TSロリおにいちゃんといもうとちゃん 作:まるまるみー
それは、遠い遠い昔のことです。
まだおにいちゃんが幼女ではなく、生物学的にもおにいちゃんだった頃のこと。まだいもうとちゃんが畜生ではなく、きゅーとで愛くるしいふわふわころころの、あまくてまあるいわたあめみたいな生き物だった頃のことです。
その日いもうとちゃんは、朱色の光が差し込むリビングにいました。
まだ短い両足を伸ばしてカーペットにぺたっと座りながら、まんまるな瞳いっぱいにテレビ画面を映して、楽しそうにゆらゆら揺れています。
その少し後ろには、ソファの上でクッションを抱いて、よだれを垂らしてかっくんかっくん舟をこいでいるおにいちゃん。
外では夕焼けチャイムが鳴り響き、プテラノドンがぎゃーすと飛び回り、ええじゃないかええじゃないかと着物の男女が踊り狂っています。そういう時代だったのです。
けれど、二人のいるリビングを満たしているのは、テレビの音だけでした。
そのまま何分か、何十分か、それとも何時間か、ひょっとすると、何日も何週間も過ぎました。
じーっとテレビを見ていたいもうとちゃんがひょいと立ち上がります。てこてこ歩いて、寝ているおにいちゃんの肩をぺちぺちと叩きました。
──おにいたん、おにいたん。わたしもあれ、やってみたいです。
まだまだ上手にしゃべれないいもうとちゃんです。可愛いですね。
ですね?
おにいちゃんは、ん-とかうーとか言いながら、まぶたをぐしぐしこすって、ぱちぱち何度かまばたきをして、ぐーっと伸びをしてからいもうとちゃんの人差し指の先を──テレビの方を見ました。
映っているのはある教育番組でした。むりくり受信料を取り立てるあんちくしょうめの放送する、悔しいことに結構面白いソレをむむむと見つめます。そして、
──ほー、こいつですか。ふむ……そんなにむつかしい物でも無さそうですし……、よっしゃよっしゃ、おにいちゃんが作ったげますぜ、いもうとちゃん。
ああ、なんと軽はずみな返事なのでしょう。
自分が幼女になってしまうと知らなければ、あるいはいもうとちゃんが、人の心を持たぬ獣になってしまうと知らなければ。そうであれば、おにいちゃんも絶対にこんなものを作ったりはしなかったはずなのに。
ですが、そうはならなかったのです。なんといってもこの頃のいもうとちゃんは、かぐや姫と比べたって月とスッポン(もちろんかぐや姫がスッポン)です。そんなくらいにはとっても可愛い女の子だったのですから。そのうえおにいちゃんはいもうとちゃんを愛しているのです。どうして彼女の言葉を断れるでしょう。
ああ、くわばらくわばら。他でもなくおにいちゃんの手によって、この恐るべき対おにいちゃん決戦兵器は作られてしまったのです。
そう、その名は──
TSロリおにいちゃんといもうとちゃん
-おにいちゃんスイッチ-
「おにいちゃんおにいちゃん、いい加減におこたしまっちゃおうと押し入れ整理してたら、こんなものが出てきました」
そうして現在。
立派に幼女になったおにいちゃんの前に、立派に人でなしになったいもうとちゃんが、四角い箱を持って立っています。その箱はだいたいティッシュの空き箱くらいの大きさで、曲がるストローみたいなものが側面についていて、そのストローはアンテナの様に天に向かって生えていて──具体的に言うと『おとうさんスイッチ』で検索をかけると一番上に出てくるのがそれです。説明が楽でいいですね。
「おや、そいつはずいぶんと懐かしいものを……」おにいちゃんは懐かしそうに目を細め、「いや、待ってくだせえ!」飛び上がって叫びました。
「それは扇風機の空き箱に入れてガムテープでぐるぐる巻きにしてビニールひもで縛り上げてその上おにいちゃんが手書きのお札をせっせと張ってそれはもう厳重のガチガチのどすこいどすこいに封印したはずでは!?」
「ええ、確かにそんな感じになってましたね」
「……では、なにゆえそれがいもうとちゃんの手元にあるのですか?」
「その封印とやらを解いちまったからですかね?」
しれっと言ういもうとちゃん。おにいちゃんは膝から崩れ落ちました。orz。
「そんな……このままでは、あの時の悲劇が繰り返されてしまう……」
おにいちゃんの頭を、
いもうとちゃんが狂ったようにボタンを連打し、おにいちゃんが無限の無茶ぶりを強要されたあの時を。可愛い妹の遊び相手をしてあげるだけだったはずなのに、気づけば全身汗だくで、ぜーはーぜーはー肩で息をしながら二十八回目の『あ』から始まる動きを必死に考えていたあの時を。
「はて、悲劇……?」
いもうとちゃんの頭を、
目の前のボタンを押すたびに、おにいちゃんがばたばたとあたりを駆けまわっていたあの時を。他でもないおにいちゃんに作らせたスイッチを使って、文字通り指一本でおにいちゃんを自由自在に操った、ぞくぞくする様な仄暗い快感を覚えたあの時を。
記憶の隅から沸き上がる恍惚にぶるりと体を震わせて、いもうとちゃんがにっこり笑顔でこてんと小首をかしげます。「喜劇では?」
「ひでえや」
私もそう思います。
「と、いうわけで。すいっちおーん」
「ま、待って待って待ってくだせえいもうとちゃん!」
「えー。もう、しょうがないですね。なんですか、おにいちゃん」
「そ、それを使われるとおにいちゃんが困っちまいます!」
「……わたしは別に困らない?」
「……おに! あくま! いもうとちゃん!」
「ま。ひどいじゃないですかおにいちゃん。まるで私が人でなしみたいに」
違うんですかね。
「と、いうわけで。すいっちおーん」
「ま、待って待っていもうとちゃん! 待って」
もちろん、いもうとちゃんの声が高らかに響きました。
──おにいちゃんスイッチ! 『あ』!
◇
──おにいたんすいっち! 『あ』! 『あ』!
遠い遠い昔のことです。
おにいちゃんがまだおにいちゃんで、いもうとちゃんが畜生に足を踏み入れ始めた時のことです。
朱色の空と、夕焼けチャイムと、プテラノドンとええじゃないかがリビングの外の世界に広がっていた時のことです。
きゃらきゃら笑ういもうとちゃんと、
──あ、あ、『アリクイ』はやったし、『アンパンマン』も『アースジェット』も『アノマロカリス』もやったし、えーっと、えーっと、……『あわてる』!
両手と両足をわたわた動かして必死にあわてているおにいちゃんがいた時のことです。
──おにいたんすいっち! 『い』!
──ぜひゅー……、ぜひゅー……い、いもうとちゃん……、もうおわりにしませんか……?
──あぅ、ごめんなさい、おにいたん……、ひょっとして、もうつかれちゃいましたか……?
──……『イリオモテヤマネコ』! シャーッ! フシャーッ!
とっても仲が良さそうで可愛いですね。うふふ。
◇
そうして現在。
「おにいちゃんスイッチ! 『お』!」
「『おねむ』! ( ˘ω˘ )スヤァ……」
「……おにいちゃん?」
「( ˘ω˘ )すー……しゅぴしゅぴしゅぴー……、すー……しゅぴしゅぴしゅぴー……」
「むぅ……」
可愛いですね。うふふ。
オチは?
おにいちゃんの勝ち