中尾の言葉を聞いた一同は大人しく部屋へと戻ることに決めた。
列車が停止もしなければ、警察も来られないとなってしまっては成す術もなかった。
皆が大人しく部屋へと戻っていく中で、シェリンは迷っていた。
彼にはどうしても引っかかっていることがあった。
それは神田の部屋に残されていた紙だった。
『列車より先に彷徨える魂と真実を終点まで導け。』
『
つまり、列車が終点福岡に着くまでに事件の真実を見つけたれなければ、
何か悪い事が起こるのではないか。
シェリンにはどうしてもそう思えてならなかった。
この事件は行き当たりばったりの衝動的な事件なのではなく、入念な下準備と絶対の自信の上に
成り立っている計画てなものだ。
しかし、その絶対の自信に反するように、所々からこの事件を解決して欲しいという犯人側からの
メッセージが出されているようにも思えていた。
これは『挑戦状』なのか、をれとも『メーデー』なのか。
「難しい顔しちゃって...どないしたん? 」
皆が部屋に戻っていく中で、一人立ち止まりシェリンの顔を優しい笑顔で見つめながら
話しかけてきたのは早瀬であった。
「あ。なんかすいません。ちょっと事件のことを考えてまして。」
「流石同期! なら話が早いな。私も全力で手伝うから一緒に犯人を見つけてやろうや。」
「ええ!? 」
「だって悔しいやん。私ら嵌められたようなもんやん。それに笑一君の仇も取ってあげたいし。」
シェリンは早瀬の決意に些か驚いている反面である意味では仲間想いで優しい彼女らしい
決意なのかもしれないとも思っていた。
「ありがとう...。」
「えっ? 」
その言葉は無意識にシェリンの口から自然に発せられたものだった
「いえ。私も迷っていたのですが、らんねぇちゃんのお陰で決心がつきました。
二人で神田さんの仇をとってやりましょう! 」
シェリンの何時になく力強く、頼もしい言葉を聞いた早瀬は嬉しそうに笑っていた。
「決まりやね。ならまず何から始めようか? 」
「そうですね...。神田さんの部屋に犯人が何時入ったのか。そして、何処へ消えたのか...。
それを確かめるのに一番重要になりそうな人の話を聞きに行ってみましょうか。」
「一番重要そうな人? 」
シェリンと早瀬は二号車の三号室の前に立っていた。
それは三枝の使用している部屋だった。
ノックをしてしばらくすると、少し眠そうな顔をした三枝が部屋から出てきた。
「あら。先生にらんねぇちゃん。こんな時間にどうしたの? 」
時刻は24:15となっていた。本来なら一号車の椅子に座っている予定の三枝だったのだが、
ミステリー企画どころでは無くなってしまったため、その任を解かれていた。
「お疲れのところすいません。実は...。」
シェリンは自分たちが事件の謎を解こうとしていることを三枝に伝えた。
三枝は「そっか。」と一言だけの感想を述べると二人を快く部屋の中へと招いた。
シェリンはもう少し高いテンションで三枝からリアクションが返ってくると思っていたので、
三枝の淡白な反応が少し気になっていた。
三枝は自分が一号車の椅子に着席してから事件発生までの人の出入りを何とか思い出しながら、
二人へと伝えてくれた。
三枝が全てを話し終えて、シェリンたちが三号室を後にした時には時計の針は
間もなく深夜一時になろうかと言うところまで進んでいた。
「アッキーナも意外って言うとあれやけど、しっかり覚えてたんやね。」
「ええ。これでこの後の調査が大分楽になりそうですね。」
早瀬の手には三枝の証言がしっかりと記録されていたのだが、
そのメモを凝視しながら眉間に皴を寄せながら唸っていた。
「うーん...アッキーナが言うには22:40から22:50まで笑一くんと一緒に二号室内に一緒にいて、
二号室に入る時にひまちゃんとアンジュちゃんが見てたって言ってたから二人の内のどっちかに
話聞いてみる? 」
そのメモは黄色い皮のカバーが特徴的なB6サイズの手帳だった。
早瀬が収録スケジュールを書き込んだりしている普段使い用の手帳だった。
「そうですね...ほんひまさんのところに行ってみますか。」
シェリンたちは二号車から一号車へと移動すると手前から二つ目の部屋のドアをノックした。
六号室のドアは元気の良い返事と共にすぐに開けられた。
「お? シェリンやん。あら。走ちゃんも居るやん。」
「夜分遅くにすいません。実は神田さんの件で少しお聞きしたいことがありまして...。」
『神田』という言葉を聞いた瞬間、ひまわりの顔から笑顔が消えた。
「...そっか。まぁ入ってよ。」
ひまわりは二人を部屋の中へと向かい入れると、そのまま車窓の前のソファへ座った。
「二人も座んなよ。」
笑顔を取り戻したひまわりの言葉に甘えて、シェリンたちもひまわりの向かいのソファへと
並んで座ることにした。
「で...神田の件で聞きたい事って? 」
二人が座るのを見届けてからひまわりが先に切り出した。
「ええ。まずこれを見てほしいんです。」
そう言いながらソファの間に置かれていたローテーブルの上に自分のスマホを置いた。
その画面には神田の部屋に残されていた例の文章の写真が表示されていた。
ひまわりは最初は不思議そうな顔でスマホの画面を覗き込んだのだが、
そこに表示されているものを確認すると手で口を覆い固まってしまった。
「ひまちゃん? 大丈夫? 」
明らかに様子のおかしくなったひまわりを見た早瀬が心配そうに声を掛けた。
しかし、ひまわりには聞こえていないようで、未だにシェリンのスマホを見つめたまま
動かなかった。
結局ひまわりが早瀬の声に反応したのは、それから早瀬が同じ様に二度ほど呼び掛けた後だった。
「あ。ごめん。大丈夫よ。」
「ひまわりさん。この文章について何か知っていることはありませんか? 」
先ほどの反応を見れば何かを知っているという事は明白であった。
それなのに本人に敢えてこのような質問を投げかけるのは酷な事とは分かっていたのだが、
シェリンは今回の事件を調べると決めた時から、このような場面が何時かは来るだろうと
覚悟はしていた。
顔を上げたひまわりはじっとシェリンの目を見つめていた。
「...シェリン。ごめんやけど、ひまには何の事だかさっぱりや。」
それは早瀬から見ても違和感のある返答だった。
「そうですか。」
勿論シェリンも同じ気持ちだっただろう。
だが、ここで無理に追及したところでひまわりが何かを話してくれるとは思えなかった。
なぜなら彼女の優しさ、仲間を想う気持ちの強さというものを今まで見てきていたからだ。
それにシェリンにはひまわりにまだ聞きたいことが残っていた。
ここで関係性が崩壊して聞けなくなることを恐れていた。
「あともう一つ聞きたいことがあるんですけど、22:40くらいに神田さんと三枝さん姿を
見ませんでしたか? 」
「22:40? ああ。神田は見てないけどアッキーナなら廊下で一号室の方に向かって行くのは
見たかもなー。」
ひまわりの声と表情から緊張が少し和らいでいるのが感じられた。
「三枝さんが言ってたんですけど、その時ひまわりさんが七号室。剣持さんの部屋ですね。
そのドアの前で立ち止まっていたと言ってたんですけど、何をされてたんでしょうか。」
「
ひまわりは笑顔を浮かべたまま即答した。
「えっ...でもアッキーナが。」
「見間違えたんちゃう? 廊下も薄暗かったし。」
早瀬の言葉に被せたひまわりは念を押すかのように、その笑顔に反する強い口調で
そう断言しのだった。