真実の終点   作:夏野 雪

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食堂車 18:30

 「なんでなーん! 」

広い客室に早瀬の声が響いた。

客室内で最初に早瀬の目を惹いたのは大きな車窓だった。

天井近くから湾曲した大きなガラスは室内の車体側の大部分を担っていた。

その大きな車窓では夜の帳が下り、煌びやかな多彩な街に灯る光が流星のように流れていた。

窓際のソファに座りながら景色を眺めていると、思わず自分がジョバンニにでもなったかのような

気分になってしまいそうだ。

窓の傍にはブルーの二人掛けのソファが向かい合っており、その間には小さなローテーブルも

置かれており、そのt上には数種類のウェルカムドリンクとスナックがきちんと並べられていた。

室内には列車の揺れの中でも寝心地が良さそうな大きなベッドにしっかりとした照明付きの

化粧台までが用意されていたのだ。

「走るホテル」の異名は伊達ではなかった。

これがシェリンに割り与えられた寝台特急千歳ご自慢の一号車にあるロイヤルルームであった。

一号車には一号室から七号室があり、その全てがロイヤルルームと呼ばれており、

鉄道ファンのみならず人気の予約困難な客室として有名なのであった。

一方、その優雅で快適な室内の中で高らかに不満を嘆いている早瀬は二号車の一号室である

デラックスルームに宿泊することになっていた。

このデラックスルームというのもランクは一つ落ちるものの人気の客室であった。

二号車も一号室から七号室までがあり、その全てがデラックスルームとなっていた。

ロイヤルルームよりもベッドのサイズが小さく、車窓の縦横の幅も狭い。

ソファも一つしかなければ化粧台もなく、その代わりに小さな木製の事務机が用意されていた。

「何で私もロイヤルじゃないんよー。私もこっちの車両がよかったわ。」

自分の荷物の整理が終わったようで、先ほどシェリンの客室に入ってからはこの台詞ばかりを

何かの呪文のように唱え続けていた。

「僕が決めたわけじゃないんだから仕方ないでしょ。そっちだって別に良い部屋じゃないの。」

「せやかて...こっち見てもーたら羨ましくなるんが人情ってもんやろー。」

そんな思いをしてまで早瀬がシェリンの客室を訪れたのには、それなりの理由があった。

勿論、噂に聞くロイヤルルームを見てみたいという気持ちが全くなかったと言えば嘘になるが、

本当の目的は別にあった。

「それにしても...こんなものを用意してくれるなんて...。僕より探偵してるじゃないですか。」

そう呟くシェリンの手には一枚のメモが握られていた。

「名探偵の陰には優秀な助手ありってね。」

シェリンに褒められて満更でもない様子で、早瀬はようやく笑顔を見せた。

探偵の優秀な助手が最初の成果として持ってきたものは全員の部屋割りだった。

 

『1号車1号室/シェリン(探偵)、2号室/笑一くん(乗客)、3号室/リゼちゃん(乗客)、

4号室/アンジュちゃん(乗客)、5号室/ちーちゃん(乗客)、6号室/ひまちゃん(乗客)、

7号室/持さん(オーナー)

2号車1号室/早瀬(助手)、2号室/星川(乗客)、3号室/アッキーナ(車掌)、4号室/グウェル』

 

メモには手書きで丁寧にそれぞれの部屋番号と役割が書かれていた。

早くに自室を出て一部屋一部屋確認してくれていたようだ。

シェリンは思いの外に豪華な客室にテンションが上がってしまい、はしゃいでいた自分が

少しだけ恥ずかしくなっていた。

「お。もうすぐ六時半やんか! 食堂車に行こか! 」

そんな嫌味なことなんて微塵も思っていないであろう早瀬が屈託のない笑顔をシェリンへと

向けていた。

彼女自身は今この時を思いっ切り楽しんでいるだけなのだろう。

同期としてと言うよりも一人の人間として見習わなければいけない点だなと感じていた。

「そうですね。行きましょうか。」

二人は居心地の良い部屋を後にして、三号車へと向かった

 

 

 シェリンと早瀬が食堂車に着いたのは十八時二十五分頃のことだった。

すでに食堂車には何名かのメンバーが集まっていた。

食堂車には四人掛けのテーブルが車両の左右に五卓ずつ並んでおり、

その一角に皆が集まっているのがすぐに分かった。

二号車側の入り口から見て左列の一番奥の一卓と右列の一番奥から二卓分が確保されていた。

分かっていたことだが、客観的に見てみると待ち合わせのランドマークには

困らないメンバーたちだなとシェリンは思っていた。

テーブルの上には皴一つ無い純白のテーブルクロスが敷かれており、綺麗に磨かれた食器一式が

きちんとセットされていた。

各テーブルの車体側にはしっかりと車窓がついており、食事をしながらも景色が楽しめるように

なっていた。

椅子には座らずにテーブルの傍に立っていたグウェルは二人を見つけると変わらぬ笑顔で

声を掛けてきた。

「シェリン殿、早瀬殿。お疲れ様です。空いている好きな席に座っちゃって下さい。」

二人が空いている席を確認してみると、左ではリゼアンの二人が座っており、

右の一卓には神田、三枝、剣持が座っていて、もう一卓にはちひろが一人で座っていた。

二人は自分たちから一番近かったということもあり、ちひろが一人で座っていたテーブルに

並んで腰かけた。

「ちーさん。失礼しますね。」

早瀬が笑顔でちひろに声を掛けると、窓からどこか遠くを見つめていたちひろも我に返り、

可愛らしい笑顔を二人へと向けた。

「おー! どうぞどうぞ! 」

シェリンはちひろの表情の変化に少し違和感を覚えていた。

しかし、今までコラボなどでそれほど強い接点が合ったわけではないので、

こういう人なのかも知れないなと思う程度にシェリンの心の中で留まっていた。

「あとは...ひまわり殿と星川殿ですかね? 」

グウェルがキョロキョロと各テーブルを見渡しながら人数を確認していた。

「すいませーん! ちょっと部屋を見てたら遅くなっちゃいましたー! 」

グウェルの言葉の直後に勢い良く食堂車に現れたのは星川だった。

星川のすぐ後ろにはひまわりの姿も見えていた。

時間は丁度十八時時半だったので、別に遅刻したわけではないのだが、二人は先に着席していた

メンバーに軽く謝罪をしながら、リゼとアンジュが座っていた左側のテーブルに揃って着席した。

「これで全員揃いましたね。ではまずは食事を楽しみましょう。」

そう言うとグウェルは食堂車のスタッフに食事を始めたい旨を伝えると、間もなくして

各テーブルに順々に料理が運ばれてきたのだった。

 

 

 食事はフランス料理のコースだった。

高級海鮮がふんだんに使われたサラダ仕立ての前菜に始まり、自家製クリームスープ、

そしてはひと際大きな歓声が上がったメインの牛フィレ肉。

最後は季節のフルーツと自家製アイスクリームのデザート。まさに至れり尽くせりだ。

共に出された焼きたてのパンも漏れなく美味しいのだから言うことはなかった。

今は食後のコーヒー、紅茶を飲みながら全員が夢のような時間の余韻に浸っていた。

「食事はお楽しみいただけましたでしょうか。」

まるで自分が作ったかのような言い回しで席を立ったのはグウェルだ。

「もー...最高やね。」

なんとも感情の込もった声で感想を述べていたのはひまわりだった。

声だけでなく、その表情からも幸福度と満足度の高さが伺えた。

「食べるだけでも少し緊張しちゃいましたよー。」

その横でアンジュもそう言いながらティーカップを口に運んでいた。

「では、ここからが本題です。これから明日の朝にかけて『ある事件』が車内で起こります。

皆様にはその謎を解いて頂きます。その謎の重要な『()()()()()』を今からお配りします。」

グウェルはテーブルの上に置いてあった茶色のA3サイズの大型封筒を手にすると、

各テーブルに向かって順々に見せていった。

どうやら封筒の口はしっかりと糊付けされていた様でグウェルはそれを全員の前で

丁寧に剥がし始めた。

皆がそこから何が出てくるのかを固唾を呑んで見守っている姿は、

まるでミステリードラマなんかでよく見かける大金持ちの遺産相続の発表場面のようだった。

もしくは『ハンドパワー』を駆使しているマジシャンの姿にも見えなくもなかった。

封筒が開封されるとグウェルはその中へ手を入れた。

皆が注目する中で、その中から取り出されたものは白い便箋だった。

「まさか新手のマトリョーシカだったとは驚いたね。」

ほとんどの人物がキョトンとしている中で、剣持が嫌味たっぷりの台詞を吐いた。

「残念ながら新作マトリョーシカのお披露目会ではありません。良くご覧ください。

便箋の表には割り振られた役職名が書かれています。」

そう語るグウェルの手の中にある便箋の表には確かに『乗客1』と書かれていた。

「『乗客1』って...私ですね。」

少し考えて名乗りを上げたのは神田だった。

それを聞いたグウェルは持っていた便箋を神田へと手渡した。

「これは全員分ございます。中身は指示がない限りは他言無用でお願い致します。

部屋に戻ってから各自で内容の確認して下さい。」

 

 

 

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