無限列車編前後で、煉獄さんが自宅で過ごした姿を描いています。
普段は控えめなご次男も、この時ばかりは大きな足音を立てて廊下を走り、ご長男がお帰りになられることを台所にお伝えくださるのです。
そうとなったら、まあ大変なことです。
急いで釜戸の火をおこし、お米を一升炊いて、お野菜をふんだんにご用意し、ご長男のお帰りをお待ちするのです。
ご長男がご不在の時は、旦那様とご次男のお部屋の辺りしか灯りを点けないのですが、ご長男がお帰りになると玄関から隅のお部屋まで灯りがともるのです。
陽が落ち、ご長男のお声がお屋敷に響きますと、ご次男も大変お喜びになって、お迎えに上がります。
ご長男はお疲れの様子を微塵も感じさせず、お屋敷を出るときと変わらない笑顔とお声でお話をされていらっしゃいます。
しばらくぶりのご兄弟の笑い声とともに、灯りも一層明るくなるようです。
ご長男がお仕事の汚れを落とされていらっしゃる間に、お食事の準備を整えてお待ちします。
ご兄弟の談笑の合間に、うまいうまいと大きな声が台所まで聞こえてくると、使用人達はついついクスリと笑ってしまうのです。いつもの聞き慣れた言葉ですが、こればかりはなぜか。
それでもお褒めの言葉は嬉しいもので、どうしてもほおが緩んでしまいます。
普段は食の細いご次男も、兄君とご一緒の時はたくさん召し上がられてよろしいことです。食べ盛りのお年頃なのですから、普段からこのくらい召し上がっていただきたいものです。
今回のお仕事も見事にやり遂げられたお祝いにと、お酒を勧めてはみましたが、すぐに酔ってしまうからとやはりお断りされてしまいました。ご成人されていらっしゃるのにも関わらず、お酒を嗜まれないのは、旦那様のお姿を見ていらっしゃるからでしょうか。
急ごしらえのお食事でしたが、ご長男は満足そうに召し上がってくださいました。
しばらくはご在宅とのことでしたので、明日は町へ出て、旬のお野菜や、良い食材を買い出しに行って参ることにいたしましょう。
またたくさん召し上がっていただけるかと思うと、大変ではありますが、腕を振るう甲斐があるというものです。
ご長男が大変危険なお仕事をされていらっしゃるのは承知しておりましたが、いつも笑顔でお屋敷を後にされ、大きなお怪我もなくお帰りになるので、それが当たり前と思っておりました。
ご長男が再びお仕事にお出になられて数日後、いつものように鎹烏が庭先にやってまいりましたが、お帰りの伝令を聞く事はできませんでした。
烏の鳴き声はなく、代わりにご次男の泣き声がお屋敷中に響き渡ったのでございます。
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あの日以来、お屋敷の灯りは最小限となりました。
お食事は旦那様とご次男のお二人分のみ。
元々あまりお召し上がりにならない方々ですから、お米、お味噌や梅干しの減るのがだいぶ遅くなりました。このままでは、次の仕込みの時期までに無くなることはないでしょう。
時々聞こえていた兄弟の笑い声は一切無くなり、聞こえるのはご次男の泣き声と、旦那様の不機嫌なお声と、怒号。
頻繁に出入りのあったご長男のお仕事先の方々のご訪問も徐々に少なくなり、
お屋敷がこの状態ですから、お暇いとまを願う使用人も出てまいりました。
旦那様とご次男のお二人だけでしたら、少ない人数でも何とか切り盛りできるでしょうけれど、なんとも寂しいことでしょうか。
二度とお会いできなくなってから、強く強く思うのです。
ご長男殿。
あなたは、