貴方は知ってるかしら?この世界は、とある大蛇によって創られた事を。もし良かったら聞いていかない?蛇が成した出来事を。
彼が生まれるまで、世界はまだ何も無かった。空も、海も、大地も。彼が何から生まれたのか…もしかしたら神さまが生み出したのかもしれないわ。本当の事は私も詳しくは知らないけれども。その瞬間を見ていたワケじゃないからね。
彼は何も無い暗闇の中、この世界を創る刻を告げたわ。そして天を裂き、大地と海を創ったの。大嶽を払い、海を切り裂き、大地に広野を創った。今、私たちがここに立っていられるのも彼のお陰ね。
陸を広げるだけではまだ足りない。そう思った彼は天地を駆け抜ける風をおこした。地を撫でるそよ風。地を裂く大風。彼にはそんなこと、造作もないことみたい。
そしてこの世界を動かす為に時を刻み始めた。螺旋のように続く刻を。時は、今この瞬間もずっと刻み続けてるわ。過去、消えていったものの古の記憶を大地に刻みながら。
時を動かして、彼は自分以外の生き物を創り、天に、海に、大地に棲まわせた。そしてその生き物達が活気溢れるよう、地踊る歓喜の歌を奏でた。時には栄華を謳う歌を、時には世界を包む癒しの調べを。
天を創り、海を創り、大地を創った。ただ、まだ世界は平行線が続くだけの平坦な世界だった。そこで彼は大地に険しい峻岳や底が見えぬような谷を創り、天地を支える塔を創った。さらに、天の上、虚空を埋めるかのように天蓋を創ったわ。そして星々が輝く星河を創った。夜に輝くあの星とかも、彼が創ったものなのでしょうね。
この世界の形を創った彼は、この世界が壊れぬよう、万物流転の理を創った。生ける魂の坩堝を各地に創り、この世界を賑やかにさせた。最後にこの世界を輝かせる光を創り、世界を照らした…。時に金色の波濤押し寄せたり、時には全ての闇が世界を包んだり、時には無数の光や流星が尾を引き大地に降り注いだりもしたけど、その度に彼はその大きな腕で世界を包み込み、天光の如く駆け、闇を切り拓いたりしてきた。そうして、今も暁光は光満ちる地平の果てに昇る。
世界を創った彼は今は何処か、神々がいると伝えられている巌窟で静かに眠っているわ。眠りについて幾星霜、まだ彼は起きる気はないみたい。ただ、眠りから醒めたら、また、世界の創造の続きを創めるでしょうね。そして、様変わりしてるこの世界に驚くかもしれないわ。その時、彼はどうするのかしらね…。
どう?いい暇潰しになったかしら?
この話が本当かは貴方の考えにお任せするけど、彼がいることは本当よ。彼は、この世界の何処かにいる。それは天を貫くように高い山か、生死を繰り返す谷か…。もしかしたら、案外身近なところにいるかもしれないわね。
ただ、もし彼に会おうとするなら、刃の道を歩む覚悟をすることよ。彼は千の剣を携え、大地の全てを覆す、千古不易を謳う王。その目は万物を睥睨し、その爪は生殺与奪を握りしめている。その身に触れようものなら刃の如し鱗に無惨に引き裂かれるわ。
彼の機嫌次第では世界を灰燼に帰す事も容易いでしょうね…。どう?それでも遭いに行きたいかしら?………そう…。
あぁ、最後に一ついい?もし、彼に会えたなら、この口伝伝承を今度は貴方が次に伝えてくれるかしら?そうしてくれると、彼もたぶん、喜ぶと思うわ。だから、お願いね?
まだ、彼はこの先も伝説を遺すのだから───