったの?」

「もちろん考えたさ……。でも、まぁそれでもいいのかなって。逢えるまで待てばいいだけなんだからさ」

「私は時間があるけど。貴方は私と比べたら、うんと少ないのよ?そんな危ないことをしてほしくないわ」

「あぁ、でもまぁこうやって逢えたってことはアイツも来ているんだろ?」

「ふふ。きっと待っているわよ貴方のこと。それとも楽しんでいるのかしらねあの子も」

「アイツは、私より不器用だからな。手先以外は」

「あら、こうやって美味しいお菓子や紅茶も淹れるのに?」

「だから手先以外はなんだよ」

「ふふ。『私』は一体どんな風に貴方に見えてるのかしらね」

「そうだな……アイツには私がどう見えてるのかな」

気付くと、机の上の焼き菓子のバリュエーションが増えていた。

「……なぁ。今日は何処かおかしいんだ。なんて言うか準備がされすぎているというか、この世界もなんだか完成されすぎているという感じがしたんだが」

「それだけあの子に会いたいという気持ちが強かったんじゃないかしら?」

「そう……だといいんだがな」

「もう少しお話していく?」

「いや、お前がそう言うんだ。アイツに会いに行かなきゃいけない気がするから、そろそろ行くわ」

「そう、短かったけどとても楽しかったわ。ありがとうね」

「こっちこそ、ありがとうな」

名残惜しい気持ちを胸にしまい、席を立ち扉を開ける。

扉を開けた先は再び初めに見た町並みの風景が広がっていた。

「また、夢の中で逢いましょう。私はここで待っているわ」

「ああ、ありがとうな」

最後の挨拶を交わし、再び街の中に足を向ける

振り返ると、微笑む彼女がこちらをずっと見ていた。

「……本当によく出来てるな」

つい言葉を漏らす魔理沙。

相変わらず街は一人げに動いていた。

歩みを進めていくが、先ほどのような案内役が出てくる様子はなかった。

だが彼女は心が赴くままに歩みを進めていった。

ふと、誰も居ない街角に人影が見えた。

「いたな……」

彼女の視線の先には『アリス』が立っていた。

向こうもこちらに気づいた様子で近づいてくる。

「会えたな……アリス」

「ええ、会えたわね魔理沙」

まるで、お互いを確認するように言葉を交わす

「どうだったアイツは、元気してたか?」

「えぇ、絵に描いたような子だったわ」

「はは、そりゃそうか。なんたって『夢』だもんな」

「そうね、でもこうして貴方と会えて良かったわ」

安堵の表情を浮かべるアリスだが、その目はどことなく『彼女』より冷たい目をしていた。

先程まで夢見心地の思いだった魔理沙だが、まるで現実を見ているような思いが一気に魔理沙の頭の中に流れてくる。

周りの風景もいつの間にか殺風景に映るようになってきた。

まるで、現実に引き戻されるように。

「……なぁ、一つ聞いていいか?」

「何かしら?」

「お前、どれだけ待っていたんだ?」

「夢の中だったからね、時間の感覚なんて分からないわ」

「今回のは明らかに『完成』が過ぎる。夢ならもっと曖昧でなくてはいけないはずだ。もしかしてだけどお前……」

「ふふ、どうかしらね?また会えたら聞いてみると良いわ」

「……ずるいぜ」

答えを濁す彼女をもう少し問い詰めたいところだが、意識が薄れていくのを感じ、時間がもう無いことを察していた。

 

ー夢から覚める。

その感覚が体全身に伝わってくる。

夢は唐突に終わりを迎える。

それは自分が意図して操作することはできない。

その逆も然りだった。

この夢は……。

 

二人が会わなければ、永遠と覚めることのない夢。

契約を交わした者同士だけで見ることのできる夢。

お互いに夢の中に住んでいる『相手』と会話を楽しむことが出来る。

その『相手』は自分が思い描く夢の中の『相手』。

しかし、最後に必ず契約した者同士で夢の中で会わなければ覚めることが出来ない。

基本的に信頼した者同士でしか、この契約を交わすことは危険とされている。

二度と覚めないリスクがあるのだから……。

 

現実に引き戻される感覚に意識が持っていかれそうになりながらも、最後に挨拶を交わす。

「じゃあ、また会いましょう」

「あぁ……また会おう―」

 

「……ん、朝か」

梅雨時の貴重な晴れ間の光が彼女の顔を照らす。

「なんだ……顔を覗かせたら覗かせたで眩しすぎるぜ……まったく」

そんな文句を呟きながら体を起こす。

ふと、夢の中で逢った『彼女』のことを思い出す。

「最後に会えたんだよな……?」

夢の中で会った『彼女』のことは何故か曖昧だった。

夢なんてそんなもんだ。

良かったり悪かったりした記憶だけ残ってる。

そんなことを思いながら、ベッドから離れて身支度をする。

「まぁ、せっかくだ。アイツに会いに行かないとな」

『彼女』に会いに行くために、魔理沙はその日の始まりを迎えた。




おはこんばんにちは、アイリスです。
一度は自分の一番好きなキャラのSSを書いてみたいと思いつつも、一番好きなのと、アリスという東方において特に色々な解釈ができるキャラクターが故になかなか書き出すのに時間が掛かりました。
結果としては、主軸としては魔理沙なんですが、どことなくアリスの不思議な世界という感じが出ていて良かったかな?というポジティブかつ楽観的な考えで〆させていただきます。
コメント頂けたら狂喜乱舞して飲んでいるコーヒーを誤飲します。

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