黒と銀の巡る道   作:茉莉亜

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17.才器

 

 

 

 

 

 折角の試合だって言うのに、マネージャーが余計な撮影入れたから着くのが遅れた。

 そりゃ練習試合程度なら俺が出なくったっていいんじゃ、とも思わなくもないけど(むしろ監督が出してくれないだろうし)、今回は相手が相手だ。何を言われても絶対出てやろーって決めてた。

 

 だって緑間っちの高校との試合だ。

 最初に笠松センパイに知らされた時はすげー驚いたし、そのせいで余計にシバかれた。

 中学の時は青峰っちと1on1してばっかだったから、緑間っちと本気で対戦した事は無い。

 この前の黒子っちの試合は負けたけど、もうそんなのはごめんだし。

 

 撮影が終わってそのまま学校に送ってもらい、慌てて体育館に駆けこむ。

 もうとっくに試合は始まってる時間だろうから、服は向こうのスタジオで着替えてきていた。

 

 うちの学校は体育館が3つくらいあるけど、どこで試合してるかはすぐ分かった。出入口にすごい数のギャラリーが群がっている。まっ、キセキ同士の対決ってなったら練習試合でも騒ぎになるか。帝光中の頃の事を何となく思い出した。

 

「あっ、ごめんごめん。ちょっと通して~」

 

 俺が出たら余計騒がしくなる事は分かってるけど、行かない訳にはいかない。

 試合に遅れるのも困るけど、笠松先輩にシバかれるのも困る。

 まとわりついてくる女子をやんわり振り払いながら、何とか体育館に入る事が出来た。

 

 海常の青いユニフォームと、コートの反対にはオレンジのユニフォームが見える。

 見間違えない緑色の頭も居た。何だか久しぶりに会った気がしないけど。

 

「あ──―! 緑間っち! 良かったー間に合ったー!」

 

 思わず呼んでみたけど、緑間っちはチラッと見ただけで一言も返してくれない。

 その無反応っぷりはいつもの事だ。

 

「黄瀬ぇ! てめえ遅刻してきた癖に油売ってんじゃねえ!」

「すんません──!!」

 

 笠松センパイの跳び蹴りが綺麗に俺の背中に決まる。

 入部してから日に日にキレが増してるように思えるんスけど、気のせいスか? 

 

 とにかく休憩(インターバル)中に着けたのは丁度良かった。

 荷物を置いて軽く体をほぐす。スコアボードを見ると前半終わってうちがリードしている展開だった。

 

「あれ、うちが勝ってるっスね」

「お前がいなくて向こうも緑間を出さなかったからな。今の所五分五分だ」

 

 水を飲みながら小堀先輩が言う。そりゃそっか、やっぱりどこも「キセキの世代」は出し惜しみされるんスねー。

 

「油断するんじゃねーぞ、黄瀬」

「分かってるっスよ! 緑間っちが相手なら気は抜けないっスからね」

「いや緑間もだが、あっちのPF(パワーフォワード)にも注意しとけ」

「PF? 何かすごい人居ましたっけ?」

「あの白い髪の奴だよ、二年の雪野。前に話しただろうが!」

 

 腹を微塵の容赦もなくこづかれて、変な声が出た。鳩尾に思い切り入ったっス……。

 

 秀徳側のベンチをもう一度見ると、緑間っちの緑頭と並んで白い頭の人もいた。

 そういや前にお好み焼き屋でバッタリ会った時、あんな人もいたっけ。

 ふと、IH(インターハイ)より前に黒子っちの高校と練習試合をした時の事を思い出した。考えてみればあの時も緑間っちと一緒に見に来ていた。

 

「あー思い出したっス。あのユキノさん? って人に、俺、前にサイン書いてあげたんスよね」

「は? 何だそりゃ、あいつ黄瀬のファンなのか?」

「いやー確か家族に頼まれたとか言ってたような」

「……もしやお姉様か妹さんがいて、どちらかに頼まれたのかもしれないな。いくつくらいなんだろうか。よし笠松、この試合が終わったら早速聞きに行くぞ」

「森山ぁ……お前は試合しに来てんのかナンパしに来てんのかどっちだ……」

 

 輝くような笑顔を浮かべて食いついてきた森山センパイに、鬼のような顔で笠松センパイが唸っている。いつも女子の事ばっか言ってるセンパイだけど、どこでスイッチが入んのか未だに分かんない。

 ミーティングとも言えない雑談をしていた俺達だったけれど、何か考え込むようにしていた監督がポツリと言った。

 

「うむ……確かにうちがリードしているが、向こうも本気を出していない。後半からは緑間が入るだろう。黄瀬、恐らく緑間と雪野の二人がかりでお前をマークしてくる。動きを封じられないように気をつけろ」

「そんなにあの雪野サンって凄いんスか?」

「去年のIHでも、秀徳のインサイドは雪野と、主将の大坪が要となっていた。大坪はパワー重視のC(センター)だが雪野はまた毛色が違う相手だ。十分に警戒しろ。あとは……ああ、いやこれは関係ないか……」

 

 監督はそれで話を打ち切ると、後半の展開について指示を飛ばした。

 何か監督も笠松センパイもはっきりしない言い方なのが珍しい。特にセンパイなんか、対策がいる相手の事ならいつもめちゃくちゃ詳しく話すのに。

 

 緑間っち以外全然気にしてなかったけど、そこまで言う相手なのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第3Q開始の笛が鳴る。

 俺は中村センパイと交代してコートに入った。正面扉の前に集まっていた女子の応援が聞こえたけど、流石に今はファンサービスする余裕はない。

 

 そして秀徳では緑間っちも出てきた。

 深緑色の目が一瞬こっちを見る。こんなに早くキセキの世代同士で戦えるなんて思ってなかった。

 予選リーグで初めて見た新技、エンドラインからの超長距離シュート。あの3Pを何度も決められたら勝ち目は無い。例えば火神っち程のジャンプ力は俺にはないけど、それでもどうにかして止めてやる。

 

 何て事を考えていたら、いつの間にか視界に真っ白い綿毛みたいのが現れた。

 

「…………えーと、確か雪野サンっスよね? 予選リーグの後に会ったけど」

「え? あ、あー……覚えててくれたんだ。どーも」

 

 目が合ったと思ったら逸らされた。対戦相手だからかもしんないけど、みんな不愛想過ぎないっスか? つーかこの人だけで俺のマーク!? 

 

 絶対緑間っちをぶつけてくると思ったからびっくりした。まあ、背は俺よりちょっと低いくらいだけど、そんな体格がよくも見えないし、何つーか……迫力がない? 

 今までの練習試合でも、俺をマークしようって選手は大体が気張り過ぎってくらいに肩に力が入っていて、こっちの動きを一瞬でも見逃すもんか! って感じに緊張してる奴ばっかりだった。

 この人はマークについてる割には、そんな気迫が全然無いし、ぼんやりして見える。

 

 小堀センパイがスローインして試合再開。最初に笠松センパイにボールが渡り、すぐ俺に回された。

 目の前の雪野サンと向かい合う。

 確かにDF(ディフェンス)は隙が無いけど、抜けないようなレベルじゃない。

 左サイドの空間を狙って一気に抜けた。

 

 拍子抜けするくらいあっさりだ。

 ──―けど、ゴールに進む事は出来なかった。

 

「プッシング! 白7番!」

 

 右からの衝撃に一瞬体勢が崩れる。

 雪野サンが強引にDFしてきたせいだった。──―完全に振り切ったと思ったのに、追いつかれた? 

 

 ちょっと驚いたけど、気にしてる暇は無い。

 この人もだけど、何より緑間っちにボールを持たせる訳にはいかない。

 切り替えて、レイアップで点を入れる。点数は(秀徳)32対42(海常)。

 

「……黄瀬、何か気になるのか?」

「え? ……いや、何も」

「ならいい。流れはうちだ。このまま突っ切るぞ!」

「ウス!」

 

 確かに緑間っち相手に10点差つけてるなら良い調子だ。でもリードしてる気はあまりしなかった。

 まだ直接緑間っちと対戦していないせいかもしれない。

 それに、気になる事がもう一つ。

 

 突っ切るって宣言通りに、笠松センパイはまた俺にボールを回してくれた。

 とにかく俺を中心に使ってくって試合前に言われたけど、その通りでちょっと嬉しい。

 

 そしてまた、雪野サンがマークしてくる。

 この人が何ていうか……やりにくい。

 

 DFを振り切るのにこんな手こずったのはいつ以来だろう。そーいや中学の時も一度だけ、試合ですげーしつこくDFされた時があったっけ。確か正邦との試合。

 この人は正邦ほどしつっこくDFしてくる訳じゃない。それなのに動きが読めない。

 

 進むかパスか、一瞬判断が迷ったその時だった。

 俺の左後ろから誰かがボールを突いてカットする。秀徳のPGだ。―――しまった、この人に気を取られ過ぎた。

 こぼれたボールは雪野サンが拾ってパスにつなげた。

 

 パスの先にいたのは緑間っち。

 やばい、と頭の中で警告が鳴る。ハーフラインから一m近く下がった位置だ。でも緑間っちは涼しい表情でボールを放った。

 相変わらずお手本通りのきれいなシュートだった。

 ボールは少し宙を舞って、当然みたいにゴールへ入る。(秀徳)35対42(海常)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間の針が進んでいく。後半から入ると試合の展開があっという間だ。

 

 秀徳にボールが渡れば必ず緑間っちが3Pで点を入れる。

 敵に回すとほんっと厄介っスね。センターラインよりずっと後ろなのにどんどん入れてくる。

 俺も点は取っているけど、このままのペースじゃ直に追いつかれる。

 

 相変わらず俺にはこの白髪のセンパイがマークについていた。

 

 秀徳のSF(スモールフォワード)の人の動きをそっくり真似てドライブで突っ切ったら、相手から驚いたような気配を感じた。インターバルに入る前にコート外でチラッと見ただけの動きだけど、一度見たらどうすればそういう動きが出来るかは分かる。

 

 次の瞬間、ボールは俺の手からこぼれた。

 雪野サンが追いついてボールをカットされたらしい。

 ──―やっぱり偶然なんかじゃない。

 この人は、俺の動きを見切って先回りしている。そうでないとこの反応の速さは説明がつかない。

 けど、後半始まって数分くらいで、こんなピッタリ先読みされるもんなんスか。

 

 雪野サンはボールを奪うと緑間っちにパスを出した。そしてきれいな軌道を描いてシュートが放たれる。秀徳に3点加算。

 

 緑間っちがシュートを決めた後に、向こうのPGが褒めた声が聞こえたけど無視されていた。

 雪野サンも得点に繋げた筈なのにリアクションが薄い。

 ……他校の事だから別にいいけど、テンション低過ぎないっスか!? 

 この試合結構楽しみにしてたのに! 緑間っちももっと喜んで……いやそれはちょっと想像つかないけど! 

 

 とにかく、取られたなら取り返すまでっスよ!

 

 ゴール下の早川センパイから森山センパイにボールが回る。

 森山センパイは一瞬3Pの構えに入ったけど、俺と目が合うとすぐにパスに切り替えた。

 ここまで俺中心の攻撃にしてくれて、決められなきゃ嘘っスね。

 

 秀徳のSFを笠松センパイのドライブで抜いて、一気にゴール下まで詰める。

 傍にはまた雪野サンがリバウンドに待機してるのが見えた。

 ………動きを先読み出来るっていうなら、これは防げるっスか?

 

 右足を軸にターンして雪野サンや、秀徳のCのマークをかわし、ジャンプすればゴールはすぐ目の前。

 

「っ!!?」

 

 ボールはあっさりゴールには入らなかった。

 リングに当たり、空中にバウンドする。……でもしばらくリング周りをぐるぐる回った後、何とかネットをくぐった。

 

 完全に振り切ったと思ったのに、俺と同じくジャンプした雪野サンの指先が、少しボールに掠っていた。

 今のは火神っちが使っていた動きを再現した。速さも火神っちのそれよりずっと速くなっている筈なのに。

 

 ポジションにつこうと、さっさと背中を見せて行ってしまった雪野サンを無意識に目が追う。

 

「黄瀬! 試合中にボケっとすんな!」

「痛っ! 笠松センパーイ、いきなりシバくのは止めてほしいっス」

「……手強いか? あいつ」

「無視スか。……もうちょっと任せてもらっていいっスか? 何か向こうの考えが分かってきたような気がするんス」

「なら任せる。緑間は俺達が抑えるからお前は雪野をブチ抜け」

 

 サラッとそういう事言ってくれるからかっこいいんスよねーセンパイは。

 緑間っちは今の所、小堀センパイと森山センパイで抑えてくれてるけどやっぱり厳しいだろう。

 

 次は秀徳ボール。

 秀徳のCの人からパスが回る。流石にダブルチームついてる緑間っちには回さず、ボールを取ったのは雪野サンだった。

 パスを回す寸前に、今度は俺が雪野サンからボールを奪う。

 

 雪野サンがDFにかかったけど、俺はターンアラウンドでそれを躱した。

 咄嗟に再現したのは笠松センパイの動きだった。今の俺が一番見ているのは海常のセンパイ達の技だから、無意識の時にやっちゃう事は多い。

 

 けど、軽い衝撃と一緒にボールは奪われたのが分かった。

 抜いたのは雪野サンだった。今度は秀徳のSFにパスが回って、ボールがゴール下まで一気に運ばれる。

 

「リッ……バーン!!」

 

 早川センパイがリバウンドに跳ぶ。

 俺も切り返しけど一歩遅く、更に相手に2点加算。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2分のインターバルに入ってベンチに座ると、第3Q分の疲れが汗になってドッと流れてきた。

 たった10分間の事なのに殴り合いした後みてーに体が重い。

 緑間っちの3Pを全力で抑えてカウンターのチャンスを狙って速攻して、試合っていうか乱暴な点の取り合いだ。

 

 前半から出ているセンパイ達は俺よりしんどそうで、疲労を隠すように無言だった。

 点差は(秀徳)62対60(海常)。

 時間ギリギリで追い抜かれた。体力だけじゃなく気持ちの面でもしんどい。

 

 楽な試合になるなんて思ってなかったけど、予想外の事が多過ぎる。

 センパイ達の忠告は間違ってなかったんスね、なんて考えてたら監督の声が頭上に降った。

 

「……どうした黄瀬、キレが欠けているぞ」

「すんません」

 

 割と短気な監督が、説教じゃなくて心配しているのにちょっと苦笑する。

 それもそうか、多分ここに来ているギャラリーもセンパイ達も、俺だって緑間っちとの対決になるって思い込んでたのに、「キセキの世代」でもないノーマークの相手に苦戦してんだから。

 

「あの雪野って奴、そんなにキツいのか?」

「あー……キツいっていうか、何かやりにくいんスよね」

「やりにくい?」

「DFしてくる割には、俺の事を止めようって感じが全然しないし。それで突っ切ってみたら不意打ちしてボール持ってこうとするし。何か掴みどころがない相手っスよ」

 

 隣の森山センパイからの疑問に答えようとしたけど、俺も俺で何を言いたいのかまとまらない。

 俺の足りない言葉でどうにか伝わったのか、笠松センパイが言った。

 

「掴みどころがねーって、誠凛の透明少年みたいなもんか?」

「うーん……それとはまた違う感じなんスよねー」

 

 確かにプレイスタイルは黒子っちと似たものを思わせるけど、あれとは違う。

 視線誘導(ミスディレクション)は文字通りに視線を逸らして、黒子っちの存在を敵に認識させない方法だ。雪野サンの場合は黒子っちみたいな影の薄さがある訳じゃないし、目の前にいる事はちゃんと分かる。なのに動きが読めない。

 

「雪野もだけど今は緑間だな。あの3Pを打たれ続けたらすぐに追い抜かれる」

「俺と小堀がマークについたとして、止めるのはやっとだぞ」

 

 センパイ達の言う通り、緑間っちも放っておけない。

 

 小堀センパイと森山センパイがダブルチームで緑間っちについて、俺をフリーにしようとしてくれている。

 けど緑間っちに人数を割けば他が空くのは当然だ。

 三大王者とか言われてるだけあって、秀徳は他のメンバーもセンパイ達と張るぐらいに強い。

 

 俺が緑間っちを防ぐのが一番いいのに、それを出来てないから気持ちが焦っていた。

 監督が皆の様子を見ながら、重く言った。

 

「相手はだんだん勢いを付けてきている。だが相手の得点の決め手は緑間だ。まずは緑間を抑える事を最優先に、これ以上点は取らせるな。黄瀬、お前は雪野を抜けるか?」

「大丈夫っス。………色々やられたけど、そんな簡単に負けねーっスよ」

「……あいつ、もしかしてお前の模倣(コピー)が通じないのか?」

 

 隣の森山センパイがちょっと遠慮したように聞いてきた。

 

「いや多分、思うんスけど、技が通じてないっつーよりも見抜かれてる感じっスね」

「どういう事だ?」

「あいつは相手の動きの先を読む事がずば抜けてるらしい。黄瀬が使ってる技もそれで先回りされてるって事か」

 

 笠松センパイの言葉に同意する。汗が水を浴びた後みたいに頬を流れてきた。

 

「そーっス。俺が向こうのSFの動き使って抜こうとした時、あっちは迷わず左サイドから狙ってボールを取ろうとした。あの反応は、ドライブした時にサイドに隙が出来る事を読んでなきゃ出来ない」

「緑間だけでも一苦労だってのに、また厄介な相手が出てきたな」

「そーでもないっス。確証はないっスけど、向こうにも弱点はある」

「弱点?」

 

 つっても黒子っちの時とは違って、ほぼ俺の勘なんスけどね、とは言わない。

 

 弱点があろうが無かろうが、緑間っちにも誰にも、負ける気は無いっスよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終Qが開始する。

 今の所、点は向こうが2点リード。

 シュート2本でひっくり返せる差だけど、緑間っちの3Pがあるんじゃ呑気にしてられない。

 

 何度か試して、雪野サンのパターンは分かってきた。

 海常ボールで始まり、小堀センパイから俺にパスされる。

 雪野サンとまた向かい合う形になるけど、俺は何も攻めなかった。隙だらけなのを見越したのか、ボールはあっさり取られる。

 

 雪野サンがドリブルで逆サイドに走るけど、すぐに止まって、ボールの音だけがコートに響く。

 攻めあぐねてる、って様子じゃない。

 

 俺は雪野サンのDFじゃなくて秀徳のSFのマークについていた。つまり、雪野サンはフリーの状況だ。

 

 さっきから思っていたけど、この人は自分から攻めたりシュートする事をしようとしてない。

 俺からボールを取ってもすぐに緑間っちかSFに回してる。

 そりゃ、緑間っちにボール渡せば確実なのは分かるけど。

 だから逆にこの人を自由にさせて、他のパスコース先を全部潰してしまえばどうだ。これならこっちの先を読むも何もないだろう。

 

 予想通りに雪野サンはすぐには仕掛けてこなかった。

 パス出来る相手は緑間っちにはダブルチームがついてるし、他もセンパイ達が塞いでいる。

 

 ボールを持つ雪野サンを中心にして、皆がお互いの出方を伺うみたいに、コート内が沈黙した。

 

 

 その時、先に動いたのは雪野サンの方だった。

 

 

 ドライブ? いや、この踏み込みは違う。

 咄嗟に俺は正面から阻むようにDFしたけど、一歩出遅れた。

 

 次の瞬間、雪野サンの体は宙にあった。

 すぐに俺も続いて、踏み込んでジャンプし、ボールに手を伸ばす。

 

 

 ──何か、前にも味わった事があるような感覚だった。

 

 俺の方が後から飛んでいるのに、雪野サンより先に落ち始めている。

 あり得ない滞空時間と跳躍力。ゴールに思い切りダンクシュートが決まったのはその直後だった。

 

 得点が加算されて、俺が着地したすぐ後に雪野サンも落ちる。

 言わずにはいられなかった。

 

「…………びっくりっスよ。まさか火神っち以外にそんなジャンプが出来る人がいるなんて」

 

 ついこの前、試合をした赤髪の相手を思い出す。

 しかもさっきの踏み込み位置は、見間違えじゃなければフリースローラインからだ。

 こんな切り札持ってるのに自分から攻撃してこないなんて、この人、実はいい性格してるっスね。

 

 遠ざかりかけた白髪がこっちを振り向く。

 初めて雪野サンと目が合った。少し青みがかった瞳だった。

 

「別に大した事じゃないよ、ただのダンクだし。──―それに、黄瀬君は一度見たら同じ事が出来るんでしょ?いいよ、真似しても」

「………………」

 

 柔らかく言ってるつもりだろうけど、挑発が隠せてないっスよ。

 

 ―――でもそんなに言われちゃ、俺もお返ししなきゃ収まらないっスね。

 

 

 

 本当に、高校に入ってから驚く事ばっかり。

 火神っちに会ったばっかで、こんなに早く、新しい敵と会えるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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