アンダーウッドの大樹の街に黒い羊皮紙が舞う。
天を震わせる雷と、巨人族の進撃、龍の轟咆とのその風景はさながら終焉にすら思え、街は一瞬でパニックとなった。
【ギフトゲーム名『SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIREKING』
・プレイヤー
獣の帯に巻かれた全ての生命体。
※但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。
・プレイヤー側敗北条件
なし(死亡も敗北と認めず)
・プレイヤー側ペナルティ条項
ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。
時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。
ペナルティは“串刺しの刑”“磔刑”“焚刑”からランダムに選出。
解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。
※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される。
・ホストマスター側勝利条件
なし
・プレイヤー側勝利条件
一、ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。
二、ゲームマスター・“レティシア=ドラクレア”の殺害。
三、砕かれた星空を集め、獣の帯に玉座を捧げよ。
四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主義者の心臓を撃て。
宣誓
上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“ ”印】
七花はこの羊皮紙をざっと読むと、思考を放棄した。さっぱりわからないし、何よりそう言う事に向いている人物がこのアンダーウッドにも幾人かいるであろうからだ。下手な者が出しゃばるよりも自分の出来ることをしようと七花はグッと足に力を込めた。その動作だけで、草鞋から今までになかった機能が立ち上がったのを感じた。仄かに光る草鞋はペルセウス謹製の一品である。そのことを知らなかった耀は目を丸くしているが、七花はその瞳を天を割いた元凶に向けていたため気付かなかった。
地面を蹴り、空を蹴り、七花は標的である龍の元を目指す。
耀は知らず、拳を握り締めていた。
七花は強い。知っていたはずの事だ。今の自分の力では歯が立たない事位。それは先程までの訓練で分かりきっていた。
──しかしそれでも、全力ではなくとも本気で対峙して欲しかった。
しかし今、七花は空を駆ける術を得た。それと同時に自分の領域に踏み込まれたのだ。
地上戦では勝機など見ることさえ叶わず、その上空中戦もとなるといよいよ七花を超える事など夢物語となってしまう。同時に、今まさに自分の力の無さで悩んでいた耀に改めて今いる居場所の希薄差を感じた。立っている地面が砕けて消えるような錯覚さえ浮かびそうな程彼女は追い詰められていた。
奥の手を隠されたままで手加減され、敵としてどころか障害としても判断されていない。
このことは今までの人生で最も大きな屈辱と無力感を味わった、そう耀は感じた程だった。自分の勝手なエゴであることなど百も承知。そもそも七花にも、本気で戦う義理などない。しかし感情は如何ともし難かった。荒れ狂う感情を綺麗に割り切れるほど大人でも無かった。
小さな歯軋りと共に、一筋の涙が流れた。
そんな一人の少女の慟哭などつゆも知らない七花は、龍の目の目の前にまで躍り出ていた。道中龍は攻撃はおろかほとんど動くことなくそこに君臨していた。そのことに対して動じず、七花は龍に言った。
「舐められてんのか眼中にないのかはどうだっていい。こっちはお前の命を狩りに来てんだ、せいぜい警戒してくれよ。───虚刀流七代目当主鑢七花。推して参る!」
七花の底知れない雰囲気に当てられてか、龍は轟咆で彼の見栄切りに応えた。
「GYAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
「異国の文化には”龍を狩ったら英雄になれる”ってのを聞いてから興味があったんだよ。それじゃあ始めようぜ」
七花は草履の恩恵で龍の頭部まで一瞬で移動し、2回転半の勢いを込めて龍のその眉間に一撃を決めた。
「落花狼藉ッ!!」
七花は踵落としを放った勢いを殺す事無く、恩恵を行使して距離を詰め、龍の右目を手刀で切り裂いた。龍は突然の痛撃に空中でのたうち回る体勢に入っていたが、七花は冷静に反対へと周り左目を手刀で差し貫いた。
そこまでを一分の隙無くしてみせてから、ようやく七花は龍から距離をとった。理由は龍の頭部にに巨龍の分身体が集まってきたからである。それも下の街へと向かったそれではなく、纏う威圧感は雑魚とは一線を画していた。
「まあだからなんだって話なんだけどな」
「GYAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
「おお、こわいこわい。───目ん玉はもう再生始めてるし、次は翼でも狙おうかな」
そんな悠長な事を言っていた所、七花の肌が粟立った。目に見えて巨龍が力を蓄えているのが見て取れた。勘に任せてその場からから跳び去ると、巨龍がその膂力を遺憾なく発揮してアンダーウッドの全てを塵芥のように吹き飛ばしているのが見えた。
「ただの飛翔でこれだけの惨事とはな。………いや、今の攻撃でようやく俺を正式に敵として認めたってところか。全く流石の一言だぜ。だからこそ、挑みがいがあるってものだ」
にやりと不敵に笑みを浮かべて、七花は相手を観察する。
確かに巨龍は強いのだろう。しかし最強の姉はそれ以上に底知れなかった。それを体感していただけに、七花も大して平時と変わらなかったのである。
「弟は私を畏敬の念を込めて見ていましたが、私はそんな大層な人間ではありません。むしろただの人外《ヒトデナシ》です」
女性は朗々と話す。
「母も父も世界すらも私を受け入れられませんでしたが、弟はそうでもありませんでした。それでも少しは畏れていた様ですがね」
女性は苦笑していた。
「だからこそ感謝してもいいるんですよ。あなた方の事情があるとはいえ、これだけの空きのある世界を下さって。前の世界ではここまで寛容ではありませんでしたし。これだけ余裕があるのでしたら私が多少好き勝手したところで、まあ問題は無いでしょう」
彼女───鑢七実は魔王連盟に連なる面々を見据えて、いつかのように悪そうに笑みを浮かべた。
「さあ皆さん始めましょうか。私独り勝ちの決まった酷くつまらない決闘《げーむ》を」
【ギフトゲーム名:『対価の見合わない物々交換』
プレイヤー
主催者:鑢七実
挑戦者:鑢七実に敵対するすべての者達
主催者側勝利条件:挑戦者側の殲滅
挑戦者側勝利条件:主催者”鑢七実”の討伐
挑戦者側敗北ペナルティ:主催者に敗北した場合、己の恩恵の内一つを献上もしくは隷属を選択しなければならない。
宣誓
上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
”無”印 】
「私も魔王の端くれとして、あなた方《センパイ》から目一杯搾取させて頂きましょう」
七実のあまりに不遜で傲慢な物言いに、歴戦の魔王達も憤怒を顕にし、牙を剥いた。
──誰もが一歩退いている事に気付くこと無く。
批判、誤字脱字、御指摘、感想待ってます。
あんだけ七実様の戦闘シーン頑張りますとか言っといて、上手いこと浮かびませんでした。すみません!!