德州扒鸡(兄)と符離集焼鶏(弟)がいちゃいちゃする(R15)だけ。心情的には符徳。
七夕なので中国式七夕(バレンタインデーのような日らしい)を過ごしてもらいました。当日書いたので遅刻したよ。七月七日とは。
Your dreams come true...
時刻は夕刻すぎ。
そろそろ沈みかけた太陽が、駅舎の隙間を埋め尽くす空を茜色に染めていた。
ざわざわとした人の流れが黒く巨大な鋼鉄の箱に吸い込まれていく。
――――プオォォォン…
汽笛の音がホームに響き渡り、その音に唱和するように各所から笛の音が鳴り響く。
「発車します、お見送りの方は汽車にお手を触れず、数歩お下がりください!」
よく通る低い声が茜色の駅に響き渡る。徳州扒鶏は片手に笛を持ち、その銀色の瞳で人々の様子を仔細漏らさず観察する。
――と、そこに年若い二人組の少女が駆け寄った。
「あの、すみません」
二人は同じ制服を着ており、どうやら学生のようだった。
徳州は困り事かと思い、体ごと振り向き柔らかい笑みで二人の少女に尋ねた。
「どうしましたか?」
片方の少女は顔を真っ赤にして後ろ手にもじもじとしたまま、なかなか言葉を出せずにいるようだった。もう一人の活発そうな少女が肘でついついと友人をつつく。
「あ、あの――」
勇気を振り絞った少女がついに両手を前に出し、叫ぶように言った。
「受け取ってください!」
その華奢な手の平には丁寧にラッピングされた小さな箱が握られていた。
「?」
徳州は状況が読めず、周囲に目を配る。
(落とし物だろうか?誰かの忘れ物なら預かってあとで駅舎に――)
そんなことを考えていると、まだ少し幼さの残るボーイッシュな高い声が焦るように三人に割って入った。
「おい、おい!何してんだ。発車するんだぞ、後にしろ!」
迷惑そうに顔をしかめてやってきた符離集焼鶏の存在に徳州は少し安心し、少女たちに視線を戻した。
「すみません、仕事中なので急ぎでなければまた後程お伺いします」
徳州は少し困ったような微笑みを二人に向け、ゆっくりと動き出した汽車に再び向き直った。
「悪い、符。彼女たちの話を聞いておいてくれ」
「いいから早く行けよっ」
符離は急かすように徳州の足を軽く蹴っ飛ばした。
「行儀の悪いことをしないで。頼んだよ」
そう言い残すと彼は足早にその場を去った。
あとには失望した少女二人と、不機嫌な符離の三人が残される。
符離はくるりと少女たちに振り向くと、背の高さを生かして二人を睨みつけた。
「兄貴はそういうのは受け取らねぇ。帰れよ!」
すると贈り物を渡そうとしていた少女は今にも泣きだしそうな表情になり、それを見てその友人が怒りを顕わに符離を罵った。
「なによ!弟だかなんだか知らないけど女心のわからないヤツね!どーせモテないんでしょ。べーっだ!」
気の強い少女である。
符離はこめかみを引きつらせながら元気な少女を睨み返す。
「なんだと~…?」
「優しそうなお兄さんとは大違いね!だからモテないのよ!行こ!」
少女はすすり泣くもう一人の少女の腕を引っ張ってその場を去っていった。もちろん途中で振り向いて、少女らの背中を監視する符離に舌を突き出すのも忘れない。
「くッっっそ~~!!!ムカつくぜ――!!」
符離はイライラしてホームの石段をつま先で空蹴りした。
しばらく駅の雑踏を背に少女たちが戻ってこないように出入口を見張っていた符離だったが、汽車を見送った徳州に声をかけられそれも終了した。
「符、彼女たちの用事は聞いた?」
鈍い兄にイライラし、内心ほっとしながら符離はぶっきらぼうに答えた。
「なんでもないってさ」
「何かを持っていたようだけど。それについては尋ねた?落とし物かもしれない」
(そんなわけねーだろ!)
これまた内心でツッコミながら符離はまたとぼけた。
「ああ、あれね。勘違いだって。また来ても受け取るなよ」
「?」
徳州は不思議そうな表情でしばらく符離をみやっていたが、帽子の鍔に白い手袋をした手を掛けると、気を取り直して話題を切り替えた。
「それはそうと、符。お客さんの前では言葉遣いをきちんとしなさい。今日は家に帰ったら言葉遣いを練習するからね」
「あーーうるせーな!好きに喋らせろよ、もう!」
「そうはいかない。他人にどういう印象を与えるかは駅員として重要なことだ。よくわからないようならテキストを作ろう。それを見て――」
「もーーわかったから!ほら、まだ仕事があるだろ!」
「む…」
符離が無理やり徳州の背中を押して回れ右をさせると、徳州は難しい顔をして唸ったものの、素直に業務の続きに戻った。
「ほら、符も来て。発車後のチェックポイントを確認するよ」
「へいへい」
渋々徳州に付き従う符離だったが、内心では厳しく言及されなかったことに安心していた。
(徳州が鈍い奴でよかった…)
女性たちが見目麗しい徳州に惹かれるのはわかっているつもりだが、それはそれとして兄が見知らぬ女性に絡まれるのが符離には面白くないのであった。
――人、是を嫉妬と呼ぶ。
***
満天の星空の下を帰宅した二人は、家にあるもので適当に夕飯を済ませ、符離が入浴を、徳州はテーブルに広げたノートに言葉遣いの指南書の案を書きつけていた。食後に少しそれについて触れたが、符離はさっさと風呂に逃げてしまったからだ。
(慣例的な用語から始めるべきだろうか…それとも事例集のほうが役に立つか?)
徳州はあれこれと考えをめぐらし、鉛筆の裏で机をコツコツと叩いて考え込む。
するといつの間に出たのか、符離が濡れた体のまま徳州の頭を背後から抱きしめた。
「わっ!?」
しっとりとした水分の感触に驚いて徳州は鉛筆を取り落とす。
「ちょっと、ちゃんと体を拭いてから出て」
徳州が言う文句を一文字残らず予想していた符離は悪戯めいた笑みを浮かべ、聞こえないふりをした。そして湿った髪を兄の髪に押し付ける。
「明日は休みだよね?」
「うん?そうだけど」
鈍い徳州は言葉通りに受け取ると、ちらりとカレンダーを確認した。二人は同じシフトなので明日は二人とも休みだ。
「どこか行きたいの?」
「それもいいけど…」
そう言って符離は鈍い兄の耳たぶに、たっぷり水分を含んだ唇で触れ…吸った。
「ッ!?」
瞬間的に徳州の背筋をぞくぞくするような感覚が駈け下る。
「やっ…符!こら!」
徳州は紅くなった顔で符離を振り払おうとしたが、しっかりと肩を抱きしめられておりそれもままならず、符離が吹きかける熱い息の刺激に耐えなければならなかった。
「ねえ…あの娘たちとなに話してたの?」
符離は耳元で囁きかけた。
「あの娘たち?」
徳州はきょとんとして、”あの娘”に該当する記憶をたどろうとした。駅員に女性職員はいなかったはず――。
兄がとんちんかんな考えを巡らせている間に符離は兄の顔を両手で包んで横からキスをした。
「――!」
徳州は紅い顔をさらに紅くして体を強張らせる。
軽い触れ合いで口を離した符離は、悪戯めいた笑みをまた浮かべ言った。
「本当に鈍いヤツ」
「……。」
徳州は口づけされた唇を隠すように手で押さえると、符離から視線を反らした。
「今日は何の日?」
「何って――」
七夕の日。
それは、恋人の日。
徳州は答えに気付き――それから符離のキスの意味に気付き――さらに関連して質問された”あの娘たち”が誰で何を意味するか今更気づき――息を詰まらせ咳きこんだ。
そんな徳州の頭を抱きしめると、頬ずりするようにして符離は真っ赤に染まった兄の耳に再びキスをした。
「兄貴を一番好きなのは俺なんだから…分かれよな」
すでに顔全体を紅くした徳州が目を閉じながら弱弱しく反論する。
「阿符、兄弟はそういうことをしません…。」
「へえ~、あんなに欲しがったくせに」
「あ、あれは…、……。」
先日の愚行を思い出し、必死に言い訳を探そうとする徳州の額を汗か風呂上がりの符の水分かかわからない水滴が滴り落ちた。
その顔を両手で自分の方へ向かせ、顔と顔を突き合わせて符離は徳州に要求した。
「たまにはちゃんと言ってよ」
「……。」
これはさすがに鈍い徳州でもわかったようだった。
徳州は気まずげにその銀色の睫毛を何度も瞬かせ、うろうろと視線を彷徨わせてから、観念したように符離に視線を戻した。
「もちろん……愛してるよ――阿符」
言い終わるとともに、照れ隠しのように弟の唇に口づけをし、徳州はすぐに顔を離した――が、それを追いかけた符離に深い深い口づけをお見舞いされてしまう。
「ね、明日は休みだよね?」
「――!」
ひとつひとつ順番に気付かされた徳州は今度こそぐうの音も出せず、首まで赤くしながらも微かに頷いたのだった。
満天の星。天の川は二人の頭上を巡り、来年もきっとまた巡り会い、不器用な二人を見守ることでしょう。
幸せであれ~~