1-○もあとこれ含めて2話くらいですかね。
日もだいぶ落ち、あと1時間足らずで夜を迎える龍門の街。ビルや店、車、電灯に光が付き始める。
その中、一台の大型トラックと一台のスポーツカーが
クリスマスイブの惨劇は刻一刻と迫っていた。
~~~~~~
「タウウェンさんのことはあまり気にしないでね。あの人、最近取引の仕事が連続しててね、少し疲れてるの」
「…そうか。それにしても彼、随分とマイヤに熱心だったような気がするが、狙ってるんじゃないか?」
「フフッ、そんなことないわ。だって私、アナタの妻よ?タウウェンさんもそれは分かっているはずよ」
「だといいが…」
ここは30階の、一番端にある仮眠室。とは言ってもそこらの仮眠室とは違い、何から何まで上品質で、トイレ、洗面台もとても豪華な装飾がしてある。
ジュンはマイヤに連れられて、今ちょうど顔を洗っている最中だった。
冬用のコートを脱いで、やっと一息つける空間でジュンとマイヤは1ヶ月ぶりにたわいもない世間話をしていた。ここでなら感染云々での時間制限もないので好きなだけ、妻とゆったり過ごせる。妻も流石に1ヶ月間も夫に会えなかったのか、会話の話題が尽きることがない。もちろん、明日の家族でのクリスマスの段取りもだ。
「―っていう感じなのだけど…。あと、グムちゃんやゾーヤちゃんたちも誘おうかと思っているのだけれど、どうかしら…?アナタが構わないなら誘おうかと思っているのだけれど」
「ゾーヤたちをか?……あぁ、別に構わないさ。日頃からリーリと仲良くしてもらっているからな」
「ありがとう!これは久しぶりにグムちゃんに負けないくらいに腕を振るわなきゃね!アナタも楽しみにしててね!」
「あぁ…わかったよ」
これからの予定に楽しそうにワクワクしているマイヤ。しかし、ジュンは彼女とは反対にどこか顔が暗い。
そしてジュンは意を決してこんなことを聞いてみた。
「なぁ…、マイヤ」
「うん?どうしたの?」
「実は下の受付でな…。お前の名前を検索したんだが…」
一度、一息を入れて、つかの間の静寂を切って言い出す。
「お前の姓がな、『シェフトヴァ』になっていたんだが、どういうことなんだ?」
「?…あぁ!それね。実は―」
一瞬?を頭に思い浮かべるマイヤだが、ポンと手をたたいて思い出したように言い出す。
「実はね、タウウェンさんに言われたのよ。ここでは旧姓で名乗る方が良いって」
「…は?タウウェンが?」
「私も
「それで、シェフトヴァって名乗ってるのか?」
「うん。あ、一応皆さんには紹介時に夫がいますよー。って言ってるから、皆さんは承知してると思うけど……アナタ?どうしたの?」
「……うん、大丈夫、なんでもない」
マイヤについては…うん、いつもの天然さが発揮して、わざとではないことは薄々わかっていた。どうやら、これが俺に対する当てつけだって言うことも彼女は察していないし、どういう意味なのかもわかってはいない。よかったとジュンは安堵する。
しかし、問題は
「アナタ?」
妻の声でハッとする。いかんいかん、最近は独り言が多くなってきたな。
リラックスして顔を上げると、妻が心配した顔をしていた。どうしたんだ?
「アナタ…最近大丈夫?なんか前見た時よりも痩せているように見えるけど…」
「…」
「声もなんだか元気がないように見えて…もしかしてどこか具合でも―」
「大丈夫だ」
マイヤの心配を遮って一蹴する。
「じつは前々から太ってきてな、ダイエットを勧められたんだけどな。勧められたダイエット方法がすっごい効果でな!痩せて見えるのもそれが理由だ」
「そう…?」
マイヤはジュンの体、顔を見つめる。体は見えづらいが、前は来ていた服もピッタリで服のしわやぶかぶか感がなく、サイズがあっている感じだったけど、今着ている服はところどころだぼっとしている。
とくにマイヤが心配しているのは顔だ。髭は剃っていて清潔感は保っているのだが、眼の下には隈ができており、頬もなんだか痩せこけて、前はふっくらした顔が、今では見る影もなく細く見える。
ハッキリ言って健康状態とは言えないことは医者ではないマイヤでも見てわかった。
「でもやっぱり、お医者さんに―」
がちゃり!
部屋のドアが大きい音と共に突然開き、二人ともビックリする。入って来たのは…、
「や~ん❤」
「「……」」
「おぉっと!…ど、どうも失礼…」
どうやら盛った男女だった。マイヤはドアの方を見た瞬間に顔を逸らす。少し顔が赤くなっており、熊の耳も落ち着きがないのかピコピコと動いている。
一方のジュンは、心底冷めた目で盛った男女が部屋から出ていくのを見送る。
変な空気になってしまった。
「…その、あまりやりすぎには注意してね。その姿はリーリも心配するから…」
「…あぁ分かってるよ。でも明日のために痩せてたきたらな…!」
「「……」」
あのバカップルども、どうするんだこの空気。
~~~~~~
一方で、紅雀タワー付近では地下駐車場へと入っていく大型トラック、そしてトラックと別れたスポーツカーは紅雀タワーの(さきほどジュンが降りたところの)駐車場で停まった。
受付の人は監視に移った大型トラックをみて不審に思ったが、ガラス越しに移った、スポーツカーから降りた二人の人間に意識が向いたのだった。
~~~~~~
先程のバカップルのせいで変な空気にはなってしまったが、ジュンが再度切り出す。
「…マイヤ」
「は、はい…」
「ここに来た理由なんだけど…、じつはお前に大切な話が―」
すこし、しどろもどろになりながら返事をする、まだ顔が赤い妻。
ジュンは落ち着いて、妻に会いにここに来た、
が―、
コンコンコン。
「「!」」
ドアのノック音で話が遮られる。ジュンはマイヤに、ドアをノックした人に入る許可を目で伝える。マイヤもそれを読み取り、どうぞ。と声をかける。
「失礼します。あっ、すみません。お話の最中に…」
「どぅも~、気にしないでください。マイヤに何か用で?」
ドアを開けてきた女性に対し、ジュンは先ほどとは180度違う態度で挨拶をする。
「えぇ、マイヤさん、リー社長がパーティーの締めにスピーチを一言を、とのことです」
「えぇ、わかったわ。でも…」
マイヤがジュンを見る。大切な話だと言うので、先に切り出した彼の方を優先させたいのだろう。だがジュンは気にしない様子で、
「いいよ、気にしないで行ってきな」
「……わかったわ。じゃあ行ってくるね。ごめんねアナタ、すぐに戻ってくるね」
「おう!行ってらっしゃい」
マイヤがジュンに一言謝罪をして部屋を後にする。女性の方も彼に一礼してドアを閉める。
ぽつんと一人残ったジュンはため息を吐き、洗面台の大きな鏡に写った自分を見る。
うん、酷い顔だ。ただでさえブサイクな顏が隈と痩せこけた頬も相まってさらに酷く、まるで死人か死神の顔のようだ。
「この馬鹿が…」
写った自分に対して吐き捨てる。
「何ヘタレてるんだ、えぇ?今日はキッチリ話すって言っただろうが」
ベッドに置いたショルダーバッグに目線を向けて、もう一度ため息をする。
「…もう、これしか
ふと何かを思いついた彼は、とあることをやるために洋風トイレの便座(蓋されたままの状態)に座り、
「―よいしょっと」
靴と靴下を脱いで裸足になった。
今回のおまけは無し
次回、いよいよ奴らの登場、です。