俺には腐れ縁の許嫁がいる。小さい頃はとにかく仲が良くて毎日のように公園や互いの家に行っては遊んでいたが、思春期の頃には疎遠になっていた。

俺の両親と里菜の両親の勧めもあって二人は再び一緒に過ごす時間が増えるが、里菜は俺に辛辣な態度をとる。何をしても俺といると嫌そうな姿を見せる。そんな里菜の態度に俺は、ある決心をする。

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「別に無理して俺と関わらなくてもいいからな」と許嫁に言った結果

 俺には腐れ縁の許嫁がいる。

 俺と腐れ縁の許嫁、山本里菜の親は仲が良くて、俺たちは小さい頃から一緒にいた。その頃は嫌というわけではなくて、というか今でも嫌ではないのだが、その頃はとにかく仲が良くて毎日のように公園や互いの家に行っては遊んでいたものだ。

 そしてそんな仲よさげな二人を見た親同士は決断し、俺たちに問いかける。

 

『将来、由伸くんは里菜と、里菜は由伸くんと結婚したい?』

 

 ……俺たちの親はとにかく変わっていた。なんで子どもの、結婚という言葉の重みを理解していない頃にそんなことを聞くか。

 まぁもちろん『結婚=大人になってもずっと一緒に遊べること』なんて軽く考えていた俺たちは、了承してしまう。そうして許嫁という関係になった。いや、正確に言うならば、なってしまった、という表現が正しい。

 中学生になった頃から、この関係性は変わりつつあった。思春期真っ只中。異性と二人で一緒にいるということに恥ずかしさを覚えるようになってしまい、また他のクラスメイトのいじりがあったのもあって、俺たちは関わらなくなってきた。

 許嫁、という関係がないものとなった。……はずだった。

 

 

 高校生になると俺は陰キャになっていて、数少ない友達と何気ない話をしながら過ごす日々、一方里菜は学校一の美少女とまで呼ばれ大勢の人に囲まれ過ごす日々。

 より俺たちを遮る壁が大きくなっていた、そんなときに、俺たちの親は再び問いかけた。

 

「そういえば、そろそろ結婚できる歳になるんだよなぁ。楽しみだ、由伸と里菜ちゃんの結婚式」

「あ、もうそろそろか。そうだねぇ、二人の結婚式に向けて準備とかしないとね」

 

 大事なことはよく忘れる人のくせに、こういったしょうもないことだけは覚えている親だ。もちろんそんな許嫁などという関係を忘れていて、学校でも、家でも関わらないようになってきた俺たちは、ただ唖然とするのみだった。

 

「えっ……け、結婚?」

 

 隣で目を見開いていた里菜の顔は、今でも忘れられない。いやまぁ昨日の話だから覚えてて当然か。

 その後、里菜の断れない性格が仇になって、何も言えないまま話は終わった。親がいなくなってからの俺たちといえば、とにかく気まずかった。

 もう話さずに1年ほどが経つ。そんな人と許嫁だなんて。俺はいいにしても、里菜からしたら好きなイケメンとかいたのかもしれないのに、こんな陰キャ男子と婚約なんて嫌でしかないだろう。

 

「……私たちって許嫁だったの……?」

「らしいな……。……ほんとごめん」

「……いいけど」

 

 俯きながら里菜はそう言う。いやいや、よくないだろ。明らかに、言っている言葉と態度が真逆だった。本当に申し訳なかった。

 そして、その日から俺たちはほぼ強制的に、関わるようになった。

 

 

 親の勝手な許嫁という関係を思い出して一週間が経った頃の、あるショッピングモールの映画館前。日曜日ということもありカップルから子連れの家族までいろんな人で賑わう、そんな場所に俺たちは来ていた。もう一度言おう、俺『たち』は来ていた。

 

「……ほんと、すまん」

「……いえ、いいんですよ。しょうがないことだし」

 

 相変わらずの、よくないだろ、と返したくなるような態度を見せる里菜。

 

 前日。土曜日の朝のこと、親は俺に二つのチケットを寄越した。それは映画館のチケットで、なんで二枚なのかと聞き返したら、当たり前だろ、と言わんばかりに「里菜ちゃんの分だけど?」と、返してきた。

 ……まぁそういうことだ。聞いてみたところ「別にいいけど」というよくなさそうな返事が返ってきたので、こうして来ているわけだ。……けれど、ここまで嫌そうな態度をとると、行けないらしいと親に嘘でもつく方が良かった気がしてくる。

 

「……じゃ、行くか」

「……えぇ」

 

 そういって映画館の従業員の案内の元、スクリーンへと向かう。

 親の指定席と言うことで、分かってはいたけど隣同士の座席。映画が始めて数分経ったころ、里菜は俺と隣の席が嫌なのかトイレと言って部屋から逃げるようにして出ていって。その後、一時間以上戻ってこなかった。

 ニ時間近くの映画だったが、里菜が映画を見ていたのは三十分にも満たなかった。俺は多分、というか絶対、嫌われているようだ。

 

 

 そんな出来事から一ヶ月近くの時が過ぎた。

 その間、親に仲の良い様子を見せようと、一緒にカフェに行ったりしていたのだが、里菜はやはり嫌そうにいつも顔を俯かせている。

 ある日里菜の親がちょっと遠出に出ると里菜を俺の家に置いてきた日だって、嘘みたいに何も起きなかったし、常に距離を取られていた。

 これだけの態度を取っている里菜を見て、俺はある決意を決めた。この許嫁という関係を解消してもらうよう親に言おう、と。

 正直言うと、俺は昔から里菜のことが好きだった。だってそうだ、子供の頃からずっと、何なら親よりもずっと一緒にいた女の子で、一緒に遊んでくれた女の子で、そんなの好きにならないわけない。

 それは、疎遠になってもなお変わることはなかった。だから、この決意をする時は死ぬほど悩んだ。けれど、里菜が幸せだと、そう思う手段をとるべきだと思って、そう決心したのだ。

 月曜。昼休憩を知らせるチャイムとともに真っ先に里菜のもとへ向かった。

 

「なぁ……」

「……何?」

 

 里菜は、顔を俯かせたそう答える。

 

「あの、……昼食一緒に食べないか。言いたいことがある」

「……いいけど」

 

 そうして、俺は、俺の決意を伝えようと昼食を誘った。

 

 

「いろいろあったろうに、呼び出して」

「いえ。ところでなんですか、用事って」

 

 中庭に設置されてあるベンチに座る俺たち。里菜は隣に座るのが嫌だからか、ベンチの端に座って俺と距離を取ろうとする。やっぱり、里菜は無理をしてくれていたのだと実感させられる。胸がズキッ、と傷んだ気がした。

 

「あぁ、実はな……親に、許嫁という関係を解消してほしいってこと、言おうと思う」

 

 一呼吸置いたあと、そう口を開く。俺の声は、少し震えていた。

 

「……え」

「里菜……いや、山本は、俺の事が嫌いなんだろ。そこまで距離を取られて、分からないほど鈍感な俺じゃないよ。許嫁だからってもう無理してほしくないんだ……」

 

 一番大事なのは、里菜の気持ちだ。俺の、好きという一方的な気持ちを里菜に押し付けなんてしちゃいけない。「分かりました」と、そんなふうに二つ返事で言葉が返ってくるのだろう、そう考えていた。

 けれど返ってきたのは、「えっ」という困惑する声。隣を見てみると、目に涙を浮かべ、泣きそうな顔をしていた。

 

「違う、……き、嫌いじゃない、から。だから、嫌だ」

「……わ、わかった! い、言わないから!」

 

 まさかこんな答えが返ってくるとは思わず、慌ててしまう。

 

「……よ、よかったぁぁ……」

「……けど、嫌なら……どうして今まで……?」

「……この許嫁という関係は、親が勝手に決めたものだから。だから、私は昔からずっと由伸くんが好きだけど、由伸くんは好きじゃないかもしれない。許嫁だからって執拗に構えばうざがられるかもしれないと思って……」

「そう、だったのか……」

「それと……男の人と二人きりで一緒に出掛けたことなかったから、恥ずかしかったから、照れ隠しってのも、ある……」

 

 今まで避けてきたのは、そういう理由があってのことだったのか。俺が、変に考えすぎていただけだったのか。そして、あることに気付く。

 

「というか今、好きって……?」

「えっ、あっ……」

 

 顔を真っ赤にする里菜。紅潮した顔を隠そうと顔を押さえている。

 

「……その、忘れて……っ」

 

 かわいい……。心の底からそう思った。

 

「……えっと、俺も、好き、だから……もしよければ、構って、ほしいな……」

「……はいっ」

 

 ベンチの端にいた里菜は距離を近づけて、俺の隣までやってくる。その時見せた天使のようにかわいい笑顔を、俺は一生忘れることはないだろう。

 後から聞いた話なのだが、許嫁の話を聞いたとき俯いていたのは、嫌とかそういう話じゃなくて、何ならその逆で、ただ嬉しくてにやけた顔を隠すためだったとか。

 俺はまだ里菜のことをよく知らないんだとそう実感するとともに、そんな里菜の可愛さを知ってなおさら絶対に幸せにしてやろうと思った瞬間だった。




いかがだったでしょうか。

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