「
気性が荒い訳じゃないからね、あの山の鬼共みたいに。
力だけで戦うことの何が楽しいのやら。
それよりも、相手を困らせたり、
そんな私の元へと、しつこく訪れる変わり者もいる。
……まぁ、私から足を運ぶこともあるけどね。
理由など知らない。
そんな中でも
「
「あー? うわっ忘れてた! ――あー……」
一瞬何か強い力に引っ張られたと思えば、すぐになくなった。
そうか、こいつに誘われて川釣りの最中だったっけ。
あーあ、貴重な川魚が。
「天邪鬼が想いにふけるなんてね、珍しいこともあるもんだ」
「ちっぽけなお前さんには分からんだろうね。 天邪鬼は繊細な種族なのさ」
これは嘘。
そんな面倒なことなんか、考えてたまるか。
「早く釣れないかなー。
「お前を餌に釣れば釣れるかもよ」
「……本気で言ってるそれ?」
「己で考えるんだね」
「分かった。 今の正邪の言葉は嘘だね」
そう、私が組む足の隙間に立つ小さなお姫様は告げる。
彼女の名前だ。
弱者が強者を支配する、下克上が
それが私の企みであり、その為に利用したのがこの小人だ。
口巧みにこいつを騙したが、結局その計画は失敗。
こいつも更に小さくなり、今では小動物にすら追われるという始末。
厄介な
……本当に馬鹿だと思う。
自分の正義心を踏み
それなのに関わらずこいつは、私の元を訪れ、変わらない
いや、私はこの景色を知っているはずなんだ。
私だってもう長く生きている。
妖怪という種族の寿命は、果て無く長い。
人々が行き交う活気ある場所。
静かに
怪しく
他にも様々な場所がある。
それらを誰にも悟られることもなく、誰からも望まれぬ様に見てきた。
それこそが、私にとっての「普通」だった。
……こいつと出会ってからはどうだ?
相変わらず憎まれ口を叩かれることもあった。
しかし、今までとは見え方が違っている気もする。
私が今まで見てきた世界に、こいつが色を添えたとでも言う気?
いやーないない、こいつにそんな大層なことが出来てたまるもんか。
本来の大きさに戻ることが出来るとはいえ、所詮
私と対等なんて、そんなことないんだよ。
「――あっ!! 正邪引いてる引いてる!! これは大物だよきっと!!」
っといけないいけない、次は釣り上げないと。
簡易に作った竿をしっかりと握り、タイミングを計る。
何せ、その辺の木の枝に糸を
無理に引っ張ればすぐに壊れそうだし。
引っ張る力が強くなっているから……ここだな。
軽々と竿を引き上げ、川魚とご対面だ。
釣り上げられた
「わーっ!! 冷たっ!?」
私にはあまり害はないが、小さなお姫様は別みたい。
いい気味いい気味。
「あっ、正邪が笑ってる」
「うるさい、餌にするぞ」
「そんなことするつもりない癖に。 おぉ、これが山女魚かな?」
うーん、私はあまり詳しくないから分からない。
とにかく魚だろう、食べられれば何でもいい。
「まだ釣るの?」
「一匹じゃ味気ないだろうに」
「じゃあ私が集めてこよっと」
何処から取り出しのか分からない、お椀。
そっか、これが船代わりか。
そそくさとお椀に乗り、モールに似た何かを構えている。
あー私が浮かべろってことか。
すっと持ち上げ川へと浮かべてやる。
投げてやってもいいが、溺れたら面倒だな。
……遊んでいるようにしか見えないのは気のせいかあいつ。
まぁ、こっちもやることをやろう。
適当に小さな虫を針に付け、川へと落とす。
そういえばあいつ、巫女の根城ではどうしているんだろう。
あそこなら家主以外外敵は居なさそうだが。
あいつと住むと苦労するだろうに。
まぁ、私が他人の心配するなんて柄じゃないし、ほっとけほっとけ。
「正邪ー!! 引っ掛かったー!!」
あぁもう!
言わんこっちゃない。
幸いにも
ほんっとにこいつは……。
「あー危なかったー……」
「大物が釣れたかもしれないのに、なんてことするんだ」
「でも助けてくれたでしょ?」
「お前が助けてくれって言った癖に」
「あ、あれは危なかっただけで。 何もしなくても、正邪は私を助けてくれたと思うよ」
なんだこの満面の笑み。
あー見るのが辛い。
このまま流してやろうか、しないけど。
……気分が変わった、もう釣りはいいや。
「あれ、帰るの?」
「気分じゃない」
「じゃあ城に帰ろうよ。 久しぶりに正邪と話したいし」
「面白い話題なんかないぞ」
「それでもいいよ。 じゃあ、
次は馬車代わりか。
妖怪の山にでも捨ててやる、捨てないけど。
「次は何するの?」
「何も考えてない。 ……今のままでもいいかなって、ちょっと思った」
「私のお陰だね、光栄に思うといいよ!」
……うっさい。
その通りなのが、本当に頭に来る。
図体は小さい癖に、言うことだけは大きいなこいつ。
それにしても輝針城か……。
あの異変以来とはいえ、何も変わっていないだろうね。
こいつも変わっていないんだし。
よくも異変の主犯である妖怪を招くもんだ。
嫌われ者の私をね。
……こいつの中では、私はどう映っているのだろう。
私には眩しいよ、こいつという存在が。
それでも、傍に居るのは悪くないかなって思っている。
いい番狂わせ者だよ、お姫様。
……じゃなかった。
こいつには、そういう態度はもういらないんだった。
言葉を崩しても、何とも思わない。
いい悪友、そう言ってしまうのも悪くないかもね。
「私もいつか飛んでみたいなぁ」
「お椀ごと、私が投げてやろうか?」
「……本当?」
「嘘。 まぁその時が来たら、私も一緒に飛んであげるよ」
目を輝かせるな眩しい。
まぁ、精々頑張りなよ。
傍にはいてあげるよ、針妙丸。