FAIRY TAIL〜影の帰還者〜   作:茶々丸さん

3 / 3
第1話:七年の重さ

 

 

 

夜のマグノリアは静かだ。

 

だが、その静けさは優しくない。

 

小さな丘の上に建つ今の妖精の尻尾は、

かつての壮麗なギルドホールとは比べ物にならないほど質素だった。

 

窓から漏れる灯りは弱く、

それでも消えずに灯っている。

 

俺はその光の中に座っている。

 

七年ぶりの帰還。

 

だが歓迎というよりは、

“現実の報告会”の空気だった。

 

 

「……七年だ」

 

マカオが口を開く。

 

その一言に、時間の質量が詰まっている。

 

「天狼島でS級試験をやってた」

 

ワカバが続ける。

 

「そこに黒い魔導士が現れた。強大な魔力。島が揺れた」

 

「気付いた時には……島ごと消えてた」

 

 

沈黙。

 

誰も言葉を足さない。

 

七年の間、その場面を何度も思い出したのだろう。

 

 

「最初はすぐ戻ると思ってた」

 

マカオが笑う。

 

乾いた笑いだ。

 

「ナツ達だぞ? どうせ騒ぎながら帰ってくるってな」

 

ロメオが小さく頷く。

 

「俺も、そう思ってた」

 

 

だが戻らなかった。

 

一週間。

一ヶ月。

一年。

 

 

「三年目で、世間は“死んだ”扱いにした」

 

ラキが言う。

 

「新聞もそう書いた」

 

「それでも俺たちは探した」

 

ウォーレンが目を伏せる。

 

「だが魔力の痕跡すら見つからなかった」

 

 

俺は黙って聞いている。

 

七年。

 

俺が影の領域で生き延びていた時間。

 

こちらでは、喪失の時間だった。

 

 

「ギルドホールは差し押さえられた」

 

ワカバが顎で外を示す。

 

「見に行くか?」

 

 

俺は立ち上がった。

 

 

夜風が冷たい。

 

石畳を歩く。

 

町の人間が、こちらをちらりと見る。

 

昔は違った。

 

妖精の尻尾が歩けば、歓声と苦情が同時に飛んできた。

 

今は――

 

憐れみと、無関心。

 

 

旧ギルドホールが見える。

 

巨大な建物。

 

だが、看板は外され、紋章は布で覆われている。

 

 

ロメオが拳を握る。

 

「取り返す」

 

小さな声だが、真っ直ぐだ。

 

マカオは何も言わない。

 

ただ、その建物を見上げている。

 

父として。

ギルドの一員として。

 

 

「……俺は」

 

ロメオが言いかける。

 

「強くなる。みんなが帰ってきた時、恥ずかしくないように」

 

 

マカオの手が、無意識に息子の肩に置かれる。

 

一瞬だけ、強く握る。

 

それだけで、七年の感情が伝わる。

 

 

俺は建物を見上げる。

 

胸の奥が、静かに軋む。

 

守れなかったわけじゃない。

 

だが、ここにいなかった。

 

その事実は消えない。

 

 

「……シュン兄は」

 

ロメオが振り返る。

 

「七年間、何してたの?」

 

 

問いは真っ直ぐだ。

 

嘘はつかない。

 

だが全部も言えない。

 

 

「生きるのに必死だった」

 

それは真実だ。

 

ロメオは少し考え、そして頷く。

 

「ならいい」

 

 

その単純さに救われる。

 

 

ギルドへ戻る。

 

小さな建物の灯り。

 

中ではラキとワカバが明日の依頼書を並べている。

 

安い依頼ばかりだ。

 

雑用。

荷運び。

護衛。

 

かつてなら見向きもしなかった仕事。

 

 

マカオが言う。

 

「明日、森の魔物駆除だ。C級相当だが、数が多い」

 

 

俺を見る。

 

試す目ではない。

 

頼る目だ。

 

 

「行く」

 

即答。

 

 

ワカバが笑う。

 

「七年分働けよ」

 

「そのつもりだ」

 

 

椅子に腰を下ろす。

 

影が足元で揺れる。

 

俺の魔力は変わった。

 

深く、重く、静かだ。

 

ウォーレンがちらりと見る。

 

「……底が見えない」

 

ラキが小さく言う。

 

「頼りになるなら、それでいい」

 

 

七年の空白は消えない。

 

だが埋められる。

 

一つずつ。

 

仕事で。

時間で。

絆で。

 

 

俺は天井を見上げる。

 

あの島の仲間達が生きているかどうかは分からない。

 

だが――

 

帰ってくる場所は、守る。

 

 

今度こそ。

 

逃げない。

 

 

影は静かに広がる。

 

支配のためではなく、守るために。

 

 

七年止まった妖精の尻尾が、

 

ゆっくりと、呼吸を取り戻す。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

FAIRY-TAIL~天候を操る魔導師(作者:晴月)(原作:FAIRY TAIL)

フィオーレ王国に存在するギルド 『FAIRY TAIL』▼ある時、100年クエストからある魔導師が帰って来た。▼彼の名はエクレール▼通称 "天気を操る魔導師"である。▼これはそんな彼が織り成す物語である。▼


総合評価:407/評価:6.83/連載:9話/更新日時:2026年06月16日(火) 17:08 小説情報

転生したので、好きに生きる(作者:牛丼の並、汁だくだくで。)(原作:FAIRY TAIL)

現代日本から転生したので、好きに生きると決めた男の物語。▼衝動に任せて執筆してます。▼拙い文章で読みづらいと思います。▼強がりでも何でもなく、文字通り好きなようにやってます。▼なので評価等はしなくて大丈夫です。▼脳みそを空っぽにしてお読みください。


総合評価:153/評価:-.--/連載:9話/更新日時:2026年07月16日(木) 11:13 小説情報

無個性として転生したので、仮面ライダーになります!(作者:姫神ららか)(原作:僕のヒーローアカデミア)

▼生前にて、全ての男が通ったであろう物に憧れを抱いた少年がいた▼仮面ライダー!それは全ての少年たちの心を掴んだもの!▼そして、大人にまで成長し、立派な社会人となったが...▼幼少期からの憧れである仮面ライダーになりたいと思い、電子系や制作系、工学系など、あらゆる物に手を出して、仮面ライダーを完成させようと夢見ていたが...▼ある子供が車に轢かれそうになったの…


総合評価:365/評価:6.71/連載:13話/更新日時:2026年08月28日(金) 19:33 小説情報

黒龍の征く航路(作者:tjgtxnx)(原作:ONE PIECE)

 古より語り継がれし災厄は、新しき時代の波濤(はとう)に舞い降りる。▼天を統べる黒き龍と、海を制する黄金の王。▼二つの宿命が交錯する時、伝説の航路が動き出す――。▼Geminiにも手伝って貰いおかしな部分や追加しながら書いてます▼初投稿のためまだまだわからないことだらけですがよろしくお願いします▼物語が進むにつれタグの追加あるかもです


総合評価:49/評価:-.--/連載:6話/更新日時:2026年08月24日(月) 18:25 小説情報

僕がゴールキーパーな理由?一人で勝つのに最適だからですよ。(作者:いすとんでぃーに)(原作:ブルーロック)

▼十五歳の誕生日を迎える少し前。▼オリ主はすごいことに気づいてしまいました。▼「サッカーって一人でもできるじゃん!」▼こうして怪物は生まれたのです。▼※その怪物の見た目は男の娘で、セーブ率99%超えのキーパーな模様▼


総合評価:150/評価:4.71/連載:2話/更新日時:2026年08月02日(日) 14:34 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>