『千歳』は終点の福岡に到着していた。
駅のホームには大勢の警察官が待機しており、列車が停車すると同時に何人かの警官が車内に入ってきた。
警官たちは冷静かつ迅速に乗客たちを車外へと誘導して行った。
中尾が言っていたように列車に仕掛けられている可能性がある爆弾を捜索するためだ。
シェリンたちもホームへと誘導されたのだが、神田の事件もあったのでホームでの待機を命じられていた。
シェリンと剣持は他のメンバーから少し離れた所でホームを行き交う人や『千歳』の車体を眺めながら話の続きを始めた。
「僕が剣持さんが怪しいと思ったのには瓶の音以外にも理由がありました。それは三枝さんの証言でした。神田さんが発見される直前に手を叩くような大きな音がなりました。その時、貴方は三枝さんに『神田さんの部屋の辺りから聞こえた。』と仰ったそうですね。でも、本当は剣持さんの部屋から発せられた音だったのでは? 確かに大きな音だったが、部屋が連なっていたあの場所で神田さんの部屋を即座に名指ししたのはかなり不自然でした。あれはさり気無く皆を誘導したのではないかって思ったんです。」
「良い考えだったでしょ。」
剣持はもう諦めたのか反論することなく、ただ笑っているだけだった。
「そう考えれば、音が鳴る直前に剣持さんが部屋から出てきたと言う三枝さんの証言も違う捉え方が出来てきます。この廊下の場合一号車の端にある剣持さんの部屋の扉が開いた場合、向こう側が見えなくなります。つまり、部屋の扉の向こうの剣持さんは部屋から出るところじゃなくて、入るところだったということです。星川さんの部屋に隠れていた貴方は外が静かになったタイミングで一号車に戻った。三枝さんはリゼさんに水を届けており、席に居なかった。ここだと思った貴方は部屋の扉を開けたが、そのタイミングで三枝さんも廊下に出てきた。その気配を感じた貴方は咄嗟に部屋から出てきたところを装ったという訳ですね。」
「シェリンさん...そこまで分かってて、どうして皆の前で嘘の推理をしたんですか。」
「気持ちが知りたかったんです。」
「『気持ち』? 」
「ええ。三枝さんも、星川さんも、ちひろさんも皆が嘘をついた。決して許されるべき行為ではありませんが、それは誰かを傷つけたり、貶めるためじゃなくて、誰かを守ろうとして嘘をついた。どんな気持ちで嘘をついて、どんな気持ちになるのだろう。それが知りたかったんです。」
「...どうでした? 」
剣持はチラリとシェリンに視線を向けた。シェリンはまっすぐ前を向いたままだった。
「なんてことはありませんでした。嘘は嘘。それが正しいのか、卑劣なのかなんて関係ありませんでした。結局苦しいだけでしたよ。嘘なんてつくもんじゃない。そう思いました。」
「シェリンさん。貴方は一つ勘違いしてますよ。」
「『勘違い』? 」
今度は逆にシェリンが剣持に視線を向けると剣持も前を向いたまま答えた。
「みんな僕のために嘘をついたんじゃない。僕の背後に見えたティアリスのために嘘をついたんです。どこかで謝りたい、聞いて欲しいって思ってたんでしょうね。本当に嬉しいことでもあり、悲しいことでもありますけどね。犯行に関してはシェリンさんの仰られた通りですよ。皆がおかしな事ばっかり言うから驚いちゃいましたよ。」
剣持は力なく笑っていた。
「僕があの場で真実を話さなかったのには、実はもう一つ理由がありました。それが剣持さんです。神田さんが死神の話題を出したりしたのは指示があったからです。それなのに神田さんの部屋を調べた時に指示書が見つからなかった。貴方が回収したんでしょう。そして、それはまだ捨てられてないと思っています。」
シェリンの推理を聞いた剣持は自分の旅行鞄から一通の封筒を取り出した。それは紛れもなく神田に宛てられた指示書だった。
「貴方の目的は神田さんの殺害と無言を貫いた仲間の記憶に草賀ティアリスを刻み込むため。他の誰かに罪を被せたいわけじゃなかった。もしもの時は自首するつもりだったんじゃないですか? 乗務員の制服のボタンを残したのも...。」
シェリンが話している途中だったが、剣持は神田に宛てた封筒をシェリンに手渡した。
「僕はティアリスとは以前から知り合いでした。僕も彼女にデビューを進めてたんですけど内気な彼女は決断できずにいました。そんな時に例の企画が始まった。僕の見立て通りに彼女の魅力は皆に伝わりました。あと一歩で一緒のステージに立てたのに...。」
気が付けば剣持の拳が力一杯握られていた。シェリンはそれを黙って見守っていた。
「神田くんの言葉の意味も分かります。彼女の自殺も彼女自身が選んだことなので神田くんを責めるのも筋違いなのも分かります。それでも許せなかった。それに僕の苦しみを他のメンバーにも感じて欲しかった。だから、皆を呼んでまでこんなことをしたというのに...。何にも分かってなかったのは僕だけだったみたいですね。」
剣持は「あーあ! 」と叫ぶと思いっきり背伸びをした。
「結構寝ずに計画練ったんだけどなー。死神の話も行けると思ったんだけど、結果的に皆に速攻バレてるし、センスないですね。僕。」
「犯罪のセンスなんて無い方が身のためですよ。」
その時、二人の背後から警官が声を掛けてきた。
どうやら殺人事件の事情聴取が始まるようだ。
二人から少し離れたホームの一角には既にメンバーが集めれていた。
皆が二人の様子を心配そうな表情で見つめていた。
「蝋燭の火を移すかどうかは、貴方にお任せします。」
そう言うとシェリンは先ほど剣持が渡してきた封筒を彼へと返すと皆の元へ向かった。
死神に蝋燭を渡された男のように剣持の手は微かに震えていた。
「ほら消えた」
様々な人が行き交うプラットホームのどこからか聞き覚えのない声が聞こえてきた気がした。
以上で「真実の終点」完結となります。
最後まで読んで頂いて有難う御座いました。
原作の完成度が高いので、それを踏まえながら自分なりの色を出せればと思いました。
そんな中でももう少しシンプルに出来ればよかったかもと思う部分もあったりなかったり...。
難しい部分が多々あったのですが、私が大好きなミステリー作品ということもあって、自分自身は楽しく創作出来ました。
ちなみに草賀ティアリスは、ある人名のアナグラムで作成した架空のライバーさんでございます。(バレバレだと思いますが笑)
改めまして、最後まで読んでいただきまして有難う御座いました、