ハリー・ポッターは映画版『賢者の石』程度の知識しかない高校生が
ディメンターに転生しちゃった話。
一話完結で続きはないです。

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俺、転生したの? ディメンター? なんじゃそりゃ?

 ドーン、と体に衝撃が来て、あ、俺死んだなってすぐ分かった。

 体が吹っ飛んでいる間に俺をはねたトラックの運ちゃんの真っ青な顔が目に入って、あのおっちゃんこれから大変だろうな、なんて他人事に思えた。

 俺はもう死ぬし。

 で、まあ、くだらねー人生の走馬灯が駆け巡ったと思ったらさ。

 目が覚めたわけよ。

 監獄の中で。

 

 俺としてはめちゃくちゃびっくりしたぜ。

 だって死んだはずなのに生きてるし、よく分かんねーどんよりした場所にいるし、俺のそばに真っ黒なカーテンみたいな化け物がうようよいるし。

 

「うぉおおおっなんだここ?!」

 

 声を出したはずなのに「シュー」って息が抜けたような音しか出てこねーし。

 

「ひぎゃああああああっ! 殺してくれぇええっ! ここから出してくれぇえええええっ!」

 

 後ろからとんでもねースプラッタな悲鳴が聞こえてくるしよ。

 なんだってんだよ。

 振り向けば、いかにも牢屋って感じの檻の中でしわくちゃなジーさんが暴れまわっていた。

 で、その気味の悪い黒カーテン野郎がジーさんに近づいて、檻越しになんかシューシューやってるわけよ。

 ジーさんはさらに悲鳴を上げてるし、マジで意味分かんねーだろ?

 

「おい、お前。ジーさんが可哀想だろ。やめろよ」

 

 爺ちゃんっ子として老人虐待は見逃せないから注意してみるも、やっぱ「シューシュー」としか声が出ない。

 んで、牢屋の近くにはめてあった鏡がちょうど目に入ってさ。

 俺、クソデカボイスで叫んじまったよ。

 

「えええええーーーーーっ?! なんで俺まで黒カーテン野郎になってんだよぉおおお?!」

 

 ま、実際は「シュシュシュシュシューーーーーー!!」だったけど。

 

 

 

 黒カーテン野郎としてしばらく過ごして分かったけど、俺は「でぃめんたー」という最強生物に転生したらしい。

 食い物とか寝る時間とか、トイレもなんも必要もないって本当に生物なのか疑問だ。

 んで、ディメンターはアズカバンっていう監獄の守り人らしい。

 つまり俺たちディメンターは治安を守る良き最強生物だってことだよな。

 いやあ、俺バカだから、転生前は就職できっか不安だったけどまさか公務員なんて堅実な職業手に入れるなんてな。

 人生、分からねーもんだよな。

 まあ、俺もう「人」じゃねーけど。

 死んじまった自覚がある身としては、漫画とかラノベみたいに転生するのは構わねーけどさ、同僚のディメンターたちってほんとコミュ障ばっかで困ったぜ。

 

「シューシュシュシュー(あのー、すみません。ちょっと聞きたいことあるんスけど)」

「…………」

 

 いくら話しかけてもガン無視ね!

 ありえねーだろ!

 よくそれで公務員が、監獄の守り人が務まるよな!

 じゃあ、俺のこれまでの情報をどうやって手に入れたかって?

 なんかたまに新しい囚人がやってくるときに、それを連れてくる職員(すっげー変な制服を着たおっさんとかおばさんたち)の話を繋ぎ合わせたんだよ。

 

「さあ、ここが今日からお前が住む監獄だ。逃げられると思うなよ? 檻の外にはディメンター共がうようよいるからな。コイツらは食事も睡眠も必要のない化け物たちだ。お前を四六時中見張っているだろう」

「へっこんな気味の悪い奴ら、どれだけいようと俺は気にしねーさ!」

「ふふ……いつまでそう言っていられるのか楽しみだよ……」

 

 セリフだけ聞いていると職員たちの方がどう見ても悪者なんだよなあ。

 ただ、檻にぶち込まれた奴の罪状が「一般人を3人殺した」とか普通に凶悪犯罪だから、職員さんたちは正義側の人なんだろうけど。

 

 んで、すげー強気な囚人さんたちって1日も経たないうちに「ぎゃああああっもうここから出してくれぇええっ!!」って泣き叫ぶからやっぱ檻の中って効果あるんだな。

 ちょっと可哀想な気もすっけど極悪犯に同情は禁物。

 時には非情さも必要ってわけだ。

 

「ははっ貴様のような凶悪犯はディメンターのキスもありえるな」

 

 おーおー、今日も職員さんが新人囚人を脅して帰って行ったよ。

 でも、ディメンターのキスって何?

 俺檻の中にいるおっさんたちにキスなんてしたくねーんだけど。

 もしやれって言われても拒否るよ。先輩たちに任せるよ。

 つーか舌もねーのにキスなんてできるわけねーだろ。

 もしかしてディメンターってすっげー息くせーのかもな。

 でもそれをあんな罰みたいに言われちまうと、いくら最強生物でも傷つくっつーの。

 とかって日々業務(監視)をこなしていたある日、ちょっと不思議なお兄さんが檻に入った。

 

「シリウス・ブラック。お前はここだ」

 

 大学生くらいのイケメンのくせにこんな場所に連れて来れられるなんて、どうしちまったんだよ。

 すっげー勝ち組っぽい顔してんのに、こんな人生の負け組が集まるところに来るんじゃねーっつの。

 前世では大学生の兄ちゃんがいた俺としては、同じくらいの年に見えるシリウスにちょっと同情しちゃったよ。

 

「フンッ一般人を12人も爆破して殺したお前は今すぐにでもキスを執行するべきだと思うがな」

 

 職員さんの言葉を聞いてすぐ撤回したけどな。

 で、まーなんでか知らないけどシリウスが入ってきた時期あたりからすっげー仕事が忙しくなってよ。

 どんどんどんどん新しい囚人が入ってくるから俺もあっちを見たり、こっちを見たりでもー大変!

 だから、優男なシリウスなんてすぐに泣きだしてんだろうなってすぐ忘れてたんだけどさ。

 久しぶりにアイツの檻の前に行って驚いたぜ。

 

「…………………………………………」

 

 シリウスってば無言で檻を一点見つめしてんだぜ?

 すっげー怖くね?

 ちょっと試しに話しかけてみたんだけどさ、

 

「シューシューシュシュシュー(おーい、寝てんのか? 生きてるよな?)

 

 全く反応なし。

 いやあ、やっぱ囚人になるほどの凶悪犯ってのはよく分かんねーな。

 

「ご主人様を裏切る者たちに制裁をぉおおおっ!」

 

 あーまた最近入ってきたベラなんとかさんが騒ぎ出した。

 あの人もシリウスと同じくらいに顔が整った美人さんなのに言動がアレなんだよ。

 いくら俺が最強生物だからって精神的に怖いもんは怖いんだよな。

 できればあの人の監視はしたくねーけど、先輩変わってくれねーんだよ。

 

 それなりに働いて分かったけど、ディメンターの先輩たちって弱ってる囚人たちのが監視が楽だからか、みーんなそっちに流れちまうんだよな。

 職員さんが注意すれば元の配置に戻るけど、そうじゃないとフラフラッと好きに移動しちゃうから、生きのいい奴らは俺が監視するはめになっちゃってんの。

 

 あー、こんな職場環境じゃ俺も病んじゃうよ。

 労災どころか休みもねーってほんと公務員って大変だな。

 ディメンターになってから時の流れがすっげー早いのがせめてもの救いって感じ。

 

 

 

 死んだような顔して一点見つめを続けるシリウスとか、元気にはしゃぐベラさんとか、その他大勢の囚人たちを監視してしばらく経ったころ。

 アズカバンに新たな仲間が加わったよ!

 

「シュー……(うわ、でっけえ……巨人かよ)」

 

 すっげー凹んだ様子のでけーおっさんが檻に入った。

 

「俺はちげえ……俺は誰も襲っちゃいねえ…………秘密の部屋なんて俺はなーんも知っとらん……」

 

 およ? もしかしてこのおっさん冤罪か?

 

「シュー……(おい、おっさん。話を聞いてやろうか)」

「ひぃっ!!」

 

 せっかく人が親身に話を聞いてやろうとしたのに、デカいおっさんはすげー速さで檻の端に逃げちまった。

 見た目にそぐわない小動物みたいな臆病さだな。

 確かに俺の今の口じゃあまともに話すことなんてできねーけど、言葉は通じなくても心は通じるかもしれねーだろ?

 根気強く話しかけてみて、心を開いてくれるのを待つか。

 とかって思っていたけど、デカいおっさんはすぐに釈放されちまった。

 

 そう時を置かずに、なんとイケメンシリウスが逃げ出しちまった。

 こりゃあ困ったもんだぜ。

 アズカバンを守る俺たちディメンターも捜索に駆り出されるくらいなんだからな。

 でも、俺はじめてアズカバンの外に出たけど、おいおい!

 この世界ってヨーロッパぽい感じだったんだな!

 そりゃあディメンターなんてファンタジーっぽい生物がいるんだからそうか。

 ま、ヨーロッパはヨーロッパでもよくある中世ヨーロッパじゃなくて現代感がバリバリあるけどな。

 

「シュー……(シリウスーどこ行ったんだよー)」

 

 ちゃんと名前を呼んで捜索したけど、まあ犬猫じゃねーからそんなひょっこり現れねーよな。

 早く見つけねーと一般市民への被害が出ちまうってのに。

 いやあ、俺のキャリア史上最大の危機だな。

 なるほど、学校の警備か。

 確かにこんな状況じゃ必要だな。

 ん? 学校名は「ホグワーツ魔術学校」?

 なんか聞いたことあるな……ああーーーっ!

 これってハリー・ポッターの学校じゃねーか!

 えーっ俺、ハリポタの世界にいたのかよ?!

 10数年ここで生きてきて初めて分かったぜ!

 昔金曜日の夜にテレビで「賢者の石」を見たことしかねーけど、俺、知ってるぜハリポタ!

 

 もしかしてこの列車の中にもハリーいるんじゃねーか?

 ちょっと見てまわっちゃおうっと。

 おっ眼鏡の男の子! 

 コイツだろハリー・ポッター!

 

「シュー!(あんたハリー・ポッターだろ? すっげー本物じゃん!)」

 

 挨拶をしようと思ったら、ハリーがどんどん具合悪そうにしだした。

 

「シューシューシュー(おいおい、大丈夫かよ。救急車呼ぶか?)」

 

 介抱しようと思ったら、すっげー強い光がどこからか俺に当たった。

 

「シュー(いててててっなんだよコレ? は? 魔法? ちょ、無理離れる)」

 

 猛烈な痛みと怖い感じがしたから、ハリーは心配だったけど一旦その場を離れた。

 なんだったんだよ、アレ。

 変な魔法か?

 遠目から列車を覗き込んだらハリーは先生っぽい人に介抱されていたからまあよしとしよう。

 ディメンターって最強生物だと思っていたのにちょっとショックだ。

 次は気を付けるぞ!

 

 危険人物から生徒たちを守るっていう超重要任務に就いている俺の今の楽しみは元気な子供たちを見ること。

 10数年も経てば死んだときは高校生だった俺ももうおっさんになっているわけで。

 微笑ましい目で杖を振り回しガキどもを見守っているぜ。

 おっなんかスポーツ大会をやるっぽいし見学しようっと。

 すげー雨がひどいのに延期にしないなんてすげー学校だな。

 ハリーは選手らしくて箒に乗ってぶんぶんやってっけど大変そうだ。

 

「シュー(ハリー、がんばれー!)」

 

 俺が応援していたら先輩ディメンターたちも集まってきて、いつの間にかハリーを囲んでいた。

 先輩の中にはハリーに触ろうとしている過激派までいる。

 おいおい、試合中にこんな熱狂的なファンみたいなことをしちゃダメだろ。

 と思っていたらハリーが真っ逆さまに落っこちた。

 

「シュー(ハリー?!)」

 

 助けてやろうと思ったら、また前の列車のときみたいな強い光と痛み。

 クソっまた負けちまったぜ。

 んでもってやっぱ試合中に囲んで応援するのはタブーだったみたいで後ですっげー怒られた。

 挽回するためにも仕事頑張るぞ!

 って思ってホグワーツ周辺を巡回していたら、なんとシリウスを見つけた!

 

「シュー(こんなところにいたのかよ! たくよぉ、よくここまで逃げたな。さ、帰るぞ)」

 

 シリウスを連れ戻そうとしたら、こいつも前のハリーみたいに急に倒れちまった。

 うえっいてててっハリー!

 なんか変な魔法ぶつけてくんのやめて!

 それ、俺が苦手な強い光の魔法?

 まだ威力が弱いから平気だけどいててて!

 

「シューシュー(それよりもシリウス! おい、息してねーのか? クソっ人工呼吸が必要か……)」

 

 デカくて暗い森の中にAEDなんてないから、人力で息を吹き返してやらねーと。

 あ、でも俺(ディメンター)の口って臭いんだっけ?

 というか俺のファーストキスがシリウスかよ……。

 いや、人の命が関わっているときにそんなことは言ってられない!

 いざっ! と口を近づけたその時。

 

「シュー(ぐわあああ!)」

 

 またまた俺の苦手な魔法をぶつけられてしまった。

 おい、ハリー!

 それは本気でダメな威力のやつ!

 その光ぶつけるのやめて……あ、無理だ、ちょっと一旦離れよう。

 ふらふらと離れて行って遠くから見守れば、幸いにもシリウスが息を吹き返したようだった。

 ハリーがなんかすげー魔法使ったのかもな。

 あ、先生も来たみたいだな。あとは任せよう。

 

 色々見れて楽しかった学校の警備から一転。

 相変わらずアズカバンはイカれた奴らしかいねーから俺も病みそうだぜ。

 シリウスは逃げたまんまなんだからまた街の捜索が出来りゃよかったのによぉ。

 おっなになに。次の任務は魔法大臣ファッジさんの護衛?

 フーっそれなりに楽しそうじゃねーか!

 またホグワーツに来れたぜ!

 へへっもうアズカバンじゃなくてホグワーツ専任の護衛になれりゃいーんだけどなあ。

 んん? まーたアズカバンをこっそり脱獄していた奴がいたのかよ。

 ファッジさんに着いて行けばきったねーおっさんがいた。

 俺と一緒にファッジさんの護衛をしていた先輩ディメンターがすっげー勢いで人工呼吸をしに行っちまって、んで気づいたら追い出されていた。

 おいおい、あのクラウチ・ジュニアとかいうおっさん大丈夫かよ。

 

「シュー(せっかく先輩が人口呼吸してたのに残念だったな!)」

 

 ちゃんと先輩を励ましたのにやっぱ無視された。

 何年一緒に仕事していても馴染まねー職場だぜ。

 

「さあついて来なさい!」

 

 アズカバンに戻っていつもの業務をしていたら、ピンクのでっけーリボンを頭に着けたおばさんが偉そうに命令してきた。

 なんだと思ったら、街に連れてきてくれた。

 なんだなんだ?

 急に社員旅行でもさせてくれんのか?

 それならこんなよく分かんねー住宅街をツアーするより、もっと街に出て買い物とか行きてーんだけどな。

 あっいじめの現場見―っけ!

 

「シュー(おい、いじめは良くないぞ! ……あれ? ハリーじゃん! お前こんなところに住んでたのか!)」

 

 いじめられていた眼鏡は我らがハリーだ。

 うぉっ!

 おいおい、俺がちょっと怒鳴っただけでビビっちまったのか、いじめっ子のデブが倒れちまった。

 もしかしてまた息が止まっちゃったか?

 今度こそ人工呼吸を成功させな……いててててっ!

 おい、ハリー!

 だから俺が人命救助しようとしているときにそのよく分かんねー強い光の魔法ぶつけんのやめろよ!

 なんだよ、俺は治安を守っている最強生物、ディメンターなのになんでそんないじめてくるんだよ!

 庇うんじゃなかったぜ!

 

 

「よくやったわ。さあ行くわよ」

 

 お、俺らを住宅街に連れて来たピンクのおばさんは謎に褒めてきたし。

 おいおい、ハリー達を置いていっていいのかよ、おばさん。

 あーあ、結局社員旅行はすぐ終わっちまったな。

 

 しばらくつまんねー監視の仕事をしていたら、急に解雇通知を受けた。

 蛇みたいな顔をしたハゲのおっさんが

 

「喜べ、お前たちは俺様のおかげで自由になったのだぞ」

 

 なんて言ってきた。

 クビ宣告をポジティブに言うとそうなるんだな。

 

 先輩ディメンターたちが大喜びで外に出て行くから俺もそのビッグウェーブに乗って外に出ちまったけど、アズカバンの監視ってしなくていいのかなあ?

 ま、次の奴らが引き継いでくれてんだろうな。

 んじゃあ、俺はこの前出来なかった買い物でもしに行こうっかなあ。

 

 


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