黒と銀の巡る道   作:茉莉亜

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25.それぞれの課題

 

 

 

 

 

 

「雪野―客が来てるぞー」

「客?」

「お前の元カノー」

 

 体の血の気が引くっていうのはこういう感覚の事をいうんだろうなぁ、と俺は他人事のように思った。

 

 何で居るんだよ。

 何で普通に来てんだよ、手とか振ってんじゃねーよ頼むから。

 

 つい数年前まで同じ中学、どころか同じバスケ部にいたマネージャーの芽王寺(めのうじ)みちるは変わらない華奢な雰囲気で体育館の入り口に立っていた。

 とりあえず一刻も早く追い返さなくてはいけない。

 

「……すいません、ちょっと抜けてきます」

「おーおー、彼女が迎えに来るとか良い身分だなあコラ。撲殺すんぞ」

 

 宮地(兄)に酷い勘違いをされている気がする。

 静かに練習を抜け出して、入り口に立っているみちるの傍に近付いた。

 

「……おい、ちょっとあっちに行くぞ」

「何怒ってるの?」

「ったりめーだろ!!」

 

 キョトンとしてんじゃねーよ腹立つ! 招かれざる客を引きずるようにして外に連れ出した。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

「そんな怒らないでよーちょっと遊びに来ただけなのにー」

「そうかじゃあ気は済んだな。帰れ」

「ひどーい。じゃあ買い物付き合って」

「じゃあって何だよ。俺だって忙しいんだよ。一人で行けよ」

「だって男の子のほしいものなんて分からないもの。原君の誕生日プレゼントなんだけど」

 

 誰だよ原って。

 こいつのチームメイトなのか知らねーけど、だとしたらますます付き合う義理はねーよ。

 それなのにみちるは俺の腕を引いてそのまま進んでいってしまう。おい、無視すんな。

 

「お前マネージャーなんじゃねーのかよ。こんな油売ってて花宮に怒られるぞ」

「いいのよ。(まこと)君、私にあんまり仕事させてくれないもの」

 

 拗ねたように言うみちる。

 そういや昔からあいつ、仕事は全部自分で独占してたっけな。

 

「それにこうやって、他校の偵察(スカウティング)に行くのだって立派なマネージャーの仕事だもの」

「偵察になってんのか、これ……」

 

 ただ遊びに来てるだけだろ、としか思えねーけど。

 連れられるままに、俺が辿り着いたのは高校の近くにあった小さなスポーツ用品店だった。買い出しついでに俺達もたまに利用する店だ。

 こうなったら最後まで付き合ってやらねーと、こいつは帰らねーからな。俺は観念して店の自動扉をくぐった。

 

「うーん、でも何がいいかしらねー」

「さあな」

 

 俺としては限りなくどうでもいい買い物でしかないから、その辺のボールとかを適当に物色していた。

 

「あ、バッシュあげたら喜んでくれるかな」

「いや、それは止めとけ!?」

 

 店の一番手前に並べられていた最新モデルのバッシュを眺めての一言に、流石に止める。

 そりゃ、喜ばない奴は居ないと思うけどな!? 

 

「え、ダメなの? 何で?」

「ダメっていうかな……もうちょっと安めのにしとけ。マジバでもおごれば十分だろ」

「ふーん」

 

 どうにか納得したようで安心する。こいつの金銭感覚が狂ってたの忘れてた……。

 ついでだし、俺も部活用に何か備品を買っていこうか。完全に私用で練習を抜けちまったから、そうでもして宮地の機嫌を取っとかねーとまずい気がする。

 うちは今吉さんの所とかと違って、マネージャーがいないからこういう時に不便だよなあと思った。

 

 

「……ちょっと大ちゃん! 探したんだからね! 勝手にフラフラしないでよ!」

「うっせーな。見るくらい良いじゃねーか」

 

 

 ……ん? 

 何か、ものすごく聞き覚えがあるんだが。

 

「……ああっ! さつきちゃん! 青峰君も! どうしたの?」

「え? あ、ああーっ! みちるさん! 雪野さんまでっ! えっ、ええ──!! どうしてっ!? きゃー! すっごい偶然!!」

 

 と、俺達が気付くより早く先に声を上げたのは女子達の方だった。

 品物の前で仲睦まじく喧嘩していた桐皇のマネージャー桃井さつきと、「キセキの世代」エース青峰大輝。ピンク色の髪を振り乱しながら、何とも華やかな笑顔を見せて桃井さんがみちるとハイタッチを交わしている。眩しい。後ろの青峰なんか指名手配犯みたいな面してんぞ。

 

「二人ともどうしたの? 買い出し?」

「そうなんです! 青峰君が備品壊しちゃってーそれでちょっと買い出しに」

「だからワザとじゃねーって言ってんだろ!折角練習出てやったんだからよ!」

 

 桃井さんは制服だし、青峰もTシャツ姿で部活を抜けてきたって感じの恰好だ。

 

「みちるさん達はどうしたんですか? あ! まさかデートとか?」

「違う違う。ちょっと買い物に付き合ってもらってただけよ。あーそれじゃ、さつきちゃん。買い出しなら一緒に行くわよ? ほら、青峰君はアキちゃんに任せればいいし」

「は?」

「は?」

 

 サラリと言ったみちるの提案に、俺と青峰の声が重なる。

 いや、ちょっと待て。何でいつの間にかこいつらと一緒に行動する事になってんだよ。

 

「ちょっと待てコラ。何で俺がこいつのお守りしなきゃならねーんだよ」

「いいじゃない。先輩なんだから、一年の面倒見るのは当たり前でしょ?」

「こいつは俺の後輩じゃねーよ」

「まあまあ、今吉さんの後輩なんだからアキちゃんの後輩みたいなものじゃないの」

 

 意味分かんねーよ。

 話を勝手にまとめてしまったのか、みちるは桃井さんの手を引いてさっさと店の奥に行ってしまった。後には俺と、不機嫌そうな顔をした一年坊主が取り残される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面倒を見ておいて、と言われても、俺と青峰の間で盛り上がる話がある訳もない。シーン、と気まずい沈黙が降りていたが、こいつも他に行く所が無いのか、退屈そうにしながら律儀に俺の後をついてきた。犬か。

 ……試合の時は随分凶悪そうに見えたけど、黙っている分には普通だな。

 

 みちるも桃井さんも、いつになったら買い物終わらせる気だよ。つーか俺も、これ帰っていいかな。しみじみと、自分が何やってんだろうって思えてきた。

 

「…………何か、腹鳴ってるけど」

「あー。腹減ってんだよなー何かおごって」

「あのね…………」

 

 図々しいなこいつ。

 後ろから聞こえた腹の虫は、誰かと思えばやっぱり青峰。今吉さん、どういう指導してんだよ。

 

「ていうか、別に律儀に僕についてこなくてもいいんだよ」

「だってさつきが帰ってこねーじゃん」

「……探しに行けば?」

「面倒くせえ」

 

 あはは、こいつ……。

 緑間がマシに思えてきた。

 

 IH(インターハイ)決勝リーグも終わって、結局勝ち残ったのは桐皇・泉真館・鳴成の三校。誠凛が勝ち上がる事は出来ず、脱落してしまった。

 桐皇戦で足を傷めてから、火神も自分の部屋にずっと引きこもったままで出てこない。

 

 丁度目の前に展示してあったバスケットボールを手に取ると、いい具合にドリブルが出来た。青峰が怪訝そうに見ているのを感じるが、そのまま叩きつけるようにパスしてやる。かなり勢いをつけて放ってやったのに、青峰は堪えた風もなく受け止めた。

 

「……んだよ」

「じゃあ、暇ならバスケでもする?」

「は?」

1対1(ワンオンワン)くらいなら付き合ってあげるよ」

 

 ちょっとこいつの鼻っ柱を折ってやりたい気分になってきた。確か近くにストバスのコートくらいならあった筈だ。

 青峰はボールを片手で転がして、ちょっと考え込むようにしていたけど、やがて凶悪な顔で笑った。試合中に見せたような野生の獣みたいな顔だった。

 

「ハッ、お前が? 相手になんのかよ」

「……まあ「キセキの世代」には退屈かもしれないけどね。

 黒子君と火神君には負けちゃったし」

 

 と、一瞬青峰の片眉が反応したように動いた。

 するとそのまま、無言で店の出口へと向かっていった。ついて来いって事か? 

 だったら一言くらい声かけろって言いたいけどな……。

 

 青峰を追って店を出て、少し歩くと幸いすぐ近くにストバスのコートと公園があった。元々、店の商品がすぐ使えるように近い場所にあったらしい。他に人はいない。広々としたコートに風が吹き抜けて、誰かが使っていたのかボールが二つほど転がっていた。

 その内の一つを、青峰が手にして軽くドリブルする。

 

「やんならあんたからでいーぜ。ほら」

 

 ボールが無造作にパスされた。

 気を遣われたっつーより、舐められてんな、これは。欠伸までしてるし。

 

「えーと、じゃあ5本先取した方が勝ちって事で……」

「はあ? それじゃいつに終わるか分かんねーし、あんたは1本でいーぜ。取れたらな」

 

 ものすごく舐められてた……。

 お互いに練習着で、靴もバッシュ。状況は同じ。前に桐皇で1対1した時みてーに、差はつかない筈だ。

 

「あっ、そう……。それじゃ遠慮なく、そのハンデもらうよ」

 

 次の瞬間、ドライブで青峰の左サイドをめがけて切り込んだ。

 

 青峰が油断しきっているその瞬間、その一瞬をつく事が優先だ。

 ──だが、間違いなく不意をついた筈だったのに、青峰は恐るべき反応速度で追いついてきた。

 

 このままじゃカットされて終わる。

 咄嗟にボールを明後日の方向に放り投げた。ボールがコートに叩きつけられてバウンドする。適当に投げ飛ばしたから俺でも方向が読めない。これでアリウープの流れに持っていければ決められる。

 

「ハッ、同じ手に引っかかるかよ!」

「っ!」

 

 めちゃくちゃな軌道に放った筈のボールは、しかし青峰にスティールされた。

 今度は青峰がドリブルで、対面のゴールへと駆けていく。

 

 俺もその後を追う。

 ──―分かっちゃいたけど、こいつ速い。

 あの火神でさえ追いつけなかった事には驚いたけど、こうして体感すると本当に速い。黄瀬や緑間、他の「キセキの世代」とは速度の格が違う。

 

「──―待て、って言ってんだろ!!」

 

 青峰がダンクシュートを決める寸前に、ギリギリで間に合い、ボールをカットする。

 弾き飛ばしたボールが、コートから転がった。

 

「──へえ、意外とやるじゃん」

「そりゃどうも」

 

 全然褒められてる気がしねーんだけど。

 俺が言えた義理じゃねーけど、「キセキの世代」ってのは何でどいつもこいつもこう人を舐め腐った連中ばっかなんだよ!? 俺達の下の代で一体何があった!? 

 

 その後、俺からのドライブでまた仕掛けた。

 けど―――ダメだ。どんなに速く攻めても、フェイクで引っ掛けようとしても、こいつを破れない。

 動きの先を読んでる筈なのに、その上の速さで駆けていく。

 

 お互いに攻めて、守り、攻めて、それを繰り返して、気が付いたら結果は青峰に4本ゴールを決められた状態になっていた。

 って、チェックがかかってるじゃねーか。息が切れ始めた。顎の下に流れた汗を手の甲で拭う。

 勝負としては勝ちになりそうだっていうのに、青峰本人は嬉しいよりも、失望したような顔色をしていた。

 

「……結局、こんなもんかよ。緑間の先輩とか言ったって」

 

 

『―――あいつが何よりも求めているのは、自分と対等に戦える好敵手(ライバル)です』

 

 

 ふと、前に緑間から聞いた事が頭に浮かんだ。

 ああ、成程。それじゃもしかして、俺は期待外れでがっかりされている感じなのか。

 

「……贅沢な悩み」

「あ?」

「緑間君から聞いたよ? 青峰君、一人だけ強くなり過ぎちゃって、それで孤立しちゃったんだって?」

 

 と、青峰の機嫌が分かりやすく悪くなったのが分かった。

 毛を逆立ててる猫みてーだな。俺は歩きながら、転がっていたボールを手に取った。

 

「まあ、気持ちは分からなくも無いよ。チームメイトとギクシャクすると辛いよね。僕も昔、色々あったからさ」

「おい、喧嘩売ってんのか」

「まさか。ただ、友達と喧嘩してるなら、早めに仲直りした方がいいよーって思うだけ」

 

 喋りながら、コート上のラインに立つ。

 距離感を見計らって、ボールを思い切り投げた。ボールはやや不器量な軌道を描きながらも、ゴールのバックボードに当たって、ネットをくぐる。

 

 振り返って青峰を見てから、思わず笑みがこぼれた。

 

「……この勝負、これで僕の勝ちだよね?」

 

 意味する所を理解したのか、さっきまでの憂鬱そうな顔をどこにやったのか、青峰が喚いた。

 

「は……はぁっ!? ふざけんな!! あんなのカウントされっかよ! まともに1対1してなかったじゃねえか! もう一回だ、もう一回!!」

「えーでも、実際の試合だって乱戦なのは同じだし、余所見する方がこの場合悪いんじゃないのかな?」

「てんめぇ……!!」

「ぶはっ! 確かに青峰、これはお前がやられたな」

 

 と、その時。

 俺達以外の笑い声がコートに響いて目線を走らせると、そこに居たのは──本当に何でいたのか──俺達の共通の先輩だった。

 

「何で居るんだよ、今吉サン」

「お前を探しに来たに決まってるやん。桃井から連絡あったんやでーお前が買い出し中にいなくなったから探してるて。普段から迷惑かけてるんやし、あんま苦労かけたらあかんで」

「あーはいはい……」

 

 気まずそうに頭を掻く青峰。今吉さんは練習着だし、部活を抜けてきたんだろうか。

 

 コート上の熱気が急速に冷えていくのが分かる。青峰も熱が冷めたのか、そのままコートから出て行ってしまった。今吉さんの言葉に従うなら、スポーツ用品店に戻って桃井さんと合流するんだろう。

 去り際に、一瞬だけ目が合ったような気がしたけれど気のせいか。

 

「……じゃ、俺もこれで」

「ちょー待ち。雪野」

 

 うげ。

 

「いや、うげ、は無いやろ。何やそのリアクション」

 

 そーやって心読んでくるから嫌なんだよ。

 青峰と入れ替わりで何故かやって来た今吉さんだったけど、まあ俺が逃げられる筈も無かったよな! 

 

「びっくりしたでー。桃井から、雪野と芽王寺と偶然会ったって聞いて、そんで雪野が青峰と一緒にいる言うし」

「あの子が情報源だったのかよ……。つーか俺帰っていいよな? 一応、練習中の所抜けてきたんだから」

「いやいや。ワシかてお前に聞いときたい事あったから、わざわざ練習抜けてきたんやで? そんで雪野、桐皇に来る話考えてくれたん?」

 

 ニコニコ、と相変わらず読めない笑顔で訊ねてくる今吉さん。

 風がコートの中を、一段と強く吹き抜けていく。

 

「決勝リーグ終わってから音沙汰ないし、ワシら全勝したんやで? おめでとうの一言あっても良かないの~?」

「あーはいはい。おめでとうございます」

「棒読み! 何や、もしかして誠凛さん贔屓だったんか? そんなら悪い事したなあ」

「別に贔屓とかそんなんじゃねーよ。…………ただ」

「ただ?」

 

 決勝リーグの試合結果に同情とかはしていない。

 試合なんだから、勝ち上がるチームがいれば負けるチームがいるのは当然だ。

 

「……もし桐皇に入ったとしても、俺は、あんたが望んでるようなエースにはなれねーよ」

 

 桐皇のスタイルは超攻撃型。

 対戦相手を徹底的に叩き潰すのがやり方なら、俺が加入した所で──―多分、力にはなれない。決勝リーグの誠凛戦だって、途中から見ていられなくなったんだから。

 

「……ほんなら、雪野は秀徳さんでやってくって事か?」

「……ああ。まあ」

「ふーん」

 

 何だよその煮え切らない返事は。

 この人がこういう態度取ってると、ロクな事言わないから嫌なんだよな。

 

「けどなあ、雪野」

「何だよ」

「お前、秀徳の人達に話しとんのか? 昔の事」

 

 ほら見ろ、やっぱりロクな話じゃない。今吉さんが呆れたように溜息を吐いたのが分かった。

 

「やっぱり何も言ってないんやろ。これは先輩としての忠告やけど、お前がスタメンとして試合に出る以上、いつかバレるんやで」

「…………いや、でももう何年も前の話だし。お互いに見た目だって変わってるだろうし」

「アホ。そういうのは、やられた方はいつまでだって覚えてるもんなんやで。仮にや、揉め事になったとしても、桐皇やったらワシがどうにかフォローする事が出来る。

 でも秀徳で同じ事が起きてみ? 

 お前の先輩や、チームの皆は、その時全く変わらずにお前に接してくれると思うんか?」

 

 いきなり心臓を掴まれたような気分になった。

 実際、それは一番考えたくなかった事だし、起きてほしくない事だった。

 つい最近だって、海常の笠松にも月バスの記事が見つかっていたり、危ない場面は結構あったんだ。

 大坪主将に宮地を始めとして、秀徳の面子はいかにも潔癖な連中が多いから、俺の昔の事なんか知ったらどれだけ軽蔑してくるかって思う。……緑間なんか特に嫌いそうだもんな、口が裂けても言えねーわ。

 

「…………だから、その辺は……その内考える」

「……ああ、そか。お前が分かっとんならええけど。ほんまに秀徳さんでやってく気なら、その辺の事はちゃんとせーよ? 分かったなー」

 

 だからあんたは俺の何なんだよ。

 言うだけ言って気が済んだのか、今度こそ今吉さんもコートから去っていった。主将業っていうのは暇なのか。

 

 つーか俺も帰ろう。

 ちょっと出かけるだけだったのに、思ったより時間食った。そしてコートから出た時、見覚えのある人影が待ち伏せしているのを見つけて声をかけた。

 

「みちる。全然隠れられてねーぞ」

「あ、見つかっちゃった? テヘッ」

「可愛くねーから」

 

 いつから居たんだ、こいつ。

 聞いてみると、俺と今吉さんの話が始まった辺りから居たらしい。おい、だったら割り込んであの気まずい空気をぶっ壊せよ。

 

「大事な話してるみたいだったから気を遣ったのよ」

「全く大事な話じゃねーから」

「……ねえアキちゃん。私思うんだけど、アキちゃんのチームの皆だって色々話してくれた方が嬉しいんじゃないかしら」

「どーかな……」

 

 そりゃ、こいつのお気楽な頭で考えたらそうなるんだろうけどさ。

 

「私だって真君に試合の事とか色々相談してほしいのに、全然話してくれないんだもの」

「まあ、あいつはそうだろ……」

「お返しにダンゴムシ筆箱に詰めたら、怒るし」

「それは怒るだろ!?」

 

 かつてのチームメイトに、ちょっとだけ同情する気持ちが沸いた。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 適当な所でみちると別れ、学校に戻ったら、まだ体育館には自主練習でバスケ部の面子が残っていた。つーか増えている。さっきは居なかったのに宮地(弟)と木村もいた。

 今日は委員会とか言ってなかったか。

 

「あれ、雪野? さっき彼女が来たとか言ってなかったか?」

「一体どんな噂になってるのさ……彼女じゃないし。そこで別れてきたよ」

「え、もう別れたのか?」

「スピード破局って奴か」

 

 どこのゴシップ誌だ、この部は。何か一気に噂がざわめいている。

 俺がフラれたみたいな言い方されてんのはムカつくけど、訂正するのも面倒くさいから聞き流しておいた。

 

「雪野さん……あの、フラれても次があるっスから、そんな落ち込まないで!」

「高尾君。ちょーっとパス練に付き合ってくれないっか、なっ!」

「っ痛ぁ──!! いや、すんません冗談っスよ冗―談!」

 

 けどまあ、斜め下からにこやかな笑顔で励まされると絶妙に腹が立ったので、力の限りパスをぶん投げてやる。だから別にフラれてねーし!! 

 それでもどうにかボールを受け止めてんのは流石鷹の目の性能だけど、今は舌打ちしたい気分になった。

 

 みちるはああ言うけど、わざわざイメージダウンする事を白状して、溝を作る気にはならねーよ。高校入学してからバスケ部に入って一年強、キャラ作りしてまで苦労してバスケ部での立場を作ってきたってのに。

 にしてもこんな騒がしい状況でも緑間は相変わらず黙々とシュート練をしている。我関せずって感じだ。本当すげーな、あそこまで我を通せるのは逆に尊敬する。

 ……あ、高尾が茶々入れに行った。あれにちょっかい入れられる高尾も高尾だと思う。

 

「おー、皆熱心だねえ」

 

 妙に間延びした口調で割って入ったのは監督だった。

 騒がしい空気が少し静まり返り、自然と監督に視線が集まる。

 

「監督! 何かミーティングの確認でも……」

「あー違うんだよ。ちょっとした伝達でね。明日改めて言う事でもあるから良いんだけど、来週から夏休みが始まるだろう? 今年の合宿について話すから、明日のミーティングは予定しておくようにね」

 

 ……そうだ、そうだった。

 IHの事で頭がいっぱいになって、すっかり忘れていた。

 

 

 去年の今頃、味わった苦しみが蘇る。

 あの地獄の──―夏合宿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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