まさか高評価頂けるとは思ってもみなかったです、はい。
読んで面白いと感じて頂いけたのなら幸いです。
末尾加筆しました。
「――
「――金城さん……!」
土煙が晴れ、刀使たる巨女――
写シを解いた彼女の視線が捉える先に
「カカカ、前回ぶりだから御前試合のとき以来だったかな。けどこうして近くに寄れば分かる……」
ゆっくりと首を傾けると彼女の名前と同じである――やや青みの濃い紫――菫色の髪もつられて揺れる。
「ヒヒ、イヒヒィ……来て正解だぁ。
真希も寿々花も一度だけ見たことがある。あれは合同討伐任務のときだった。彼女が
「少しぐらい味見してもいいよね……」
「ま、まて、金城ッ! ボクらは――」
「いただきまぁ――――すぅッ!!」
地を見ていた切先がいつの間にか天に掲げられ――再び地へと振り下ろされる。
「ッ!」
「――!?」
「……うぅん?」
唐竹割りから繰り出された斬撃に肉を斬る感覚がなく地面に衝撃音だけが鳴り響く。
いきなり二人まとめては無粋と思い最初は獅童のみに狙いを定めたのは余計な考えであり要らぬ心配だった。
「此花ッ!?」
ラグビーのタックルを思わせるように組み付かれた後、すぐに真希は抱きかかえられ薄白い僅かな像とともに二人は菫との距離をとってはみるものの、菫と
「なにをぼさっとなさっていますのッ! あの状態になったときの金城さんは
「もしかしたら自制心が働いてくれるのかと期待していたんだけどね……」
「人間、短期間でそう易々と簡単に変わるものでもありませんわよ。性格や考え方なんてそうでしょう?」
「なまじ強者の高みにいる所為か裏隠居や
「他の荒魂もこの場にはいませんしああなってしまった以上、彼女が飽きるのを待つ他ありませんわね」
荒げた声はすぐに鳴りを潜め、冷静に。沈着に。慎重に。次はどうするべきかの思慮を巡らせる。短慮などしようものなら死は免れない。なぜなら相手は金城 菫。親衛隊入りが確実とされていた長船女学園の代表ともいえるべき刀使。
滅多なことで感情を露わにする少女ではないのだが、なにがトリガーになるのか。時として、
あの裏隠居
ついては。
「それだけに回避は困難か。写シを張っていても一撃でも貰えば重症は免れない」
「あの斬撃力、場合によっては即死は免れませんわね」
「もういいかい、二人とも」
待つのは飽きた……。
悠長にことを構えるなどよしとせず、二人の会話にねじ込んでくる菫に
「できれば待っていただけると有難いですわね。そろそろお花を摘みに行きたいところですし」
「なら後にしてくれる? もう、治まりそうにないんだ」
一歩進めば、一歩後ずさる。
脱力した一人と力む二人の距離は縮まらず。
「ケケ、二人とも何があった? 以前にも増して気配を読む力付けたよね? 動きも僅かだけど前と違う、どうして?
貰えば即死となるこの状況。力の差は数の差では埋まらず。
「喰い甲斐があるなぁ。因みに紫様はどう? 前よりももっと強くなった? それとも現状維持でもしているのかな?」
だから、喰らいたい。
「だから……」
ああ……喰らいつくシタイ。
「教えてよ……」
舌鼓を打って味の余韻に浸り品評なんて上品さはいらない。
まして焼いたり、茹でたり、炒めたり、揚げたり、煮たり、和えたり、蒸したりしなくていい。ただ原始的に動物的に本能に従い嚙みちぎって、咬み千切って、むせるまで掻き込んで。とにかく骨の髄までむしゃぶりつきたい。啜った血を飲み乾したい。
だから――おまエヲクライタイ。
「どっちを喰らっていい?」
「――――!?」
瞬きをした瞬間――寿々花の両目には菫の全身から豊満な胸部に切り替わっていた。
迅移での移動ならまだ解る。しかし写シを張る兆候も、構えて間合いを測る予備動作もなにもない状態。そこに遠間にいるハズの菫が目の前にいて既に御刀を振り下ろしていた。
なッ、回避できな――
「寿々花ッ!!!」
完全に機を逸した身体は硬直し、破邪の御太刀の刃がすぐ目の前まで差し迫ると触れるか触れないかの寸前で締め付けられた柄が悲鳴を上げさらに加速する。
だがそれも新たに奔る刃がその軌道の行く手を阻む。
「――っぶねーな。なんなんだ? この馬鹿力はよぉ」
「誰? アナタ」
三つ編みに結んだ見覚えのある黒髪。
黄枯茶色の半着は間違いなく親衛隊の制服。
受け止める刀身は長巻などという出自不明の
先ず間違いはないがそれでも猜疑心を抱かずにはいられない。
「
「よぉ、無事か? 此花、それと獅童」
間違いない、彼だ。
「東西南北さん――!」
「東西南北――!」
安堵のこもった二人の声が同時に重なる。
だがそれでも危機的状況に変わりなく真希の注視は緊張とともにうち続く。
「――ラァアアッ!!!」
「――――!?」
わずかながらの膠着状態は
「下がるぞ」
「キャッ」
一瞬の出来事にキョトンと目を丸くする菫を余所に切先を
突然のこともあってか寿々花も両腕を中央の首の後ろに回してしまい寿々花自身、無意識の内に抱きつく姿勢をとってしまう。
姿勢を維持できたことを確かめず
引き抜いた勢いで
「見かけによらず重ぇなオマエ。ひょっとして毎日毎食コンビニ弁当食ってんのか?」
「…………」
ものの数秒の沈黙が流れた後、雷の如き光速の剣が一筋、中央の首筋へ薄傷として入る。
「ちょ、オマッ、あっぶねぇだろが!」
寿々花の一撃よりも中央の反射が勝った為、なんとか事なきをえたのだが斬首を目論んだ当の本人は餌を口にため込んだハムスターよろしくふくれっ面を朱で染めて中央を睨みつけていた。
だがそれも瞬間的なことであり直ぐに元の親衛隊第二席に戻る。
「それよりどうしてここに」
「んなもん、可笑しな荒魂が出現してたら他にもいると思うだろうが。で、コッチに駆け付けたってワケ」
「この短時間でそんな……」
「颯爽と登場するなんざご都合主義ってか? 車ぶっ飛ばして全力全開超疾走かましたんだよ」
言い続ける前に視線を天色の瞳から逸らし未だ静かに佇む巨女へと向ける。
先ほどの嵐のような激しさは鳴りを潜め、変わりに品定めするかのようにコチラを熟視していた。
「で、何で刀使同士やり合ってんだ? 荒魂も制圧したみたいだがありゃー裏隠居ばりに……いやそれ以上か?」
「
「偶然鉢合わせしただけで同じ
「
「アレでッ!? あんな状態のヤツがッ!?」
おまッ、ウッッソだろォッ!?
寿々花、菫と二度見三度見を繰り返しが開いた口が塞がらない。
「普段は、と言いましたわよ?」
「それが本当なら落差あり過ぎだろ。最近の中高生はどうなってんだよ……」
マジかよ……じゃあ、アレが素なら操られてる線は消えたか。
「じゃあどうやったらその元の温厚な状態に戻る」
「今まででは金城さんが満足するか飽きるか、はたまた別の荒魂を認識したら取り敢えずは事なきを得ますわ」
「なら皐月の荒魂は?」
抱きかかえていた寿々花をおろし、返答を待つ間もなく指名したと同時に遅らせながら夜見も馳せ参じたが呼吸の乱れとともに両肩の上下運動を止めることができないでいる。
「小さい荒魂には目もくれませんから皐月さんの群体では囮にもなりませんわね」
「チッ、じゃあ気絶させるしかねぇな。どうしようもねーんだ、撤退の二文字はねぇぞ。
「重々承知していますわ」
寿々花に同調する意をこめて真希と夜見は静かに頷く。落ち着きをとりもどしたようで長嘆息をひとつついてから直ぐに夜見も
これは防衛戦。コチラから手出しする必要ない。
三人が体勢を整えたのを目し、携えた長巻の切先が地を向きなぞる様にゆっくりと空を滑る。
「……これは、マズいですね」
「ああ、事態はより深刻になった。東西南北が来たことで金城の歯止めがきかなくなってしまった」
「見逃してくれる雰囲気ではありませんわね。あの状態では」
「火に油、いやガソリンを注ぎ込んでしまったからね」
「駆け付けたのは失敗でした」
「そうでもありませんわ。お蔭で
「今だけは静観するしかないね」
ここからどうする。止められるのか? 金城を。
ゆったりとした男の足取りはそこで動きを止める。
それこそが戦人として自身が持つ得物の間合いに到達した合図でもある。
とは言っても菫の持つ大太刀もそれは同じこと。リーチの差はあれど彼女の剣も彼の
故、剣戟の幕が上がるのはいつなんどきか。
「よぉ、長船の。どした、気でも触れたか?」
「フフ、ンフフ……クフフフ」
それは自然に吹いたのかはたまた彼女自身が起こした闘気なのか。
双肩を小刻みに揺らし菫色の前髪が後ろ髪とともになびき、それが後者だと自ずと
しかし、佇まいは至って穏やか。
静かすぎるその様は嵐の前の静けさにも似ているが菫の身体は武芸者が発する闘気のソレそのもの。じわりじわり周囲を闘気で呑みこむ。
「アナタ、見ない顔だね。初対面だから自己紹介しないとね。初めまして、ワタシは金城 菫、
十五歳。所属は長船女学園中等部でそこにいる
先ほどまでの荒々しさはどこえやら。
淡々と自己紹介を始めたがやはり先ほどと同じで菫の目は中央を見ていない。
「好きなモノ、それと今一番に欲しいモノは――」
ハァ、ハァ――
短く断続的に息切れる口は閉口することなく。
「塩漬けされた――」
ハァ、ハァ。
視界から消え。
「アナタの首」
並の人間でも如何に動体視力が優れていようとも理解不能の現象に身動きひとつ取れずその場で立ち尽くすだろう。だが
仕掛けてくる為の予備動作。
重心の移動。
送る視線。
そして微かな音。
それらを始めから捉えており、だからこそ菫の一太刀目に反応し、薄皮や制服にすら刃筋を入れさせない。
鼻も引っかけなねぇとか会話する気ゼロかよ!
避けた! 避けた! 防いでくれたッ! それもいとも簡単に!
クッ、しかもこの剛剣! 一撃でも喰らえば即死は免れねぇじゃねぇか!
避けては防ぎ、防いでは避けるを繰り返す。
迫る刃に殺気もなければ悪意もない。あるのは戦いを楽しんでいくという純粋な愉楽。
「……圧されていますね」
「ですわね」
「援護……はしない方が賢明かもしれません」
「今の
巨刀が何度も何度も幾度となく縦横無尽に空を斬り、二重三重と金属を弾く音が次第に近づいてくる。荒魂討伐のときの比ではない。一歩間違えれば直面するのは紛うことなき死。
怖くはないのか。
平然と斬り殺そうとする金城と臆することのない中央。
彼女と彼、そして自分との力の差を思い知らされミシリ、と柄巻が悲鳴をあげる。
「…………」
どうしたんだ。なぜ
振るわれた十二に及ぶ剣戟も継ぎ目なくして十三へ次ぐ。
そろそろフィクションのように休止し、会話による駆け引きが行われる頃合い。オーディエンスもその状況に至らないか今か今かと息を吞むがしかしこの双刃、中断などは認めない。なにせこの獣が止める理由はないのだから。挟めば一刻の愉悦が失われる。冗談ではない。
ああ――――
こっの、
――――楽しい……!
この短い刹那の斬り合いで少女は破顔し、昂る。
致し方ない。久しぶりなのだ。ここまでして
――――嬉しい……!
微笑む乙女は心の中で感謝する。
この
――――悔しい……!
だからといって沸々と湧き上がる感情に自ら笑顔を蹴散らす刀使は胸に抱く。
――――憎らしい……!
この時間が、もう終わってしまうのが。
終わりなく一瞬一瞬を続けたい。
でもこの愉悦に浸るその刹那を是が非でも味わいたい。
故に。
迷いを拭い去り。全力で、猛る。武芸者に勝るとも劣らない獣が
この構えは!?
右手に持つ破邪の御太刀の刃が水平になると同時に左腕が右前腕部の内側に潜り交差する。
菫が構えたその『型』は紛れもない
以前に寿々花が
なによりどうしてこの金城 菫が使えるのかなどと今は問題視している場合でもない。
武芸者じみた『身体操作能力』を有するが相手はただの刀使。この前の襲撃者ども同様に殺すなど以ての外。それに無力化する前に先ずはこの一太刀を避けなければ話にならない。
――――なッ!?
だが中央の頭には重要なことが抜け落ちていた。
目の前の巨獣にばかり気を取られて後ろにいる三人の存在を失念していたのだ。指一つ動こうとしない三つの気配が背中にベッタリと張り付き固着している。
誘導された!? 回避させない為にここまで。イヤ、違う! コイツ――
膨れ上がる闘気。なびくマフラー。
得物を捉える眼光。増える足跡。
日差しに煌めく刀身も血を啜りたく今か今かと待ちわびる。
獅童達ごと俺を斬り殺す気か!!
思考は愚行。
ならば迷いを捨て、即座に反応しろ。
力を込める → 14.刃、血に濡れて
瞬きをする → 15.紅蓮旋改
次の投稿で末尾に1~2行、2回か3回程加筆しますので次回予告はお待ちください。