鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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氷室れいら

 恐ろしいほどの冷気が窓越しに俺を突き刺す。

 溢れた空気は凍りつき、白い息となって吐き出される。

 

 氷室れいら。

 

 ただ存在するだけでこれ程までに周囲に影響を及ぼすのか? 

 考えられるのはあの威力の魔法を行使した代償か。

 

 窓の鍵を外し、横にスライド……動かん、凍ってやがる。

 

「──」

 

 れいらが何か声を発した。

 

 言葉は聞き取れなかったが、なんとなく下がれば良いと感じ一歩下がる。

 

 れいらが窓に触れる。

 

 すると、凍りついていたはずの窓が何事もなかったかのように開いた。

 

 氷が割れた音も何も聞こえなかったはずなんだが……

 

 目の前の現象を不思議に思っている間にれいらが窓から病室へ飛び込んでくる。

 

「軍人さん、怪我はない?」

 

「何ともない、れいらの方は無事か? 大立ち回りだったが」

 

「私は大丈夫」

 

 冷気が徐々に引いていっているのが肌でわかる。

 怪我をしているような気配はない、が……足だな。

 

「ちょっと足を触らせてもらうぞ」

 

「え!? ぐ、軍人さん……!?」

 

 窓から病室室に飛び込んだ時、左足の動きに違和感があった。

 

 庇っている動きではないので怪我ではないはずだ。

 だがつい先程の御門医師の言葉が引っかかる。

 

 ローブを避け、スキーなどで履くような分厚いズボン越しに触診する。

 

「ぐ、ぐんじんさ──ひゃっ!?」

 

 冷たく、()()

 

 筋肉の硬さじゃない、固いのだ。

 

 ゆっくりとふくらはぎから膝へ指を移動させる。

 

「ひ、ひぅ……!?」

 

 関節は……動く、動いている。

 

 だがこれは……

 

 さらに確かめるべくその指先をその太ももへ──

 

「そ、それ以上は、駄目!」

 

「おわっ!?」

 

 逃げられてしまった。

 

 もう少しで深くわかりそうだったんだが……

 

 でも充分か、大体わかった。

 何でそうなるのかは全くわからんが結果だけなら理解した。

 

 れいらの左足は、固まっている。

 

 筋肉も、血液も、何もかもが凍り付いているかのように止まっている。

 

 関節が動くのは……人形の球体関節のようにその表面を滑らせているだけに過ぎない。

 

 なぜ足を動かせるのか、血も神経も止まっているはずなのに腐らずに動かせていられるのか。

 そこら辺は全く分からなかった。

 

 本人に聞いてみるか? 

 

 そう思い、顔を上げると──

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 少し涙目になりながら壁際まで下がり、こちらをにらみつけるれいらがいた。

 

 ……あー、そういえばヤバいことしてたな、俺。

 

「きゅ、急になにをするの!!?」

 

「す、すまない、悪気があったわけじゃないんだ」

 

「悪気があるかないかの問題じゃないと思う!」

 

「本当にすまない……!」

 

 やべぇな、正論すぎて何も言えない。

 俺の倫理観どこ行った? 

 

 前はちゃんと自制が効いてたはずなんだが……

 

 でも確かめとかないといけないことだ。

 

「足、まるで氷のように冷たく、固まっていた」

 

「……」

 

「れいら、君は自身の身に何が起きているのか分かっているのか?」

 

「そ、そんな言葉で誤魔化し──」

 

「答えてくれ。その後でならお詫びに何でもするから」

 

 れいらはじっとこちらを見つめる。

 

 内面を見通そうとしているのか、俺は今本心でしか話していない。

 悪かったとは思っているが後ろめたくはない。

 

 嘘だ、一つあった。

 すまない御門医師、俺にメンタルケアは無理だった。

 

 やがてれいらは自らの左足へと視線を落とし、口を開く。

 

「御門先生から聞いてるのでしょう?」

 

「簡単にはな」

 

「それ以上のことはないわ」

 

 嘘だな、何か知っている。

 

 予測は立てれるか? 

 

 氷に置換していると御門医師は言っていた。

 だがこれは正確ではない、と思う。

 氷のように固まっている……凍結、停止? 

 

 そもそも魔法とはなんだ? 

 共通点は? 

 

 答えは出ない。

 ヘクスも居ない今は考察を積み重ねることだけ。

 

 他の魔法使いに接触できれば進展はしそうだが……

 

「わかった、その氷に置換っていうのは温めても大丈夫なのか? 溶けたりするのなら近寄らない方が良いだろう」

 

「そこまで進んでいないし、たとえ氷となったとしても魔力がある限り溶けたりはしないわ」

 

「じゃあ触れるくらいは問題ないのか」

 

「……だからっていきなり触るのはどうかと思うわ」

 

 無言で土下座するしかなかった。

 

 氷よりも冷たい視線に晒されながら、今の言葉を反芻する。

 

 かなり深いところまで理解している? 

 まだそうなってもいないのに、なにが大丈夫で何が駄目なのかがわかっている。

 

 御門医師はれいらは低体温症の症状で通院していた、と言っていた。

 つまりその時点では知識がなかった、と推察できる。

 

 問題はいつその知識を得たのか、だが……分かりそうなのはヘクス、ハクが可能性あり、ってところかな。

 

「誰のことを考えているの?」

 

 いつの間にか目の前まで戻ってきていたれいらが俺を覗き込んでいた。

 

「君の症状に詳しそうな人は居るか考えていた」

 

「そう、ありがとう。でも必要ないわ、これはそういうものだから」

 

「……そういうもの、ね」

 

 魔法の代償、魔法使いとしての定めとかか? 

 その身体に起きている異変対し、れいらは落ち着きすぎている気がする。

 

「ねぇ、お詫びで何でもしてくれるのよね?」

 

「え? あ、あぁ……勿論だ」

 

 まさか本当に何かを要求されるとは思わなかった。

 

 いや、やるけども。

 特に理由がなくてもお願いされたらやるけども。

 

「だったら、あなたが今まで何をしていたのかを聞かせてほしい」

 

「今まで?」

 

「えぇ、産まれてから……私と出会うその瞬間まで」

 

 そういえばアンノウンを倒しに行く前に同じようなことを聞いていたな。

 

「かまわないが、そんな面白い話はないぞ? それに詳しくは話せない」

 

「いいわ」

 

 今は目の前のれいらに集中しよう。

 

 先ほどから意識がそれるたびに目線の温度が更に落ちていくような感覚がしている。

 

 既にかすんでヒビ割れた記憶を手繰り寄せ、俺は何者だったのかをれいらに話し始めた。

 

 一人の無価値な男の話を。

 

 この世界に存在しない男の話を。

 

 本当に他愛の無い話だ。

 

 ただこの世界に生まれ落ちて、何をやっても普通以上にも未満にもなれなかった。

 

 恋人も、親友と呼べる人も居ない。

 ただその日を死んでいないだけの人生。

 

 もしかしたら何者かになれると思って軍人を志したが怪物相手に逃げ惑うことしかできなかった。

 

 そして自分の殻に閉じ籠もる。

 

 腹が減り、どうしようもなくなって逃げ出した先で少女を看取ることしかできない。

 

 流石にヘクスやら巻き戻しやらは誤魔化して話したがこんなところか。

 

 何にが秀ているわけでもなく、志一つも守れない。

 

 本当にそれだけの話、だというのに……

 

「そう、そうなのね……」

 

 れいらはただ嬉しそうに聞いていた。

 

 わからない。

 

 何が琴線に触れたのか。

 

「そんなあなただから私を救ってくれた」

 

 何を言っているのか、わからない。

 

「と、満足してくれたか?」

 

「えぇ、とても」

 

「なら良かった」

 

 聞くべきか、聞くべきだろう。

 

 だが、聞いていいものか。

 

 それは何の話なのか、と。

 

 思考が止まりかけ、恐怖と懸念に支配され、未知に怖気づく。

 

 まさか、まさかと。

 

 だからこそ口を開き、言葉を捻り出す。

 

「氷室れいら、君はどこまで覚えているんだ」

 

 れいらと視線を合わせ、その瞳の奥の真意を覗き込む。

 

 れいらは少しだけ目をまるくした後、わずかに微笑んだ。

 

「私は何も知らないわ、軍人さん」

 

「……」

 

「ただ夢を見たの」

 

「……夢?」

 

「そう、夢」

 

「それは、どんな夢……?」

 

 れいらは俺の手をとってベッドへ誘導する。

 俺をベッドに腰掛けさせ、れいら自身も横に座る。

 

「秘密。喋ったら正夢じゃなくなるから」

 

 れいらはまた微笑む。

 その夢というのが、どれほど素晴らしいものだったのかを伝えてくるように。

 

「私のことなんて置いておいてもっと話しましょう?」

 

「……もう話す種なんて無いんだけどな」

 

「そんなことないと思う。だって今も聞きたいことがたくさんあるもの」

 

「……わかった。君の気が済むまで話をしよう」

 

 俺はもっと君のことを知らないといけないようだ。

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