真っ白な空間。『彼』の意識が再び浮上したのは、そんな場所だった。
(ここは、どこだ?自分は……)
見渡す限りの白。違和感があるが違和感のない四足歩行の体を起こすと、もう一度周囲を見た。
すると、白の中に浮く『白』が視界に入った。
四つ角を持った、純白のドラゴン。知らないが識っているという感覚に、軽い混乱を引き起こす。
(あれは……ミラ……いや、自分は、あんなの初めて見るのに、なんでわかるんだ……?)
『彼』がそう混乱していると、純白のドラゴン――――ミラルーツが振り向いた。
そして、神々しく威厳に満ちた姿で、口を開いた。
『あ、おはよー』
(?!)
あまりにも気さくすぎるその一言に、『彼』は更に混乱を加速させた。
『わーーー?!落ち着いてーー?!』
──────
『落ち着いた?』
コクリと頷く。ミラルーツが羽毛でわさわさとしたおかげで落ち着いた様子だ。もふもふは正義。
『それは良かった。早速質問だけど……ぼくが何者かは知ってる?』
頷くような首を振るような微妙な動作。
(識っているが、知らない。ミラルーツというモンスターはよく識っているが、この存在が何なのかは知らない……)
『あー、やっぱりかぁ。うむむむ……』
(それよりも、自分が誰でどうしてここにいるのかが知りたいな……)
『そう?うん……そう言うなら。教えよう』
ミラルーツは苦笑い(のつもり)をすると、どこか気まずそうに話し始める。
『まずは、謝罪からだ。申し訳ないが、こちら側の不手際によって「混ざって」しまった』
(混ざる?)
『彼』は首を傾げる。状況が分からない、と言った様子だ。
『見てもらったほうが早いかな』
(……!?)
ミラルーツは「よっこいしょ」と、何やら大きな鏡を取り出してくる。
そこに映る『彼』の姿は、凍てついた龍の姿だった。
白を基調とした甲殻に包まれ、体色の一部は濃紺に染まっている。冠のよな突起を備え、大きな翼は巨大な雪の結晶のよう。長い尾は先端が鋭く、細くしなやかだ。
"冰龍"イヴェルカーナ――――冷気を操りすべてを凍てつかせる、氷の古龍。周囲を銀世界に変える、銀盤の貴人。
その龍が、大きな鏡に映っていた。『彼』が混乱しつつ前脚を動かせば、鏡の中の冰龍も同じように前脚を動かす。
(イヴェルカーナ?!いや、自分は人間の……あれ?もとから?あれ……?)
『落ち着いて。こちら側のミスなんだ。人間のキミと、冰龍のキミ。死んだキミ達の魂を転生させようとしたら、混ざってしまったんだ。死んだときのこと、覚えてる?』
(死んだ?確か、自分は……あの狩人に……車に……あれ、二つある?)
『やっぱりかぁ……変に混ざっちゃってる、か。名前も思い出せないでしょ?』
考えてみて、「確かに」と『彼』は頷く。名前が全く思い出せない代わりに、思い出せるのはモンスターや世界についての知識だ。
一周して段々冷静になってきたのか、『彼』は混乱しなくなってきていた。
『私がやってるわけじゃないけども、様々な世界で死した魂は、一度集約されてから、また様々な世界に生を受ける。その時記憶はリセットされるんだけど、たまに残っちゃうのがあるんだ。そういうのが転生ものみたいな感じで、前世の記憶を引き継ぐんだ』
(ふむ)
『だけど今回ね、ちょっとした手違いで君たちの魂が混ざっちゃって、応急処置としてここに来てもらったんだ。わざと混ぜた事例もあるけど、今回は想定外だからね』
ミラルーツは、いつかの者達を思い出す。が、そんな場合ではないと思って気を取り直す。
(そこまでは分かった。しかし、それなら説明してそのまま転生させればいいのではないだろうか)
『そうなんだけどね、これを利用しない手はないってことになったんだ』
(?)
『こっちのミスでこうなって申し訳ないけど、頼みがあるんだ。特殊な状態になるけど転生させるから、定期的に感じたことをどんな形でもいいから送ってくれないかな』
ミラルーツからの説明を聞きながら、頑張って『彼』はかみ砕いて整理してみる。
ミラルーツが言うには、彼(彼女?)の管轄は『モンスターハンターの世界』になるらしい。そこに転生させるから、世界を見て色々定期報告してほしいのだと。
ちなみに、実際にそういう頼みをしている人物は何人か今いるようだ。
で、なぜ定期報告してほしいのかだが、ミラルーツは世界を見ておきたいのだが、易々と動くわけにはいかない。だから、前世の記憶に龍を持つ数名に頼んでいるのだそうだ。
その一人に、『彼』も加わってもらえないかということだ。
「特殊な状態」がよくわからないが……。
『……頼める?』
(……拒否する意味はあんまりない。なにより、目の前にいるのはかの”祖龍”だ。二重の意味で、逆らいたくない)
『彼』は同意の意味で頷く。
『ああ、ありがとう!これでドヤサレナクテスム……』
(?)
『あ、こっちの話。じゃあ、転生させるから――――』
▼▼▼
「……あー、頭痛い」
変な夢を見て目が覚めて、俺は体を起こす。打ち付けたのか、頭が痛い。案の定、頭には包帯がまかれている。
俺の名前は、ヴェルカ・ヒョーリユ。現在16歳。夢の中で『彼』と言われていた輩だ。
いわゆる転生者。ただし、あの"祖龍"ミラボレアスの言った通り、人間と"冰龍"イヴェルカーナが混ざった、特殊なタイプの転生者だ。
まあ、モンハンの世界への転生は妄想しまくっていたのでそれはいい。
白っぽい水色の髪に、紺色の目。背は平均より少し高いくらいで、若干やせ型。種族は一応人間族。友人に竜人はいるけど。
「にゃ、起きたニャ?どんな感じニャ??」
「頭が痛い……血出てる?」
「止血はしたにゃ」
「出てたかぁ」
看病をしていてくれたフルフル装備のアイルーが、テーブルの上の血だらけの包帯を指さす。よく死ななかったな、というのが1番に出た感想だ。
「しかし、びっくりしたニャ。クシャルダオラに遭遇して崖から落ちたって聞いた時は、嘘かと思ったニャ」
「あはは……まさか噂に聞く古龍がほんとうに居るとは思わなかったからね。頭から血を流すだけで良かったよ」
「本当ニャ!」
アイルーの言う通り、俺の怪我の間接的な原因は"鋼龍"クシャルダオラだ。
この村────ウユリ村は、海岸に面するが豪雪地帯。少々特殊な気候だが、冬も一応他の村や街への交通手段はある。
その手段というのが村の東の山の洞窟だが、俺が怪我したのはそこじゃない。
北側にある山へと雪山草を探しに行っていたら、クシャルダオラに遭遇し、その龍風圧で崖から落とされたのだ。
気絶してしまっていたが、幸いにも雪に落ちたためか怪我は頭の流血だけで済み、たまたま近くを散歩していた村人に発見されたので、今ここにいる。
「まあ、もう少し大人しくしとくのニャ。出発は4日後ニャんだし、ヴェルカは傷の治りも早い体質だし、そうすれば問題なく出られるはずなのニャ」
「それもそうだな。ありがとう」
俺は"祖龍"に言われた通り、世界を見て回ろうとしている。まずはウユリ村から最も近い大きな街に行って、そこから色々目指そうと思う。
ハンターになろうかとも考えたことはあるが、ぶっちゃけ武器を使うよりこう……手っ取り早い護身手段があるし、別に命のやり取りのスリルを楽しみたいとか思ってないのでやめた。
むしろ世界を旅するのに、『ハンターズギルドへの登録』はちょっと不便になるかもしれない。
一応、表向きの護身手段として、簡易的なライトボウガンのようなものは扱えるようにはしてある。それよりも殴った方が早いけど……。
まあ、で。その出発が4日後だって言うのに俺は怪我したのだ。俺のバカ……ウッウッ
アイルーが包帯などを回収し、とてとてと部屋を出ていくのを見届ける。
何しようかな……
ガシャァァァァァン!
「?!」
とりあえず暇だし、村を散歩しようかなぁ……と思った瞬間、外から大きな音が聞こえた。
何事かと思い、ついつい窓を飛び越えて外に飛び出してしまった。
軽いキャラデータ
【ヴェルカ・ヒョーリユ】
男、16歳
・かつて人間であり、また、かつてイヴェルカーナだった転生者。大体祖龍のせい。
若干龍寄りの思考なものの、かなり人間らしい。性格は人間の方ゆずりとは祖龍のコメント。
【"祖龍"ミラボレアス(ミラルーツ)】
???、???歳
・おなじみ真っ白ドラゴン。ヴェルカの魂をやらかした張本人(龍)。あらゆる竜の祖(自称)の、規格外も規格外、それこそ神に近い存在だが、かなりおっちょこちょい。
ヴェルカ曰く、「見た目以外に威厳がない」らしい。