黒と銀の巡る道   作:茉莉亜

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19.模倣、創造、拮抗

 

 

 

 

 

 

 

 お手本のように美しい弧を描くシュート。

 俺達にとっては春から見慣れていたそれは、たっぷり時間をかけて宙を舞ってゴールを射抜いた。

 

 同時に海常側から歓声が上がる。

 逆に秀徳側は、ベンチも含めて火が消えたような沈黙が落ちた。

 

「位置に戻れ! DF (ディフェンス)だ!」

 

 大坪主将(キャプテン)の掛け声で硬直が解け、コートを走る。

 

 自分の目を疑った。

 今のシュートは、ハーフラインからとはいえ緑間の3Pシュート。

 

 ──―まさかあいつ、他のキセキの世代の技も出来るのか? 

 

 けどそれを考えている余裕は無い。

 大坪主将からのスローインでボールが回ったが、宮地の手に入る前に黄瀬がスティールする。また打たれたのは3Pシュート。

 緑間と同じ、綺麗な放物線を描いてリングをくぐる。

 

 点差が(秀徳)64対69(海常)。

 最終Qになってとんだ番狂わせが起きたもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 監督がT・O(タイムアウト)を入れてくれたのは俺達全員にとって助かる事だった。

 予想していなかった展開に、大坪主将も宮地も高尾も、緑間さえいつもの鉄仮面が揺らいでいるように見える。

 いっそ感心したような風に監督が呟いた。

 

「驚いたな。まさか緑間のシュートまで打ってくるとは」

 

 全く、その通りだと思った。

 

 味方側なら半分笑ってみていられた緑間のシュートが、この状況じゃ全然笑えねえ。

 隣にいる当の本人は一言も喋らないけれど、目つきはどことなく険しかった。やっぱり自分の技をそっくり真似されたら、穏やかじゃいられないのか。

 

「緑間君、黄瀬君のあれ、知ってた?」

「いえ、俺が知る限りであいつが「キセキの世代」の技を模倣(コピー)した事はありません。……それに、さっきのシュートも完全に俺のシュートを模倣している訳ではないのだよ」

「どういう事?」

 

 緑間は静かに続けた。

 こめかみから流れた汗をタオルで拭う。

 

「フォームは確かに俺のシュートと同様でしたが、打つ時のタメが僅かに長いです。恐らく黄瀬は自分の飛距離の短さを、俺よりもタメを長くする事でカバーして再現しています」

「再現って……んな簡単に真似してくれてんじゃねーっての」

 

 宮地(兄)が毒づくように呟いたが、いつもの勢いが無い。

 

 気持ちは何となく分かる。

 緑間のでたらめなシュートは味方にあれば無敵だけど、それを敵として攻略しなくちゃいけない展開が全員の脳裏に浮かんでいる。

 

「……ふっ……ぶはっ」

「……高尾君? え、大丈夫?」

 

 と、緑間を挟んで隣にいた高尾がいきなり噴き出した。

 いやいや、この空気でどこに笑う要素があったんだ。ちょっと真面目にこいつの頭が心配になる。

 

「い、いやすんません。何か、真ちゃんのシュートをあっちもこっちも使ってんのかと思ったら何か笑えません?」

「笑えない」

「笑えねーのだよ」

 

 まさか緑間と意見が一致するとは思わなかった。高尾はようやく笑いを収めたけど、それでもやけに浮足立ったような声で言った。

 

「でも緑間の3Pシュートを相手にするなんて機会、そんなに無いっスよ! 俺、ちょっと燃えてきましたし」

「前向きだね、高尾君……」

「こういうのはお気楽っつーんだよ、雪野」

 

 宮地さん、それ誉めてます? 誉めてねーよ。というひと悶着が更にあったが、暗くなりかけていた雰囲気が少し緩やかになった気がした。大坪主将が溜息を吐いて、切り替えるように言う。

 

「監督、たとえ向こうが緑間と同じ技を使ってきても、条件はこちらも同じです」

「その通りだ。相手も必死になっている事に変わりはない。

 マークはこのまま変わらずにいく。雪野は黄瀬についてボールを持たせないように。ダブルチームを外した以上、あちらさんも3Pを多用していくと考えた方がいいだろう。緑間中心で攻めろ。宮地は向こうの6番につけ。最後まで気を抜くなよ」

 

 T・O終了のブザーが鳴る。

 試合終了まで残り、7分と10秒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再開早々、海常は黄瀬にパスを出してリスタートした。

 しかもまた位置はセンターライン。その目は真っ直ぐにゴールを向いている。

 

 ──―これを打たせたら一気に流れが海常に傾く。

 黄瀬が3Pシュートを打ったと同時に俺も跳び、放物線上を狙って手を伸ばした。

 手の平にボールが当たる感覚。そして審判の笛も鳴った。

 

「アウトオブバウンズ! 黒ボール!」

 

 ゴールラインからボールが転がっていく。

 確かに緑間が言った通り、こいつの3Pは緑間のそれよりタメが長い。たとえ長距離を狙われてもその時間差を狙えばブロックする事は出来る。

 

 跳躍の反動で少し屈み込んでいると、真上に視線を感じて顔を上げる。すると黄瀬と視線がかち合った。

 

「やっぱ一筋縄じゃいかないっスね。緑間っちのコピーなら止められないと思ったんスけど」

「お手軽に言わないでほしいよ……。「キセキの世代」っていうのはびっくりさせる事が好きだよね」

 

 緑間が入部してきた4月の頃を思い出す。

 あの百発百中3Pを始めて見た時も度肝を抜かれたもんだけど、それを再現出来る奴がいたなんて思わねーよ。

 

「隠してた訳じゃねーっスよ。ただ俺も、もう負けたくねーんで」

 

 黄瀬が少し挑発するように微笑んだ。

 予選リーグの時の火神を思い出すような、獰猛さが見える微笑みだった。モデルの癖にそんな顔も出来たのか。

 

 所詮は非公式、たかが練習試合なのにすげー執念だ。

 でもここで俺達が負けたら、今度こそ部の雰囲気がどん底に落ち込むのは予想出来る。それは嫌だ。大坪主将も宮地も木村も機嫌が悪くなるだろうし、高尾は健気なくらい明るく振舞うだろうし。緑間はきっと表情一つ変えねーんだろうけど…………また一人でどっかに引っ込むのか、IH(インターハイ)予選の時みたいに。

 

 負けたくない、とまでは思ってねーけど。

 あの時みたいな光景は、あんまり見たくなかった。

 

 海常は黄瀬の3Pで完全に突き放すつもりなのか、アウトサイドからの攻撃中心でやってきた。けど黄瀬が3Pを決めれば、こっちも緑間にパスを出して3Pで同じだけ取り返す。

 お互いのスコアに3点ずつ追加されて時間が過ぎていく。

 

(秀徳)76対88(海常)。残り時間4分。

 

 けど黄瀬から3Pを仕掛けられたのが痛かった。点差が開いたまま埋まらずに、緊張の糸だけがどんどん張り詰めている。

 

「緑間っ!」

 

 宮地が緑間にパスを鋭く投げた。

 けど黄瀬が間に切り込んでスティール。

 

 黄瀬がボールを持ってすぐにシュート体勢に入った瞬間、俺もブロックするべく跳んだ。

 

「──―打たせないよっ!」

「っ!!」

 

 それでも黄瀬は強引にシュートを放ち、ボールが宙を舞う。

 このタイミングなら届く──―と思った矢先に、ボールは指先に掠めただけで届かなかった。

 

 ボールは大きな弧を描いてゴールにまで流れたが、完璧な軌道に乗ったように見えたそれは、リングに当たって弾かれる。

 

「ボール生きてるぞ!」

 

 海常側の誰かが叫んだ。

 大坪主将と森山、早川、ゴール下で密集地帯になっている状況にボールがワンバウンドして落ちる。混乱の中でボールを手にしたのは大坪主将だった。

 

「速攻!!」

 

 主将のロングパスがコートを縦断し、俺の手元にボールが渡された。

 

 そのまま切り返し、ゴールに向かってペネトレイトしたが、正面に立ちはだかったのは笠松だった。

 黄瀬がシュートを入れた時から自陣にいたのか。

 右サイドの死角を狙って駆け出し、DFを辛うじて抜ける。高尾にバックパスを投げると、ボールは緑間につながった。

 

 緑間がシュートモーションに入る。ボールが投げられ、秀徳に3点追加。

 ポジションに戻る時、傍にいた宮地に小さく耳打ちする。

 

「宮地さん、気をつけて下さい。黄瀬の3P、だんだん精度が上がっています」

「は? ……さっきまで未完成だったってのかよ」

 

 察してくれた宮地に、俺は頷く。

 

「最初は俺が飛んで完全にブロック出来る高さで打っていました。でも、さっきの弾道は最初よりループの高さが上がっています」

 

 だから指先しか掠める事が出来なかった。

 ループの高さを上げている、つまり、オリジナルの緑間のシュートに少しずつ近付いている。

 のんびり時間を浪費する事は出来ないって事だ。

 

 それに──―他に気になる事も出てきた。

 

 海常のスローインで、C(センター)の小堀から笠松にボールがパスされた。

 

「笠松! くれっ!」

 

 海常のSG(シューティングガード)、森山が呼びかける。

 笠松が鋭くパスを投げた所で、それをスティールしたのは高尾だった。前半のように笠松のマンツーマンがなくなったおかげで鷹の目をフル活用している。

 

「雪野さんっ!」

 

 高尾から俺にパスが渡された。

 ドリブルで敵陣まで進むが、キラキラと眩しい金髪が立ちはだかる。黄瀬だ。

 

 コピー能力とかいうふざけた力もある癖に、DFも並じゃねーのはずるいだろ。左には緑間、右には宮地がいる。緑間に森山がマークについているが、ダブルじゃなければあいつが抜けるのは難しくないだろう。

 緑間にパスを渡そうとして────直前で宮地に変えた。切り替えして黄瀬の視界から抜け、隙をついて宮地にボールを渡す。

 そして宮地のレイアップが決まった。

 

(秀徳)81対88(海常)。逆転の射程圏内だ。残り時間は2分足らず。

 すると緑間が仏頂面なままで、こっちに無言で近付いてきた。

 

「……ボールは俺に下さい。必ず得点出来ます」

「いや、緑間君を信用してない訳じゃなくてさ」

 

 そんなあからさまに不満顔されても。

 俺が気になったのは緑間のシュート力じゃなくて、もっと別の事だ。

 監督から再びタイムアウト申請がくだったのは、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベンチに戻った俺達を一度見回した後、監督は緑頭の一年生に訊ねた。

 

「緑間、最後までシュートは打てそうか?」

 

 俺が報告するより早く、監督は率直に訊ねた。

 大坪主将や宮地達に、驚いたような空気が広がるのが分かる。でも、このタイミングでわざわざタイムアウトを入れるのはそんな理由しか無い。

 

「……質問の意味が分かりませんが。試合が終わるまで打てます」

「我慢しなくてもいいよ。……足首、どっちか悪いんじゃないの?」

 

 下手な誤魔化し方をする緑間が見ていられなくて口を挟むと、無言で睨み返された。おい、俺も一応先輩だぞ。

 

 こいつ、多分あの長距離シュートのせいでどっちかの足首に負荷がきてる。

 普段なら見逃していたかもしれないけど、黄瀬の模倣技を相手にしてたせいか違和感に気づけた。緑間もシュートを打つ前に、いつもより「タメ」が長くなっている。

 今日は後半から出場だから普段より弾数は少ないはずなのに、タメが伸びてるって事は、体のどっかに負担が出てるんだろう。

 

「おい、真ちゃん。それってマジかよ」

「うるさいのだよ。……調子が悪ければそもそも試合に出ていない。違和感を少し感じるだけだ」

 

 バツが悪そうに言う緑間に、ちょっと呆れる。違和感があったなら言えっての。 

 

「監督、緑間を外して時田を入れますか?」

「うーん、そうだねえ」

「この程度は負担になっていません。残りのワガママを行使しますから俺を出してください」

 

 その言いぶりに流石の大坪主将もムッとしたような空気を感じた。

 

「緑間、いい加減にしろ。練習試合で体を壊したら意味が無いだろう」

「そうだぜ真ちゃん。体調管理も人事の内なんじゃねーの?」

 

 軽い言い方ながら高尾も加勢する。

 これは明らかに主将達の言ってる事が正論なのに、何をこいつはゴネてるんだ。足首どころか、指の怪我さえいっつも神経質なくらい気を遣ってるのに。

 そんなに黄瀬に負けるのが嫌なのか? 隣のベンチで休息を取っている、青いユニフォームの一団を見やる。

 

「あ―……監督。ちょっといいですか?」

「何だ」

「提案って訳じゃないですけど、ちょっと考えてみた事があるんですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイムアウトはもう使い切った。だからこれが、本当の最終戦だ。

 

 秀徳が逆転するか、海常がこのまま逃げ切るか。

 どちらにしても、決め手が3Pにある事は全員が分かっていた。

 

 秀徳側からのボールでリスタート。

 大坪主将から俺にボールが回り、ドライブでそのまま中に切り込む。笠松が素早くディフェンスをしてきたが、俺は左後方にやってきた高尾にボールを手渡しした。

 そして高尾から緑間に──―ではなく、時田にパスが回る。

 

 3Pラインの僅かに外側から、時田のシュートが打たれる。

 バックボードに若干当たったが、得点には成功した。(秀徳)84対88(海常)。

 海常側から一瞬驚いたような反応があったが、反撃は早かった。

 

「止まるな、行けっ!」

 

 笠松の掛け声と同時に、黄瀬にパスが回る。

 

「──―行かせんっ!」

「……緑間っち!」

 

 黄瀬を正面からのディフェンスで阻んだのは緑間。

 この試合が始まってから初の、キセキとキセキのぶつかり合い。

 

 ──―黄瀬とゴールとの距離は3Pラインの外側付近。

 この距離なら3Pは十分に狙えるけど、黄瀬の選択は恐らく違う。

 

 黄瀬は緑間の右サイドを狙い、バックターンで振り切ろうとする。

 あの大ぶりな動き方は火神のそれだ。緑間もまた恐ろしい反応速度で止めにかかるが、僅かの差で黄瀬が早い。その時、バシッ! と何かを弾くような音が響いた。

 

「雪野さん!」

 

 黄瀬の死角になる位置から、間一髪でカットに成功した高尾が、俺に鋭くパスを渡す。

 攻守逆転。今度は俺の方から敵陣に切り込む。前には笠松、森山、そして黄瀬が後ろからすぐに追いついてくるのが分かる。

 それなら取るべき手段は一つしかない。

 

 大きくフロアを蹴る。慣れた浮遊感を感じると共に、目の前に来たリングにボールを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

「提案って訳じゃないですけど、ちょっと考えてみた事があるんですけど」

「……ふむ、じゃあ聞こうか」

「緑間君を中心で攻めるのを止めて、宮地さんと時田さんを交代させたらいいんじゃないですか?」

 

 言った瞬間、両隣からすごい勢いで非難と反論が起こった。

 

「は?? 雪野、お前何サラッと意味分かんねー事言ってんだ。交代させんならこのワガママ野郎一択だろうが」

「ですから俺は出来るとさっきから言っていますが」

「てめーも黙ってろ緑間! 二人とも舌引っこ抜くぞ」

 

 海常側のベンチに聞こえるから暴言はその辺で勘弁してほしい。

 二人が落ち着いたのを見計らって、慎重に切り出した。

 

「ここで緑間君を引っ込めたら、攻撃の切り札が無くなりますよ。海常に勢いがつくだけです」

 

 あっちの主将は隙を逃がさなそうなタイプみたいだし。弱味を見せたらダメだと俺の勘が告げている。

 

「それで時田を入れてシューターを増やし、残り時間の緑間の負担を補おうという事か」

「まあ、そんな感じです」

「だが、それで3Pの打ち合いにもつれこむのは危険だぞ。あっちは黄瀬と、もう一人のSGが打ってくるだろうが、黄瀬がインサイドで攻めてきた時に守りが薄くなる」

「向こうも前半は強気に攻めてきたしな。こっからは総攻撃で来るぜ」

 

 大坪主将と宮地がそれぞれ神妙に言う。

 その通りだ。残り時間と点差を考えると、敵も最大火力で攻めてくる事は間違いない。

 黄瀬の体力がどの程度の状態か分からねーけど、正直賭けに近い。

 

「黄瀬君は緑間君に止めてもらって、俺が代わりに得点すればいいですよ。緑間君だってDFくらい出来るでしょ?」

「は?」

 

 あ、やべ。

 ……今のは口が滑った。緑間が怖いくらいの目つきで俺を見る。

 

 蛇に睨まれたみてーな気分で黙っていたら、やがて緑間の方から口を開いた。

 

「…………。いいでしょう、黄瀬程度に俺が抜かれる訳がないのだよ」

「ぶっふぉっ! 真ちゃん、チョロ過ぎっしょ!」

「黙れ高尾」

 

 納得してもらえて何よりだよ。しぶしぶ、って感じが隠せてないけど。

 それにしても、ちょっとだけこの後輩の扱い方が分かったよーな気がした。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 考えてみたらレーンアップなんて中学卒業以来、試合でやったのは初めてだ。

 それも一試合に二回もやったから、久しぶりで少し体がついていかない。

 

 けど予想が当たってとりあえずホッとする。

 何度か黄瀬の3Pシュートをブロックしたから分かった事だけど、精度を上げてきているって事は、裏を返せばまだ緑間のシュートを微調整している段階って事だ。完全に習得は出来てない。

 俺が正面にいても、黄瀬の目線は逐一緑間のシュートモーションを追っていた。

 

 そして予想通り、緑間相手に3Pシュートを使うのは避けた。

 俺より背丈のある緑間だとブロックされるリスクがあるし、本物の使い手相手に調整中の技は出さないはず。

 

(秀徳)86対88(海常)。

 時間も遂に1分を切った。──―3P一つで逆転出来る点差だ。

 

「──―まだだ! 返すぞ!!」

 

 それでも笠松の声に怯んだ様子は全く無い。

 森山にパスが回り、海常からの3Pが決まる。(秀徳)86対91(海常)、また離された。

 

 間髪入れずに、大坪主将からのロングパスが投げられる。高尾が受け取り、カットされる寸前で左後方にノールックでパスを出した。

 

 そこにいたのは時田。

 3Pを打つが、シュート間際に笠松がブロックして防いだせいで、軌道がぶれる。

 放たれたボールは、リングの端に当たり宙に浮いた。

 

「ッバ──ーン!!」

 

 海常のPF(パワーフォワード)がやかましい。

 俺も追いかけるように跳び上がり、取られる寸前にボールをゴールへと押し込んだ。

 

 考えるより先に体が動く。

 小堀から森山にパスが回った。黄瀬は緑間が抑えている、それなら森山から3Pを狙うのか。

 けど森山から出たのは、あの変てこなシュートではなくバックパスだった。──―先にいるのは笠松。

 

 しかも位置は3Pライン。

 ここで3Pを決められたら逆転の目が無くなる。

 

「──―このっ!!」

 

 直前で笠松のシュートをブロックし、ボールを奪う。

 そのままドライブで切り込み、投げるようにジャンプシュートを放った。

 

(秀徳)91対91(海常)。これで同点。

 

 残り時間は30秒も無い。

 

「走れ!!」

 

 ゴール下の小堀が叫び、海常全員が一斉にコートを走る。

 

 山なりにパスが投げられた。黄瀬が受け取り、シュートを決める──―事はなかった。

 フェイクだ。

 緑間の目を掻いくぐり、寸前で後方の笠松にパスを回す。

 

 笠松のミドルシュートが決まる。(秀徳)91対93(海常)。

 ギャラリーから海常に対する歓声が聞こえた。

 

「雪野!」

 

 しかし間髪入れず、大坪主将からのパスが回った。

 その時俺の前に、瞬間移動でもしたみたいに立ちはだかったのは、やはり黄瀬だ。

 

「行かせないっス!!」

「──―じゃあ、行くのは止めるよ」

 

 正面の黄瀬を視界に入れつつ、咄嗟にボールを明後日の方向へ投げつけた。

 

 時計は既に10秒を切っていた。こいつと争っている暇は無い。

 

 コートにワンバウンドしてボールが舞う。

 誰もいない所にぶん投げて、黄瀬が一瞬ぽかんとした顔になった。けど、その一瞬で十分だ。

 

「雪野さん、ナイス!!」

 

 誰よりも先に反応して、ボールを奪い取ったのは高尾だった。

 鷹の目(ホークアイ)なら気付いてくれると思っていた。そして黄瀬がここにいるという事は、あいつはフリーだ。

 

 

「真ちゃん!」

 

 

 高尾から緑間に鋭くパスが投げられる。

 

 

 

 

 

 残り3秒足らず。

(秀徳)91対93(海常)。

 

 緑間が、シュートモーションに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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