黒と銀の巡る道   作:茉莉亜

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15.青の精鋭

 

 

 

 

 

 

 周りの人間が何を言ってようと気にした事は無かったし、興味も無かった。

 だから一年上の先輩がいきなり部室のロッカーを殴って怒鳴り散らした時も、俺に言ってるんだと気づくまで時間がかかった。

 

『いい加減にしろよ!! お前みたいなふざけた奴が、何でバスケ部に居るんだよ!!』

 

 そう言って、口を利くどころか名前すら覚えていない上級生は部室を飛び出してしまった。

 出て行く寸前の上級生の声がちょっと涙声になっていたような気もしたけど、向こうが勝手にヒステリーを起こしただけだ。

 それより練習時間に遅れる方が面倒だったから、すぐその先輩の事は忘れた。

 

 午前のメニューを終えて休憩に入った時、飯の種にその出来事を話したら、予想外に面白がられた。

 

『ふはっ、面倒なの引き寄せてんな』

『うるせーよ。あれ何だったんだ、意味分かんねーし』

 

 隣を見ると、口の端を吊り上げるように笑っていた。

 こいつは愉快な事があると、よくこういう笑い方をした。

 

『お前が練習中も試合もボケッとしてんのが癪に障ったんだろ』

『俺はちゃんとやってるぜ』

『だから分かってねえんだよ。ああいう手合いは実際がどうかじゃなく、自分からどう見えるかが全てなんだよ。お前がただ気に食わねーだけだ』

『……もしかして、俺が来て試合出られなくなった人か?』

 

 聞くと、チームメイトはスポドリを飲みながら頷いた。

 部の仕組みもメンバーもまるっきり分かってねーけど、俺がレギュラー入りした為に以前のメンバーが外されたって事くらいは薄々分かっていた。

 

『分かんねーな、何で八つ当たりすんだ?俺が決めた訳じゃねーのに』

『そこまで冷静に考えられる頭ならとっくに黙って辞めてるだろ』

『そりゃそーだけど。つーか、何でレギュラー入るとこんな喧嘩売られなきゃならねーの?』

『お前が一年だからだよ』

 

 一般常識のようにさらっと言われるが、全く腑に落ちた気がしない。

 俺の知っている常識とバスケ部の常識は、どうも違うらしい。

 

『面倒くせーな、バスケ部って』

『今だけだ。もうちょっと我慢しとけ、直にやりやすくなる』

『ふーん』

『そんな事よりてめーもっと体力付けろ。ゲームの後半へばってただろ』

『え、もっとやんの?』

 

 何を考えてるのか気になったけど、どうせ教えちゃくれないだろうし深くは聞かなかった。

 ただ、明日からの練習量が倍になった事は確実だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は寝覚めが悪かった。

 

 目を覚ますと背中にべっとり寝汗をかいていて気持ち悪ぃ。広いベッドに薄暗い部屋、カチカチ時間を進める時計を見てやっと頭が回ってきた。

 そうだ、ここは下宿してる火神の家の部屋で、俺はもう高校生だ。中学なんて二年も前に卒業してんじゃねーか。

 ……って、やばい。呑気にしている場合じゃねえ! 

 

 今日は海常との練習試合がある日だった。

 火神も早くに家を出ていて、もう住み慣れてきたマンションには俺しか居なかった。昨夜アラームも付け忘れた状況だってのに、遅刻寸前の時間に目覚められたのはラッキーだった。あと十五分遅かったらやばかった。

 まだ六時前なのにいつ出ていったんだよ、あいつは。

 自分の事で手一杯だから気に留めてる余裕がなかったけど、この所、火神もいつにもまして気合が入っている……というか、思い詰めていた。たまに話しかけても上の空だし、夕飯当番なのにすっかり忘れてるし。火神がちゃんとしてねーと、俺の生活にも深刻な危機が出るから早い所元に戻ってもらいたい。

 誠凛は順当にいきゃ決勝リーグが目前だろうから思い詰めるのも分かるけど、それとはまた毛色が違うような気もするんだよなあ。

 

 けどそれはそれとして、今日の試合だ。

 溜息を吐きながら、悪目立ちするオレンジのジャージに袖を通す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に集合した後、俺達バスケ部はぞろぞろと大所帯で隣県の神奈川に向かっていた。

 東京でバスケの強豪校っていうと、秀徳・正邦・泉神館の三大王者の名前が大体挙がってくるんだが、隣の神奈川では海常がほとんど一強状態でその座を守っているらしい。

 らしい、って言うのも、まあ宮地(兄)からの入れ知恵だからだ。

(海常の名前聞いてもポカンとしてたら強烈な鉄拳が降ってきた。俺の成績が下降してる原因の一つじゃねーかと最近思う)

 一昨年も去年もIH(インターハイ)WC(ウィンターカップ)に出場してる常連だから強豪なのは確かだろう。俺も直接対戦してねーから分かんねーけど、大坪主将(キャプテン)達の話によれば去年のIHじゃ初戦で負けてるらしい。どうりで名前が初耳だと思った。ランク的には、秀徳とどっこいどっこいなのか? 

 俺としては「黄瀬涼太がいる学校」くらいの認識から情報が更新されていない。緑間と偶然一緒に試合観戦した以来だ。

 

 スタメンと二軍が勢ぞろいしたオレンジ色の集団は移動中にもチラチラ周りの目を惹いているような気がする。あー、現地集合にしてくれればこっそりバイクに乗って行ってもよかったのに。

 

「……雪野、お前大丈夫か?」

「え? 何が」

「何がって、自覚無ぇーのかよ! さっきから何度話しかけたと思ってんだ!」

 

 やや高い目線から宮地(弟)が怒鳴る。目つきも悪く顔立ちも強面だから、兄の方に比べるとこいつの方が迫力があって見える。

 

「室田の事引きずってんなら、そろそろ切り替えろよ。今日の相手は海常なんだぜ」

「……ああ大丈夫。ちょっとぼんやりしてただけだから」

「大丈夫かよ本当に……」

 

 室田が退部した件で、俺が落ち込んでいるとでも思われたらしい。

 ……そりゃ、何とも思わない訳じゃねーけど。

 宮地(弟)も普段大して仲良い訳でもないのに気を遣ってくれてんなら面倒見の良い事だ。口は乱暴だけど、誰彼構わず喧嘩売る訳じゃねーからバスケ部の同期でも中心になってる事が多い。

 部活の連絡事項以外で、同期との会話がほぼ皆無な俺からすれば何とも眩しい奴だ。

 

「そんなに身構えなくてもいいんじゃない? IH前の時期にやるんだから、お互いの調整が目的だと思うし」

「お前な……。そりゃそうかもしんねーけど」

 

 随分緊張してそうだから言ってやったら、何故か少し呆れたような顔をされた。

 

「……いやいや、調整でも練習試合でも勝ちましょーよ? この前誠凛に負けたばっかなのに、また負けたりしたら真ちゃん泣いちゃいますって」

「おい、勝手な事を言うな」

 

 と、後ろにいた高尾が茶化し半分に言って、緑間が不愉快そうに訂正した。

 その右手はやかん大くらいの金魚鉢を抱えており、その中では一匹の赤い金魚がひれを揺らして優雅に泳いでいる。今朝、集合時にどれだけもめたかこの魚は知りもしない。

 

「……緑間君、生き物を持ってくるのはどうにかならなかったの?」

「無理です。本日のかに座は10位。最下位ではありませんが悪い順位である事は確かです。このラッキーアイテムを置いていく訳にはいきません」

「限度があるだろ、限度が!!」

 

 耐え切れず叫んだのは宮地(弟)だった。

 気持ちは分かる。生き物指定にする鬼畜ぶりもだけど、占う側もそれを100%実行する人間がいるとは思うまい。

 散々宮地(兄)の方に怒鳴られ尽くしたせいか、緑間は今更何を言われてもケロッとしている。……今なら室田の気持ちに共感出来るかもしれない。

 

「まあまあ、真ちゃんもこれでテンション上がってるんスよ」

「……僕には全く変化が分からないんだけど」

 

 何、鷹の目ってそんな所まで見通せんの? 

 すると高尾は声を潜めた。

 

「ほら、海常って黄瀬がいるじゃないスか。同中と試合出来るって知ってから、やっぱ燃えてるみたいで」

「何だか高尾君も楽しそうだね」

「そりゃあ! 笠松さんとは一度試合したいねーって思ってましたし、こんな早く実現したんだから嬉しいスよ」

 

 高尾のテンションが高いのは毎度の事だけど、今日は輪をかけて浮足立ってるように見える。笠松、と言われてすぐに顔と名前が一致しなかった。この前お好み焼き屋で黄瀬と一緒にいたあの人か。そう言えば高尾がやたら懐いて話を聞きたがってたっけ。

 

 宮地(弟)に怒鳴られているが、右から左に聞き流している緑間を見る。

 大男が揉めてると目立ってしょうがねーんだから止めてくれ、本当。

 到着もしてねーのに、早くも疲労感を感じてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝から出発して、すれ違う人の注目を大いに惹きながらようやく俺達は海常高校に到着した。

 何つーか、でかい。いや、広い。

 秀徳も伝統校だから校舎自体はでかいけど、狭い敷地に建物が集まってるような印象だから何となく窮屈だ。それに比べると海常の広さにびびる。神奈川ってこんなに土地余ってたか? 桐皇といい、何で他校はこんなに恵まれてんのにうちだけあんなボロいままなんだ。試合前から見えない格差を感じた。

 

 中谷監督の先導の元、体育館に向かうとそこには青のジャージを着たスタメンらしき奴等がアップを始めていた。体育館もでかいな、おい。

 ていうかチラッと見えたけど、隣の建物では他の運動部が練習している。まさかここバスケ部専用のコートか? 

 主将を始め、他のメンバーも海常に来る事は初めてなのか物珍しそうに周りを見ている。

 すると、向こうの監督らしい中年のおっさんがこっちに歩いてきた。ポロシャツにジーンズで、いかにも体育教師って雰囲気だ。こっちの監督に比べたらちょっと、いやかなり太めな体型だけど。

 

「何だ中谷、もう着いたのか。早かったな」

「相変わらず時間にルーズだなお前は。それよりロッカーはどこだ? 選手達を案内したいんだが」

「ああ、一年に案内させる。だが試合の始まりは遅れるかもしれんぞ」

「? どういう事だ」

 

 海常の監督は持っていたクリップボードで太い首筋を叩くと、溜息を吐いた。

 

「モデルの仕事が長引いてるらしくてな、黄瀬がまだ来ていない。30分くらいで着くという報告だが、どうする」

「うーん……」

 

 両監督の話は普通に聞こえてくるので、「黄瀬がいない」って情報は俺達の間にもすぐ伝播

 した。どうりであのキラキラ目立つ頭が見当たらないと思った。

 後ろの緑間の様子を伺うと、眉一つ動かさずに監督の話の終わりを待っている。

 

「……黄瀬君がいないらしいけど、緑間君意外と平気そうだね」

「……いやあ、俺の勘だとあの顔は「黄瀬と試合出来ると思ったのに残念なのだよ。でも仕事なら仕方ないか」っていう感じっスね」

「……まさか高尾君もサトリじゃないよね?」

「はい?」

 

 時々、この後輩が末恐ろしく感じる。

 そうこうしている間に監督同士の調整は済んだらしく、海常の監督が案内役の一年生を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 監督の話によれば、試合は時間通りに行う事になったらしい。

 向こうのエースが不在っていう事だけど、海常側も大会前にスタメンがどこまで仕上がっているか見たいようだ。

 

「うちの監督って向こうの監督と知り合いなのか?」

「そうらしいぜ。確か二人とも昔、全日本の選手だったって話聞いた」

「へー……。元全日本っていう割には、向こうの監督って何か、イメージと違うな」

 

 宮地(兄)と木村の会話が聞こえてきたのか、高尾が隣で盛大に噴き出した。

 オブラートに包んでいるけど言いたい事は分かるので、俺もちょっと同意する。

 

 海常の一年に案内されながら俺達は客用のロッカールームに向かっていた。ちゃんと専用のロッカーがある辺りも秀徳とは規模が違っている。同じバスケ部なのにこっちは何でこんな優遇されてんだ。

 

 体育館と校舎をつなぐ通路を渡っていると、休日練習に来ているサッカー部の部員や外周している他の運動部の姿が目に入った。随分まあ活気、というか熱気に溢れたことだ。

 ────と、外にチラッと見えた人影に対して、自分の目を疑う。

 けど頬をつねっても痛いし、夢からは覚めてるし、頭を打った訳でも無い。無意識に立ち止まってしまったのか、宮地(弟)が声をかけてきた。

 

「……おい雪野? どうしたんだよ」

「あーごめん、ちょっとトイレに行ってきても?」

「あ、ああ。……気分でも悪ぃのか? 大丈夫かよ」

「平気平気。ほら、先に行ってて」

 

 明らかに不審そうにしている宮地(弟)の視線を流して、一人来た道を逆走する。

 勿論、行先はトイレなんかじゃ無い。

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 体育館から少し離れ、人目を気にしつつグラウンドの方に向かうと、制服姿の男が一人で野球部の練習を眺めていた。遠目に見えただけだからまさかと思ったけど、やっぱり見間違いじゃなかったようで両肩から力が抜ける。

 

「何してんだよあんた……」

「おー雪野、この間ぶりやな。……って、もう試合始まるんやないの? こんな所で遊んでたらあかんで」

 

 とぼけた顔で注意してくる今吉さんに言い返す気力が無い。

 どこまで神出鬼没なんだ、この人は。

 

「何でこんな所にいんのかって聞いてんだよ。何、主将って暇なの?」

「ちゃうちゃう。秀徳と海常が練習試合って聞いたから偵察に来たに決まってるやん。「キセキの世代」同士の対戦カードやからな」

「……どっから仕入れたんだよ、その情報」

「うちには優秀なマネージャーがおるからなあ。それに、知っとる所は知っとるんちゃう? 随分観客も来とるみたいやし」

 

 あの桃色の髪をしたマネージャーの姿が脳裏によぎる。

 中谷監督がいきなり決めてきた試合で、スタメンの俺達ですらこの間告知されたばっかの事だぞ? ええ、あの子怖っ…。

 確かに海常に着いた時も選手以外にギャラリーがやたらあちこちに居た。他校からすれば大会前に少しでも「キセキの世代」の情報を集めとこうって腹なのか。

 

「IHも迫っとるし、この時期はどの学校もピリピリしとるやろ。それで海常に練習試合取り付けられるんやから流石やけどな」

「……悪かったな、予選落ちしてて」

「嫌味とちゃうで!? 何や、またそっちの部で何かあったんか? 随分ご機嫌斜めやん」

 

 何も言ってねーのに思考を読んでくるのに、妙に挑発するような事も言うんだから質が悪い。

 

「あーもしかして遂に留年決まったんか? こないだ言うてた補習があかんかったとか。……まあ気にすんなや、人生は長いんやし一回や二回の留年で落ち込まんでも」

「違ぇーよ!! 留年はしてねーし補習はちゃんとパスした!!」

「じゃあやっぱりバスケ部の事なんやな」

 

 黙ってしまったら正解って言ってるようなもんだった。

 この妖怪相手に隠し事出来た試しは無い。

 

「緑間君が何か揉め事起こしたんか? あ、雪野の方か? それとも他の部員が短気起こして辞めたとか、そういう感じか?」

「……割と全部、かも」

「そら災難やな」

 

 全く大変そうに思ってるように見えない笑みを浮かべながら言う。せめて心配そうな顔くらい作れよ、と思った。

 

「何か失礼な事考えてるやろ。これでも感動してんで? 雪野がこんなに周りに気を遣える子になったのかと思うと……」

「いや、馬鹿にしてんだろ」

「まあそう拗ねるなや。なあ雪野、お前うちに来ん?」

「は? うちってどこに」

「せやから桐皇に」

 

 言葉の意味を呑み込むのに数秒くらいかかった。

 遠くで、野球部が掛け声とボールが弾かれる音が聞こえる。

 

「……? 今吉さん、その冗談すごいつまんねえ」

「ちゃうて! 偵察もやけど、真面目な話これが話したくてここに来たんや。知っとるか? うちの運動部は全国から有能な選手を引き抜いて作っとるんよ。学期途中の編入生も珍しくないんやで。スポーツ特待制度も充実しとるから、雪野の成績でも心配あらへんし」

「最後のは余計なんだよ!!」

「で、どうや?」

 

 今吉さんと目線が合う。いっつも開いてんのか閉じてんのか分かんねー糸目が眼鏡越しに見えた。

 

「……何でそんな、いきなり」

「別にいきなりでも無いで。有望な選手は何人おってもええし、監督もその辺は分かっとるからな。それにお前、何やしんどそうやから」

「え?」

「この前も今日も、会う度に暗い顔しとるやん。「キセキの世代」が入ってそんなにゴタゴタしとんのかと思っとったけど、何もお前がそないに悩む必要無いんとちゃう? しんどいっちゅーなら、いっそ環境変えるのも有りやと思うで。うちはバスケの実力さえあればそれ以外は好きにしてええ方針やし、気楽に過ごせんで」

「………………」

「別にバスケやるのも、道が一つしか無い訳やないやろ」

 

 俺はそんな言われる程暗い顔してたのか。

 同時に、桐皇に転入するなんて考えてもみなかった手段を提案されて、正直どう言っていいか分からなかった。

 

 秀徳バスケ部で二年目を迎えて、二軍と一軍のいざこざはあるし、緑間は協調性無いし、室田は好き勝手言って辞めていくし、はっきり言えば疲れる事ばかりだった。

 ―――環境を変える。

 あのバスケ部を、秀徳を辞めて他に行く? 

 

 

「……まっ、突然の事やからな。ちょっと考えてみてや。あーほら、そろそろ戻らんと本当に試合に間に合わへんで?」

 

 

 と、引き留めていた張本人の言葉に促されて、俺は大慌てで体育館に戻る羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始時間ギリギリに海常の客用ロッカーに戻った為、案の定俺は強烈な怒声をいただく事になった。宮地兄弟そろって勘弁してほしい。190越えに二人して睨まれて普通にビビる。

 

 慌ただしく準備を整え、試合会場に向かう。緑間はやっぱりその金魚鉢を持ってくのかよ……。ボールが当たって割れても知らねーぞ。

 体育館に行くと、海常のスタメンと監督は準備バッチリという状況で、何か試合前のミーティングをしていた。そしてやっぱり妙にギャラリーが多い。単なる練習試合なのにこんなわらわら人が集まるって、「キセキの世代」のネームバリューってすげーな。

 

「ひゃー、何かすげー人集まってますねー。大会より人来てんじゃないスか?」

「キョロキョロすんな高尾。黄瀬って確かモデルなんだろ? それ目当ての観客じゃねーの?」

「「キセキの世代」でその上モデルとかムカつく奴だな……」

 

 先輩方も思い思いの感想を言う。

 俺も大体同意見だけど。黄瀬とは一、二回会った程度の縁しかねーけど、派手な顔の癖に冷めた目線を向けられた事を覚えている。

 緑間は無言のままで、左手のテーピングを壊れ物のように慎重に外している。

 さて試合直前という時になって、監督がとんでもない指示を出した。

 

「この試合だが、前半は緑間を出さずに行く。あちらがエースを出さないのにこっちが見せる必要はないからね。SG(シューティングガード)は時田が出ろ。OF(オフェンス)では宮地と雪野とで攻めていくように」

「…………」

 

 内心で、マジかよ、と言いたくなった。

 まあキセキの世代同士の対決がこの試合で目的にしている事だろうから、それが出来ないならこの采配になるのか。…とりあえず宮地(兄)に中心で動いてもらおう、そうこっそり決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コートに並ぶと、秀徳のオレンジもだが海常の青いユニフォームも結構目立っている。

 先頭には、ついこの前お好み焼き屋で黄瀬と一緒にいた「笠松さん」とかいう人が居た。何だ、あの人4番だったのかよ。ふと、視線に気づかれたのか笠松さんが俺に顔を向けた時、試合前とは思えない明るい声が割って入った。

 

「この間ぶりです笠松さん! こんなに早く対戦出来るなんて思わなかったっスよ! 今日は色々とよろしくお願いしまっす!」

「おう、よろしくな。加減はしないぜ」

 

 高尾のコミュ力は場所を問わず発揮されるらしい。緑間にちょっと分けてやれその力。

 PG(ポイントガード)同士が和やかに挨拶している横で、笠松さんの隣にいた5番が何故かキョロキョロ落ち着かずに周りを見回していた。……何してんだ? この人。俺の正面に居るから余計に気になる。

 

「……あの、何か気になる事でも?」

「ん? いや、あの正面扉の脇にいる女の子の視線をさっきから感じてさ。今日の練習試合では、あの子の為にシュートを決めようと思っていた所なんだよ」

「は? 女の子?」

「ほら、見えるだろ! あそこに居るミニスカートの超可愛い子だって!」

「いい加減にしろ森山てめぇ!!」

 

 と、笠松さんが怒鳴ったと同時に、森山とかいう5番は頭を叩かれていた。

 

「悪ぃな、このバカが意味わかんねー事言って。気にしないでくれ」

「い、いや……別に」

 

 よく分かんねーけど、どの学校も結構やばい。

 無意識に体が半歩下がっていると、笠松さんは5番を引きずるようにしてポジションに連れて行った。見かけによらず方針が宮地(兄)に似ている。

 そのやり取りを眺めていたら、何を思われたのか大坪主将が話しかけてきた。

 

「……雪野、あまり雰囲気に呑まれるなよ?練習試合だろうと全力を尽くせ」

「分かっています、大丈夫ですよ」

 

 そう返すと主将も無言でポジションに戻ったので、納得はしてくれたんだろう。

 

 ……とりあえず今吉さんが言ってきた事は一旦忘れよう。あんな事突然言われたってすぐに結論なんて出せっこない。仮にも試合前の選手に何つー事言ってくれんだと思ったけど、そういえばあの人はそういう人だった。

 とにかくこの試合をさっさと片づける事が優先だ。こっちも緑間抜きだけど、向こうもエース抜きなら意外に早く決着は着けられるかもしれない。

 

 大坪主将がセンターラインに立ち、ジャンプボールの為に構える。

 向こうの選手も結構背丈があるけど、体格としてはこっちの方が上だ。

 

 審判がボールを掲げる。

 試合開始の笛が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 秀徳高校スターティングメンバー

 

 大坪泰介(三年) C 198㎝

 宮地清志(三年) SF191㎝

 雪野瑛 (二年) PF 183㎝

 時田庄司(三年)SG 181㎝

 高尾和成 (一年)PG 176㎝

 

 

 

 

 海常高校スターティングメンバー

 

 小堀浩志(三年) C 192㎝

 中村真也(二年) SF 181㎝

 早川充洋 (二年) PF 185㎝

 森山由孝(三年)SG 181㎝

 笠松幸男 (三年)PG 178㎝

 

 

 

 

 

 

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