31.アメリカから来た男
道を歩いていれば蝉の声の大合唱が毎日聞こえるような季節になった。
今年の夏も例に漏れず暑苦しくなりそうだ。
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来る日も来る日も家と(つっても、下宿している火神の家だけど)学校の往復。夏休みだから日常はほぼ部活一色になって、毎日飽きもせず練習にどっぷり浸かっている。
それが今更不満な訳じゃねーけど、もっとこう……海とか花火とか、青春っぽい何かはねーのかよと思わなくも無い。たまーに道で同い年っぽいカップルを見かけてしまうと、何で俺はこうも汗とむさ苦しさにまみれた生活をしてんだと思う……。
冬の予選に向けて監督も大坪主将も怖いくらい気合が入っている。
そのせいでちょっとでも気を緩めると宮地(兄)から鉄拳が飛んでくるから、ぼんやり出来ねえ。
その舞台を思い描きながら、俺は見慣れた通り道を一人で歩いていた。
ちなみに今日は非常に珍しく部活も休息日である。よっしゃ休める! と思ったのはよかったが、部活以外だと大してやる事がねーから結局暇をつぶすのに苦労する事になった。
(高尾から、何か緑間のラッキーアイテム探しに付き合ってくれみたいなメールが来ていたけど、丁重に断りを入れておいた。つーか、ラッキーアイテムが「笹」って何だよ。「笹」って)
とりあえず、自宅に置きっぱなしだった着替えでも取ってこようかと思って、長らく留守にしていた我が家に向かっている。
あの爺の突然の思い付きで始まった事だったけど、火神と一緒の生活にすっかり慣れていた。まあ、あいつ料理は何故か上手いし、胃袋掴まれたっていうのか? こういうのは。今日は火神の所もオフらしいけど、集まりがあるとかで朝から出かけていた。
「……ん?」
やっと本来の俺の住まいが視界に見えてきた。
二、三か月空けてただけなのに、何かすげー懐かしく感じる。
ただ異変を感じたのは、誰も居ないはずのその玄関の前に、人影を発見したからだ。
「………………あの? うちに何か用が?」
「ん? あっ、すいません。雪野大輔さんのご自宅はこちらですか?」
振り返って訊ねてきたその姿に、一瞬言葉に詰まった。
玄関前に、モデルもかくやっていうくらいの美形が突っ立っていた。
前髪を左側だけ目を隠すように伸ばしてる変な髪形だったけど、そんな事問題にもならねーくらいに顔立ちが整っている。俺と同い年くらいに思えるけど、右目の下にある泣きぼくろの効果なのか、こいつ自身の雰囲気のせいなのか、妙な色気をまとってさえ見えた。
え、まさか本当にモデルか芸能方面の爺ちゃんの知り合いか?
黄瀬の例もあるし、そんな連想が働いてしまう。
「爺ちゃ……祖父なら留守ですけど」
「祖父……ああ、もしかして! 君がアキラ君かい?」
「は?」
すると謎の客人は、いきなり納得したように明るい声を出した。
え? 何? 俺の事知ってるみたいだけど、全然覚えが無い。
「俺は氷室辰也。ダイスケさんから色々聞いていたんだ、会えて嬉しいよ」
「氷室…さん?」
「タメ口でいいよ。俺も高二だから」
高二!?嘘だろ!?
あんまり落ち着いた話し方をしてるから、もうちょっと年上かと思った。
氷室は俺の様子がおかしかったのか微笑すると、玄関から離れてこっちに歩み寄って来た。
「もう10年くらい前の事になるかな。俺は子供の時にアメリカに住んでいたんだけど、トレーナーとして活動していたダイスケさんには色々教えてもらって、お世話になったんだ。体を傷めないようにする試合での動き方とかね」
そして戸惑う俺をなだめるように、柔らかく説明し始める。
爺ちゃんがガールフレンドとか言って女を連れ込んでくるのはしょっちゅうある事だけど、男の客なんて珍しい。
まあ火神とも知り合いなくらいだし、あの爺さんの交友関係の広さなんて今更か。
「折角また話したいと思っていたのに残念だな。またどこかに出張されてるのかい?」
「あー……うん。確かスイスとか言ってたけど」
「相変わらず忙しい人なんだね」
うんうん、と頷く氷室。
言っとくけど、あの爺さんは只の遊び人なだけでそんな大した人じゃねーぞ。
言葉の端々に爺ちゃんへの敬意を滲ませているので、思わずツッコミたくなった。
「俺と同い年くらいの孫がいるってよく聞かされてたから、すぐに分かったよ。ダイスケさんにそっくりだしね」
「いや似てないから……」
一体あちこちで何を話してんだ、あのクソ爺。
あと絶対俺はあんな自己中爺さんに似てない。
肝心の爺ちゃんが留守って事で、この客人はあっさり帰るかと思いきや、「良かったらちょっと話さないかい?」なんて言い出してきた。……家にちょっと立ち寄ってすぐ戻るはずだったのに、何故か初対面の野郎と肩を並べて仲良く大通りを歩く派目になっている。どうしてこうなった。
あんまりにもスムーズに誘ってきたから、つい言われるがままになってしまった。手慣れてんのか、おい。これだからイケメンは。
「ダイスケさんにはまた俺の試合を見てほしかったんだけど、ちょっと難しいかな」
「試合?」
「バスケの試合だよ。俺は今年編入した関係でIHには出られなかったからね、WCが今から楽しみだよ」
「え、バスケ!?」
サラッと言われた事実に、思考が一瞬固まる。
俺が動揺したのがおかしいのか、氷室は美しく微笑した。
「そんなに驚かれるとは思わなかったな。確かアキラは秀徳だろう? お互い、大会ではベストを尽くそう」
「いや、いやいやちょっと待って。爺ちゃんが君に教えてた事ってバスケなの!?」
「うーん、まあ正確には俺のバスケの師匠は別にいるんだけど、ダイスケさんには体の上手な使い方とか効果が上がるストレッチとか、その方面をね」
よく観察すれば、こいつが肩にかけているエナメルバッグには校章と「陽泉」という学校名がプリントされていた。
シャツにジーンズっていうラフな格好ではあるけど、部活帰りの学生って言えばそう見える。
「「ようせん」高校、って所なの?」
「あれ、結構知られてる学校だと思ってたんだけどな」
「あーごめん、他所の学校の事とかあんま覚えられなくて……都内? それとも神奈川とか?」
「いや、秋田だよ」
「秋田!?」
また予想外に遠い場所が出てきてびっくりした。
そんな所からわざわざ東京にまで来たのかよ。
「ダイスケさんに会いたかった事もあるけど、久しぶりの日本だから色々見物したくてね。そうだ、アキラはこの後時間あるかい?」
「え? いや……まあ……」
「じゃあちょっと付き合ってくれないか? 行きたい場所があるんだ」
何だか今日一日がオフじゃなくなりそうな予感がする。
隣のイケメン帰国子女を見ながら、俺は自分の巡り合わせの悪さを呪った。
****
電車を乗り継いで40分くらい時間をかけながら、氷室に連れられて着いた先は大勢の人がごった返して祭りでもやってんのかってくらい騒がしい所だった。
しかも夏休み中だってのに、たむろしている奴等がほとんど俺達と同年代に見える。何だ何だ、何が起ころうとしてんだよ。
「……ストバスの大会?」
「そう。バスケ部の仲間と一緒に東京に来てたんだけど、ここを待ち合わせ場所にしていてね。面白そうだから見ておきたくて」
近くにはスポーツセンターらしい建物がある。この広場は元々イベント用に開放されている敷地みたいだけど、入り口の所には「ストリートバスケットボール大会」って看板があった。バスケットゴールまでちゃんと整備されてるし、結構規模のでかい大会らしい。
つーかこいつ、休日までバスケする気なのかよ。
何だか火神を思い出した。あいつも誠凛の練習がオフの日なのに、暇さえあれば俺を誘ってバスケしようとしてくるバスケ馬鹿だ。オフの意味が分かってんのかと思う。
あちこちでバスケ部らしい集団や、社会人チームっぽい集団がボールを持って賑やかにしている光景を眺めて、氷室は呟いた。
「こういう所はアメリカと変わらないな。アキラ、俺達も参加してみないか?」
「いや無理だろ、いきなり。人数も足りないし」
「そっか、残念だな……」
意外にもあっさり引き下がる氷室。
そりゃ確かに今日は予定もないけど、わざわざバスケする気分じゃねーよ。
すると氷室は少し考えるような素振りを見せた後で、近くに大会参加者らしい集団を見つけると突然歩いて行ってしまった。え、知り合い? 何を話してんのか知らねーけど、置いてけぼりにされた俺はぼんやりとその光景を見つめる。
しばらくして、氷室は何か楽し気な顔をして戻って来た。
「アキラ! あそこのチームが丁度二人欠員が出て困ってるらしいんだ。事情を話したら俺達が助っ人になる事を快くOKしてくれたよ。さあ、行こう!」
「はい!?」
待て待て待て。
いきなり話が三段くらい飛んでてついていけない。
「あの、僕一言も参加するなんて言ってないけど?」
「でもアキラは秀徳じゃレギュラーなんだろう? 一度君のプレイを見てみたいな。いいじゃないか、こういう大会も新鮮で面白いよ」
「…………ていうか、誰かと待ち合わせてるとか言ってなかった? 大会なんか出ていいの?」
「まあ、アツシなら大丈夫さ。ちょっとくらい許してくれるだろ」
そのアツシとかいう奴に少し同情した。
こいつもこいつで、最初から俺に拒否権求めてないだろ! 何か聞き方に見えない圧力を感じるんだよ!
氷室が、花が咲くような、っていう表現が似合いそうな微笑みを向けて数秒が経過する。その笑顔に、俺は白旗を上げた。
「分かったよ。出れば文句無いんだね?」
「決まりだ! じゃあ早速作戦を立てよう、もう試合はすぐらしいよ」
こいつ、ちょっと苦手かもしれない。
待ちきれない様子で俺の腕を引っ張っていく氷室を見て、そう思った。
俺達が急遽助っ人として加わったチームは、同じ高校生の集団だった。試合前に軽く聞いてみたら、メンバーは全員バスケ部で、しかも三年らしい。
受験の合間の息抜きで参加しようとしたら、メンバーの内、一人が急用、一人が体調不良で来られなくなり、困っていた所に氷室が声をかけたんだそうだ。
「いや~助っ人してくれるなんて助かるよ。このまま棄権しようかって話してたからな」
「君達、バスケは経験有りかな?」
「俺も彼も、バスケ部員ですよ。自信はありますから、頼ってくれて構いません」
おい、勝手にハードル上げんな!
自信満々に言い切っている氷室に対して、心の中でツッコむ。
非公式のストバス大会って割には、バスケコートは思ったより広く、ちゃんとしている場所だった。
やっぱりそこそこ大きい大会なのか、コートの周りを囲むようにして観客が群がっている。
即席チームである俺達は、コートの中央で軽い自己紹介をしながら、対戦相手の登場を待っていた。
ふと気になる事を思いついて、隣の氷室に小声で話しかける。
「……そういえば氷室君ってポジションはどこ?」
「俺かい?
「へー」
こいつも百発百中の3Pとか打ってきたら笑えるな。有り得ないけど。
丁度その時相手チームもぞろぞろとコートに現れ始めて、同時に広場にアナウンスが流れた。
『さあ始まりましたストリートバスケットボール大会! 初戦は何と両チームとも高校生! 「チームいずみたに」対「チームせいほう」! 勝利を手にするのはどちらかな!!』
んん?
ノリノリで盛り上げ始める実況の中に、何だか聞き覚えのある単語が混じったような。
バカでかい声が耳を貫いてきたのは、その時だ。
「あっ……あ────!!! あんた、秀徳のレギュラーじゃん!! 何でいんの!?」
「は?」
大声の方向に顔を向けたら、対戦チームの中で坊主頭の選手が口をあんぐり開けて俺達を指差していた。隣に立っていた大柄な選手が、坊主頭を思い切り叩いている。
そのやり取りに、俺の中の記憶がやっと繋がった。
「……もしかして、正邦の?」
「お前、秀徳の雪野だろう。予選以来か、まさか参加しているなんて思わなかったぞ」
大柄な選手は、坊主頭の襟首を掴んで猫みたいにぶら下げながら話してきた。
思い出した、確かこいつ主将だった奴だ。顎ヒゲのせいか背丈のせいか、高校生には見えないくらい貫禄がある。
対戦相手として登場したのは、東京三大王者の一つ、正邦高校のバスケ部の面子だった。
IH予選じゃ直接対戦しなかったから俺もぼんやりとしか覚えてねーけど、あの坊主頭にはムカつく事を言われたから印象深い。
「はあ、まあ色々成り行きで……」
「秀徳とは対戦が叶わなかったからな。有難い機会だ、手加減はしないぞ」
「お手柔らかにお願いします……」
主将って生き物は何で誰も彼も、こんな無駄に迫力あんだろうな。変に緊張するから1対1であんまり話したくない。
……まあ、今吉さんみたいな例外のタイプもいるけど。
「お前バスケ部って秀徳だったのか!? 超強豪じゃん! すげー!」
「なあ、しかもレギュラーって聞こえたけどマジかよ!」
と、俺達の会話が聞こえたのか、盛り上がり始めるチームの面子に上手く返せず、とりあえず苦笑いする。「もう優勝はいただきだな!」なんて言い始めてるし。おい待て、だからハードルを上げるなっての。
「どうしたんだい、困った顔をして」
「そりゃ困るよ……。勝手に期待されたってさ」
それに公式戦ならまだしも、こんな草試合で目立って注目されたくない。
でも正邦相手なら手抜きは出来ないだろうし、どうしたもんか。
「ははっ、それなら俺が点を取るから安心しなよ。アキラはサポートに回ってくれ」
と、ボールを両手でクルクル器用に回しながら、氷室が爽やかに言った。
「え……。……あの対戦チーム、強いよ?」
「うん、分かるよ。でも大丈夫、俺も強いからね」
虫も殺さねーみたいな綺麗な笑顔で言い切る氷室。
それと同時に、試合開始の笛が鳴った。
俺のマークには正邦の坊主頭(津川とか呼ばれていた)がついている。
火神が苦戦してた覚えがあるけど、確かにやりにくい。抜こうとしてもべったり貼りついているみたいに
──けど、いくら古武術って言っても全く読めない動きをする訳じゃない。
津川がDFしようとしてくるタイミングを見計らってフェイントをかけて、マークを抜いた。慌てて津川が追いすがってくるけど、正直こいつの相手はもう面倒だ。
後は別の奴に決めてもらおう、そういう思いで斜め前方にいた氷室にパスを出す。
氷室は難なくパスを受け止めると、そのまま流れるような動作でジャンプシュートを放った。正邦のマークをあっさり抜けて、そのシュートがゴールをくぐる。
「ナイスパス、アキラ!」
「あ、ああ」
キラキラした笑顔を送ってくる氷室に、一瞬遅れて反応する。
強い、っていう言葉はハッタリじゃなかった。
即席もいいとこのチームだからどうなるかと思ったけど、始まって5分も経たない間に氷室が文字通り活躍をみせてくれた。
俺はマークに津川がついた事もあって完全にサポートに回っていたけど、氷室一人でほとんど
SGはどいつもこいつも綺麗なシュートを打つ取り決めでもあんのか?
緑間の1mmの誤差も許さない精密シュートとはまた毛色の違う打ち方だった。イケメンが打つとシュートまで綺麗に見えるもんなのかよ。
「くっそ! もうぜってー抜かせねえ!!」
と、津川が分かりやすく怒りながらDFを仕掛けてきた。
そんな頭に血上らせてたら、動きがバレバレになるぞ。
俺は津川からやや距離を取りながら様子を伺った。
その時、味方の一人が正邦のDFを抜けなかったのか、カットされる直前で何とか俺にパスを出した。ボールを受け取って、一瞬考えを巡らす。
──このまま強引に突っ切るより、ここはあいつに任せよう。
津川のしつこい妨害を躱して、後方から駆けてきた氷室にバックパスを出す。
氷室の動きに迷いは無い。
そのまま正邦のDFを一人避け、二人避け、見惚れるくらいの滑らかな動きでレイアップを決めた。同時に目の前にいた津川が、両膝を地面につく。
『これは凄い凄い!! あまりの優雅なシュートに思わず実況も沈黙! チームいずみたにの圧勝だ──!!』
今まで黙り込んでいた実況が興奮してまくしたてていた。
固まっていた空気が弾けたみたいに、周囲で眺めていた観客からも歓声が上がった。というより、ほとんど氷室のプレイに対する黄色い声援だけど。
試合終了のブザーが響く。非公式の大会って事で試合時間も通常の半分と短い。前後半でそれぞれ10分間だけの勝負は目まぐるしい速さで終わった。
点差は(正邦)32対65(泉谷)。
即席チームである俺達が圧勝。味方の一人が興奮を隠せない様子で俺の肩を叩いた。
「やったな! お前らマジですげー強いんだな! 助っ人頼んで良かったぜ!」
「ああ~……凄いのは氷室君だよ」
実際、後半からは勢いがついた氷室がほとんど一人で点を取ってるようなもんだった。
苦笑する俺に、隣からまた爽やかな声がかかる。
「何言ってるんだ、アキラ。君がDFを引き付けてくれていたおかげだよ」
「はは、それなら良かったけど……」
ほぼ一人でOFこなしたんだろうに、氷室はあんまり疲れた様子を見せていない。何かもう、どう驚いていいのか分かんなくて俺は引きつった笑いを返した。
本当、何者なんだよこいつ。
火神といい、帰国子女ってのは皆バスケが上手くなるもんなのか。ひょっとして緑間ともいい勝負するかもしれない。それくらいの底力をこいつのプレイからは感じた。
一方で、相手チームの正邦はこの大差の敗北に全員が言葉を失っていた。
まあ、そうだろうな。秀徳のレギュラーって事で最初は俺を警戒してきたけど、あいつらにしたらノーマークだった氷室が大暴れしてきたんだから、騙し討ちされたみたいなもんだろう。少し心の中で申し訳なさを覚えた。
「氷室……辰也…………!!」
と、試合結果に騒がしくなっている観客の中から、聞き覚えのある声が投げられた。
人混みをかき分けて現れたその姿に、俺はまたしても驚かされる。
「え? 火神君? ……何で?」
「ええっ!! 雪野さんまで!? な、何でタツヤと一緒にいるんだ!? ですか!?」
驚いても敬語をつけるのを忘れねーのか。礼儀正しいって言うべきなのか、相変わらず何か間違ってるけど。
観客の中から現れたのは、頭一つ飛びぬけた長身と赤毛。
俺の同居人であり家主であり、バスケ部に関して言えば敵校同士になる男──火神大我だった。
「あれ、雪野じゃないか。こんな所で何やってるんだ?」
「っ!!? ……木吉!? 君、も居たんだ……」
そして火神の隣からひょっこり出てきた顔に、心臓が飛び出るかと思った。
何やってるかって……そりゃこっちの台詞だろ!! 何で居るんだよ、お前が!!
よく見れば火神の傍には木吉の他にも、誠凛のベンチで見かけたような顔が2人くらい揃っている。え、まさかこいつらもこの大会に参加してたの?
「アキラ、タイガと知り合いだったのか?」
「いや知り合いっていうか、ちょっと色々あってこいつの家に住まわせてもらってて……ていうか、氷室君こそ何!? どういう繋がり!?」
「うーん……」
火神と氷室を見比べながら小声で訊ねると、氷室はちょっと考えた後、とんでもない爆弾発言を落としてくれた。
「一言で説明するのは難しいな。……強いて言えば、兄貴かな」
やっぱり俺にオフの日なんてのは永遠に来ないのかもしれない。
遠くで、青空が仄かに薄曇りになりつつあるのを見ながら、ぼんやり思った。