アカネちゃん頑張れ。
「何なの…もう、ただのスパロボじゃん………」
「ア、アカネくん?いったいどうしたんだい」
ここは新条アカネのいつもの自室。パソコン画面に映されていたのは、スーパーロボット大戦30の発表PVだ。SSSS.GRIDMANの新規参戦決定。当然、アカネの仲間であるアレクシス・ケリヴもこの招待を把握しており、自分の知らない別の参戦世界へ行けることを楽しみにしていた。
が、新条アカネはそうではない。もう、この情報を知ったときから、目が死んでいる。元から、メンタル雑魚な彼女であったが、より一層悪化していた。
「私の作った怪獣で勝てるわけないよ…」
「そんなことはないよアカネくん!君の作った怪獣は素晴らしい!」
必死に彼女を励ますアレクシスだが、そんな彼に対して、こいつ何にも分かってないなという、冷たい目でアカネは尋ねる。
「マジンガーとかゲッターロボ、ガオガイガーに勝てるって、アレクシス本気で思ってる?」
「………」
沈黙が答えだった。いや…それは流石に相手が悪いんじゃないかなぁ、と思うアレクシスであった。
しかも、マジンカイザーに、まさかの覇界王 ~ガオガイガーVSベターマン~だ。スパロボはどれだけガオガイガー好きなんだ。まだ映像化すらしてない作品を出すとは。
「私に!スーパーロボット相手は無理だよ!」
まるで、最終回のような涙声の悲鳴を上げるアカネくんだった。
「り、リアルロボット相手ならいい戦いになるんじゃないかなぁ?ガンダムとかコードギアスとか」
そう。参戦作品は他にもいる。リアルロボット系であればアカネくんの怪獣でもいい勝負になるはずだとアレクシスは彼女を励ます。
…まぁ、どちらの作品ともインフレした機体が出てくることには触れないでおこう。ガンダムフェネクスとか第九世代KMFのフレームコートとか。
「リアル系ってね、戦争してる世界なんだよ?私みたいな女子高生なんて、いくらでも殺そうと思えばすぐ殺せるよ…きっと」
「本当に君は自分に自信が無いんだね~アカネくん」
まさかのリアル攻撃の可能性には、アレクシスも驚きである。アカネくんの悲観的な想像力はとどまることをしらない。確かに、彼女の悪行を知ったらあまり庇ってはもらえないだろうねぇ………
うちの担任、殺そっかなぁって思って♡、ぃよっし!よっし!死んだぁーっ!はははは!!と、完全に言葉だけ見たら、サイコパスな敵キャラだもの。ルルーシュあたりにギアスで死ね!されてもおかしくない。
「だったら!グリッドマンを相手にした時よりも、もっと強い怪獣を作ればいいんだよ!アカネくん!!」
だが、アカネくんを褒めて利用することに定評のあるアレクシスはここで諦めはしない。そう、アカネくんには他のキャラクターにはない個性、怪獣を作ることができる!彼女の数少ない長所を褒めるのだ。
「………今回の新規参戦作品にね、ナイツ&マジックってあるんだけど知ってる?」
いつもならチョロくのってくるアカネくんだが、ぼそっと呟くようにそんなことを口にした。
「い、いや~知らないねぇ?それがどうかしたのかい?」
嘘である。アレクシスは当然知っている。
物語の世界観的には魔法騎士レイアースのような、魔法ファンタジー的だが、
「簡単に言うとね、私が怪獣オタクなら、それの主人公はロボットオタクなの。で、ロボットを開発するの転生した世界で」
「君とはまるで正反対だねぇ」
「そう!なんなの!!私が参戦したタイミングで、味方サイドにロボット開発ガチ勢入れるとか反則!!勝てるわけ無いじゃん!!」
再びアカネくんが発狂する。そうなのだ、アカネくんも怪獣へのオタク度で言えば決して負けてはいない。負けてはいないが、ナイツ&マジックの主人公のエルくんはロボットへの情熱だけでなく、実際に現地の魔法技術で研究、開発する力を持つガチ勢である。
アカネくんのようなストレス解消目的とは訳が違う。まさかのスパロボ参戦で、おそらくアカネくんとは真逆で一番喜んでいるキャラクターであろう。
「なら、いい考えがあるよアカネくん」
「何?アレクシス」
「簡単なことだよ。だったら仲違いさせて、互いに潰し合わせればいい」
悪役らしくいつもより低い声で、そう言うアレクシス。
なに、人間とは実に愚かで、自分にとって有用な感情を持っている。互いに疑心感を抱かせて、味方で争わせれば勝ち目も出てくるだろう。
「ははは…スパロボを分かってないんだね」
「?どういうことかな」
「互いに敵対するのなんて、最初は当たり前だよ………けど結局は、そんな敵対してた人と人が組織が、最終的に世界の危機に協力することになるお約束なの!!第一、コミュ障の私がそんな暗躍できると思ってるの!?」
「落ち着くんだアカネくぅん!!」
途中から自虐になり、涙目でカッターナイフを振り回し始めたアカネくんを必死になだめるアレクシス。というより無駄にスパロボに詳しいな!アカネくん!
「だ、大丈夫さアカネくん。こちらの敵サイドだって負けてはいないさ!私を含め、そうそうたる悪役が君を待っているよ!」
「だからだよ」
「え?」
「私が参戦作品を見たときにね、一番嫌だった理由知りたい?」
アカネくんが一番嫌な理由?いったいなんだ。参戦作品の敵キャラで誰か嫌いなのでもいるのかな?
「ガン×ソードは本当にやめてよ………私、絶対に鉤爪の男に仲間に誘われて、主人公のヴァンに狙われる未来が見える…グスン、殺されたくないよぉ」
「殺されなくとも普通に脅されるだろうねぇ」
あの作品は近年まれに見る、復讐を貫いた名作だ。ラスボスの鉤爪の男に、簡単にアカネくんは同士に取り込まれる気がする。ふむ、コンピューターワールドで自分の理想の世界を作り、そこで神様になった彼女には興味を持つだろうね。
「でも、君はスパロボで自分の怪獣が暴れるのを見たくないのかい?」
「………みて見たい」
しかし、ひとしきり泣いて落ち着いたところで、アカネくんの本心を聞いてみれば、これだ。やはり彼女は素晴らしい。スパロボ参戦に絶望しても、まだ、こんなに素晴らしい情動を秘めているじゃないか!
「スパロボという違う作品世界で、君の作った怪獣を暴れさせようじゃないか。なに、勝ち負けは重要じゃない、プレイヤーの皆もきっと君が生き生きとスパロボ世界で楽しんでいる姿を見たいはずだよ?」
「皆…私の……ファン?」
なんだか、名言を汚した気がするけど、気にすることはないだろう。アカネくんがやる気になってきたのは喜ばしいことだ。
「よし!やろうアレクシス!わたしの作った怪獣を皆に見せつけてやるんだ!」
「素晴らしい!流石はアカネくんだ!!」
完全にいつもの調子を取り戻したアカネくんがスパロボ30へと向かう準備を始めた。
その様子を眺めながら、アレクシスはパソコン画面に流れるスパロボ30PV動画のコメントを見る。
「まぁ、プレイヤーのみんなが求めてるのは少し違うかもしれないけどね〜」
アカネくんをわからせ隊!本物の悪人にアカネちゃんは捕まってほしい、複数の敵が必要になるから怪獣量産だぞアカネくん!学校での会話パートで追い詰められるアカネちゃんが見たいです、アカネちゃんハードモード、スパロボ参戦決定でここまで死んだ目になったキャラが他にいただろうか
「本当に人間というのは他人の不幸が好きだねぇ…ん?」
アカネにたくさんの友達が出来ますように。
「………ふ、さてどんな物語になるのか。私も楽しませてもらおうじゃないか」
コンピュータの電源が落とされ、アレクシスもスパロボ30へと向かい出す。さぁ始めよう。30周年の記念すべき舞台を。