刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

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14.刃、血濡れて 投稿するあたり13.獣の情緒 も加筆しておきますのでそちらもご観覧して頂くと幸いです。

目次に改稿マークがなければ今しばらくお待ちください。


14.刃、血濡れて

 ここで避ければ獅童達(後ろ)に直撃するッ!!

 

 

 確然たる『紅蓮旋(ぐれんせん)』の構えに疑う余地などない。

 型の術理は理解し(わかっ)ているんだ。問題にすべきはこの状況。

 後ろには人質。しかも相手は殺せないときた。

 ならばこの状況下でとるべき選択肢は御刀の破壊。

 土公型(あらがみ)で向かい受けるべく柄頭まで持ち手をスライドさせ、紅蓮旋の軌道たる水平真横斬りに合わせようと始動を待つ。

 狙うは刃の平地。御刀の修復は困難になるだろうが命を取るよりもマシな選択肢だ。

 

 しかし、命懸けとは読み合い。

 

 殺し殺される世界に身を置き続けてきた中央にとっての常識だが人生を修練に捧げてきた菫もそれは同じこと。このまま始動すれば当然、獅童達も紅蓮旋の餌食になることは百も承知で、だからこそ女装男(相手)もこの技を防ぐ為に動くのはわかっていた。

 

 なんと容易いことか。

 

 充分過ぎる間合いに入ると左腕を動かすが同時に右手もスライドして柄頭へ握りこむが空いたすき間が間髪入れず左手で覆われる。

 破邪の御太刀の軌道が真横から急激に斜めに切り替わると継ぎ目もなく振り下ろされた。

 

 

 紅蓮旋じゃないだと!?

 

 

 打ち付けられた逆袈裟斬りにすんでのところで大胸筋上部の肉が削がれたがどうにか致命傷は避けることができた。

 しかし、にやつく獣の斬撃(キバ)は獲物を喰らいつくす為に刃に血塗ることを止めない。

 

 

 体勢を立て直してる場合じゃねぇ!

 

 

 内心で舌打ちながらも視野を二百度目配りしながら次の防御に移る。

 息つく暇もないまま獣の眼光が鋭さを増す。

 

「ンフ――」

 

「ウラァア゛ア゛ー-!!!」

 

「フフフ……ダハ、はァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!!」

 

 男の叫声(おらびごえ)と女の咆哮が鳴り響く金属音と雑じる。

 高められた筋力から放たれる袈裟斬りを中央もまた真っ向から袈裟斬りで迎えうち、刃と刃が重なり膠着した。

 力では押し負ける。刀身同士の鍔迫り合いに持ち込んだ瞬間、瞬時に判断を下すと両手を絞るように捻じり刀を回転させ、土公型第二式――岩喰(イワグイ)――を始動させる。

 

「――なァッ!?」

 

 武芸者としてあるまじきなんとも間の抜けた声が漏れ出し、空所の下を奔らせてしまう。

 刀身が回転した一瞬間で御刀どころか金城 菫自身の姿かたちごと行方を眩ませた。

 この現象は刀使ならできる芸当。獅童 真希や此花 寿々花、皐月 夜見もやろうと思えば可能であり、当然、同じ刀使である菫と中央も不可能なことではない。

 にもかかわらず一時的なことだとしても不覚にも失念してしまった。いくら同じ流派の同じ型を扱ったとはいえ彼女は刀使なのだ。武芸者などではない。

 

 

 クソッ、迅移か! マズイッ!!

 

 

 自分自身への敵意、そして気配の無さに菫が別の(・・)標的にネライを変えたのを瞬時に理解し、百八十度の転回と同時に縮地を繰り返す。

 


 

 

 なぜ東西南北はこちらに向かってくるんだ?

 

 

 金城の姿が見えなくなった直後にとてつもない形相の彼が迫ってくる。鬼の形相と言って差し支えないだろう。彼が纏う写シ以外モノの所為でそう見えるだけかもしれないが。

 焦っているようにも見える。距離が縮まるほどにそれは顕著だ。

 

 

 金城……? そうだ、金城はどこだ? 彼女は今どこにいる?

 

 

 彼女が東西南北ほどの強者を目の前にして飽きるなど。今年の御前仕合、『一刀』に負けたはしたがそれでも投げ出すことなど無かったハズ。

 正眼に構えた薄緑(うすみどり)を崩すさぬまま周囲を窺い――――猛烈な圧と。

 

 

 まさか東西南北さんでも金城さんを止めることが厳しいとは、思いも寄りませんでしたわね……。

 

 

 狂乱する菫の強さに寿々花の頬は若干の引き攣りを見せるがそれでも東西南北さんならどうにかしてくれる。何故だかそんな根拠のない確証だけが沸き上がる。だから彼を信じ続けよう。

 九字兼定(くじかねさだ)の切っ先が天を向き――――暴風を携えた獣が。

 

 

 金城さんは調子を上げ、東西南北さんは攻めることをしない……これはひょっとすると。

 

 

 チラチラと後ろを見ながら警戒してみるが膨れ上がる圧に体中がひりつく。あの荒魂(・・・・)を鎮めた

東西南北 中央という男ならこの状況もすぐに打開してくれるのだろうと見当していた。

 しかし状況は今一つ芳しくない。だとしても今はただ、やれる事をやる(・・・・・・・)。過信する相手でもないし盲信するほど愚かでもない、まして彼に対して狂信に到りはしない。

 余計なことをして彼が退職するようなことにでもなれば前と変わらないままの日々。必要とされなくなってしまう(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 いえ、今は自分がやれる事を(・・・・)しましょう。彼の枷となるべき行動をとるのはいただけませんね。

 

 

 反芻と大息(たいそく)が終わるとギュッと水神切兼光(すいじんぎりかねみつ)の柄に力が(はい)――――一瞬だけ音を立てて少女達の横目に入る。クシャクシャに乱れた菫色の髪が重力に従いゆったりと落ちきる前に巨刀を支える腕は弾き鳴らして、真横から奔る。

 逸り走って、奔る。

 怖気が奔る。まだ来るハズのないと思っていた生の死が目の前に迫る。

 

 動かない。動けない。

 

 ――――バクバクバクバク

 

 ドラムが高速で連打され続けられるように心臓の鼓動が激しく鳴り止まない。死に際に直面するとはこういうことなのか。白刃が。振りぬこうとする腕が。無造作に舞うマフラーが。何もかもがスローモーションで映る。ここで死ぬのか?

 

 

 


 

 

 

 ああ、そうだ。どうせ遅かれ早かれ喰らうのに変わりない。だったらもうこの三つの鼓動に加減する必要はない。鍛えた大腰筋、大腿直筋、ハムストリングに内転筋、臀筋群(でんきんぐん)腓腹筋(ひふくきん)、そしてアキレス腱と八幡力を付与した脚力が掛け合わさり迅移が相乗する。

 後は紅蓮旋で葬れ(喰らえ)ばメインディッシュは更に極上の味になるに違いない。締めは強きモノの血液で潤そう。

 

 

 間に合えやッ!

 

 

 (スミレ)の雑念が中央に僅かな猶予を与える。

 

「――ボッ……」

 

 ああ……されど無常。天が与えたのは時間だけ。

 

「……………………………………………………………………東西(よも)南北(ひろ)?」

 

 突如現れた金城を追い駆けてきたハズの東西南北の姿が見えない。

 確かに目の前にいたんだ。金城の御刀がボクらに触れそうになった瞬間に東西南北が現れて、それで……それで? あれ? どうなったんだっけ?

 顔にこびりついた不快感を手で拭うと手に巻いた包帯が赤色に染まっていた。痛みがないから自分(ボク)がケガをしたワケじゃない。じゃあ、誰が出したモノだ? 此花か? 皐月か?

 すぐ近くにいた二人を見る。此花も皐月も世界が停止したかのように瞬きを忘れ口を開けっぱなしにしてそれ(・・)を見ている。なぜ見ているんだ? 二人とその視線の先を繰り返し何度も追うがああ、やっぱりそれ(・・)に行き着く。

 この僅かな時間でそれ(・・)はみるみるうちにほぼ総てを拭ったときと同じ赤色に彩られていた。そこから時を待たずナニカ(・・・)が降り注ぎ異質な音が耳に残った。

 

 


 

 

 

 彼女は確かに強い。御前試合でこそ立ち会う機会はなかったがそれでも自分より腕は立つのはわかる。だけど、東西南北 中央よりは強くない。そう思っていた。

 だってそうでしょう? 一度立ち会っただけの人に、刀使だと言われてもにわかには信じられないような男の方に出会ってすぐに力量差もわからず圧倒されたのですから。

 彼は強い。恐らく縁様と同等、もしかしたら縁様以上なのかもしれない。自分では計り知れないことだとそう疑う余地などないと思っていた。でも現実は違った。

 彼は斬られた。だけど、そこからなにがどうなったのかわからない……。目の前でナニカ(・・・)が吹き飛んだのが辛うじてわかる程度。

 それから……ナンデ、ワタクシハウゴクコトガデキマセンノ? ドウシテ、シドウサンヤサツキサンガヨコタワリナガラウゴイテイマスノ? ドウシテコンナニ……サム……イ――

 

 

 


 

 

 ああ……また(・・)、彼が死ぬ。私の目の前で。

 白い髪も、黄枯茶色の親衛隊服にプリーツスカート、中に着た黒いストライプの入ったブラウスも、身に着けたグローブも、白いニーハイブーツも何もかもがああ、赤く染まる。染まる。血で空が染まる。

 舞う胴体()を見ても特になにも感じず、次第に空中分解していく両手を目にして「あっ……」と、私は声を漏らした。口を開けていたのが悪かったのだろう。血塗れの身体の次は咥内に血が侵入してくる。

 マズい……。

 血を放出する感覚は慣れてきたが口から血を取り込むなんて行為は未経験だったがああ、これは経験したくはなかった。

 大、中、小の塊がバラバラと落ちてから一陣の風が通り過ぎる。先ほどの音とは違いゴトッ、とそれなりに大きい音が聞き取れた。音の方へ視線を動かす。

 今度は此花さんだったモノの上半身と下半身が別れている。次は獅童さんか。その次は私。

 ああ……私も――

 御刀を放した瞬間と同じく私の意識も肉体から離れた。

 

 

 


 

 

 

 空と地面が代わる代わる入れ替わる。自分ではどうしようもなく視界が回転し定まらない。時折り見えた呆ける三人の空いた口が塞がらないさまはバカ面で笑える。これからは三バカと呼ぼう。いや、バカは自分か。『選択』をミスったのだから。他人をバカにできねぇなこれじゃあ。

 などとくだらないことを呑気に考えていると胸筋下と舌に衝撃が襲う。どうやら地面に不時着したみたいだ。直立したみたいに立ってやがる。はは、落下後からピンポイントに立てるとか物理法則はどうなってやがるんだ? ツイていんのかコレ? まぁ身体は付いてねぇんだけどな。

 ナニカが抜ける感覚が寒さとともにやってくる。

 いよいよ俺も終わりか……。

 此花の胴体が落ちる様を見、悲鳴すらあげない獅童の首が吹き飛ぶ。

 このザマじゃ俺がいてもいなくても結果は変わらなかったか 

ああ、いや指示出したの俺だったな…………。 皐月の胴が飛び跳ねてくる。仰向けになっているお陰でいつも通りの無表情が見れた。皐月が恐怖に怯えてはいないのかと、ただ安心した………………ああ、色々と俺もバグりだしたみたいだな。

 すまねぇな、お前等……役に立たなくて。

 

く゛……ほ゛ふ゛ぉ

 

 血とともに吐き出した声はなんとも呆れるほどか細い声。消えかけの意識の中、最後に残った金城 菫が何か言ったような気がしたところで意識は途絶えた。

 

「なんだこんなものか。せっかく東西南北(・・・・) 中央が戻ってきたって聞いていたのに(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

.

 

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 深い深い底の見えない真っ暗闇に男は沈んでいく。地上もなければ空もなく無重力空間、或いは水中のように潜行していくがここへ来たのも自分の意志ではない。

 

 縁あってのことかここに辿りつく。

 

 底といっていいのか沈む意思のない男は静止した。

 

 コツン、コツン……。反響する靴音が男に近付いてくる。

 

「あーああーあ、何やってんだか。来んの早過ぎだっての」

 

 靴音の主は一つため息をつき、腰に両手を置いて制服姿の少女が死体(それ)を見下し呆れる。

 

「次は間違えんな――」

 

 右足を後ろに引き続けて僅かに溜めをつくると一気に解放し振り抜く。

 

「よッ!!!」

 

 蹴り足が前にでると勢いは増し死人(しびと)は遥か彼方、地平線の先へと見えなくなった。

 

「もう……来んなよ」

 

 フォロースルーを終えてもまだその先を見つめる。

 

「バカ……」

 

 少女は踵を返して歩く。

 

 人目を気にしないのか辿り着いた先でスカートを整えることなく「どっこいしょ……」と、そう言って胡坐をかく。

 

 目の前には幾つかの『扉』がそこに在り、それ以外にはなにも無い。

 

 立てた膝を揃え、両脚を両腕で抱えてから膝で頬を休ませて独り呟く。

 

「少し、眠ろ」

 

 顔を膝に埋めてゆっくりと、静かに深い眠りに堕ちる。

 

 彼が望む限り時間は無限にある。

 

 きっといつか。

 

 彼が望み、彼の意志でちゃんとした形で会えるその日まで。

 

 意識が遠のく中、そう願い、少女は静寂と深い無に包まれた。

 

「ここでずっと待ってるよ。ずっと……」

 

 

 

 

The end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたなは、そこにいますか?

 

 

 

 

 




ADV・AVGでよくあるbadend.ただそれだけです。


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