気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの感想と誤字報告、ありがとうございます。
ちょっとコーラルとコジマとジェット燃料をキメて、ナイトシティで派手にくたばり回生しながら書きました。
どこかで聞いた名前が出てくると思いますが恐らく同姓同名なだけでしょう、きっと、メイビー。




第四十七話 ☆

 

 

 

ホクリクダイオーとシマカゼタービンの出会いは平凡だった。

幼少期に遊びまわっていたところで偶然出会ったというだけのよくある話。

遊び盛りのホクリクダイオーを満足させるために、ウマ娘用のちびっこレース場もある葦名城に家族でよく行っていただけだ。

そこで同時期に遊んでいたのがノルンファングとツバキプリンセスであり、そこにシマカゼタービンもいた。

小学校に上がると、徐々にホクリクダイオー達はシマカゼタービンに勝てなくなっていった。峠で一緒に遊んでいる中で彼女がどんどん峠で進化していくのをずっと見せつけられていた。

小学3年生を過ぎるころには、小学校でシマカゼタービンに勝てるウマ娘は誰一人いなくなってしまった。

圧倒的な速さで大逃げをかますシマカゼタービンは常に進化し続け、小学校随一のレースの神童といわれ将来を嘱望された。

惜しむらくは、群馬でも田舎の小学校にウマ娘レースのトレーナーがやってくることなんてなく、学校内でもてはやされているだけに過ぎなかったことだろうか。

そんな彼女の姿に、ホクリクダイオー達は実に満足して憧れていた。素晴らしき親友の姿に、その高すぎる壁に、いつも戦意を掻き立てられていた。

嫌うはずもなく、羨むことはあれど腐る理由にならなかった。むしろ自慢だった、見なよ僕の親友を、これがウマ娘の進化の始まりだぞ。

そんな彼女でも学校の成績は並みで、ホクリクダイオー達のほうが頭の回転は速かった。不思議なものである。

学校のテストでも、学習塾の学力測定でも、シマカゼタービンは仲間内でいつも最下位であった。

学校では秀才ではあるが上には上がいるレベルで中央トレセン学園に受かる水準では到底なく、地方トレセンでもがんばれば行けるだろうというレベルだ。

それでもホクリクダイオー達はシマカゼタービンの合格を疑ってはいなかった、学力は無くても彼女には才能があった。

あまりに隔絶した速さと勝負勘が、競争ウマ娘としての才覚がすべて備わっていたのだ、それがわかればトレーナーが放っておくはずもない。

 

だから、いつか彼女と公式レースで決着をつけることを待ち望んでいた。そうなることを疑っていなかった。

 

だがその目標は唐突に居なくなってしまった。群馬地方ウマ娘トレーニングセンター学園に入学したとき、シマカゼタービンはホクリクダイオー達の隣にいなかった。

入学試験の時に姿を見なかったときに怪しむべきだったが、時々ふらりと姿が見えなくなるのはいつものことだった。

それに試験で別室になるのも当たり前、入学試験会場の教室は全員別々で被っていなかった。自由時間も行動が被らず全員が単独行動だったのも、気が付かなかった一因だった。

ただタイミングが合わないだけだ、いつも通り何食わぬ顔でどこかで試験をクリアしてるのだろうと高をくくっていた。

彼女が群馬トレセン学園に入学する気がなく、入学試験も受けず、その日は家にいたなんて考えもしなかった。

思えばシマカゼタービンは公式の世界に毛ほども興味を持っていなかった、トレセン学園に入学する気なんてさらさらなかった。

勉強も練習も、ホクリクダイオー達がやっているからそれに混ざってやっているだけに過ぎなかった。

彼女は峠レースが好きで走るのも大好きだ、峠を攻めて全力で遊ぶのが大好きだった。

だから微塵も自分たちと一緒の道を歩く気なんてなかった、ホクリクダイオー達はそれに気づいていなかった。

常に彼女が隣にいて、常に彼女が前にいるのが当たり前だったから。

シマカゼタービンは群馬トレセン学園に合格しなければホクリクダイオー達も通うはずだった地元中学に入学し、高校受験も地元で済ませて何の変哲もない学校生活を送っていた。

車を走らせられる環境を作ればいいと思ってモータースポーツ部を設立して実績も作った、もしかしたら高校受験の時に考えてくれるかもしれないと思ったがまったく見向きもされなかった。

かつてレースで見せた圧倒的な姿は公立校でも健在であったが、彼女の才能は普通の一般校ではまるで生かされない。

だが学生生活を送る彼女は常に楽しそうであった。学園祭も、修学旅行も、体育祭も、彼女の笑顔に嘘はなかった。

彼女は普通の人生を送っていた、ホクリクダイオー達が地方レースに出るために厳しい練習をしている日々も普通の暮らしをしていた。

普通に暮らして、普通に遊んで、普通に峠を走り回って、化け物みたいに青天井な成長を遂げていた。

逆にシマカゼタービンという壁を失ったホクリクダイオー達は、群馬トレセン学園では敵無しだった。

同期は言うに及ばず、上級生も歯牙にもかけない、デビュー済みのプロでさえも敵ではなかった。

地方のウマ娘たちは弱すぎた。テクニックは確かにあった、実力も確かにあった、しかし敵ではなかった。

弱い相手にいくら勝っても自分たちが速くなっているとは思えなかった、自身の成長がまるで感じられなかった。

先の見えない暗いトンネルを延々と走っているかのような感覚、目指すものを失った自分たちは自分の実力の尺度も図れずにいた。

学園生活も最初は楽しかったが徐々に飽きが来てもいた。刺激がなかった、張り合いがなかった。

なのに自分たちが足踏みしているうちにもシマカゼタービンは峠でどんどん強くなり、手が付けられなくなっているのが手に取るように分かる。

彼女は夜な夜な峠を攻めて、スポーツカーに勝負を仕掛けて、次元の違う峠レースで身も心も鍛え上げてどんどん進化しているに違いないのだ。

だがその場にホクリクダイオーはおらず、公式レースを走るウマ娘故に走り屋としての活動も時間が限られてしまう。

いくら走っても、勝っても、心に空いた穴は埋まらずに欲望だけが募った。

何もかもが足りなかった、シマカゼタービンという圧倒的な壁を失っただけで何もかもが色褪せて見えた。

こんなことならば中央にも地方にも憧れを持たず、暢気な田舎娘として峠で遊んでいたほうがずっとマシだとすら思ってしまうほどだ。

そこのほうが絶対に強くなれた確信があった、シマカゼタービンの横に並んでスポーツカーを相手に挑戦していたほうがよっぽど輝いて世界が見えたように感じた。

そんなホクリクダイオー達の起こす蹂躙を見かねた学園上層部が、無理に無理を重ねてシマカゼタービンを学園に呼び出してくれたのは本当に救いだった。

ただの高校生であるシマカゼタービンには学校がある、学校で勉強をして成績をしっかり上げなければならない。

そこに学園は予定をねじ込んで招聘した、これで学園間の折衝が無理をしないわけがない。明らかな特別待遇からの予定のねじ込み、それも完全なる他学園からの無茶ぶりだ。

だが群馬トレセン学園は、シマカゼタービンがいるからこそホクリクダイオー達は本当の強さを発揮できる、そう判断したのだ。

それは正しかった、だからホクリクダイオーはここにいる。

群馬トレセン学園の判断がなければ、きっとどこかで折れてシマカゼタービンのいる地元の学校に転校していただろう。

 

超えるべき壁が自分から身を引いて、夢への道が開けたのに喜ばしいこと?ばかばかしい、そんなのつまらない。

 

ウマ娘レースで勝ちたい、名前を刻みたい、GⅠレースの頂に立ちたい、ウイニングライブのセンターに立ちたい。

確かに夢を語ればいくらだってある、やりたい事はいくらでも出てくる。だがしかし、それは彼女が身を引いたからできたことだというしこりが残る。

勝ちたいのだ、超えたいのだ。長年自分たちの前に立ちはだかってきた彼女の背中という壁越えを果たし、その先で自分たちの夢を叶えたいのだ。

だからディープインパクトが記者会見でぶっちゃけたその気持ちはホクリクダイオーには痛いほど理解できた。

自分が目指したいのは彼女だと、堂々と宣言できてしまう向こう見ずさがとてもうらやましくて、憎らしかった。

その言葉を言うべきは幼馴染であり親友である自分たちのはずなのに、先を越されてしまったのだから。

 

「準備はできたか?」

 

思い出の中に潜っていたホクリクダイオーの意識がその声に現実に引き上げられる。11月27日、ホクリクダイオーは東京レース場の控室にいた。

すでに着込んだ忍びを模した勝負服を見下ろし、不備がないかを手早くチェックしてから立ち上がって時計を見るとすでに本番が迫っている。

葦名流戦古武術の師匠である梟の派手なヤクザ者染みたサイバーパンク仕様のスーツ姿に比べれば、まだ地味だろう。

 

「似合ってないよ、それ」

 

「まだいうか…お前の会社のオーダーメイドだぞ。ライフルも止める防弾裏地を仕込みつつこのデザイン性と着心地、気に入っているんだがな」

 

「自社製品だから言ってんの。相変わらず忍者なのに派手好きだよね」

 

「SFは昔から好きだ、お前の会社のセンスは悪くないと思うぞ」

 

「そりゃどうも」

 

そっぽを向いてホクリクダイオーはにやける、家族が経営する会社のセンスは少し突き抜けているのだがそれでも褒められるとうれしいのだ。

 

「トレーナーはどうした?そろそろ時間だろう」

 

「トレーナーならボスと話があるといって席を外している、呼び戻すか?」

 

ホクリクダイオーが答える前に、部屋の片隅で窓の外を眺めていたタンク足に四角い頭の愛嬌のあるロボットが、ロボットらしい口調で話に割り込んだ。

四角い台形の皿のような頭に複眼、カクカクした金属の手と胴体、移動用のタンク足、そして胴体の隅に残るすり切れた上山トレセン学園の校章。

やや古ぼけた黄色を基調とした塗装を施され、年季の入った機体を揺らしながらそのロボット、チャティ・スティックは梟を見つめた。

 

「カーラも来ているのか」

 

「当然だ、ダイオーの勝負服はRaDも手を貸している。ボス直々にだ」

 

「変な機能追加してないだろうな?」

 

梟はふと、昔にあったことを思い出しつつ疑った。仕事道具に防弾トランクを特注したら隠しヘビーマシンガンになってやってきた、悔しいくらい良い出来で今も使っている。

それと同じようにホクリクダイオーの勝負服に手を加えているのではないかと思ったのだ。

機能と性能に疑いを持つわけではないがぶっつけ本番では心臓に悪いのである。

 

「問題ない。ボスはとても面白そうだった、ダイオーの要求はタービンとのタイマンダウンヒルに耐える勝負服だからな」

 

「ほぅ、それはずいぶんと盛り込んだな。で?上は?」

 

「同一の仕様を、今後全ての勝負服に要求してきた」

 

ホクリクダイオーが、いや群馬トレセン学園が出した水準は現代のウマ娘レースにおいて完璧なオーバースペックだ。

群馬トレセン学園が勝負服に望んでいることは、見た目のきらびやかさやウマ娘の才能をより発揮することではない。

いざというときにウマ娘たちの体を守る事。故障を抑制し、いざというときには壊れてでもウマ娘たちの体を守り抜くことである。

群馬トレセンが音頭を取ったのはすなわち『峠レースのダウンヒルで不測の事態が起こっても、ウマ娘が無傷で生還する勝負服』を作る事だ。

勝負服としての体裁を崩さず、そのきらびやかさを保ちつつも、徹底した安全対策を峠レースの環境でも発揮する勝負服を群馬トレセン学園は企業に求めたのだ。

 

「時速100キロを超える高速ダウンヒル、それも山の峠道という悪路でのアクシデントを想定した強化案。

かの安心沢といえど並みの素材と技術では不可能な要求だな、絵に描いた餅にすらならん」

 

「単体ではな。すでに群馬にはRaD、ベイラム、アーキバス、BAWS、技研など様々な企業が提携し、ウマ娘達の勝負服に協力している。

今、群馬トレセンの勝負服たちに使われている素材と技術とまさに秘宝といってもいい。軍民問わず、最新鋭だ」

 

「なるほど、有澤とメリニットの連中が渋谷で花火師と悪だくみしていたのはそういう事か。奴らは爆発に一家言ある分、衝撃に対する理解度は群を抜いている」

 

「それは別件だと思うがな、ボスも派手な花火を計画している」

 

梟は思わず宙を仰いだ。かつて地方ウマ娘レースが最盛期を迎えていたころ、勝負服を作っていたのはURAや各学園だけではなかった。

そこに商機を見出し、己が技術を発揮して自らを世界に知らしめんとするあらゆる企業や在野の技術者がこぞってウマ娘達に手を貸した時代があった。

ウマ娘達はそんな熱い意志を身にまとい、その力を全て振り絞って走り抜けたそんな時代があった。

だがそれも地方レースの衰退とともに少なくなり、昔のようにレース業界の専売特許に戻っていた。

 

「戻ってきたのか」

 

「いや、違う。始まったんだ、すでに今までにない規模で世界中から声が上がっている」

 

見るか?チャティが差し出した資料を梟は手に取る。そこにはURAファイナルズに参戦を表明した世界各国からの挑戦者、そしてそれに呼応してURAファイナルズに技術提供を行う企業や技術集団の名が連なっていた。

GA、オーメル、レオーネメカニカ、ローゼンタール、トーラス、グランダーIG、アクアビット、ラインアーク、BFF、テクノクラート、レイレナード。

クレスト、キサラギ、ミラージュ、ムラクモ、ゼネラルリソース、ニューコム、アラサカ、ミリテク・インターナショナル・アーマメンツ、カンタオ、テクトロニカ、トラウマチーム。

かつて地方ウマ娘レースで見かけた企業達の名前が、あるいはレースでは見かけたことのない名前が、まるで憶えのない名前が、ずらりと並んでいる。

 

「彼らはURAファイナルズに出走を表明した勢力にそれぞれついていたが、彼らの助力を願うものは日本だけでも大勢いる。

群馬だけでもいつもの連中では足りないからな、世界規模となればこれでも手が足りないレベルだ」

 

「目標は同じだからな、そうもなるか。連中からすれば、製品を使って走るウマ娘は多いほうがいい」

 

「シマカゼタービンが紡いだ縁もあるだろう…だが彼女に勝負服を作ることはできない、作ったところで受け取ることはない」

 

「あいつはあまり好まんからな」

 

「彼女の立つ頂を目指すならウマ娘は無茶をする。この勝負服はその時こそ真価を発揮する」

 

命が助かるなら最悪は裸にひん剥かれてもかまわない。勝負服その物が衝撃を分散吸収、時に壊れることで衝撃を軽減し、若いウマ娘の命を守る。

その模索のために群馬トレセンは制服から体操服に至るまで、防弾化をはじめとしたあらゆる対策を取り続けてきた。それがついに顕著に出てきたのだ。

 

「どんな無茶でも受け止める、受け止めたうえで必ず守る。もう死装束とは呼ばせない」

 

勝負服とは時に死に様を飾る死に装束となる、そうなるように勝負服は設計されている。何をどう対策しようと事故は起きるのだ。

不測の事態を起こさないために勝負服はある、不測の事態から守るために勝負服はある、しかしその想定をはるかに超える可能性をウマ娘たちは秘めている。

その先に待つのは栄えある輝かしい栄光かあるいは底知れぬ闇、このような世界を生きるウマ娘たちへの最後にできる手向けなのだ。

せめて奇麗な姿で旅立てるように、大好きな自分で逝けるように、きっとそんな優しさから生まれたデザイン性という存在だ。

 

「ダイオー、どうだ?」

 

「最高だよこれならどんな無茶だってできるよ」

 

「当然だ、肉体の保護と肉体性能を阻害しない徹底した効率化、そして使った時の面白さを追求した。ボスの傑作だ」

 

「ほぅ?なかなかの自信じゃないか」

 

「だってこれ、すごいんだよ。今までやりづらかった対空まで完璧、上下左右全部についてくる」

 

「…足りんな?そういう顔をしている」

 

梟の問いにホクリクダイオーは黙ってテーブルの上に置いたままの新聞を広げる。

そこには順当に中央の数あるGⅢのうち一つを蹂躙し、圧倒的大差で中央に実力を見せつけたシマカゼタービンの大見出しがあった。

ホクリクダイオーにとって、目標であったジャパンカップはもはや前菜に過ぎない。

メインディッシュは栄光も名誉も伴わない年末のお祭りレース、URAファイナルズ。

そこに向けて群馬の3強はすでに準備を進めている、そこで愛すべきUMA娘との決着をつけるために。

ずっと待ち望んでいたのだ、ずっと願っていたのだ、彼女が抜けたことで空いた穴を埋める、願い続けていた勝負を付けるときが巡ってきたのだ。

最強は己だと、今度こそ背中で親友に語るために。

 

「最高なのは本当、でもタービンならきっとこっちの想定なんて軽く超えてくるよ。ほら、最終時速92キロ、記録更新だってさ」

 

「コンスタントに時速90キロを超えてくるか」

 

「だいぶ中央の芝に慣れてきたみたい、本番ならサーキットレベルに仕上げてくると思うよ」

 

「恐ろしい話だな」

 

梟の脳裏によぎったのは鈴鹿サーキットの一般開放日に一人生身で走ったシマカゼタービンの姿だった。

アスファルトの路面を全力で走るシマカゼタービンの姿は美しく、そして車に迫るほど速かった。

芝を走るよりも、砂を走るよりも、彼女はアスファルトの路面を走ることに素のまま特化していた。

当時のその姿を知るものはそこにいた人間だけ、その姿が世間に知れ渡ることなどなかった。

 

「お前が目指す先は、その頂か?」

 

「まさか、その先だよ」

 

ホクリクダイオーの目は本気だ。

難儀なものだな、梟は自分の弟子の姿を見てシマカゼタービンの気持ちを思ってため息をつきかけたが我慢した。

この可愛らしくも不出来な弟子がこうやってやる気を出しているのに水を差したくない。

そもそもこれが彼女の決めた道ならば、それを止める理由は梟にはなかった。

ホクリクダイオーが望むような結末には到底ならないだろうとしても、それが彼女の選んだ道なのだ。

 

「僕は勝つ、中央で勝って、世界で勝って、峠でも勝つ。タービンに勝つ、昔みたいに勝つんだ」

 

「力みすぎだ」

 

バカ者が、梟は叩く意思を滾らせて未来を見据えるバカ弟子の頭を軽くはたいた。

はたかれた頭を摩って見上げるホクリクダイオーの目に曇りはなく、純粋な戦意に満ちている。

ウマ娘とは難儀なものだ、横に並びたいのならただ彼女の横にいてやればいいだけなのに、彼女はそういう存在であるだろうに。

解っていても、心のうちにある闘争心はそれを良しとしない。遊びできっぱりと終わりにするタービンがまだマシに見える。

 

「中央には後がない。ただでさえタービンにコテンパンにされてるのに、ツバキとノルンにもやられてるのだぞ?

お前にもここで勝たれたら連中の立場がない、ここまで築き上げた何もかも木っ端微塵だ」

 

すでにツバキプリンセスがエリザベス女王杯を、ノルンファングが天皇賞・秋を取った。

地方所属のウマ娘がここにきて2連続で中央重賞の、それもGⅠレースで勝利を飾ったのだ。

これで次を警戒しないほうが可笑しい、最後発のホクリクダイオーは一番警戒されているレースを走ることになるのだ。

 

「窮鼠猫を噛むってことか」

 

一応の忠告に一応の返事を返したホクリクダイオー、その姿はさほど気にしてないようにも見える。

その様子に内心だが梟は、中央にここで底力を見せてほしいと願っていた。

せっかく先の大炎上大騒ぎも鎮火して、世間の空気は徐々に戻りつつあるのだ。

より一層本腰を入れて、日本ウマ娘レースは中央にありと言わしめてもらわないと困る。

時期が最悪になってしまったとはいえ、せっかくの愛弟子の晴れ舞台なのだ。

環境が悪くて消耗して、練習が不十分だから負けましたなどと言い訳をされてしまってはこちらとしては反論しようがない。

それだと困るし不愉快だ、中央には全力を出してもらい、こちらも全力で当たってそれを上回らなければ意味がない。

 

「中央がただのネズミなモノかよ。ネズミはネズミでも戦車のネズミが出てくると思っとけ。あれをぶった切るのはちと骨だぞ」

 

「へーい」

 

「まったく…難儀なモノだな」

 

こんな時代に生まれて荒波にもまれる若い愛弟子の姿が、梟にとっては少し眩しく思えたのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

11月27日、東京レース場、ジャパンカップ、芝2400メートル。

ゴールラインを越えた先で、ホクリクダイオーはついに初の中央GⅠの冠をいただいたことに嬉しさを感じつつも、その出来栄えに満足していなかった。

確かに激しいレースだった、素晴らしいレースだった、世界最高峰というにふさわしい最高に数えられるレースだった。

しかし自分には足りない、あまりにも足りない、自分を満足させるレースではまるでない。だって、息が上がりすらしていないのだ。

一息ついて、額に流れる汗を拭う。思考は鮮明、視界は良好、体は万全、今すぐに次のレースに飛び込める状態を維持している。

連戦に次ぐ連戦を行うために、シマカゼタービンに食らいつくために鍛え上げたこの体は、たった一度のレースで消耗しきることはない。

一戦を走るだけでも足腰にガタが来るような速度が、攻め込みが、加速が、駆け引きが、ジャパンカップにはなかった。

圧倒的な速度も、狂ったような攻め込みも、上限なしの加速も、上下左右のどこでもコースにする何でもありな駆け引きもない。

シマカゼタービンならやれたことだ、シマカゼタービンがいくらでも与えてくれた、超えるべき壁があった。

中央にはそれがない、お行儀が良すぎてどうにも緊張感がない、だから落ち着いて対処できてしまった。

無論、それを望むことが間違いなのはわかっている。中央は中央、地方は地方、世界は世界、峠は峠だ。

だから顔には出さない、余裕綽々でも不満は覚えない。だが心の内では比べたっていいだろう?

背後でもう息が上がって肩で息をしているハーツクライは、シマカゼタービンに啖呵を切ったと聞いている。

なかなか思い切りがいいウマ娘だろう、一戦を走るだけでぎりぎりな体力だがそれでも勝てると豪語した。

まぁ、今さっきホクリクダイオーに最後に差されて敗北を喫しているのだが。

背後から感じる驚きと恐怖の視線に颯爽と背を向け、ホクリクダイオーは堂々と誘導員に従ってウイニングサークルの中へと入る。

熱狂に湧く観客席に向かって堂々と指を立てる。その数は3本、群馬地方トレセン学園が中央からもぎ取ったGⅠの3本目という意味だ。

 

「嘘だろ、まるで息が上がってないぞ」

 

「なんつー体力してやがる」

 

「あのテイオーもどきまで化け物体力かよ、地方はどんな育成してやがるんだ…」

 

ウイニングサークルの中にまで聞こえてくるファンたちの中から聞こえる言葉に、ホクリクダイオーは鼻で笑う。

この程度で化け物体力だとは笑わせる。その程度で群馬のウマ娘を語ってもらっては困る。

なぜならホクリクダイオーは知っているからだ、自分たちが波状攻撃のように模擬レースを仕掛けても平然と走り切り全勝をかましてくるウマ娘が群馬にはいる。

それに食らいつくために体力バカになったウマ娘たちを知っている、連戦なんて当たり前なのが群馬地方トレセン学園だ。

さてここで一発かます時間だ、ホクリクダイオーは熱狂する観衆と戦々恐々とする中央のトレーナー達に向けて指を差して声を上げた

 

「みんな!僕の名前を言ってみろ!!」

 

「「「「ホクリクダイオー!!」」」」

 

「そう、僕はホクリクダイオーだ!トウカイテイオーでもなけりゃそのパチモンでも何でもない!」

 

これまでさんざんネタにされてきたトウカイテイオーとよく似た姿、さんざんパチモノといわれて笑われてきたこの姿。

しかし今、ホクリクダイオーは確かな実力を示してここにいる。もう偽物とは言わせない、パチモノなんて言わせない。

そして何より、もう地方所属だからという色眼鏡なんて通用しない。

 

「僕達は世界を目指す」

 

競争ウマ娘ならだれでも考える夢、誰でも胸に秘めている夢。

 

「地方だけじゃない、中央だけじゃない!世界にもこの名を刻む!!ここはまだチェックポイント、折り返し地点にすらなってない。

ファイナルラップにゃ程遠い、まだまだスタート直前だ。いいかお前ら!僕達は来たぞ!!」

 

ツバキプリンセスがやってきた。ノルンファングがやってきた。そしてシマカゼタービンがやってきた。

 

「群馬の、高崎の、アラサカの、芦名峠のホクリクダイオーはここまで来た!!地方の僕らがここに来たぞ!!」

 

中央で名前を刻んだ、次は世界だ。そしてその先へ進む、どこまでも走り続けよう。

その権利と義務がある、レースに勝ち、レースで夢を砕いてきた、勝者としての責務がある。

だから一歩、引いたうえで宣言する。わかるヤツにはわかるように、言葉にしないで宣言する。

 

「僕達は走る、そして勝つ!その権利と義務がある!!」

 

勝ちたいんだろ?ならまず僕達を超えてみろ。超えられなくてあいつに勝てるわけがないだろう。

 

「覚悟しな、僕達は強いぞ」

 

だがシマカゼタービンはもっと強いぞ?

 

 

 

 

 






あとがき
そろそろここらでいったん話を終えて、URAファイナルズに突入したいのでちょいと風呂敷をたたみます。
勝負服に関するあれこれは独自設定です。でもまぁ、ね?ああいう世界だし、奇麗なほうがいいよね?
え?レース?そこになければないですね(目逸らし)
なのでお詫びに勝負服姿の群馬3強を置いときます。初期案からずいぶん変わってしまいましたが、満足です。
背景とか細かなところは目をつぶってください、AI生成なので。
そしてこんなのと幼馴染な拓海とイツキや普通に懐かれてる池谷先輩らは周りから見るとやっぱり勝ち組である。
絶対にレース前に峠で普通にこの格好をお披露目してるし自慢してるに違いない。


ホクリクダイオー

【挿絵表示】


ツバキプリンセス

【挿絵表示】


ノルンファング

【挿絵表示】




自前の胸部装甲は生かさねばならぬ…
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