トレセン学園天宮支部。そこでは特殊なウマ娘「ウマ精霊」達が高みを目指し、日夜練習に励んでいた。これは、そんな彼女たちの青春の記録である――。



二次創作初挑戦です。
至らない箇所も多々あると思いますが、生暖かい目で見守っていただければ幸いです。

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響の一人称による外伝となっています。
今後書いていく本編にも二人は登場しますが、直接の関係はありません。
漫画の読み切り作品的立ち位置とお考えください。


外伝「クルミと響」

 どーも皆さんこんにちは! 特技はギャンブル、趣味はDQ(もちろん遊び人以外使わない!)の敏腕トレーナー、緋衣響です!

 

 

 早速ですが皆さん、美少女、好きですか? 私は好きです!

 いいですよね美少女。響きからして美しい。頬ずりして、くんかくんかして、ぺろぺろして……っと失敬失敬。

 

 

 まあそれは置いておきましょう。皆さん、美少女に「追いかけられるのは」好きですか?

 私、好きではあるんですけどね。五河士道トレーナー(料理とメイクが得意なリア王)のことを羨んでるくらいですし。

 でも、流石に限度……というより限界があるというか。

 

 

 自動車並の速度で数千メートル走る女の子に何十分も追いかけられたら、いくら好きでも体力に限界がくるんですよ。

 つまり、何が言いたいかというと――

 

「クルミさーん! そろそろ許してくださーい!!」

 

 私今、担当の娘から逃げてます!! 必死に! 逃げてます!!

 

 

 というのも数十分前、私がクルミさん……担当ウマ娘、トキノクルミンのトレーニングのため準備をしていた時のことです。

 半月後のデビュー戦のため、今日は調整を兼ねたタイム計測をしようとしていたのですが……準備を終え、クルミさんを呼びに行くと、クルミさんはトレーニング場の端、植木の影に隠れるようにしゃがんでいました。

 

 

 何かあったと思ったんです。急性虫垂炎による腹痛とか、処女懐妊による陣痛とか……私は慌てて駆け寄りました。するとそこには――数匹の猫と「ここかにゃー? ここがいいんですにゃー?」と猫なで声を発し、幸せそうに戯れるクルミさんの姿が!

 

 

 クルミさんですよ? 「殺人アンドロイド」やら「暴力の申し子」やら「全身全霊いらない。いや、覚えてはいけない」とデビュー前にしてそう言われるあのクルミさんが! 溶けてふにゃふにゃになった雪見だいふくみたいな表情をしてるんです!

 

 

 え? 雪見だいふくはブルボンじゃなくロッテ? 細かいことは気にしない気にしない!

 

 

 とにかく、私はすぐさまスマホを取り出し、写真に収めました。おそらく、西部開拓時代のアメリカンも脱帽の速さだったでしょう。

 しかし、クルミさんには当然気付かれてしまいます。私はスポドリやストップウォッチを投げ捨てると、塀を跳び越え一目散に逃げだしましたとさ。以上、回想終わり!

 

「クルミさーん!? そろそろ体力が限界なんですけどー! 許していただけませんかー!」

 

 下校中でしょうか、ランドセルを背負った子供達が目を丸くして私達を見送ります。まあ、時速換算で30キロは出てそうですしね。そんな速度で走ってる人、そうそう見かけません。

 

「写真を消すというなら考えてあげなくもないですわ!」

 

「それは無理です! あれはスマホの待ち受けとSNSのアイコンにするって決めてるんですよー!」

 

「ならしばらくこのままですわね! 飛ばしますわよ! 『ザフキエル=アレフ』!」

 

「ギャーっ! 加速スキルは反則ですよー! ……ていうか、これじゃ私のトレーニングじゃないですかー! トレーニングしましょう、トレーニングーっ!」

 

 クルミさんはスタミナと根性を活かした中長距離適正の高いウマ娘。この程度で疲労する訳もありません。息も上がっていないし、何より私との距離が全く変わっていないのがいい証拠です。広がるどころか、縮まってもいない。完全に遊ばれているわけです。いえ、本人はお仕置きのつもりなんでしょうけど……

 

「しかしクルミさん、ほんとに猫好きですねー!」

 

 市民公園に、悲鳴に近い声が響きわたります。

 

「ええ好きですわ! 可愛いではありませんの!」

 

「前に中央の理事長が視察に来たとき、それはもう羨ましそうに見てましたもんね!」

 

「猫さんはツンツンしているのも可愛いですが、甘える姿も可愛いものです! いえ、猫さんはその存在自体が可愛いのですが! ともかく、あれほどの甘えん坊、可愛くないはずがありませんわよ!」

 

「なるほど、勉強になります! 私も猫だったら許されるんですかね!?」

 

「猫さんはそもそも写真も撮らなければ、トレーナー資格も取得出来ませんわよ!」

 

「確かに!」

 

 軽口を叩いているものの、私の既に体力は限界に達しています。いくらウマ娘のトレーナーでも、常人離れした身体能力をもっているのは一部の特殊な方々(モテモテリア充)のみ。そんな力を持っていない私は、貴重な写真を失わないよう根性で足を動かすしかありません。

 ですが、だからといって捕まるわけにはいきません。この写真は記者さんに渡し、クルミさんのファンを増やす一助とするのです。今応援してくれるファンのため、これからクルミさんを応援してくれるファンのため、何より私の幸せ(コレクション)のため、この写真(おたから)は、何がなんでも残さなければ――そんなことを考えていたのが原因でした。

 

「っ! 響さん!!」

 

「――え?」

 

 公園の敷地内から勢いよく飛び出すと、クラクションが鳴り響きました。音のする方を向くと、迫ってくるトラックの運転手さんの驚いた表情が見えました。このままでは私ははねられ、彼は無実の罪で捕まってしまうでしょう。

 

(あ、だめだ――)

 

 避けられない。そう確信し、申し訳ない気持ちが心の中に広がります。それと同時、走馬灯というのでしょうか、多くの記憶が頭を巡りました。

学生時代のクラスメイト、同僚のトレーナー達。そして――夕映とクルミさん。

 若くして命を落とした親友。トレーナーとして何人ものウマ娘達を励まし、支え、共に勝利した彼女の見た景色を、自分も彼女(クルミ)と見てみたかった。

 

(写真、クルミさんは嫌がるだろうけど……ちゃんと頼めば、許してくれただろうな……)

 

 遅すぎる後悔に自身を嘲笑(わらい)ながら、私は振り返り――目を、見開きました。

 

「響さん!!」

 

 模擬レース中ですら見たことがない、必死な表情のクルミさんが目の前にいました。

 クルミさんは、時間がゆっくりとすぎるこの状況ですら目にも留まらぬ速さで私を抱えると、勢いもそのままに駆け抜けます。途中、足先をトラックの風圧がかすめました。

 勢いを殺しきれず、私とクルミさんは抱き合うように歩道を転がります。数メートル先で止まると、仰向けのままポカンとしていた私に、クルミさんは馬乗りになりました。

 

「何考えてますの!?」

 

 その一言と共に、左頬に痛みがはしります。クルミさんに、平手打ちされてしまいました。

 

「もっと注意してくださいまし! 貴女に何かあったらわたくしはどうすればいいのです! 半月後にはデビュー戦ですのよ!?」

 

 シャツの襟元を掴まれます。クルミさんの手は、かすかに震えていました。

 

「……すみません、はしゃぎすぎました」

 

「これでケガしていたら、貴女の責任ですからね!?」

 

「はい」

 

「写真は消して、こんなことはもう二度としないと約束してくださいまし!」

 

「はい、もうしません。写真も消します」

 

「『ラ・ピュセル』のミルクシュークリーム10個奢ってもらいますわよ!」

 

「はい……ってちょっと待ってください10個はマズいですよ太りやすいんですかr」

 

「文句がおありですの?」

 

「ないです」

 

 はあ、とクルミさんの口からため息が出る。言いたい事を言い尽くし、落ち着きを取り戻したようだった。

 

「では私は学園に戻りますわ。メニューをくださいまし」

 

「え、トレーニングするんですか?」

 

「ええ、誰かさんのせいで元々の予定は潰れてしまいましたが。今日の予定、タイム計測でしたわよね?」

 

「ええ、まあ……」

 

「なら、それだけでもこなしますわ。シュークリーム分の運動はしないといけませんし……なにより、せっかく『トレーナー』が考えてくださったメニューです、一日分たりとも無駄にはしたくありませんもの」

 

「! クルミさん……」

 

「何ですのその顔は。出場する以上は勝ちたいですもの、全力は尽くしますわよ」

 

「そうですねそうですね! よぉーっし、やってやりましょー!」

 

「はあ、本当に反省しているのか、不安になりますわね……」

 

   ◇

 

 私の名前は緋衣響! トキノクルミンの専属トレーナー! これは、私とクルミン――通称クルミさんが世界一のウマ娘とトレーナーになるまでの、壮大な物語なのです! ……え、違う? ただの外伝? しかもイメージ作りのための読み切り用設定? そんなぁ……

 




読んでいただきありがとうございました。
本編の主人公は士道くんとなっておりますので、いましばらくお待ちいただければ幸いです。


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