あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
第三十六話 あかんこれ
「ようこそ、艦娘喫茶店チャンネルへ!」
「えっ? 『いつもと口上が違う』?
よく気付きましたね!
そうです、実は挨拶の研究をしようかなって」
「というわけで、みんなのアイドルユキちゃんですよ~。
って、この挨拶だと那珂ちゃんと被りますね……」
「『マスターはいないの?』。
実はいま、お店にマスターの旧友さんが来ていまして、色々と話しているみたいです。
なので、勝手に裏で配信を始めちゃいました!」
「旧友さんの出演ですか?
うーん、出演料が必要そう……あっ、これだけで誰か察した方がいますね。
ふふっ、英雄なんて呼ばれてますけど、実際はただの妻の尻に敷かれる普通の人ですよ」
「『超有名な自称一般人が来る配信』。
……本当にそんな感じになっちゃいましたよねぇ。
ユキたちはただ、艦娘の笑顔を守るために配信活動を始めただけなんですが」
「『初見ですが、艦娘を守りたいというのは……?』。
初見さん、いらっしゃいませ!
ようこそ、ユキちゃんとマスターの一生添い遂げるチャンネルへ」
「『愛が重い』? 普通では??
……こほん。
ご存じの通り、深海不活性薬によって多くの深海棲艦が倒され、艦娘から深海棲艦になった者はその深海化が解けたわけですが……。
その後、艦娘を退役した者たちに対する世間の風当たりは強かったわけです」
「……そうですね。
みなさんがコメントしているように、中には『お前は元深海棲艦なんだろう!』とか『お前たちが深海棲艦を生み出していたんだろう!』とか、心無い言葉を浴びた人もいます」
「だから、マスターはこのチャンネルを立ち上げました。
元艦娘のマスターと元艦娘の看板娘が、普通に喫茶店をやっている配信です」
「といっても、うちは一見さんお断りなので、紹介された人しか店舗には来れないわけですが。
なので、盗撮ではないので安心してくださいね!
ちなみに、配信時間外であれば、元艦娘の方は誰でも入店大歓迎ですよ!」
「『自分で看板娘って言うのか』。
当然です、ユキはマスターに選ばれた看板娘ですよ?
ユキが世界で一番マスターに愛されているんです……誰よりも」
「……何の話をしてましたっけ?
あぁ、そうそう、マスターは艦娘を守るために喫茶店を立ち上げたんです。
その辺、昔から変わっていないんですよねぇ」
「ちなみに、喫茶店っていうのはユキの案です!
マスターの作った料理を食べてみたかっ……ゴホンッ!
やっぱり、元艦娘にとっても憩いの場所が必要だと思ったんですよね!!」
「……マスターは艦娘に対する世間の風当たりを知って、自分一人にその注目を集めようとしたんです。
他の艦娘を守るために、自分を犠牲にして。
だから、ユキはマスターを守るために頑張りました」
「『BANのユキ』……懐かしい二つ名ですね。
でも、マスターのチャンネルでふざけた発言をするやつが悪いんです。
そいつらをみんなBANして、何が悪いと?」
「……『それでコメントが減って、結局注目されなくてマスターに注意されていた切り抜きが個人的に草だった』。
はい、流石にやりすぎたなって反省しました。
でも、マスターは優しいから、どんなに失敗しても“自分のためにやってくれたから”って感謝してくれるんですよ」
「『さすマス』。
本当に、流石私のマスターです!!」
「『私の(ここ重要)』。
はい、私のマスターです」
「『マスター自身は、外堀を埋められていることに気付いてなさそう』。
ほんっとうに……!!
あの人、鈍感なんですよ!!!」
「いえ、好意に気付いていないわけじゃないんです……。
でも、マスターって、その好意を『たまたま環境が悪くて、いまは他に信頼のおける人がいないだけ』みたいに思っている節があって……!!」
「この前なんて、“配信が嫌になったら、いつでもやめてもいいからね”とか言ってきたんですよ!!?
こちとら、マスターと永久就職希望なのに!!」
「『愛が重い』って!?
重くないとやってけないんですよ!!
この一ミリしか愛が届かないんですから!!!」
「もう、いまからマスターの大好きなところ百選でも語りましょうか!!?
全然いけますよ!
なんだったら四十八時間でも、七十二時間でも!!」
「『話は変わるけど、この店ってなんでこんな名前なの?』
あぁ、それはですね……。
……いや、『店名は、ユキちゃんに対するマスターからの言葉』じゃないですから!!
ユキはマスターに愛されています!!!」
「もう怒りました!!
今から、マスターの愛くるしいところ二百選をやります。
え? 『後でマスターから怒られるぞ』って?
……別の話題にします」
……本当に、あの子は。
「うちの従業員が騒がしくてすみません……」
「ううん、相変わらず愛されてるね」
防音室の鍵をかけ忘れているのか、全ての声が漏れ聞こえている。
普段は喫茶店内での撮影がメインで、防音室を使い慣れていないせいだろう。
「注意してきましょうか?」
「聞いてて楽しいからそのままでいいよ。
……というか、私ってそんなに尻に敷かれているように見えるのかな?」
「昔はそれほどでしたが、今は……愛妻家って感じですよ」
「オブラートに包んでくれてありがとう」
まぁ……うん。
吹雪さんが精神的に自立したのに対して、東提督の流されたら流されるままみたいな性格は変わっていない。
だから、余計に吹雪さんの尻に敷かれているように見えるんだろう。
「ところで、さっき配信でも話題になってたけど……。
この喫茶店の名前ってどうしてこんな名前になったの?」
「あぁ、それはですね……最初期の頃の話なんですが。
まだお店の名前が決まっていなくて、リスナーさんに決めてもらったんです。
ただ、コメントが荒れていた時代で……。
視聴者のコメントをランダムで指定して名前にしたら、これになりました」
「あぁ……だから」
おかげで、不思議な名前になってしまった。
だけど、なんだかんだ、私はこの名前を気に入っている。
それから数分後、コーヒーを飲み干して東提督は帰っていった。
それを見届け、私は一人で配信をしている雪風のところへ行った。
「ユキさん」
「あっ、マスター!?」
「ドア、開けっぱなしでしたよ」
途端、顔面蒼白になる雪風さん。
私は淹れてきた二人分のコーヒーを置いて、パソコンに向き直った。
コメントを見れば、『飼い主が帰ってきた』とか『このカップルチャンネルを待っていた』とか好き勝手に書かれている。
私は改めて、挨拶の口上を述べた。
「みなさん、いつもご視聴ありがとうございます。
改めまして、この店のマスターです」
「看板娘のユキちゃんです!」
そして、私たちは目を合わせて、同時に口を開いた。
「「どうか、あなたの心に一時の安らぎが訪れますように。
──喫茶店『あかんこれ』、ただいま開店です」」
作者の白紅葉九です。
というわけで、『あかんこれ~ブラック鎮守府に着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~』はこれにて完結です!!
(ここで読者や視聴者がどっと湧く)
2018年から書き始めて苦節七年。
2021年に初投稿をし、四年間の更新停止期間を経て……。
2025年の今日、ようやく完結させることができました。
本編で書ききれなかった部分は、また設定集とか追加エピソードという形で書くかもしれませんが……。
その時は、『おっ、ご機嫌な作者がウイニングランしてるぞ』くらいの感覚で見に来てください。
いろいろと迷走することも多かったですが、ゴールしたもん勝ちです!!
私は七年間、走り抜いたぞ!!!
最後に。
後書きまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
改めて、『あかんこれ~ブラック鎮守府に着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~』をご愛読いただきありがとうございました。
皆様の人生にも、喫茶店『あかんこれ』のような安らぎとちょっとの笑いを提供できていたら幸いです。
追記
本当にいい作品ができたな~!!!!!!!!!!