真実の終点   作:夏野 雪

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 朝食が終わった食堂車にはシェリンが一人残っていた。
テーブルの上には食後に出された紅茶が半分ほど入ったカップが残っていた。
車窓から眺める景色は自然豊かなものから高い建物が目立つようになってきた。
シェリンは迷っていた。
全ての事実を見つけた上で、自分はどうするべきなのか。
誰の想いに応えて、誰を救えば良いのだろう。
そんなシェリンの迷いなんかに構うことなく、ただただ『千歳』は目的地に向かって
走り続けていた。



名探偵、皆を集めてさてと言い 9:00

 朝食が終わり、散り散りに部屋へと戻ったメンバーだったのだが、

シェリンと早瀬の招集によって食堂車へと再度集められていた。

食堂車内は中尾にお願いして貸切状態とさせてもらっていたので、今この場に居るのは

一号車との二号車にいた人物。つまり、見知ったメンバーだけとなっていた。

「何事ですか? 」

不思議そうに訪ねてきたのはリゼだった。

車両の中央付近にある窓際の席に座っていたリゼと同じ四人掛けのテーブルには彼女の他に

向かいにはアンジュ、リゼの隣にはひまわりが座っていた。

「探偵が物語終盤に全員を招集するってことは...。」

意味ありげな笑みを浮かべながら剣持が言った。

剣持はリゼたちの座るテーブルとは中央に走る通路を挟んだ反対にあるテーブルに座っていた。

彼も窓際の席に座っていて、向かいの窓際の席にはちひろ、その隣には星川が居た。

「『()()()()()()()()()()()()()()』ってやつですね。」

グウェルも剣持の言葉に楽しそうに便乗していた。

彼が座っていたのは剣持たちの隣のテーブルの通路側だった。そのはす向かいの窓際の席には

三枝が座っていた。

「ええ。神田さんの事件の真相がわかりましたので、皆さんにお伝えしたいと思います。」

そう自信満々に話したシェリンはテーブルの間の通路に立ちながら、皆を見渡していた。

彼の近くでは少し不安そうな表情の早瀬が立っていた。

早瀬もまたテーブルに座っている他のメンバー同様に真相を知らされていなかった。

ある程度の予測は出来ていたのかも知れないが、実際にシェリンの口から出てきた言葉を

聞いたメンバーの間にも否応なしに不安と緊張、それと僅かばかりの好奇心が広がっていった。

「では、まずは皆さんの証言を元に順番に振り返ってみましょう。そうすれば自ずと

答えが出てくるはずですから。」

シェリンは早瀬から借りた黄色い手帳を開いた。

「まずは二十二時頃に僕の部屋に剣持さんが訪ねてきて、一緒に食堂車に向かうことに

なりました。そこで、剣持さんが僕に教えてくれたのが草賀ティアリスさんのことです。」

その名前の効力は衰えていない様で、皆が剣持に視線を向けた。

「そうでしたね。」

即答した剣持は自分に次々と向けられている視線など気にも留めていない様子だった。

「しかし、それは自主的に僕に話してくれたものではなく、ミステリー企画の一環として

僕に話してくれたものでした。」

「ええ。だからシェリンさんに聞かれた時に『悪趣味な企画だなと思った』って言ったんです。」

話し終えた剣持は机の上にグウェルから配られた封筒と指示書を置いた。

それはシェリンが話を聞きに行った時に見たものと確かに同じものだった。

「この封筒は皆さんもお持ちですよね。因みに僕の指示書はこれです。」

シェリンは『真相を解明せよ』と書かれた指示書を剣持の指示書の隣に置いた。

「まあ...言われたから持ってきたけど...。」

リゼが困惑気味に取り出した自分宛の封筒を開けると中には何も入っていなかった。

「グウェルさんから貰った時から空だったんです。」

「あー。ひまもカラだったな。」

「私もです。」

リゼに合わせるようにひまわりとアンジュ、それに別のテーブルではちひろと星川も

空の封筒をテーブルの上に置いた。

「私も同じく。」

シェリンの傍に居た早瀬も空の封筒を剣持たちのテーブルの上に置いた。

それぞれの封筒は間違いなく最初に配られたものと同じ封筒で表にはしっかりとそれぞれの

役職も書かれていた。

「俺のは剣持さんと同じく紙が入っていたよ。ほら。」

三枝が取り出した封筒には『一号車の車掌として二十二時から翌六時まで車掌として

常駐すること』と書かれていた。

「無茶苦茶な指示だったから困っちゃって、グウェルさんに相談したんだよね。」

「ええ。わたくしと三枝殿で四時間ずつ分担することにしたんです。ちなみに、わたくしは

封筒を受け取ってはおりません。」

三枝の呼び掛けに相槌を打ちながらグウェルが説明を補足した。

あのまま事件が起きなければ、あの席にはグウェルが座ることになっていたようだ。

「皆さんもご覧頂いたように殆どのメンバーは空の封筒を受け取っています。実際に指示書が

入っていたのは僕と三枝さんと剣持さんの三人だけだったんです。」

「それがどうしたと言うのですか? 」

シェリンの言葉にグウェルが不思議そうに首を傾げた。

「今回の偽りの企画も、この指示書も神田さんを殺害した人物が仕組んだものでしょう。

つまり、全ての事に意味があるはずなんです。」

「俺があそこに座らされたのにも意味があるってこと? 」

眠い中でも頑張っていた自分の行動が少し報われた気がしたのか三枝は少し嬉しそうだった。

「そうです。犯人にとって三枝さんは全てを目撃するために居て欲しかったんだす。

そうすれば、余計な容疑者を増やさなくて済むから。」

「普通...逆やないの? 容疑者が増えることは犯人にとってプラスになるんじゃ...。」

それは何時になく真剣な面持ちの早瀬の口から出た言葉だった。

「その通りです。でも、今回の犯人はそうしなかった。その人物は自分の部屋の中に自分以外は

誰も居ないと思わせるために部屋の中に第三者を呼び込んだ。そして、自分の発言で作り上げた

存在である『赤色のロングコート』を容疑者にするために部屋から登場させた。」

「ち、ちょっと待ってよ。」

リゼはシェリンの言わんとしていることを誰よりも早く察したようだった。

困惑するリゼの言葉を躱しながらシェリンは話を続けた。

「『赤色のロングコート』を登場させた理由も他の誰かに容疑が向かないようにするため。

そして、頃合いを見計らい自分で用意した手を叩くような音を再生した後で自分の胸にナイフを。」

シェリンの余りにも意外な言葉に全員が言葉を失っていた。

やっとの思いで一言呟いたのはグウェルだった。

「それじゃあ...。」

その呟きに答えるようにして、シェリンは決定的な言葉を最後に口にした。

「ええ。皆さんを列車に呼び、指示を出して犯行に及んだ一連の事件の『犯人』の正体は

神田笑一自身だったんです。」

 

 

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