「おはよー、今日はよろしくねー」
「……ああ」
少年の管理する畑の前で元気な挨拶をするサラ。
対する少年はといえば、今日も睡眠が足りていないのか返事がどことなく低調だ。……無論、作業ができないほど不調である、というわけでは無さそうだが。
昨日は少年がサラの手伝いをする日だったが、今日はその逆。
サラが少年の畑仕事を手伝うために、朝一で少年の住む小屋に突撃してきていたのだった。
「それで、今日は何する?土を耕す?畝を作る?それともた・ね・ま・き?」
「何を植える気なんだ……?普通に水やりとか伸びすぎた葉の剪定とかだ、忙しい畑の担当はしてないしな」
この町では町民が分担して畑を管理しているのだが、少年は畑を任されるようになってからまだ日が浅いので、毎日気を使う必要のある畑の管理はまだ担当していない。
もっぱら、じゃがいもやミニトマトなどのある程度育てるのに余裕のあるものの管理がほとんどだ。
無論、だからといって仕事が簡単というわけでもない。ゆえに、今日は手分けして畑の手入れを行うことになったのだった。
「お、毛虫がいるー。ねぇ知ってるー?毛虫って大体蛾になるって言うけどそうでもないんだってー」
「なんだその情報……ってちょっと待て素手で触るな触るな」
その途中、サラが葉に付いている毛虫を素手でぺぺぺとはたき落としていたり、
「陽に当たるように剪定するのって意外と難しいよね」
「だからって根ごと抜くなよ……そこのやつは確かに抜かないとダメだろうとは思ってたけど」
他の野菜と近すぎて生育の邪魔になっている苗を根っこから引き抜くなど、仕事はしているのだがいかんせん豪快すぎるその行動に、思わずハラハラさせられながら少年は畑を回っていく。
その途中で周囲の大人達から「姉ちゃんの世話も楽じゃねぇなぁ?」などとからかわれるものだから、少年はなんとも微妙な表情を浮かべざるをえないのだった。
「それで居た堪れなくなって教会の修繕作業に逃げるのはどうかと思うなー」
「……逃げたわけじゃない。昨日サラも言ってたようにそろそろ教会に空いた穴とかも直さなきゃいけないなって思っただけだ」
そもそもサラのせいだろ、とも言い出せず。そそくさと畑を抜け、教会にやってきた二人。
まぁ、きっかけがどうあれ、現在の教会内が荒れてしまっているのは事実。それを補修するというのは、仕事としては申し分ないと言えるだろう。
そういうわけで、床に空いた穴を用意した板で塞いだり、剥がれかけの壁の塗装を再度塗り直したりしていく二人。
「そういえば、昔は孤児院もしてたんだっけ?ここ」
「みんな立派に巣立っていったから廃業になったんだけどな」
そんな中でふと思い出したようにサラが聞くものだから、俺が最期の孤児院生だったわけだし、と少年は昔を懐かしんだ。
この教会は例の【大厄災】を偶然生き残った数少ない建物で、当時はその混乱もあり、身寄りのない孤児達で溢れていたのだという。
だが百年という時を経る中で、新しく迎え入れられる孤児達も徐々に減っていき、つい二年前、最期に残っていた孤児である少年が教会を巣立ち、それをもって孤児院としての役割を終えたのだった。
……とはいえ百年の間ろくに補修もしないまま孤児院として運営されていたこの建物は、子供達の無茶な遊びや日々の生活の中で随分と傷んでしまっており、比較的手入れをしていた神父の住まいの部分や、そもそもあまり人の立ち寄らなかった……現在見廻り前の集会所と化している元懺悔室などの一部を除いたそのほとんどが老朽化してしまっている。
それゆえ一年前に礼拝堂で祭儀を行った際に町民が腐った床を踏み抜いてしまった時を境に、教会としての機能もほぼ停止してしまっていたのだった。
「礼拝、ねぇ」
箒の柄に顎を乗せたサラが一つ息を吐く。
……大体一月に一度は行われていた祭儀も、一年前を堺にその機を失い、今では神父から直接教えを受けるよりほかない日が続いている。
そのことに神父は心を痛めていたが……、その中での例の噂話である。少年としては、神父が余計な心労を背負っていないか気がかりでもあった。……まぁ、神父とサラの相性が悪い、というのも気がかりの一つではあるのだが。
「そういえば、一つ気になってたんだけど。神父様ってこの教会でのお勤めは長いの?」
「ん?……そうだな、わりと長い方、か?」
サラの言葉に少年は記憶を探る。
自身が物心付いた時にはもうすでに神父となっていたはずなので、それを踏まえるとそれなりに長くこの教会に務めているのではないだろうか?
先代の神父様が病気で神職を辞退するまでは見習いだったと聞くが、それも自身が物心付いた時分には既に過去の話となっていたもの。
見習い期間がどれくらい必要なものなのかはわからないが、それでも20年を下回る、ということはないだろう。
「なるほど、ねぇ?……ん、神父様の話は分かったわ。んじゃま、そろそろ他の仕事に移りましょうか」
「ん?……ああ、もうそんな時間か」
サラの言葉に窓から空を見る。……どうにも、話をしているうちにそれなりに時間が経っていたらしい。
太陽は真上に昇っていて、教会の前は俄に騒がしくなり始めていた。
「はいどうぞ、いっぱいあるから味わって食べてねー」
「ありがとよーサラちゃん」
いえいえ、と笑みを浮かべながら町民達の持ちよった器に汁を盛り付けていくサラ。
集った町民達はそうして盛り付けられた汁物を、あーでもないこーでもないと騒ぎながら味わっている。
それはとても楽しげで、この集まりが町民に歓迎されるものであることを如実に示していた。
──俗に言う炊き出し、というべきものを行うようになったのも、子供達のための青空教室が始まって
本来であれば教会側が材料から器から、ほぼ全ての必要物を用意して町民達に施すものが炊き出しらしいのだが、流石にサラと神父の二人しか居ないこの教会では材料の工面ができず。
どちらかと言えば、町の外からやって来たサラがこの辺りでは珍しい異郷の料理を振る舞うための集まりとなっていた。
なので、炊き出しと呼ぶよりは飲食会と呼ぶのが正しいのかもしれない。
そもそもは子供達を集める青空教室の事後報告会とか説明会的な集まりだったのが、どうせ集まるならと男達が酒やらつまみやらを持ち込んで宴会めいたことをし始めたため、そうして酒を飲んで騒ぐよりは普通に飲み食いをして話す会にした方がいいとサラが提言し、言い出しっぺの彼女が他の地の料理を出してあれこれと話す場となった……という経緯で始まったのがこの会だ。
そのため、材料の下拵えの手伝いこそあれど、基本的には彼女が調理に配膳に、といった風に雑事を一人で行う会となっているのが現状である。
……負担になるのではと思わないでもないが、町民と言葉を交わす彼女に疲れは見えず、どころかとても楽しげに配膳をしているので、でしゃばらずに大人達の列を整えるくらいの手伝いに止めている少年なのだった。
なお今回の汁物は、根菜を多く使い彼女特製の調味料で味を整えたという、こちらで言うシチューをもっとサラサラにしたような、とても不思議なものだった。
シチューにするなら大きめに切って入れられているであろう肉の塊が、薄切りになって汁に浮いているというのも特徴だろうか。
「ホントは豚を使うんだけどね、流石にパッと用意できるものでもないから今回はイノシシの肉なんだ。……まぁ、イノシシ肉の処理にちょっと手間がいるから、晩御飯のおかずにもう一品とかにはおすすめできないかなぁ」
とはサラの言。……肉の処理云々の前にイノシシの用意自体がそうそうできるものではないのだが、どちらかといえば先日イノシシを捕獲したからこそ今日の炊き出しに使うことを思い至ったらしい。
なので、ある意味その辺りは弁えているとも言えるのかも知れなかったり。
「ほら君も、大人達の列とか整備してなくていいからほらほら並んで並んでっ」
などとぼんやり考えていたら、急に背中を押されて前につんのめる。いつの間にやら背後に回っていたサラが、こちらの背をぐいぐいと押してきていたからだ。「わかったから押すのはやめてくれ……」と彼女を追い払って、素直に列の後ろに器を持って並ぶ。
……近所のおっさんがニヤニヤとこちらを見ていたため思いっきり足を踏んづけてやった。途端に悲鳴をあげてこちらを睨んでくるが、その背後を指差してやれば青ざめた彼はこちらから視線を外す。彼の奥さんが、夫のことを無表情に
必死に妻に謝り倒す男を横目に、少年はぼんやりと空を見上げる。……男衆相手には今のでいいのだが、女衆も今の夫側のようにこちらを楽しげに見てくることがあるので、結局差し引き負けみたいになるのはどうにかならないのだろうか、と内心ぼやきつつ。
「はい、君はまだまだ育ち盛りなんだからいっぱい食べなきゃダメだよー」
しばらくして少年の番になると、サラは鍋の中から具と汁を溢れんばかりに器に注いでくる。
周囲の男共からずるいみたいな声が上がるが、「じゃあこのあとお酒無しだけどそれでもいいの?」と返されて瞬時に静かになった。……この酒バカどもめ。
──このあと出されるのは教会の地下倉庫でよく冷やされた葡萄酒なので、酒に飢えた男達としては変にサラの気を損ねてそれを楽しめなくなるのは非常に困るのだ。そういう意味で、この場にいる男達の地位は低いと言えた。
まぁ、酒を飲めない少年からしてみれば、ろくでもない大人共め、くらいの気分にしかならないのだが。……とはいえ、文明の利器もろくに使えなくなってしまった現代において、冷やすという行為がどれほどの価値があるのかということを訪ねられると、少年としても納得の芽を出さざるをえない。孤児院にいた頃は、真夏の日に出されるよく冷えた果物類を楽しみにしていた覚えがあるからだ。
そんなことをつらつら考えつつ、いつもの定位置である教会前の木の影に腰を下ろす。
持ってきたスプーンで汁を掬い、一口。……程よい大きさに切り分けられた人参やじゃがいもは舌で潰せるほど柔らかく、肉の油や調味料が中までしっかり染み込んでいる。
汁そのものも飲んでいるだけで体が芯から温まるようで、器いっぱいの汁を全て飲み干す頃にはすっかり幸せな気分になっていた。……まぁ、今が季節的に暑くなり始めたばかりで、ちょっとぽかぽかし過ぎたかとも思わないでもないが。
「……や、君ってばホント美味しそうに食べるよね、ちょっと照れちゃうや」
そこにいつも通りに近付いてくるサラ。
その手に持った器にも彼女手製の汁物が盛り付けられているようだ。どうやら長かった配膳が終わり、彼女自身も昼食を摂る時間ができたらしい。
よっ、という一言と共に彼の隣に腰を下ろした彼女は、一緒に持ってきたかごの中からパンを一つ取り出し、汁に付けて食べ始めた。
「……いや、流石に塩辛くないか?」
「キキばあにお願いしてね、塩を少なめのパンにしてもらったの。だからまぁ、わりと合うよ?」
流石にそれはどうなのだろうと少年が問えば、わざわざこの汁物に合わせたパンを用意して貰ったのだと返してくるサラ。
そうして彼女は幸せそうにパンを汁に付けて齧りつつ、時々汁そのものもすすっていた。
「……その、見られてるとちょっと食べ辛いんだけど。それとも、実はまだ欲しかったりする?」
そうしてずっと見ていたら、彼女が居心地が悪そうにこちらに視線を向けてくる。……そんなに見つめていただろうか、と思わず少年は慌てるが。
くぅ
と自身の腹の虫が鳴る音を聞いて、思わず表情が全て凪いだ。
ぷっ、と小さな笑みを浮かべた彼女は器を傍らに置いて立ち上がり、
「───はい。まだ残ってるし、なんなら付け合わせにパンもあるよ?」
と、新しく汁を注いだ器とパンを一纏めにこちらへ差し出してくる。
──顔を俯かせた少年は、わなわな震えながらそれを受け取った。
「結局、どんちゃん騒ぎになっちゃったねぇ」
くつくつと笑みを浮かべるサラの言葉に、些か疲れたような様子で机に伏せっている少年。
あれからすぐに少年の醜態を肴に酒盛りが始まってしまったので、当事者たる少年のその心労足るやいかほどのものか、という話である。
日が沈んでもなお解散しようとしない男達の撤収作業にさらに気力を奪われた、というのも一因だろう。
最初の内はやれやれといった様子だった奥様方も、最後の方では無理やり夫の耳を引っ張って連れ帰る、という有り様である。……あれは明日が酷いだろう、主に妻の機嫌と二日酔いの頭痛が。
まぁ、少年からしてみればいい薬以外の何物でもないので特にいうことはない。ついでに自分のやった醜態について記憶が飛んでいてくれればいい。……奥様方の記憶には残っているので根本的な解決にはならないが、それでも全員に憶えられているよりはマシだ。
そうして、元懺悔室に持ち込んだ机に頬杖をついて不貞腐れている少年に苦笑を返しつつ、サラは窓から外を見る。
今日も外は薄暗く、森は静まり返っている。
特に何かがあったようにも──特に何かがあるようにも思えない。
ただ、いつも通りの森の姿がそこにはあった。
「んー、今日も何もない、かな」
思わずといった風にぼやくサラ。少年もその言葉に頷きを返す。
多少道を変えて行動範囲を広げたりしてみるものの、噂の確証に繋がるようなものにはいまだに出会えていない。
せいぜい出会うのは足下を駆けるねずみだとか、森の奥の方でこちらに視線を向けてくるフクロウくらいのものだ。
夜の森はただただ静かで、無意味な不安感を煽る以外のことは何も起きていない。
それゆえ、少年の緊張感もどこか緩みがちになっていた。あまり油断し過ぎると足下の暗さゆえに木の根に引っ掛かって転倒しかねないので、最低限の警戒はまだ続いているのだが。
……それでも。
最初に見廻りを始めた時に比べれば、どこか真剣味が薄れてしまっている、というのは紛れもない事実だと言えた。
「とはいえ、あんまり奥の方に足を伸ばすのは時間的に無理があるし、ねぇ」
夜に何者かが蠢いていると言うのが噂の主旨である以上、必然的に探索は夜になってしまうわけだが。
夜に探し回るにはこの森は広すぎるし、そもそもあまり奥に行ってしまうと底なしの谷があるため、誤って落ちてしまったりしかねない。それゆえ、見廻りもせいぜいが森の奥の手前──共同墓地の少し奥までとなっている。
夜に立ち入る墓地の雰囲気の恐ろしさはなんとも言い難いものだが、幸いというかなんというか、ここで何かが見付かったということもない。果たしてそれを喜んでいいのかは謎なのだが。
まぁ、そんなわけで。
今日も墓地の奥まで進んだあと、こうして森の小川まで戻ってきて休んでいるというわけだ。
この間のように素足を晒して小川に浸していたサラは、岩の上でため息を吐いている。
少年も少年で近くの木の幹に背を預け、ぼーっと空を眺めていた。
「んー……仕方ない。今日はもう戻ろっか?見廻りを続けるにしろ止めるにしろ、一回町長さんに相談した方がいいだろうし」
靴を履き直したサラがひょいと岩から飛び降りてくるのが視線の端に入ったので、少年は視線を下から横に戻した。
実際、夜遅い生活が続いた少年としてもそろそろ限界が見えていたころである、見直しをするというのには素直に賛成であった。
そうして、またいつものようにサラが先導して森に戻ろうとする。
──ところが、今日の見廻りはこの後がいつもと違ったのだ。
なんと、サラが森に入る直前で立ち止まったのである。
訝しむ少年がサラの顔を覗き込めば、彼女は常とは全く違う、厳しく鋭い目で目前の森を睨んでいた。
思わず、少年も森の中へと視線を向ける。……生憎と、少年の目ではなんの異常も感じられない。そこにあるのはいつも通りの、暗くて鬱蒼とした森だけだった。
「……誰か居るの?」
それでも、サラは眼前の森に向かって鋭く言い放つ。……それは確認、というよりはどこか確信めいた声音だった。思わず、少年がごくりと生唾を飲み込む。
──暫しの沈黙と緊張。
やがて、なにかが動く物音が目の前の森から返ってきた。
「───やれやれ、サラ君のそういう所は素直に感心しますよ」
茂みの中から現れたのは一人の中年男性。
黒の礼服に身を包み、普段なら人の良さそうな笑みを浮かべているだろうその顔を、今は小さく苦笑に歪めている。短く切り分けられた髪は金色で、瞳の色は青色。背丈はサラより頭一つ分高い。
───そう、彼こそは。
「……え、神父様!?こんなところで一体なにを!?」
我に返ってすっとんきょうな声を上げる少年。
傍らのサラはと言えば、露骨に嫌そうな顔をしている。
対する神父はと言えば、先までの苦笑を緩め楽しげに笑っていた。
───ジェームズ・ウッドリバー。
街の皆からは【神父様】と呼ばれ親しまれている彼は今、暢気に礼服に付いたほこりや葉っぱを手で払い落としていた。
「───お早いお帰りでジェームズ神父。近隣の村々の方はもう宜しいので?」
そんな神父に対し、サラは先程までの調子が嘘のような、低く感情の読めない声で問い掛ける。少年が視線を横に移せば、その表情までもが堅く愛想のないものに一変していた。
そんな露骨過ぎるサラの態度の変化に呆れたような顔をする少年だが、当の話し掛けられた神父本人は露ほども気にしていない様子で笑みを浮かべている。
「そうですね、深夜の外出は控えること。居なくなった人がいれば速やかに伝えること。───その他諸々、きっちりと伝えてきましたよ」
そんな神父の態度にますます不機嫌そうになっていくサラだったが。
「………左様ですか。なら私は帰っても良さそうですね。───彼の事、宜しくお願いします」
ぴしゃりと言い放つと、踵を返して脇目も振らず森の中に消えて行ってしまった。
そんなあんまりにもあんまりなサラの行動に唖然とする少年。
そんな中、当の神父はといえば、困ったような笑みを浮かべ、サラが消えていった森の奥へと視線を向け続けていたのだった。
「……相変わらずサラ君には嫌われているみたいですね」
二人で森を歩き町へと帰るなか。
ため息こそ漏らさなかったが、些か疲れたような表情を浮かべぽつりと溢す神父。そんな彼の様子に、少年もまた曖昧な苦笑を浮かべていた。
確かに、あそこまで行くと『嫌われている』と言う方が正しいだろう。最早威嚇している、とでも言った方が正しいような態度であった。
……ただ一つ疑問が有るとすれば。
サラがあそこまで露骨に嫌悪を示すこと自体が珍しい、ということだろうか?
基本的にあっけらかんとしているのがサラの常なので、あそこまで嫌悪感丸出しなのはどこか異様に思える。
そう考えているのが顔に出ていたのか、神父が苦笑と共に口を開いた。
「彼女とはどうにも『神』に対する価値観が違うみたいでしてね。………なかなか上手くいかないんですよ」
初耳であった。
サラが神父を苦手としているのはずっと姑に対する嫁の心境のようなものだと思っていた少年にとって、今の話はまさに寝耳に水もいいところであった。
そんな少年の呆けた顔に、神父が笑みを返す。
「いずれは、理解して貰えると信じていますがね」
……真っ直ぐな眼だった。
そうなる事を信じて疑わない強い眼差し、彼が『敬虔な信徒』と呼ばれる所以である。事実、彼の真摯な言葉に心動かされた住人も数多い。
少年の視線に笑みを深めた神父は、右手のカンテラを目線の高さにまで持ち上げたあと、少年に声を返した。
「さ、今日はもう寝床に戻るとしましょう。夜も遅いですしね」
指差す先には町の灯りが疎らに浮かんでいた。