東方プロジェクトと奇々怪界のクロスオーバーです。
久しく書いていなかったのでリハビリがてらに。
戦闘シーンがあるので一応R-15はタグ入ってます。

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リハビリがてらに投稿。
ここ数年書いてなかったので。


命日

 男が一人、畑の畔を歩いていた。

 身にまとっているのはいわゆる甚平につっかけ、どこかに出かけるにはちと軽装が過ぎるだろうか。

 背中には大きな背負い籠、その中には野菜や肉などの食材が多く積まれていた。

 手には手拭いを持ち、のっそりのっそりと歩いている。

 じいじいと蝉の声の大合唱の中、汗をふきふき、歩いている。

 ふくよか、というよりは固太りの体を揺らしつつ、ふう、ふうと息を切らせながら歩いている。

 どうやら運動不足のようだ。

 男が暫く歩いていると、目の前に鳥居がでん、と立っていた。

 かなり立派な鳥居「だった」。

 かつては。

 手入れはされているものの、歳月を経て痛みもそれなりに見られ、何と言っても鳥居の上に掛かっている「博麗神社」の文字が傾いている。

「ここは…変わりませんなあ…」

 男はそう呟くと、すい、と足を進めた。

 すうっ、と「世界が揺らめく」。

 まるで男を神社へと入れない、そんな意志を感じるようだ。

「…結界は、きちんと仕事してますなあ。

 賢者さんも大変だのお」

 男はそう呟くと、右の掌でぽおん、と腹を叩いた。

 貼りだした太鼓腹が揺れて、それがまるで世界の揺らめきに同調していく。

 しまいには男すらもゆらゆらと揺らめいていく。

 そのまま男は足を踏み出した。

 

 男が足を踏み出すと、「世界が変わった」。

 空気が変わった。

 田舎であれどこかに匂っていた排気ガスの匂いがしない。

 清廉な初夏の空気が男の周りにまといついていた。

 先ほどまで良いように言えばわびさびのある、はっきり言ってしまえば「ボロっちい」感じのしていた神社はしっかりと手入れされた、美しくも荘厳な雰囲気を纏い、そこにあった。

 男は鳥居の前で一礼すると、境内へと入っていった。

 

 

 

 境内にて手水で手をそそぎ、神社を参拝しようとして男は頭上を振り仰いだ。

 なにやら楽しげ、もしくは姦しげな声をあげながら、赤と白の衣装に身を包んだ巫女と思しき少女、そして箒のようなものに乗った「魔女」そのものの格好をした多分少女、が結構な速度で飛んで

 

行くのが見えた。

「おやおや、博麗の巫女さんはお仕事かいな、それともう一人は…たしか森の見習い魔女さんだったかいなあ」

 男はのほほ~んとそう呟くと、神社への参拝を済ませるべく歩き始めた。

 

 

 

 神社への参拝を済ませると、男は社務所へと足を伸ばした。

 社務所は博麗の巫女の住居でもあるのだが、勝手知ったる他人の家、という訳でもないのだろうが、男は縁側に回り、その軒下に背負い籠を下した。

「ふう…、さて、行きますかいなあ」

 しばし日陰で涼を取ると、男は立ちあがった。

 

 

 

 男が訪れたのは神社の境内からさらに奥に入り込んだ、森の奥。

 それほど大きくない池があり、そのたもとに小さな墓があった。

「…きちっとされとりますなあ、ようござんした」

 男はにっこりすると墓の掃除を始めた。

 

 暫くの後、周囲にあった枯れ葉などは綺麗に取り除かれ、花と供え物が飾られた墓がそこにあった。

 男は満足そうに笑うと、墓に手を合わせた。

 静かな時間。

 男はゆっくり時間をかけ、故人と会話するように祈りを捧げた。

 男はゆっくりと目を開け、墓に一礼をした。

「んでは、小夜さん、また来ますんでなあ」

 男はそう言うと、墓から離れた。

 

 その男に声をかけるものがいた。

「ほうほう、久しいのお、松山の」

 男が振り向くと、池から顔を出す、大きな亀がいた。

 亀の顔にはまるで人の翁のようなながあく白い眉と髭がついていた。

 男は亀を見るとにっこりとほほ笑んだ。

「おお、息災でしたかい、玄爺どのよお」

 男とこの池の主である「玄爺」は顔なじみであった。

 お互い「玄爺どの」「松山の」と気安く呼び合う仲である。

「ほうほう、まあ亀は万年、と言いますからのお、まだまだ現役ですじゃよ」

「そんなこといっとると、またぞろ巫女さんにこき使われる羽目になりますのお、ええんですかいのお」

「…ああ、それは面倒じゃなあ、やっとこさ霊夢ちゃん『力』が安定したからなあ、当分はゆっくりできると思うんですながあ…」

 男と玄爺は久し振りの歓談、そしてここ、「幻想郷」と外界との情報交換をしていた。

 

「おっと、つい話しこんでしまいましたわい」

「ほうほう、そうじゃなあ、あまり時間がたつと…」

「そうそう、まだ飯を作っとらんのですわい、食材だけあったも、巫女さんは適当にしちまいますからのお」

 博霊神社の巫女は様々な事に頓着がない。

 食材だけおいていっても食べはするものの、やはり自身で料理するよりは他者が作ったものを食べる方を好む様子。

 男は縁側に置いていった食材を戻って調理するつもりらしい。

「さて、巫女さんが帰って来るまでにどれだけ…!」

 ほぼ同時、男と玄爺が森の奥に目を向けた。

 そこには、

「くっそ、気が付きゃがったかよ!」

 奇怪な、「妖」が、いた。

 

 妖はヨーロッパ出身の「屍食鬼(グール)」だ。

 この屍食鬼は、最近この幻想郷に現れた吸血鬼の配下としてここに入り込んだ。

 その後、吸血鬼が巫女に敗北した際に、その支配下から逃れ、暫く幻想郷の闇に潜み、人の死体を食らっていた。

 死体を喰い、それを里の人間が知ることで屍食鬼は外界ではありえないほどの妖力を蓄えることが出来ていた。

 力は十分に蓄えていたはずだった。

 それが巫女にばれ、せっかく支配したザコ妖怪と妖精(彼女らからは「侵略ごっこ」と見られていた)を蹴散らされ、ほうほうの体で逃げだした、というところだった。

 一目見ただけで分かった、自分では勝てない、と。

 せめて巫女に嫌がらせを、と無人の博麗神社を襲撃、と考えた所に男と玄爺に出くわしてしまったのだ。

 

「で、お前さんはどうするつもりかいなあ」

 男は全く恐怖なぞ感じさせないのほほ~んとした声を屍食鬼にかけた。

 それは屍食鬼の精神をささくれ立させる。

 妖怪(モンスター)とは人の恐怖心をあおり、人を喰らうモノ。

 侮られる事は存在の死にも繋がることがあるのだ。

 屍食鬼はいら立ちを隠しもせず、がちがちと歯をむき出し、とがった爪をつきつけて威嚇する。

「手前ぇらあの巫女(ばけもん)の身内かなんかか!? んならぶっころす!

 あのクソアマのおかげでせっかく作った軍団が壊滅だぁ! 意趣返しぐれえしとかねえとなあっ!!」

 急速に増した妖力とそれによって肥大した自我、そして博麗の巫女というそれ以上に強大な人間の守護者によってプライドをへし折られた屍食鬼。

 そのことで自我が不安定になっているのだろうか、それともやけになっているのか。

 そんな雰囲気を醸し出している屍食鬼に対し、男はのんびりと話し返した。

「なるほどぉ、つまりはこちらと『勝負』がしたい、と?」

 この場合の勝負とは、幻想郷における決闘法、通称「弾幕ごっこ」のことである。

 博麗の巫女の提案によって幻想郷中に広まった、妖怪、妖精、亡霊、神霊、人間、種族関係なくある程度の実力があれば可能な「比較的安全な戦闘」方法である。

 妖怪と人間の実力を比べると、それこそ天と地ほどの差がある。

 さらに神霊となれば妖怪と比べてもそれ以上の差になる。

 とは言え、そういった連中に好き勝手させればこの幻想郷の秩序は保てない。

 それゆえに博霊神社の巫女が提唱したのが弾幕ごっこであった。

 無論、彼女一人で作り上げたもの、という訳でもないのだが、結局のところそれを強大な神霊に守らせるだけの理不尽な力が博麗の巫女にはあった。

 だから、弾幕ごっこであれば屍食鬼にも多少の勝ち目はあったはずなのだ。

 だが、

「ふざけんな! そんなんガキやメスのおあそびだろうがよぉ! 妖怪が巫女なんぞに飼いならされてよぉ! ふざけんじゃねえってえんだよぉ!?」

 屍食鬼はそのルールに合わせる気はないようだった。

 まあだからこそ、博麗の巫女の力に恐れを成して逃げ出したのだろうが。

 彼の言いように、玄爺は顔をひきつらせ、男は、

「ほっほぅ、つまりはガチ勝負、ということですかいなぁ」

 相変わらずのほほ~んとした返しを行った。

 男は傍らの玄爺に、

「玄爺どの、ちっとあぶないんでのぉ、池に潜っておいてくれませんかな」

 そう言った瞬間、

「油断大敵だぜえ!」

 屍食鬼が一気に男に対して突撃をしてきた。

 その汚らしい爪が男の顔に襲いかかる。

 が、

「なに!?」

 屍食鬼の爪は、同じく()によって弾かれた。

 屍食鬼の前に、屍食鬼(・・・)がいた。

 屍食鬼と寸分たがわぬ、全く同じ姿の屍食鬼が。

 

「こっのぉ!?」

 ぎゃりんぎゃりんとまるで剣劇のような音が周囲に響いていた。

 2体の屍食鬼がその長く伸びた爪をぶつけ合っているのだ。

 勝負は互角、とは言い難い。

 一方の屍食鬼の方が動きが一歩早い。

 まるで相手の動きを呼んでいるかのようだ。

 いや、実際に相手の動きが分かっているようだ。

 じわりじわりともう一方の屍食鬼を追い詰めて行く。

 その圧に耐えきれなかったのか、

「くっそお!?」

 屍食鬼は大きく後ろに飛び、その身から生み出した妖力の塊、「妖力弾」をまるでマシンガンのように撃ちだした。

 流石にそれを身に受けるつもりはなかったのか、もう一方の屍食鬼は回避に専念するようだ。

 森の中、地面や木々に打ちこまれた妖力弾、その為に周囲には木の葉が舞い始めた。

「どうでぇ! このままやられちまいな…、くっそ、視界が悪りい…」

 屍食鬼はやりすぎた。

 もうもうと舞いあがる土煙と木の葉によって敵の姿を見失ったのだ。

 それは大きな隙であり、

「散符・『木の葉弾幕変化』」

 周囲にあった木の葉が妖力弾に変化し、屍食鬼に襲いかかった。

 否、妖力弾を木の葉に変化させ、屍食鬼の周囲に散布しておいたもの、それを解除したのだ。

 複雑な軌道を描き、本物の木の葉の影から近づいて屍食鬼に迫り、

「が、ががががががっ!」

 さんざんに彼を打ち据えた。

 大きく中に打ち上げられた後、屍食鬼は地面に叩きつけられた。

「げふぁっ!?」

 地面を転がる屍食鬼を、大きな動物が見下ろしていた。

「て、てめえぇ…」

 正体を表した男だ。

 茶色の毛にもふりとした尻尾。

 極東由来の生き物で、その雑食性、環境適応能力の高さからロシアからヨーロッパにかけてもその生息域を広めている四足の獣。

 

 狸である。

 

 とは言えその大きさは人ほどもあり、また後ろ足で立ちあがっている様は普通の狸ではない。

 日本の妖怪の一つ、化け狸であった。

 男、もとい化け狸は屍食鬼を見降ろしつつ、

「さて、そろそろやめませんかのお、今ならまだ『弾幕ごっこ』で終わりに出来ますからのお」

 そう言った。

 屍食鬼は一瞬呆けたような表情になり、

「…っざけんなよ、おい」

 ぼそりと呟いた。

 許せない、そう屍食鬼は思った。

 俺たちは人喰いだ、人を喰ってなんぼの存在だ、それが自由に殺せない、喰えない、そんなことはおかしい、と。

 だから屍食鬼は力を付けた、妖精や妖怪を配下にしてこの幻想郷を俺たち(ひとくいようかい)の楽園にしよう、そう考えた。

 今の幻想郷を誰が維持しているのか、その為にどれだけの力を使っているのか、その均衡を崩すことで何が起きるのか。

 それを屍食鬼は理解できていなかった。

 だからこそ、

「もうやめだ! 手加減なんぞしてやらねえぇ! ぶっ殺してやらあ!」

 その妖力を全て使って化け狸に襲いかかった。

 

 妖力の弾が化け狸に向かって飛ぶ。

 一つや二つではない。

 時に直進、時に急カーブを描いて無数の妖力弾が化け狸を襲う。

 しかし、

「よっ、はっ、ほっ!」

 軽快な、というよりは珍妙なステップを踏んで化け狸はそれを避けていく。

 これがまた屍食鬼の気に障る。

 さらにさらにヒートアップしていく妖力の弾幕だが、それすら化け狸は華麗・さとは無縁な珍奇な動きでかすらせもしない。

 しかし、さらに弾幕が増加し、それにつれて妖力弾にえぐられた地面が化け狸の足を止めに掛かる。

「掛かりやがった! これで終わりよおっ!」

 バランスを崩した化け狸、それを屍食鬼は逃さなかった。

 直線的な、しかしそれだけに速い弾速の妖力弾の連続攻撃が化け狸を襲い。

「はっ!」

 しかしそれを化け狸は上空に逃れることで回避して見せた。

 鳥へと変化することで。

 狐七化け狸八化け、というほどに狸は変化の妖力に長けている、という。

 それを証明するかのように化け狸は大きな鳥に変化して飛び立った。

 まあ、お世辞にも格好がいいとは言えないデブ鳥ではあったが。

 しかし、屍食鬼に悔しがる様子はない。

「これもぉっ! 仕込みよおぉっ!」

 にやりと笑った屍食鬼。

 鳥に変化した化け狸、そのさらに頭上に妖力弾が多数浮いていた。

 直進する妖力弾と曲射軌道を描く妖力弾を同時に撃ちだしていたということだ。

 相手を殺傷するのに十分な火力がある妖力弾を密集して撃ちだしている。

 これを喰らえばいかなる相手でも無傷ではいられない。

 これで俺の勝ち、そう屍食鬼は夢想し、

「化符・『多重分身』」

 空中で急降下してきた鳥、その背後に小さな化け狸が生み出され、

「ばかなあっ!?」

 それらが放つ自身のものに倍する木の葉のような妖力弾に撃ち消されていく自身の弾を呆然と見上げ、そして相手を見失った。

「なっ!? どこ行きやが…」

 次の瞬間、屍食鬼は衝撃と共に空を見上げていた。

「油断大敵、じゃなあ…」

 顎の下から化け狸の声がした。

 鳥の変化を解き、化け狸は上を向いていた屍食鬼の視界の下から滑り込むように接近し、その尻尾で屍食鬼の顎をかちあげたのだ。

「ぐうっ…」

 そして、屍食鬼の意識は刈り取られた。

 

 屍食鬼が目覚めたとき、目の前にはでっかい狸、つまりは化け狸が仁王立ちしていた。

「で、どうしますかいなあ…」

 とっても「悪い」顔でニマアッと笑う化け狸。

 根性の悪さがにじみ出る笑顔だ。

 絶対こいつは若いころ「ワル」だった、屍食鬼はそう直感した。

 だがまだ俺は生きている、なら。

「…俺の負けだ。 そっちの言うことをきく」

 屍食鬼はふてくされた顔でそう言った。

 化け狸はその言葉に大きく頷き、

「左様ですかい。 なら博霊神社に手出しは無用にお願いしますな」

 そう言った。

 それで「弾幕ごっこ」、つまりはスペルカードルールによる決闘に勝敗をつける、そう言う決着がついた、そう言うことにしろ、ということだ。

 内心の怒りを抑え、屍食鬼は「応」と返事を返した。

 それを聞いて化け狸は満足そうにうなづいた。

「さて、巫女さんが帰って来るまでになんとか調理を終えませんとなあ…」

 能天気そうにそう言うと、化け狸は屍食鬼に背を向け、神社の方向へと歩き始めた。

 

(ああ、神社には手を出さねえよ、神社には、な)

 屍食鬼は化け狸の背を見つつにやりと嘲笑った。

 これは「弾幕ごっこ」ではない、そう言ったのはあの化け狸だけだ。

 俺はそう言っていない、そう屍食鬼は腹の中で嗤う。

 そして彼の思うところの勝負はまだ終わっていない。

 どちらかの死によって決まるのが屍食鬼の考える所の勝負だ。

 だから、

(背中を見せたのがてめぇの敗因だ!)

 地面に付けた手から、周囲の地面に打ちこまれた妖力弾、屍食鬼の妖力を含んだ土が屍食鬼の意思に従って隆起し始めた。

 これがこの屍食鬼だけが持つ異能「土槍を扱う程度の力」である。

 地面から無数の土槍が化け狸を襲う。

 が、

 

「ふんっ!!」

 化け狸の気合一閃、彼の体から強力な妖気が噴出し、土槍が全て弾き飛ばされる。

「っな!?」

 さすがに唖然とする屍食鬼。

「なん、なんで気付いた!?」

 呆然とした口調で呟く屍食鬼に対して、

「あんた馬鹿かね、別に俺ぁ一人じゃなかったろうが」

 化け狸は池の方を指した。

 そこには大きな亀、玄爺が池から首を出していた。

 間抜けな事に、屍食鬼は玄爺のことをすっかり忘れていたのであった。

「流石にまぬけだのう」

「いや、まぬけ(・・・)はおまえさんじゃろうが」

「おっとそうじゃったのお」

 屍食鬼を置いて能天気に笑う化け狸と大亀。

 ひとしきり笑い終わると、化け狸はのっそりと屍食鬼に近づいた。

 ここに来てようやく屍食鬼は気付いたようだ。

 ここにいる化け狸は、自分の勝てる相手ではない、と。

 かたかたと震える屍食鬼に、化け狸は「にやぁ~」っとした笑いを向け。

「んじゃあまあ、おしおきですなぁ…」

 

 森の中に悲鳴が響いた。

 

 

 

「異変」を解決した博麗の巫女、霊夢と魔法の森の普通の魔女、霧雨魔理沙は博霊神社へと戻って来た。

「いやぁ今回もなかなかに大変な異変だったぜ」

 事件解決に満足そうな魔理沙。

 一方博麗の巫女として人里の平和を守る使命を持つ博麗霊夢はというと、

「あ~めんどくさかった。 妖精どもがうっとうしいったら…」

 ひたすら文句をぶちぶちと垂れ流していた。

 基本的に彼女はやる気がないのである。

 よほど実利がない限り彼女のテンションは低い。

 それでも「なんとでもなる」のは純粋に彼女が強いからだ。

 獅子はなぜ強いか、という問いと同じ答えである。

 やる気がなかろうと、修行が嫌いだろうと博麗霊夢は圧倒的な強さがある。

 だからこそ博麗の巫女という使命をあくびしつつこなすことが可能なのだ。

 だらだらと神社の境内に入り、

「ん?」

 霊夢はひくり、と鼻を動かした。

 同じく魔理沙も鼻を動かし、

「なんか…、美味そうな匂いがするぜ」

 そう呟いた。

 彼女達が霊夢の生活空間である社務所に入るとその匂いはさらに強くなった。

 顔を見合わせる二人。

 同時に、

 

 ぐぅぅ~っ

 

 なにやら乙女からはしてはいけないような音が彼女らの腹部から。

 

 ()をなかった事にして、彼女たちは普段霊夢が私室として使っている畳敷きの部屋へと入った。

 そこには、

「うぉ! なんかすっげえ豪勢なんだぜ!!」

 部屋の真ん中にあるちゃぶ台の上には、四段重ねの大きなお重が。

 その他にもお櫃には艶のある炊きたてのごはん。

 鍋敷きの上に土鍋が置かれ、その蓋の穴からは味噌汁らしい匂いが湯気と共に立ち上っている。

「おい霊夢、これ隙間妖怪が作って置いてったのか?」

 霊夢の知り合いでこんなことをするのは、魔理沙の知っている限り「スキマ妖怪」こと八雲紫(というより、実質作るのはその式である藍)くらいしかいない。

「どうなんだよ霊夢、って…」

 魔理沙は霊夢が何とも言い難い表情をしているのを見た。

「…おじさん、来てたんだ。 そう言えばもう『命日』だっけ」

 霊夢はそう呟いた。

「『魔奴化(まぬけ)』のおじさん、来たなら顔見せてくれても良いのに」

「? 霊夢、まぬけなおじさんって、これ作ってくれた人か?

 さすがにその言い方は失礼なんじゃ…」

「ちがうわよっ! おじさんの名前が『魔奴化(まぬけ)』なのよ」

「…そりゃずいぶんと変わった名前だなあ」

 魔理沙が少しあきれたような声でそう言った。

 それに対して霊夢がなにか返そうとした時、

 

 ぐぅぅ~っ

 

 本日二回目のアンサンブルである。

 乙女二人は顔を合わせると。

「まずは頂きましょ」

「まずは食べようぜ」

 そう言うと食事の準備を始めるのであった。

 

 そんなある初夏の日の事。


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