飼殺の檻・九と一つの呪いの話   作:アークフィア

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四日目・?

 

 ───深夜。

 誰もが寝静まり、動くものの無いはずの時間。

 誰もいない森の中を、奥へ奥へと歩を進める黒い影の姿がそこにあった。

 

 灯り一つさえ持たずに進むその影は、どういうわけか迷いもせず、木の根に足を取られもせず、すいすいと軽快に森の奥へと進んでいるように見える。

 そうして奥へ奥へと進んで行って……、やがてその黒い影はとある場所にたどり着いた。

 

 ……そこは、森の奥にある町の共同墓地であった。辺りに人影はなく、獣の蠢きさえ聞こえぬその場所を月だけが静かに照らしている。

 

 黒い影はその墓のうち、適当なものの前に進むと、その根本を道具を使って堀り起こし始めた。静かな森の中に、土を掘り進める音だけがこだまする。

 ……やがて地面から出てきたのは腐って骨が見えてしまっている、人の右腕らしき塊。

 黒い影は現れたそれをまじまじと観察すると、軽く土を払って傍らに置いた袋の中へしまっていく。

 

 同じような作業を三回ほど繰り返した黒い影は、満足のいく結果が得られたのか掘った穴を丁寧に埋め直し、腐肉の詰まった袋とスコップを手早く纏めて墓地から離れていった。

 

 ……数分後。

 傍らの茂みから、一人の男が這い出してくる。

 どうにも黒い影のことを探っていたらしいその男は、丁寧に埋め直された墓地と、黒い影が去った方向へと視線を交互に飛ばしたのち、

 

 

「……やはり、君は……」

 

 

 堅い顔で呟いて、黒い影とは別方向に去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「おおおい大変だ大変だ!寝てる場合じゃねぇぞお前っ!!?」

「……なんだ、もう朝か……?」

 

 

 ベッドの中で寝ぼけ眼で少年が呟けば、見渡した小屋の中はまだ真っ暗で。

 はて、今日は日が昇る前に畑の様子を見なければならない日だったろうか、と状況を思いだそうとして──、

 

 

「いいから起きろっての!大変なんだよいいからさっさと起きろって!!」

「……?????ああ、すぐ行く」

 

 

 小屋の外で戸を叩きながらこちらのことを妙に急かす、隣の家の男の行動に首を傾げつつ外に出るための最低限の準備をして小屋を出た。

 そのまま、説明する間も惜しいと言わんばかりの彼に連れられて町の中央部へと走る。

 

 町の中央部には伝言板が備えられている。

 町からの重要な連絡や、その他の雑多なお知らせなどを記載するための場所だった。少年も時折、大人達の間で取り決められた約束事などを確認するために利用している。

 その伝言板の一画に、教会からの有難い言葉や次の祭儀の時刻を記すために設けられた場所がある。隣の男はそこに記されたものを指差していた。

 生憎薄暗くてよく見えないので、少年は伝言板に一歩近付き、書いてある言葉に視線を走らせる。

 意味が分からなくて目蓋を擦った。

 寝惚けているのかと自身を疑った。

 三度確認して、己の見間違いではないのだと思い知る。そこに書かれていたのは、

 

 

「……嘘、だろ」

「あ、おい落ち着けっ!……ってああ、行っちまった」

 

 

 男の引き止める声も虚しく、少年は教会へ向けて走り去ってしまう。男も滅多に見ない少年の全力疾走は、彼が大いに慌てていることを如実に示していた。

 伸ばした手は空を切ってしまったので、男は仕方なしに掲示板の方へと向き直る。……今、広場では大人達が集まって「嘘だ」「信じられない」なんてことを言い合っている。

 男だって信じてはいない。……いないのだが、教会からの連絡用の場所に文を書くのは、多く見積もっても二人。

 それが決まっているからこそ、悪戯目的でここに何かを書くような者がこの町にいない、ということもよく理解している。

 何せ、そんなことをすればすぐに誰がやったのかバレてしまうだろうから。

 ゆえに、書いてあることが本当かどうかはさておいて、記載内容が荒唐無稽と笑い飛ばせないものである、ということは事実なのだろう。

 だから男は伝言板に視線を向ける。

 沈痛そうな面持ちで、そこに書いてある言葉に渋面を向けるのだ。

 

 伝言板の一画。

 教会からの言葉を記す場所。

 そこに文字を書く者は二人しかいない筈の場所。

 そこには、こういうことが書かれていた。

 

 

『シスター・サラに罪の疑いあり。一晩の禁固刑にて、その罪科の是非を問う』と。

 

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