第一高校の学食の母ちゃんと、目の腐った用務員の話

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魔法科高校の母子

なに?一高最強は誰かって?

 

おいおいそんなこと知ってどーすんだ?たまにいるんだお前みたいに“最強”という器に挑もうとする命知らずが。

 

…やめとけ。もともと一科生(ブルーム)二科生(ウィード)のにらみ合いも激しい上に、色んな派閥がある場所だ。その中でも強ぇ奴っていったら格がちがう。悪いことはいわねぇ。デカイ顔したいだけなら中学に帰んな。

 

………なに?なら土産話にでもそのテッペンの話聞かせろ?お前さんも好きだねぇ

 

 

まずは別格の怪物が4人…

 

『鉄壁』十文字克人

『妖精姫』七草真由美

『さすがお兄様』司波 深雪

『お新香つけとくよ』乙女

 

四つの勢力がにらみ合い、微妙な均衡状態を保ってるんだ。

ケンカ最強は誰かって?おめーじゃ足下にも及ばねぇ猛者ばかりよ。

 

特に十文字と七草といやぁ十師族でも高い地位にあり、校内でも風紀委員と並んで三巨頭と呼ばれる豪傑。まぁ高い地位にあるだけあって、表だって暴れることはねぇんだが。

 

…現役ってゆーと、司波深雪かね。1年でありながら色んな記録を塗り替えてやがるし、その兄はなんかやべぇ雰囲気を持ってやがる。十文字は部活連で武道派の奴等に慕われてるし、七草もその美貌と優秀さから、多くの信奉者を抱えてるらしい。

 

 

 

………乙女の勢力?あれはただの食堂のスタッフ。頼んでもねーのにオマケつけたがる、ただの人情家のお節介ババアさ。勢力も信者もいやしねーよ。

 

…ただ、あのばばあの皺だらけの顔を曇らせようなら、黙っちゃいねぇ奴がいるのさ。十指族だかテロリストだろうが関係なく、影も掴ませず蹂躙する化物が。

 

 

何処にでもいて、何処にもいない。腐った目をしたーーー化け猫が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年には、記憶がなかった。

そして、いつだって一人だった。

 

自分が何処(だれ)から生まれたのかも解らず、

これまでどのように生きてきたかも解らず、

この先どのように生きていくかも解らない彼の前に

 

 

チリン…

 

一匹の黒猫が現れた。

 

 

ナァァァウ…

 

「うん、わかった。いくよ…」

 

 

 

衰弱した彼でもついて行ける速度で歩く黒猫を追って辿り着いた先は

 

 

とある、墓地だった。

 

 

 

 

その墓地の中の一つの墓石の前に、線香の煙を纏いながら手を合わせる一人の女性。

 

 

 

「誰か…死んじゃったの…?」

 

少年は悲しそうに微笑む女の傍らに立ち、訊ねる。彼をここまで案内した黒猫はその御母堂の膝に甘えている。

 

 

「私の息子でね。馬鹿な子だよ、八郎…。旦那が死んで、『これからは俺が母ちゃんを守る』なんて言った矢先に交通事故だなんて…」

 

 

その御母堂は、「ふうっ」と溜め息にも似た笑みを溢して、目を潤ませて墓に訊ねた。

 

 

 

「どーすんだい…。母ちゃん一人残して…『猫を拾ったから、見せに行く』だなんて、結局、生きてる姿も見せてくれなかったじゃないかい…」

 

 

見れば、その墓に供えられた線香皿の横に人の墓に似つかわしくない物がひとつ。

 

血に汚れた(・・・・・)、鈴のついた赤い首輪。

まさに、その御母堂の膝にじゃれつく黒猫が着けた首輪と全く同じ作りの首輪が。

 

 

 

「これから、あたし一人で生きて行くのかい?…あたし一人で、母ちゃん一人で…」

 

“一人”。

彼女がその言葉を口にした途端に黒猫は甘えるのやめ、美しい眼で少年を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼくが、いるよ」

 

 

 

 

 

 

 

「ぼくが、おばさん守るから。八郎さんと、猫さんの代わりにはならないけど、ぼくがおばさんが寂しくないように一緒にいるから…」

 

 

「………そうかい…ありがとうねぇ…」

 

 

「いいの?ぼくが一緒にいても…」

 

 

「いいんだよぉ、一緒にいてくれたらあたしももう寂しくないよ。…あんた、名前は?」

 

 

「………わかんない」

 

 

 

「そぉかい。なら、つけてあげないとね」

 

御母堂は墓に供えられたその首輪を持ち上げ、刻まれた『千』の文字を見て頬を緩める。

 

 

「千ちゃんか…。あんたには、八郎よりも、千ちゃんよりも長く生きてもらわなきゃね…八幡(はちまん)

 

 

 

いつの間にか、黒猫は消えていた。

 

 

二人は、手を繋いで歩き出した。

 

 

 

チリン…

 

ナァァァァァ…

 

何処からか聴こえた猫の鳴き声に、

 

「うん…」

 

少年が一つ頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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国立魔法大学付属第一高校の校門にて、

 

 

 

新入生総代司波深雪をめぐり(笑)、森崎駿率いる1年一科生数名と、司波達也ら二科生数名が衝突した。

 

 

 

 

森崎「だったら教えてやる!これが(さいのう)の差だ!」

 

 

チリーン…

 

ーーーーガンッッッ!!!

 

「こばやしッ!!?」

 

 

達也「ッ」

深雪「なっ」

 

 

「「「きゃああああああああああ!!!!!」」」

 

 

森崎の放つ攻撃魔法が、予想外のタイミングで通りかかった用務員に直撃した。

 

精霊の眼(エレメンタル・サイト)を持つ司波達也でさえその男の出現を予測出来ず、その用務員の被弾を防ぐことが出来なかった。

 

男は攻撃の衝撃で地面を転がり、打ち所が悪かったのか頭部から流す血でアスファルトを汚した。

 

 

 

 

真由美「貴方達!何をしているの!!?」

真理「風紀委員の渡辺摩利だ!怪我人が出た!全員この場で拘束する!」

 

「バカな…」

「どーすんだよ…クソッ」

 

真由美「死傷者が出た以上この場は犯罪現場として調査が入ります!全員その場から…動…かずに…」

 

 

緊迫感のあった生徒会長“七草(さえぐさ)真由美”の声が驚きで尻すぼみになってゆく。皆がそれに「何故?」と不思議に思っていると…

 

 

達也「さっきの用務員は何処だ…?」

「「「!!!?」」」

 

達也の声に全員に衝撃が走り、全員が周囲を見渡すと、確かに森崎の攻撃魔法に被弾し、致命傷が明らかであった用務員が忽然と消えていた。

 

 

摩利「馬鹿な!怪我人はどこにいった!?」

真由美「そんな…あんな怪我で」

 

 

深雪「お兄様…流れてた血の痕も見当たりません…」

達也「あぁ、周囲に気配も見当たらない。現れた時と同じように、煙のように現れて煙のように消えた…」

 

 

真由美「………どうするの?摩利…」

摩利「………クッ。怪我人が出たことを証明出来なくなったが、我々が見た現場を水に流すことは出来ん。………森崎、君が人を傷つけたという事実もな」

 

森崎「………申し訳…ございません…」

 

真由美「処分は追って通達します。この場は全員解散して下さい…」

 

 

誰もが不気味さと不完全燃焼感を憶えながら散り散りに解散した。

 

後日、森崎駿の教職員推薦での風紀委員加入の取り消し、及び1週間の停学が決定したそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまぁっす…」

 

第一高校の学食の奥の用務室に、グレーの迷彩色のツナギをだらしなく着た男が帰った。

 

「ちょっと八郎!もう夕飯の時間過ぎてるよ!何してたの!?折角つくったご飯が冷めちゃうよ!」

 

「………八幡ですよ乙女さん」

 

「母ちゃんと呼びな母ちゃんと!」

 

「………」

 

男は相変わらず名前を間違えるくせに自身を「母」と呼ぶことを強要する御母堂に頭を抱える。

 

 

 

 

「八郎、母ちゃんに何か言うことない?」

 

「………また…パーマあてた?」

 

「お新香の味が変わったんだよ!どーして長年食べてた母ちゃんのお新香の味のちがいがわからないの!」

 

母同然の存在の、あんまりな怒りの理由に()は溜め息を重ねる。

 

「長年食ってたおばさんの味つけが変わっても食う前に当てられるわけないでしょ」

 

「口答えすんじゃないの!アンタはもうホント人のアゲ足ばっかりとってェ!! 」

 

「えぇ……」

 

「ほら!ご飯出来てるよ!さっさと手ぇ洗ってきなさい!」

 

「うっす…」

 

「返事は『はい』だよ!まったくぅ…アンタはシャキッとしないさいシャキッと!」

 

俺は乙女さんの作った夕餉の香りを浴びながら、袖を捲りながら洗面所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

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新入生勧誘週間初日の昼ーーーー

 

 

用務室に第一高校学食調理師、黒板乙女の声が響いた。

 

乙女「あんた!いつまで寝てんのホントもう!ほら起きる!お昼だよ」

 

「うぅ…いやいいです…今日は要らねぇっす…マッ缶だけ飲んでまた寝る…」

 

頭上から降ってきた声に、抱き枕と同衾して(イチャついて)いた俺の意識は強制的に覚醒させられる。

 

 

乙女「馬鹿言ってんじゃないの。そんなんじゃ午後から仕事にならないでしょうが!」

 

「う~んうぅ…うわっちょっ、ちょ…もうホント勘弁して。午前で仕事は全部終わらせたから………せめて、せめてMAXコーヒーを…」

 

乙女「いい年こいてそんなモン飲むじゃないの!シャキッとしないさいホントにもう!」

 

「うぅ…おはようございます…」

 

乙女「あーもうそんな目やにつけた顔ではやく顔洗ってらっしゃい!!」

 

「うぅ~い…」

 

乙女「あ、何を食べるんだい?」

 

「鮭茶漬けで…」

目を擦りながら俺は洗面所へ向かった。

 

 

 

 

 

美月「あの…こんにちは…。えっと、冷しゃぶ定食をお願いします…」

 

エリカ「あたし!生姜焼定食ー!」

 

 

八幡と入れ違いに柴田美月と千葉エリカが来訪し、昼食を注文して乙女がそれを受ける。

 

 

乙女「あらおはよう。ご飯は?中盛り?大盛り?」

 

美月「えっと…少なめで…」

 

乙女「何言ってんのあんたそんな眼鏡かけて!しっかり食べないから目悪くなるんだよ!」

 

俺が戻ると、乙女さんが眼鏡でやたらアレが豊かな女子を割と理不尽な理由で叱っていた。

 

 

「……それ眼鏡関係ないでしょ乙女さん…。普通に少なめにしてやれば?」

 

 

乙女「何言ってんのあんたそんな目腐りかけて!」

 

「………よかった…今日はまだ腐ってはいないんだな」

 

乙女「口答えすんじゃないのあんたはもうホント人の揚げ足ばっかりとって!!顔洗ってきたんだね?ほーらキレイになった。男の子は格好よくしてないと女の子に嫌われちゃうわよ!」

 

「うへぇ…」

 

 

エリカ「あーあんた!あの時の…?」

 

「ん?なに?」

 

赤髪の女子が俺を指差しで大声を出したと思えば、勝手に首を傾げる。

 

 

 

 

美月「エリカちゃん?どうしたの?」

 

エリカ「何処で会ったような気がしたんだけど…あれー?」

 

美月「そういえば、私も何処かで…」

 

眼鏡女子と赤髪女子が揃って首を傾げていると、乙女さんが笑って俺を紹介し始める。正直やめてほしい。

 

 

乙女「八郎わね、ここで清掃員をしてるから何処かで見かけてもおかしくないよ。一応お嬢ちゃん達と同い年だから見かけたら話しかけてあげてねお嬢ちゃん達」

 

 

「仕事中は話しかけないでくれ。仕事のない時はここで寝てるから放っといてくれ」

 

 

乙女「何言ってんのあんた!いい加減友達の一人もつくりなさい!」

 

俺の言葉にトメさんが怒るが、母親のこういう発言って意外と子供を傷つけるのよ。あぁ、俺ホントに友達いないんだなぁって改めて知らされる。ぴえん。

 

 

 

乙女「ホントにもうしょうがない子なんだからご飯どーするの大盛り?中盛り?」

 

「んじゃあ…中盛りで…」

 

乙女「何言ってんのそんな痩せた体で!男の子はね、ちょっと太ってるくらいが丁度いいの!ほら食べな!お新香いっぱいつけといたよ?」

 

とびきりの笑顔でトメさんから俺はお茶漬けと5種類の漬物がのったトレーを受けとる。

 

「………うっす…」

 

 

乙女「残さず食べるんだよ、ちょっとゴミ捨ててくるから」

 

「ん、いただきます…」

 

エリカ・美月「「いただきます!」」

 

………なんでわざわざ近くに座るんだよ…

 

 

 

 

 

美月「あの、八郎さん…」

 

「八幡だ」

 

エリカ「あれ?でもあのおばちゃんは…」

 

八幡「よく間違えるんだ。…まぁ、用務員とでも憶えてくれ」

 

エリカ「名前憶えさせる気ないんじゃない!」

 

美月「ふふふ、八幡さんで良いんですよね?私は柴田美月といいます」

 

エリカ「あたし、千葉エリカ」

 

八幡「………」

 

お新香をポリポリしながら俺は頷く。

 

美月「八幡さんは、その…どうして働いていらっしゃるんでしょうか…。なにか特別か理由でも…」

 

八幡「別に敬語じゃなくていいぞ。まぁそれが楽ならいいが…俺が学生をやめて働いてるのは単純に、数学をやりたくないからだ」

 

エリカ「そんな理由!?」

 

八幡「勉強しない理由に『したくない』以上の理由はいらないだろ?」

 

エリカ「呆れた…」

 

美月「ふふふ…面白い人ですね、八幡さんは」

 

千葉は額に手を当てて溜め息をつき、柴田はコロコロと笑った。

 

 

 

 

 

 

乙女「もの食べながら喋るんじゃないの!ちゃんと噛むんだよ?20回噛んでから飲み込みなぁ!」

 

 

八幡「………………1…2…」

 

美月「うふふ…」

エリカ「あはははは!!」

 

 

 

 

 

 

 

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とある昼休み、校内に公式ではない放送が響いた。

 

 

 

『全校生徒の皆さん!!』キィィィィィン…

 

八幡「………んぁ?ぅぅん?………ちっ」

 

響くハウリング音に起こされた。

 

 

 

 

『僕たちは、学内の差別撤廃をめざす有志同盟です!』

 

その内容は、『二科生の待遇改善の為、生徒会と部活連との対等な交渉要求する』という演説。当然、彼等は放送室の使用の許可などとっていない。マスターキーを盗んだ上で放送室へ立て籠る犯罪行為だ。

 

彼等に対する意見は3つに別れた。

 

生徒会は更なる暴走をさせぬ為に様子見を、

風紀委員は短時間での解決を目指す強硬突破を、

部活連の十文字は、交渉に応じても良いが犯罪行為は看過出来ぬ。しかし学校設備を傷つけてまでの強硬手段はいかがなものかと決めあぐねていた。

 

 

そんな時、放送室内部にいた壬生紗耶香(みぶさやか)のプライベートナンバーを所持していた達也が直接交渉して突破の糸口を開こうとしたが………

 

 

ーーーーチリーン。

 

「ッ。……んだおま………」

「何処から………おっ」

「きゃっ」

 

 

放送室内部がにわかに騒がしくなり、

 

 

ガチャ…

 

 

八幡「あーすんません。うわっ…」

 

黒いインナーの上にグレーの迷彩色のツナギをだらしなく着た、鈴のついたネックレスを首にぶら下げた、目の腐った用務員が顔を出し、その場にいた全員の注目を受けていることに気づくと露骨に嫌そうな顔をした。

 

年の頃は達也達と変わらないくらいだろうか。

 

八幡「あー…掃除は終わったのでそこ通してもらえます?」

 

 

片手に持ったゴミ袋を見せて不機嫌そうに溜め息を吐いた。

 

 

克人「あ、あぁすまない…」

鈴音「お疲れ様です…」

 

八幡「どーも…」

 

 

男は背中を丸めて髪をボリボリを掻きながらその場を後にする。

 

 

「………」

「………」

「………」

 

皆がしばらく歩き去っていくその猫背を眺めていたが

 

 

摩利「いや誰だあれは!?」

 

堪えきれなくなった渡辺摩利が激昂すると

 

深雪「………用務員の方では?やけに若かったですが」

 

深雪が苦笑いをしながら答える。が、そんなことで納得するものなど誰もいない。

 

摩利「中はどうなっている!?」

 

摩利が慌てて開きっぱなしの扉から中を除くと、

 

 

 

「「「………」」」

 

 

あまりの予想外の展開に皆が口を開けて放心していた。

 

 

 

鈴音「………えっと…」

 

生徒会所属の市原鈴音も少しばかり頭を抱えていたが…

 

鈴音「とりあえず全員外でお話しませんか?拘束は致しません」

 

諦めて再度場を持ち直すことを提案した。

 

有志の者達も頷く他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。生徒会長七草真由美と有志同盟の討論会が行われてる頃。

 

 

 

乙女「さーて八郎。夕飯はカレーにするからね。お腹空かしておいで」

 

八幡「八幡だってトメさん…」

 

乙女「あたしゃ母ちゃんだよ!」

 

八幡「はいはい…」

 

 

第一高校には学食の調理場の奥に用務室があり、そこで二人が少し遅めのお昼を食べていた。

“第一高校学食調理師”黒板乙女と、“第一高校清掃作業員”八幡である。

 

八幡はいつものグレーのツナギを着ながら乙女の用意した昼食を食べ、空になった食器類の前でパンッ…と手を合わせた。

 

 

 

乙女「八郎!ちゃんと口に出して言うんだよ!まったく男はちゃんと挨拶も出来ないで…」

 

八幡「………ごちそうさまでした…」

 

乙女「はいお粗末様でした」

 

 

八幡に笑顔で返す乙女に溜め息をつきながら、立ち上がった。

用務室の台所には既にカレーの準備がしてある。量的に考えて残った分は明日生徒や教職員に振る舞うのだろう。

 

この時代学食のメニューなどほとんどボタン一つで出来るのでこうしてわざわざ自ら材料を揃えて調理する必要などないのに、相変わらず世話好き面倒好き節介好きな母ちゃんだ。

 

俺は親孝行者なので一生この人の脛を齧って生きていこうと思いました(マル)…あれ?作文?

 

 

 

だが、もしこのあと校内で騒ぎがあり、それがあまりに大きくなればあのカレーも無駄になるのだろうか…。

 

 

 

 

八幡「………じゃ、また仕事行ってくるわ、トメさん」

 

 

乙女「ちょっと………」

 

八幡「………なに…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乙女「いってらっしゃい。“八幡”」

 

 

八幡「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ふふふ…

 

 

 

くくく…

 

 

八幡「………うっす。いってきます …“母ちゃん”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

摩利「結局、何も起こらなかったな…」

 

親友である七草真由美の演説を聞き終え、摩利が溜め息をついた。

 

鈴音「はい。無事にすんで何よりです」

市原も安堵の表情を浮かべながら手を叩き、

 

深雪「よかったですね、お兄様!」

深雪も兄の袖を掴み笑みを浮かべた。

 

 

…が、

 

 

達也「いや、既に始まっていたようだ。………あるいは終わったらしい…」

 

達也はステージ袖から走り出し、外へつなぐ扉を開きグラウンドを見る。

 

深雪「お兄様!」

摩利「司波!」

真由美「司波君!」

 

続き走ってきた者達が達也が開けた扉から外を見ると

 

 

 

摩利「これはッ!?」

深雪「いつの間に…」

 

 

 

数百はいるであろう武装したテロリスト達がグラウンドに倒れ付していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「全員気を失っている…が、外傷は見当たらない…」

 

 

達也が倒れているテロリストの様子を観察していると、討論会に出席していなかった千葉エリカと西城レオンハルトが其処にかけよる。

 

 

レオ「達也か!」

エリカ「達也君!」

 

達也「レオにエリカか…。何があったかわかるか?」

 

レオ「悪い…何もわからねぇ」

エリカ「あの武装してる奴等が急に来たと思ったら、一人ずつバタバタ倒れていったの…」

 

 

達也「そうか…。ところで、他に侵入者は見なかったか?」

 

遥「彼等の狙いは図書館よ」

 

達也「小野先生?」

 

遥「こちらを襲ったのは陽動ね、それがどうして倒れいったのかは私にもわからないけれど、主力は既に侵入しています。壬生さんもそっちにいます」

 

カウンセラーの小野遥は訳知り顔で話すので達也が後で説明するように求めると

 

遥「却下します…と、言いたいところだけど、そうもいかないでしょうね…。その代わり、一つお願いしてもいいかしら…?」

 

達也「なんでしょう」

 

遥「カウンセラー小野遥としてお願いします。彼女に機会を与えてほしいの。壬生さんは去年から剣道選手としての評価と魔法師(二科生)としての評価のギャップに悩んでいた。私の力が足りなかったのでしょうね…結局、彼等に漬け込まれてしまった…だから!」

 

 

 

達也「甘いですね」

 

 

一言のもと、達也をそれを却下し移動をはじめる。

 

 

達也「いくぞ深雪」

 

深雪「はい、お兄様」

 

レオ「おい達也!それはちょっと冷たいんじゃないか?」

 

達也「レオ、余計な情けで怪我をするのは自分だけじゃないんだぞ。俺達は図書館へ行く」

 

レオ「チッ、俺も行く」

 

エリカ「私も!」

 

 

 

 

 

 

 

 

エリカ「ところで、あの武装した奴等はいったい何なの?」

 

達也「ブランシュ。…この国の魔法体制を壊そうとするテロリストだと思ってくれていい」

 

レオ「テロリスト?それじゃ、問答無用でぶっ飛ばしちゃってもいい相手なこね?」

 

達也「生徒でなければ手加減無用だ。…だが…」

 

深雪「一体誰が、どの様にこれだけの数を無力化させたか…ですか?」

 

達也「ああ。方法はともかく、どうやって俺達に知らせることもなく鎮静化させたのか、正直検討もつかないな…」

 

レオ「近くで見ていた俺達でさえ、何もわからなかったからな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼等は図書館内部に入り込んだ。

 

 

 

 

 

達也「階段の登り口に二人…階段を登りきったところに一人…………二階特別閲覧室に四人………だな」

 

エリカ「すごいね。達也君がいれば待ち伏せの意味がなくなっちゃう。………実戦では、絶対敵に回したくない相手だな…」

 

達也「だが…」

 

「「?」」

 

達也「特別閲覧室にいる一人を除いて、全員が倒れている。………すでに制圧済みか?」

 

「「「!?」」」

 

レオ「おいおいマジかよ…」

 

深雪「いったい誰が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也、深雪、エリカ、レオが特別閲覧室に踏み入った時、壬生沙耶香は管理機器のひとつに腰かけていた。

 

 

達也「そこまでだ。お前達の企みは、ここで潰えた」

 

沙耶香「司波君…」

 

「ぅぅん…?はっ!?まずい!!」

 

「逃げろ壬生!指輪を使え!」

 

倒れていた男達が目を覚まし、達也達に気づくと慌てて懐から煙幕を取り出し地面に投げつける。

 

「「うおおおおおおお!!!!」」

 

エリカ「はあっ!」

レオ「らあああ!!!!」

 

煙の中で攻撃を仕掛けてきたテロリスト達をレオとエリカが圧倒し、深雪は右手を構え魔法を放つ準備をするが…

 

 

煙が晴れたとき、壬生沙耶香は変わらずそこにいた。

 

沙耶香「………いいえ。投降します」

 

「「なっ!?」」

 

達也「………意外ですね」

 

沙耶香「もう、私が間違っていることは教えてもらったからね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙耶香「一年以上前から司主将は剣道部員たちに魔法による差別の撤廃を目指すよう訴えかけていました。主将に連れられてブランシュの支部にいったこともあります。お兄さんが日本支部の代表を務めているらしくて…」

 

怪我等のなかった壬生沙耶香は応接室のソファーの上で、司波兄妹、エリカ、レオ、真由美、摩利、克人に囲まれ訥々と語った。

 

 

沙耶香「私は入学してすぐの時に二科生だからって差別された出来事があって…それももう…間違いだとわかったんですけどね…。そのせいで、主将の話に聞き入ってしまったんだと思います」

 

 

達也「その出来事とは?」

 

沙耶香「剣術部が勧誘で騒ぎを起こした時、それを静めた渡辺先輩の魔法剣技を見て感動したんです。だから先輩に一手、ご指導をお願いしたんですがすげなくあしらわれてしまって…」

 

摩利「なんだって!?壬生、それは本当か?ちょ、ちょっと待て。その時のことは憶えている。だが私はすげなくあしらったりはしてないぞ」

 

沙耶香「………はい。渡辺先輩は、私の剣技の腕を認めた上で、『自分の腕では務まらないから、その腕に見合う相手と稽古してくれ』と、自分から相手を辞退してくれました…」

 

摩利「………だったら…」

真由美「どうして?」

 

沙耶香「…洗脳…です。司主将のお兄さんは、特殊な目を持っているようで相手に洗脳をかけることが出来ます。私は、今日まで『お前では相手にならないからムダだ。自分に相応しい相手を選べ』と言われたと、記憶を歪められていました…」

 

 

克人「なん…だと…」

深雪「卑劣な…!」

 

沙耶香「私…馬鹿みたい…。勝手に先輩のこと誤解して、自分のこと、貶めて…逆恨みでこんなこと…」

 

 

壬生沙耶香は涙を流し悔いていた。洗脳され、踊らされた自身の不甲斐なさを。彼女が泣き止むのを、皆が黙って待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

達也「さて、問題はブランシュの奴等が今何処にいるかということですが…」

 

真由美「待って司波君、まさか彼等と一戦交えるつもりなの?」

 

達也「その表現は妥当ではありませんね。叩き潰すんですよ」

 

摩利「危険だ。学生の分を超えている…!」

真由美「私も反対よ。学外のことは警察にまかせるべきだわ」

 

達也「………そして、壬生先輩を強盗未遂で家裁送りにするんですか?」

 

克人「なるほど…。警察の介入は好ましくない。だからといってこのまま放置することも出来ない。だがな司波、相手はテロリストだ。俺も七草も渡辺も、当校の生徒に命を賭けろとは言えん」

 

達也「当然だと思います。最初から委員会や部活連の力を借りるつもりはありません」

 

克人「一人で行くつもりか?」

 

達也「本来ならそうしたいところなのですが…」

 

深雪「お供します」

エリカ「私も行くわ」

レオ「俺もだ」

 

 

沙耶香「待って司波君。私の為にいくと言うなら…」

 

達也「別に壬生先輩の為じゃありませんよ。自分の生活空間がテロの標的になったんです。俺と深雪の日常を損なおうとするものは全て駆除します。これは俺にとって最優先事項です」

 

 

 

 

「「「「「ーーーーッ」」」」」

 

 

 

その迷いのない言葉に、殺意さえ感じるほど冷たい意思に、皆が言葉を失った。

 

 

彼女を除いて。

 

 

 

沙耶香「そう。それでも、やめて。ーーーもう、手遅れだから」

 

 

 

 

深雪「あの、壬生先輩。手遅れとは…?」

 

 

壬生沙耶香は、懐から二つの小型端末を取り出した。

 

 

沙耶香「盗聴機と、発信器です。司主将のお兄さんに御会いした時につけました。盗聴機には、私がブランシュに連れていかれた日からの音声データも入っています」

 

摩利「まさかーーーー!!」

真由美「自分への洗脳と、ブランシュの目的をわかった上で潜入捜査していたの!?」

 

克人「いったいいつから、ブランシュを裏切り、それに反する活動をしていた」

 

沙耶香「わかりません…」

 

克人「わからない…なぜだ?」

 

騒ぎを「それがいつだったか…おそらく今日だとは思います。でも誰だったのかもわからないけど、ある人に言われたんです」

 

 

『ーーーーうわ…洗脳(NTR)されてんじゃん…』

 

 

 

達也「洗脳を見破り、打破したのはその人の力によるものだと?」

 

 

沙耶香「わかりません。でもそれから、私には昨日まではなかった記憶があるんです…。これまであった記憶と合わせて二つ…私には二つの記憶が入り交じっているんです。入学してから司主将に連れられて洗脳をされた記憶と、洗脳にかかった振りをしながら動いていた記憶…。確かに私は騙されて、利用されて、それに気づかなかったはずなのに、時々頭の中に黒猫のような男が入ってきて、そして気づいたら、彼等の悪事の証拠と記録を残して、知られず妨害までしていたんです…。

まるで、“騙されている私”と“騙されていない私”が同時に存在している(・・・・・・・・・)みたいに…」

 

 

 

沙耶香「でも恐らく、私にこれを施した人が全てを終わらせている筈です…」

 

 

真由美「なぜ、そう言いきれるの…?」

 

沙耶香「わかりません。あの人に関する記憶は朧気なので…でも、司波君と同じようなことを、言っていました。同じなのに、まったく似ていないことを…」

 

達也「その人は、何を…?」

 

沙耶香「『カレーが無駄になる…』」

 

「「「?」」」

 

 

 

 

 

 

『あなたの自分への立場の不満は、誰よりも冷遇されたことがないからです』

 

『誰よりも冷遇されたことがあります?魔法に、人に、生き物に、世界に冷遇され、拒絶されたことありますか?世界において誰よりも“ぼっち”だと思わされたこととか』

 

『雨風に身体を貫かれた経験は?日の光に皮膚を焼かれた憶えは?大気や衣服に押し潰されられそうになったことは?昨日一緒に遊んだ奴等に、同じ釜の飯を食った家族に忘れられた喪失感はご存知?』

 

『世界から拒絶されたら、立場とか平等とか差別とか言ってらんねーぞ』

 

 

 

 

 

『慰めと優しさを求める相手を間違えたな馬鹿(ビッチ)が。そういうのは男じゃなくて、“母ちゃん”に求めるべきだ』

 

『第一高校学食及び宿直室担当。四天王だなんだ言われてるが、あの人は基本的にただの母だ。俺の母ちゃんで、皆の母ちゃんだ。グレートマザー“乙女”。今度から愚痴垂れるはあの人にしとけ。いいことはちゃんと褒めてくれるし、悪いことは五月蝿いくらい叱ってくれるさ』

 

 

 

 

深雪「壬生先輩…その目はいったい…」

 

 

沙耶香「え?」

 

 

沙耶香の片目は、宝石(ダイヤモンド)のような碧の瞳の中に黒い瞳孔を糸のように細めていた。

 

 

まるで、八幡をあの墓へといざなかった仔猫のように。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

反魔法国際政治的組織“ブランシュ”。

彼等は武装していた。並の魔法師が乗り込んでこようと確実に殺すに足ると信じる武装をした、20を超す数の兵士が第一高校の近くの廃工場にて陣取り、談笑していた。

 

その時、

 

 

「だからよぉ、あの高校ガキの集まりにしてはなかなか粒揃いだっただろ?だから数人見繕って拉致ってーーーー」

 

 

「ぎゃははははは!どーしたんだよおい。おーい!」

 

「なになに急に?そいつ酒でも飲んでーーーー」

 

 

「あれ?お前はどーした?っておい」

 

 

突如、言葉を交わしていた仲間達がバタバタと倒れ始める。まるで見えない何かに衝突したように身体をひしゃげさせ、声も出さずに地面に倒れ付す。

 

 

「ッ、また。なんなんだいったい!」

 

「おいおいやべーんじゃねーのか!?まさか誰か侵にっ!?」

 

 

「なんだなんだなんなんだよ!!?」

 

 

原因不明に次々に倒れていく仲間達の姿に男達は遅すぎる危機感を抱きいよいよ震え出す。それは武装を施した者達はもちろん、支部の代表であり一切の武装をしていなかった司一(つかさはじめ)は誰よりも強い恐怖に襲われ敗走する。

 

 

「お待ち下さい代ひょ」

「ぐッ」

 

 

聞こえてくる部下達の悲鳴を聞きながら見えぬ敵に背を向け工場のより奥へと逃げ走る。

 

 

「だ、代表!!何事ですか!?」

 

司一「敵襲です!全員私の周囲で戦闘体制に入りなさい!部屋に入るものがあれば即刻射殺して構いません!」

 

 

 

「りょ、了解です」

 

「厳戒態勢!」

 

司一「ふふふ、そう、そうです。油断さえしなければ我々が堕ちる筈はない。こちらにはアンティナイトだってあるのだ、負ける筈がない」

 

 

優勢を取り戻した司一が卑劣な笑みを浮かべていると、一人の兵士が敵の詳細を聞くために近づく。

 

「代表、一体敵はなにもーーーー」

 

 

その男が、倒れた。

 

 

司一「ーッッッ」

 

 

「だ、代表!これはいった…」

 

また一人倒れる。

 

 

司一「な、なにが…」

 

 

司一は頭を抱えまた震えだす。

 

 

司一「いったい誰ですか!姿を現しなさい!」

 

 

 

チリーン…

 

 

 

カシュッ…

 

「うぃーっす…」

 

そのグレーの迷彩色のツナギを着た目の腐った男は、やたら毒々しい黄色の缶コーヒーのプルタブを開けて満足そうに飲み下しながら、無愛想に挨拶をした。

 

 

司一「な、何者ですか貴方は!?」

 

 

八幡「…ぷはぁ!なんだツミはってか。そうです私がぼっちの清掃員です」

 

グビグビと缶コーヒーを飲み腐った目を満足そうに細める。

 

 

司一「せ、清掃員…?」

 

八幡「ちがう。重要なのはむしろ“ぼっち”の方だ。だから注目されたくなくて人数減らしてきたんだから」

 

 

減らした(・・・・)”という言葉で司は目の前の男が部下達を戦闘不能にしたのだと確信し、即座に部下達に命令を下す。

 

 

 

 

司ー「射殺しなさい!!」

 

司の命令でテロリスト達がたった一人の侵入者へ向けた百発を超える弾丸は確実に八幡をとらえ蜂の巣にした。

 

 

だが

 

 

ガンッ!!!

 

 

司ーのすぐ隣にいた男が八幡に足蹴にされ、コンクリの上で強く頭を強く踏みつけられる。

 

八幡「いったいな。…なに?ぼっちの話には聞く耳なしですかそうですか」

 

 

 

司一「ッ、くっ、ふははははは!!!よくわかりませんがいいですね貴方のその力…是非我々の同士になるがいい!!!」

 

 

司ーが左手でCADを操作し右手で八幡の胸ぐらを掴み催眠魔法を発動し、その瞬間は八幡の身体が見えぬ手で殴られたように激しくグラつくが…

 

 

 

八幡「だからやめて下さいよ…。ぼっちは目ェ合わしたり注目されんの苦手なんだから…」

 

 

司の手から消えた八幡がまた別のテロリストの頭に踵を振り下ろし意識を奪っていた。

 

 

 

司ー「な、何故だ!何故だ貴様!!何故私のイビル・アイが効かない!?」

 

 

八幡「………二人称は『貴方』じゃなかったんすか?キャラブレブレじゃねぇか」

 

 

 

 

八幡は溜め息をついて再度MAXコーヒーに口をつける。

 

 

 

司ー「あ、貴方の魔法がどんなものか知りませんが…」

 

ーーーーーーーーーーーー!

 

司一「どうだ魔法師!このキャスト・ジャミングの中では手も足も出ないでしょう!」

 

 

司と部下が自らの真鍮の腕輪(アンティナイト)にサイオンを流し込むとキャスト・ジャミングが発生し八幡は魔法無効空間に閉じ込められるが…

 

 

 

 

 

ぐびっ…

 

空になったマッ缶をコンクリに落とし、

 

 

カーン…

地面より跳ね返った缶を強く蹴りつけると

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!

 

 

 

音速を超えた物体(マッ缶)は司一の頬を掠めその背後の壁に穴を穿ってその空間から消えた。

 

 

 

司一「っえっ…」

 

 

 

 

八幡「生憎、俺には魔法は使えねぇよ。マジでスプーン一つ曲げられない、マッ缶開けるのが関の山だから何の仕事もまかせないでマジで…」

 

 

 

また一人、また一人と八幡に鎮められる。

 

 

 

バラララララララッ

「死ねぇ!死ねッ!」

 

例えキャスト・ジャミングを浴びさせられようと、幾百の弾丸に貫かれようと八幡はまた無傷であらわれ手足を振るい、その度にテロリストが地に倒れ付す。

 

 

司一「き、貴様は…一体…」

 

 

 

 

彼の振るう蹴脚は、

突き刺さす拳は、

 

決して無駄な破壊を、

 

影響を生み出さない。

 

 

 

 

世界は八幡()を認識しないのだ。

 

缶に穿たれた穴もいつの間にやら消失している。

 

振るった拳はヒットしようとも衝突音を発さず、トラックの衝突にも匹敵する拳で殴られた者は吹き飛ぶこともなく、また衝撃が音や振動として拡散されることもなくダイレクトに殴られた者の身体にのみ留まりそれだけを壊す。

 

 

故に、誰にも認識されずその痕跡を残さない。

 

 

 

 

箱を開ける(対面する)まで決してわからない。

 

存在も希薄。現れては消え、消えては顕れる。

 

 

 

誰にも捕らえられず、留まることも容易ではない。

 

 

 

彼は意思を持つ、自己観測する「シュレディンガーの猫」。

存在自体があやふやな確率の世界を跳ね回る一匹の黒猫。

彼が自分を認識する限り、彼はどこにでもいてどこにもいない。

 

 

 

そんな彼が唯一守ることを誓った約束(くびわ)

彼がこの世に留まるただ一つの楔。

 

 

「息子だよ。黒板乙女の息子だ」

 

 

「むす…こ…?」

 

チリーン…

 

 

 

 

「どうせ憶えられやしねぇ…」

 

 

コツ…コツ…

 

 

 

「道端の猫なんていつか忘れる。そういうもんだ…」

 

 

 

ビーーーッ!

 

 

「んじゃ、清掃員(しごと)して帰りますか」

 

 

 

 

 

 

 

1時間後、司波達也等が廃工場へと突入すると、全ての武装したテロリスト達が外傷もなく気絶しているのが確認された。

 

 

工場内最奥の部屋で寝ていた彼等も同じく怪我などは一切確認されなかったが、唯一他の部屋の者と違ったことは

 

 

 

部屋の中にいるテロリストたちがガムテープで一括りに纏められ、

 

 

一人は『生ゴミ』

一人は『資源ゴミ』

一人は『可燃ゴミ』

 

 

そして、司一の額には『ただのゴミ』と書かれたメモが貼られていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり八幡。カレー出来てるよ」

 

「ただいま母ちゃん」

 

「手ぇ洗ってらっしゃい」

 

「うっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

 

 

あれ、マッ缶どこいった…

 

 

 

ま、ま、四葉真夜( まーやん)かよオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

あるかな…(笑)

 


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