二周目アルトリアと転生元マスターの逆行譚   作:アステカのキャスター

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 こちらモルガンルートのアヴァロン・ル・フェの最後の方です。プレイしてない方はネタバレ含む為、読む時はご注意ください。

 アルトリア含めて総数二万五千字越え。 
 暫くは書かなくていいくらい書きました。後日談とか、続きとかはまた仕事や課題などな落ち着いたりしたら書いていきたいと思うので今回はこれで許してください。

*三月一日 聖剣の名前を変更致しました。ペンチさんありがとうございます。

 テーマ『決別』



番外編 希望を紡ぐ物語

 

 

 いつかこうなる事は分かっていた。

 妖精が徒党を組み、悪逆なる女王を地に落とす。カルデアが来たら、こうなってしまう事は最初から知っていた。

 

 俺はこの世界を許さない。

 俺はこの世界に生きる妖精を許さない。

 何も救えない自分自身も、何もかもが許せない。

 

 長い年月だった。

 モルガンとスピネルと俺は家族になった。

 

 笑顔が増えた。 

 失ってしまったものを少しだけ取り戻せた。

 

 許せなかった自分を少しだけ許せた。

 壊れた心が戻っていくモルガンを見て、俺は少しだけ自分がやってきた意味があった事に誇りを持った。

 

 そんな事がいつか起きてしまう事は分かっていた。

 

 今度こそ失わないようにと、走ってきたのに。

 

 俺はまた取りこぼしてしまった。

 

 

 ★★★★★

 

  

「っ、まさか」

「やあああっ!」

 

 

 マシュの盾の攻撃を片手で受け止める。

 遠視の魔術、千里眼を真似て編み出した設置魔術に不可解な状況が浮かび上がる。ウッドワスがモルガンに襲いかかった。それでもモルガンはウッドワスの頬を撫でると、ただ、涙を流して消えていった。

 

 ベリル・ガットか。

 やはり殺しておいた方が良かったか。オーロラと奴に唆されたな。モルガンの正体を暴くオーロラの演説が耳障りで仕方ない。

 

 

「チッ、スピネルを人質に取りやがったのか!」

「マシュ、アルトリア!」

「邪魔するな、よ!」

 

 

 妖精の魔術を組み上げ、蒼炎を撒き散らすが、それを同等の蒼炎で掻き消される。

 

 

「ボクがいる事、忘れたわけじゃないよね」

()()……まさか、かつての相棒が俺の敵になるなんてな」

 

 

 アーチャー・竜の妖精メア。

 竜の妖精でありながら汎人類史のサーヴァントとしてこの世界に召喚できた唯一の存在。そして、俺が居るから呼び出されたかつての相棒。

 

 そして、過去に水鏡でレイシフトしたマシュ。妖精騎士ギャラハッドの名を与えられたハイ・サーヴァント。

 

 お互い、手の内を理解しているからこそ、戦いは長期戦へと持ち込まれる。スピネルを人質に取られているが、モルガンはまだ油断せずに同行を見守っている。スプリガンの要求の話を聞いているようだ。

 

 時間が無い。

 さっさと水鏡で転移してアイツらを殺そう。

 

 

「悪いな予言の子。我が王に似ていても、今回ばかりは俺の敵だ」

 

 

 空間置換によってアルトリアの前方に虚空が開く。

 魔樹の種を乗せた挿木。突き刺されば魔力を吸い取って体内から成長していく改悪種。

 

 

「死ね」

「アルトリア!!」

 

 

 それを庇い、アルトリアを押し退けた妖精王オベロンが挿木に刺さり、大樹に呑み込まれる。

 

 俺は妖精王オベロンなんて存在を知らない。いや、正確な意味で妖精王オベロンが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。妖精王オベロンは著作のモノで、信仰は確かにあるかもしれないが、カウンターとして呼び出されるなら、ブリテンに精通した存在で無ければ不可能だ。

 

 この世界に介入出来る唯一の条件が()()()()()()()()()()()()ということ。トリスタンは元々、スピネルに付ける名前で、妖精騎士でないから介入出来るバグが生まれた。メアは妖精でありブリテンに住まい、俺と縁がある為、この世界に介入出来るし、賢者グリムさえ妖精の肉体を得て、名前を変えてトネリコの時代から居たので歴史そのものに介入する事が出来た。村正については改造サーヴァントで受肉に近いのか、影響を受けていない。

 

 だが妖精王オベロンはブリテンに何の関連性もない。

 

 魔眼でも分からない。

 分からないから危険だと本能が悟った。

 本質は恐らくブリテンに害を成す者だ。アレくらいでは死なないと思うが、トドメを刺す時間もない。

 

 

「じゃあな。お前らとの決着は先延ばしだ」

「待っ–––––」

 

 

 俺は水鏡で玉座の間まで転移していた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 私は今、とてつもない窮地に陥っている。

 スピネルが人質に取られた。魔力封じの枷に繋がれ、殴られて血を流してボロボロになっている娘を見て激昂するが、剣を突きつけられているため、殆どの魔術を使おうとすればスピネルが殺される。

 

 私は手に持つ杖を捨てた。

 ああ、泣かないでバーヴァン・シー。

 

 貴女のせいではありません。

 たとえ、私が死んだとしても貴女は悪くありません。

 

 涙を流しながら叫んでいる。

 下卑た笑みを浮かべるスプリガン。

 

 ただ一言、「やれ」と呟くと背後にいた騎士の剣が振り下ろされる。杖を捨て、護る手段などない。

 

 ああ、ここまでか。

 そう思った矢先、背後から魔力を感じた。

 

 剣を弾く音が聞こえると私は振り返る。

 

 

「大丈夫か、モルガン」

 

 

 ああ、お前は私を助けてくれるのだな。

 

 

 ★★★★★

 

 

「おやおや、漸くお出ましですか魔導師マーリン」

「スプリガンか。貴様、俺の娘に手を出す意味がどういう意味か分かっての行いか?」

「歴史は変わります。貴方と女王陛下の首を取ればね」

 

 

 剣を構えるが、スピネルに向けられた剣に舌打ちをする。どうやら要求を飲まなければ殺すようだ。

 

 

「ラスカ」

「………」

「武器を捨てなさい。そうすれば苦痛なく終わらせてあげましょう」

 

 

 モルガンと一瞬だけ目があった。

 それだけで何をすべきか理解した。

 

 聖剣のレプリカを別の方向へ力強く投擲する。

 次の瞬間、虚空が投擲した聖剣のレプリカを呑み込んだ。そしてスピネルを拘束する騎士の頭を貫いた。

 

 モルガンが倒れながらも意図を察して置換してくれた。そのおかげで騎士を振り解き、此方に走るスピネル。騎士達は慌ててスピネルを殺そうとするが、スピネルを包み込む風の結界が騎士達をあらかた吹き飛ばした。

 

 

「スピネル!」

「お父様あぁぁぁぁ!!」

「よく頑張った。モルガンの側にいなさい」

 

 

 スピネルを抱きしめて後ろに下げる。

 モルガンも傷が深いが、致命傷は避けている。治癒魔術を使い、回復しているがまだ少し時間がかかりそうだ。さてと、最早容赦する事はない。

 

 

「貴様ら全員、魔樹の養分(エサ)決定だ。糞共」

 

 

 妖精の神秘を簒奪する魔樹に拘束され、次第に形を保てずに消滅していく妖精の軍。対妖精の魔術を習得していないわけがない。そうでなければトネリコを勝たせる事は出来なかった。

 

 今度は護れた。

 今度は取り零さなかった。

 

 

「後は貴様だけだ。スプリガン」

「…ふっ、成る程。かつて人間達を纏め上げ、妖精相手に勝利に導いた魔術師。そう言われただけはあるようですね」

「随分と余裕だな。これから起こる惨状を想像しなかったのか?」

「私は生憎と、手を打つなら二、三手ほど余裕を残すのです。だから、これが奥の手です」

 

 

 パキン、と音が聞こえた。

 スプリガンの持つ結晶が握り潰されると、スピネルの耳に付けられたイヤリングが壊れた。咄嗟にモルガンからスピネルが離れ、胸を押さえて苦しみ始めた。

 

 

「がっ、ああ……い……!?」

「改悪呪詛、面白いものでしょう?その結晶の中身だけでモース300以上の呪いが凝縮されているなんて」

「っっ!?テメェ!!」

「ああすみません、私も時間です」

 

 

 スプリガンが飛び降りるとそれをランスロットが回収していく。竜の蒼炎を撃つが、悉く躱されてしまう。スプリガンは殺したいが、今はスピネルの方が先だ。

 

 改悪呪詛。

 精巧な魔女の生み出す呪いの基盤にモースの呪いを凝縮している。この広がり方はマズイ。いつモースに堕ちてもおかしくない。それを耐えているのはスピネルの精神が強いからだ。

 

 この悪辣なやり口、ベリルだな。

 モルガンに打ち込もうとした毒を人質に使わせて、モルガンと接触した瞬間に破壊する。あの男、絶対に俺が殺してやる。

 

 

「クソッ、【静寂の理想郷(シレンティウム・アヴァロン)】で」

「くっ、ラスカは展開、私が治療します!」

 

 

 ラスカが理想郷を開き、モルガンが治療を始めるが、モルガンの手が呪詛に侵されていく。血を吐き、命が失われたとしても助けようと、彼女の手を握る。

 

 しかし……スピネルはその手を払った。

 どうして、とモルガンが呟くと、スピネルは悲しそうに笑っていた。

 

 

「いいの、お母様、お父様」

「お、前……」

「もう、助からない。私の不始末で、お母様達まで巻き込みたくないの」

 

 

 関係がない。

 モルガンは変わらず手を伸ばし、治療しようとする。なのにスピネルは首を横に振る。

 

 

「多分、それでも私を助けようとするでしょ?」

 

 

 スピネルは俺達から離れていく。

 そして止まった。玉座から大穴を見渡せる場所の淵で彼女は脚を止めた。

 

 

「おい!待て!!」

「止めなさい!バーヴァン・シー!!」

 

 

 娘の下へ駆け出したラスカ。

 魔術で手繰り寄せようとするモルガン。モルガンは重傷のせいか、魔術のキレが悪い。

 

 二人が伸ばす手に愛されている実感を噛み締めて、スピネルは笑った。

 

 とてもいい夢のような時間だった。トネリコに救われ、モルガンとラスカの娘になって、三人で過ごす時間がスピネルには贅沢過ぎる幸福だった。

 

 二人が大好きだから、私と一緒に地獄へ落ちてほしくなかった。きっと私は悪い子だ。それでも二人は私を愛してくれた。強さを、愛情を、幸せを教えてくれた。

 

 とても誇らしい。

 私は私がとても誇らしく思えた。

 

 私は二人の娘だから……

 

 

「お母様、お父様–––––大好き」

 

 

 最高の笑みを浮かべて、スピネルは大穴へと落ちていく。

 伸ばした手で掴めずにスピネルはただ落ちて、堕ちていく。もう手がなくなっていた。あんな醜い怪物になって、お母様達を襲うくらいなら死を選ぶ決意をしていた。

 

 これでいい。これでいい筈なのに……

 

「涙、止まんないや」

 

 

 遠くなっていく二人の姿に涙が溢れて止まらなかった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 間に合わなかった。

 伸ばした手で掴めずにスピネルはただ大穴へと落ちていく。

 

 

「……はは、スピネルがもう見えねえ」

 

 

 呆然とした声で吐き出した言葉は覇気のないものだった。そして次に感じた怒りに我を忘れた様に叫んだ。

 

 

「ふっざけんなっ!!!」

 

 

 柱に拳を叩きつけた。

 血が滲む。それでも今は拳より、心が痛かった。

 

 護ると思っていたものが零れ落ちた。

 いつもの事だ。いつもの様に起きてしまう事だ。

 

 なんて、言い訳で耐えられるものじゃない。

 憎い、憎い、憎い。妖精も裏切った騎士達も、カルデアもブリテンも世界さえも。

 

 幸せだった日常は崩れ去った。

 分かっている。こんなのいつか終わる幻想だったのかもしれないって。それでも、こんな報われない事は無いだろ。

 

 

「クソッ……なんで……」

 

 

 改悪呪詛で黒くなったモルガンの手を握り、治癒を施す。

 もしあと少し呪詛で蝕まれていたら、この手は二度と使えなくなっていた。スピネルがそう判断して、モースになって俺達を襲わない為に自分から大穴に飛び込んだ。

 

 優しい娘だ。だからこそ、取り残された俺達は酷く痛かった。モルガンは俺の胸に顔を埋めて、震えた手で俺に抱き縋っていた。

 

 

「モル…ガン」

「……少しだけ、こうさせてください」

 

 

 泣いている。また、お前を泣かせた。

 俺はもう何もかも許せない。それでもブリテンを護りたいと思うのか?俺はもう、お前しかいなくなってしまったのに。

 

 

「……ごめん」

 

 

 俺もモルガンを抱きしめた。

 涙を堪えて、ただ痛いほど強く抱き寄せた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「此処から先が玉座の間だ」

「うん。分かってる」

 

 

 扉がこじ開けられる。

 噎せ返るような血の匂い、何処を見渡しても血が辺り一面に血の海を作っていた。その玉座の近く、中心で立つ男に全員戦闘態勢に入る。

 

 

「ラスカ!」

「……メアか。もう此処まで来たのか」

 

 

 そこにいたのは血塗られた玉座と、傷だらけの女王を抱えたラスカの姿だった。妖精も騎士もどこにもいない。血で赤く染まった大樹が崩れて消えていく。

 

 

「手前らの負けだ。王手を打った」

「王手、ねぇ」

 

 

 涙を流して眠っているモルガンを抱え、ラスカは後ろを振り向かずに宣言する。

 

 

「いいだろう。ひとまず負けを認めよう。俺らは玉座を放棄する」

「!」

「降伏する、という事ですか?」

「玉座は好きにしろ。神造兵器が目当ての様だが、どうせ貴様らに使えないなら、放置しても何の問題ない」

 

 

 この場所に来た目的くらいなら覚えていた。

 まあどうせ使えるのはモルガンか、俺くらいだ。予言の子では身体を崩壊させれば起動くらいは出来るかもしれないが、それでもこの玉座はノクナレアでは使えない。

 

 

「玉座からモルガンを引き摺り下ろすなら、厄災の後にすれば良かったんだ。貴様らに出来る事は最早無い」

「はっ?手前何言って」

「分からないのか?貴様らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 彼らはまだこの世界の歴史に気付いたわけではない。

 短絡的な奴等だ。最早終わりは見えた。カルデアにはもう何も出来ない。カルデアのみの力でどうこうなる段階を最早超えた。

 

 

「まあいい。()()()()()()()()?それとこれは妖精共に伝言だ」

 

 

 水鏡を起動させ、モルガンを抱えて歩いていく。

 逃さないと、村正とグリムが動くが、魔樹が突如足下から暴れ出し、二人を通さない。戦闘経験だけなら二人より遥かに上だ。伊達にあの二人を相手してた訳じゃない。

 

 

「女王に加護された時代は終わりを告げた。これから始まるのは本当の絶望。––––精々無様に踊って、泣きわめいてくれよ。間抜けで手遅れの塵芥共が……」

 

 

 最後に振り返ったラスカの顔には返り血が溢れ、憎しみに染まった眼をしていた。

 

 垂れた血がまるで泣いているかのように。悲壮な顔をして、この場から去っていった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 モルガンが眠ってから三日後。

 モルガンは傷を治し、全快となった。スピネルを失った事で涙を流していたが、もうどうしようもない。スピネルは帰ってこない。

 

 静かになったこの大樹の家で料理を作った。食わなければ生きられない。俺達は家族なら、団欒は一緒だ。   

 

 

「……ラスカ、一人分多いです」

「……悪い」

 

 

 つい、三人分を作ってしまうほど、俺も動揺しているらしい。戴冠式まであと数時間といった所だ。妖精をわざわざ皆殺しにするつもりはないが、助ける気は更々無い。ウッドワスかムリアン、トトロットの三人だけならまだしも、他はもうどうでもいい。

 

 

「戴冠式に使い魔を飛ばした。多分、その時が本当の厄災だ」

「玉座は使えないのですか?」

「使えるが、ガウェインを退かさなければ無理だ。俺の理想郷に八つ。玉座に十三。揃えるだけ揃えたが、これであの神を殺せるかは微妙だ」

「そう、ですか」

 

 

 それでも、勝てる見込みはある筈だ。 

 まだ希望は捨てる気はない。妖精は死ぬ。今日、この日が約束された絶望の日。カルデアの崩壊との推測、この世界の時間の流れと帳尻を合わせて今日が怒り狂った神が起きる日だ。

 

 

「……始まったか。準備を始めよう」

「ええ」 

 

 

 呪いの気配がした。

 外界と遮断し、癒しを司るこの理想郷でさえ貫通しかねない膨大な呪い。最早、この場所さえ危険だ。

 

 

「–––––()()()、起動」

 

 

 空想樹の培養は成功している。

 樹の概念だ。理解は難しかったが、培養に成功した。空想樹に()()()()()があり、空想を繋ぎ止める楔ならば宇宙だって逃げられる。設計に1000年は費やしたけれど。それでもサーヴァントと同化したりすれば、出力は桁違いに上がる事は知っている。

 

 かつて虞美人が同化し、呪いの概念を空想樹の防衛本能に組み込めたのと同じように。俺は空想樹を俺なりに改良し、術式を組み込んで運用する。空想樹自体には膨大なエネルギーが蓄えられている。それこそ魔力だけじゃなく、国さえ造り変えられる程の。

 

 俺が組み込んだ術式は浮遊と浄化。

 地上に居るんじゃ、崩壊に巻き込まれる。ならば空へと逃げるだけだ。

 

 湖は空へと飛び立つ。

 理想郷は空へと駆け上がる。空想樹によって術式を拡大し、理想郷ごと空へと移動出来る空中要塞。セミラミスの宝具に似ているが、それとは造りが全く違う。

 

 

「名付けるなら【最果ての空想要塞(イマージュ・オブ・バビロン)】ってとこか。これなら呪いの対策は万全だ」

「これだけでは足りないでしょうが、あるだけ心強いですね」

「主導権は俺が持ってる。俺が死なない限り堕ちない要塞だ」

 

 

 まあ俺は死なないから外因的な方法でしか堕ちない。空想樹が破壊されない限り、呪いだって弾き飛ばす対呪いの神に用意した空中要塞。これなら、勝てる見込みは充分ある。

 

 俺が出来るだけの準備はした。

 これで負けたら地獄で笑ってやる。

 

 

「……ラスカ」

「何だ?」

「スピネルと、私と、一緒に居られて…幸せでしたか?」

 

  

 モルガンが質問してくる。

 何故、今その質問をするのか分からない。そんなの答えは決まっている。

 

 

「愚問だろそれ。今更だろ」

「えっ?」

「幸せだったよ。俺が不死になる前よりも」

 

 

 妖精眼で見通しても嘘はない。

 アルトリアが居た時代より幸せ。モルガンの頬が僅かに赤く染まる。それはつまり、ラスカもこの世界で生きる自分と不満は無かったと言う事だ。

 

 幸せじゃないなんて、言えるわけがない。

 モルガンとスピネルと一緒に、2000年以上もあの場所に住んでいて、夫婦になって、家族になった。

 

 かつての王への裏切りかもしれない。

 アイツを敵に回す事をしてでも、今を守りたいと思った。

 

 だから、幸せだった。

 お前は違うのか?と聞き返すと、モルガンは決意を胸に笑った。

 

 

「……ええ、私もです。決めました」

 

 

 決めた、と口にしたモルガンは顔を逸らして誰も居ない空間に話しかける。

 

 

「居るのでしょう、マーリン。出てこないと殺しますよ」

「……はっ?」

 

 

 その言葉に視線がモルガンと同じ方向へ向く。

 探知方法を変えてみると千里眼で見られている気配が微かにする。フワリと花の香りが鼻をくすぐる。

 

 

「––––君から声をかけるなんて珍しい事もあったもんだ」

「出た人類悪」

「久しぶりに会った師匠に辛辣だな君!?」

 

 

 当たり前だろロクデナシ。

 お前、師匠なのに全然助けに来ないじゃん。俺が苦しんでるのに介入もせずにずっと傍観してたじゃん。いざとなったら出来るのに。

 

 

「なんで出てきたんだよ。てかこの世界に介入出来るのか?」

「私は死んでないしね。モルガン、君が僕を呼んだという事は、覚悟を決めたのかい?」

「お前に言われるまでもないですが、その通りです」

 

 

 その言葉の意味が一瞬分からなかった。

 嫌な予感がした。モルガンの覚悟、それは何なのか分からずに俺は動揺しながらも、モルガンに尋ねる。

 

 

「何、いって……」

「お前の推測でいい。()()()()()()()?」

「君はずっと先延ばしにされていたからね。君は悪虐こそなしていても、それはブリテンを護る為だ。殺した訳ではない。()()()()()()()()()()? それを踏まえて、君はまだ希望がある」

「なら私達を連れて行け」

 

 

 それは、あまりにも唐突な宣告だった。

 気が付けば俺は声を荒げて、受け入れられないと叫んでいた。

 

 

「駄目だ!!」

「……ラスカ」

「お前、それが何言ってんのか分かってんのか?」

 

 

 珍しく感情的だった。

 俺でも、その事に驚きながらも叫んだ。

 

 自分にもこんな感情がある事に気づいた時には遅かった。

 

 喪失感に悩まされる事はあった。

 無力さに溺れた事なんてザラにあった。

 けど、これは本格的に違う。苦しいって、一緒に逃げてほしいって、そんな想いで頭を埋め尽くす。

 

 

「それはお前が……!!」

「分かっています。私の結末は私が一番よく知っている」

 

 

 星の内海を通れば、きっとモルガンは戻れなくなる。この異聞帯の前提が崩れる為、問題を先延ばしにしていた。それでよかったと俺は思う。

 

 星の内海に向かうというのは、その時にモルガンは消えるという事だ。

 

 

「感じませんか?ラスカ」

「感じる?何を」

「スピネルの気配を」

 

 

 浄化している隙間から漏れた微かな魔力に見覚えがあった。スピネルの魔力だ。呪いだけが浄化されてスピネルの魔力を素通りさせている。微かに気配を感じられる。

 

 

「……本当だ。でもこれ、呪いか?」

「ケルヌンノスの呪いにスピネルの気配が混ざっている。スピネルは恐らくケルヌンノスに囚われているね」

「……私達に出来る事は娘をあの神から救う事です。でも、それは最果ての槍では足りません」

 

 

 これだけ用意してもあの神を殺すには足りない。

 それだけあの神の怒りは強大に膨れ上がってしまったのだから。

 

 

「ラスカ。バーヴァン・シーを……スピネルを貴方に任せます」

 

 

 俺が、あの神を倒す事になる。

 モルガンでは駄目だ。きっと、切り札にはモルガンが……

 

 

「任されて、くれますか?」

 

 

 それは、卑怯だろ。

 歯を食い縛り、歪めた顔のまま力無く頷く。納得はしたくない。けれど、ケルヌンノスを殺さなければスピネルがあのままだ。

 

 殺す為には手が足りない。

 スピネルを救うには切り札が必要だ。

 

 それでも……俺は認めたくない。

 

 

「……分かった」

 

 

 納得はしたくなかった。

 割り切ってしまえる話ではない。けど、スピネルを救うその心は嘘ではない。どちらも大切だ。けど、どちらかしか選べない。

 

 モルガンが覚悟を決めたのなら、俺も覚悟を決めなくちゃいけない。たとえ、モルガンを失ったとしても。

 

 

 ★★★★★

 

 

 俺とモルガンはカルデアと合流した。

 最初こそ彼方も戸惑っていたが、マーリンの説得とケルヌンノスの討伐までの不戦協定を結んで、俺達は星の内海へと向かった。

 

 その道中で、マーリンによって語られたこの世界の真実にモルガンと俺を除く全員が怪訝な顔をしていた。

 

 

それいじょうむかしはないほどの、それはむかしのお話です

 

ろくにんの妖精がそとにでると、せかいは海になっていました

 

“かわいそうなことを”

“こんなせかいになってしまって”

 

海のなかからおおきなかげがたちあがりました

 

ふわふわ、ふさふさの大きなからだ

 

その肩には、いなくなったはずの動物ひとり

 

ろくにんは神さまとともだちになりました

 

なにもない海はつまらなくて、すみずらくて、たいへんなものでしたが、

 

神さまがが波をせきとめてくれるので、ろくにんはらくちんです

 

“波の無い海も良いけど”

 

“ぼくたちやっぱり大地が恋しい!”

 

ろくにんは神さまによろこびをささげました

 

ろくにんは神さまにおねがいをささげました

 

ろくにんは神さまをささげました

 

ねがいはかなえられました

 

おまつりはおわりました

 

 

 

だまされてどくのお酒をのんだので神さまはしにました

 

 

 

ろくにんは神さまのしたいをてにいれました

 

あたらしいだいちにするのです

 

のこされてなきさけぶ動物もたいせつにつかいました

 

たったひとりのにんげんなので。たったひとつではたりないので

 

ばらばらに。ばらばらに。しなないようにばらばらに

 

なにをしてもぜったいにしなないように。まほうをかけてたいせつにりようします

 

こうしてブリテンはできたのです。

 

こうしてあやまちははじまったのです。

 

はじまりのろくにんにすくいあれ

 

はじまりのろくにんにのろいあれ

 

 

 始まりの妖精達はケルヌンノスを毒殺し、島として浮かべたのだ。巨大な神だ。その死体を浮かべさえすれば小さな島くらいにはなると思ったのだろう。原初の巫女も俺と同じ、身体に不老不死の呪いをかけられて今もなおバラバラに解体されて人間のプロトタイプとして利用されている。

 

 

「この世界でお前らは本物の聖剣を見た事がねえだろ。アーサー王伝説に必要不可欠な伝説の聖剣が」

「でもガウェインやランスロットが」

「ありゃ偽物だ。魔力結晶や角だろ。真の意味での聖剣がこの世界には存在しない」

 

 

 ランスロットの魔力結晶は一瞬のみ形になるし、ガウェインは角を剣として使っている。宝具の名前こそ同じ聖剣の名前を使っているが、本物の聖剣ではないのだ。

 

 

「でも、なんで?」

()()()()()()()()()()。はじまりのろくにんは聖剣を作らなかった。14000年前、セファールの侵略を止めたのは神造兵器だ。正確には約14000年前の人類が聖剣エクスカリバーを使い、倒す事が出来たんだ。だが、それが造られなかった以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 巨人セファールを倒すには聖剣が、神造兵器が必要不可欠だ。

 いくら英雄級の戦士がいてもそれに見合った武器が無ければ不可能だ。もし、もしもだ、この世界に神造兵器が一つでもあればよかったのだが、人類が生み出す武器では当然限度がある。幻想を殺すなら幻想を、神を殺すなら神の性質を持つ武器が無ければ戦いにすらならない時だってある。

 

 

「モルガンや俺はその負債。ケルヌンノスの討伐の為に玉座に色々と仕込んでいたんだが、それをお前らの反旗を翻す行為でほぼ台無しにされた訳だ」

「それは……」

「お前らが妖精の本質を正しく理解してなかったせいか……早計すぎたな。お前らのいう地上の崩壊を逆算すれば理解できた筈だ。ロンディニウムの壁画は俺が彫ったものだ。意図は理解してると思ってたんだが」

 

 

 あの壁画は俺が彫ったものだ。

 多分、掠れて読み難いと思うがしっかり英語表記で書いた筈だ。原作だと古代妖精言語で書かれてたし。見た筈だと言ったら、壁画の文字の殆どが掠れてて伝承の一部しか分からなかったと言われた。何その修正力。

 

 

「アレは妖精を滅ぼしてくれる一掃装置みてえなものだからな。俺らが妖精は護らないのはその本質があるからだ。その為にお前らにチョロチョロ動かれても目障りだった。だから、協力は必要無いって言ったんだよ」

「いやそんな意図があるなら言ってよ!?」

「妖精がキラキラしたものに見えたのかよ。つーかアルトリア、テメェは妖精の醜さくらい自分が眼にしてるだろ。それでも意図が分からないって魔猪の氏族かテメェは!」

「何だとー!」

 

 

 村正に喧嘩すんじゃねぇと止められた。

 かつての主君に腹が立つ。大体全部アルトリアが悪いと言っていた時代があったせいか、こういう所まで似なくていいのに。てか普通に妖精眼があるなら見抜けるだろ。万能であるが故に欲のない妖精が欲に取り憑かれ知識欲、食欲、権力欲、名誉欲、支配欲、優越欲、欲、欲、欲。

 

 この世界が綺麗に見えたのなら盲目もいい所だ。

 

 

「倒す手段が無い訳じゃねえ。聖剣が無いなら……それはもう造るしかない。巡礼の鐘を鳴らしたアルトリアと、既に鳴らし終えて終末に抗う為に玉座に座り続けた女王モルガン。この二人は楽園の妖精として聖剣の神秘を獲得している」

「ロンゴミニアドでは足りないのですか?」

「倒せるかはどうかは半々だが、多分決め手にならないはずだ。それだけあの神の神核は怒りによって膨れ上がりすぎた」

 

 

 モルガンとアルトリア、この二人には聖剣になる資格がある。

 だけど、それはもう人格も、経験も、記憶も、何もかも全てが剣になり、人ではなくなってしまう。本当は逃げてしまいたい。モルガンの手を取って、平行世界でも別の宇宙でも虚数空間でも、何処でもいいから一緒に逃げてしまいたい。

 

 けど、モルガンの願いはブリテンを護る事。

 モルガンがそれを選ぶ。だから俺は逃げない。それでも……

 

 

「俺だって納得してねえし、そんなことさせたくねえよ」

「あの……もしかして形式上の夫婦じゃなくて」

「俺らは本物の夫婦だ。ちゃんと結婚もしたよ」

「お、おめでとうございます!トネリコさん!そして先生も!」

「ありがとうマシュ」

 

 

 いや今そんな事言ってる場合か。

 何も目出たくないわ。この後、その妻が聖剣になるんだぞ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 全ての記憶の旅路が終わる。

 精算が終わり、これまでの生き様を噛み締め、二人は帰ってきた。聖剣作製の炉心に辿り着いた。綺麗な場所だった。俺は星の内海に入った事は初めてだ。

 

 アルトリアが先に行った。

 あの扉を潜り抜けたら、モルガンは聖剣になる。

 

 俺も、最後に話したい事が沢山あるから。

 だから、モルガンの手を握って、マーリンに少しだけ頼んだ。

 

 

「マーリン、悪いが少しだけ幻術で隔離出来るか」

「いいとも。残り少ない時間だけど、話しておいで」

 

 

 指を鳴らすと、そこにはモルガン以外誰も居なくなった。星空を見ながらテラスに寄りかかる。綺麗な場所だ。此処には穢れの一切が無い。こんな場所だったらよかった。こんな世界だったなら、幸せだったのかもしれない。

 

 

「俺は、ブリテンを救いたいなんて思わない」

 

 

 俺は最後に本音をぶち撒けた。

 これが最後だから、きっと止められないから。

 

 

「俺はブリテンより、お前が大事だ。それでも、お前はブリテンを護るんだろ?」

 

 

 彼女は頷いた。

 

 

「長い年月だった」

 

「長い長い旅路だった」

 

「モルガン、これまでの旅路はどうだった?」

 

 

 その手は震えていた。

 これまでの旅路。トネリコとして召喚された時代から今に至るまでのその旅路、円卓を率いてウーサー王と駆け抜けた日々、スピネルと三人で家族として過ごした日々、そして今日に至るまでの日々。

 

 ずっと、口にしなかった。

 カッコ悪いし、モルガンには妖精眼がある。言わずとも分かってしまう。それでも、本音を口にした。

 

 

「モルガン」

 

 

 気が付けば涙を流していた。

 迷子の子供のように、頬から一筋の涙が零れ落ちる。

 

 

「俺、やっぱり怖いな。お前が居なくなる事が怖いや」

 

「本当なら、俺はお前を連れて逃げたいよ。失いたくないって、辛くて悲しくて、寂しくて死にそうだ」

 

 

 俺は強くなんてない。

 時間が経って、経って、経ち過ぎて、きっと孤独になる事が怖い。

 

 一緒に生きたい。

 もしくは、一緒に死ねればそれだけで幸せだった。きっと、全部に言い訳が出来るから。

 

 でも、彼女は行くのだろう。

 ブリテンを救うだけじゃなく、きっと娘を救う為に我が身を犠牲にしてでも。

 

 

「それでも……お前は行くんだな」

 

 

 彼女は頷いた。

 彼女も、泣いていた。

 ああ、泣かせてばかりだ。俺はずっとそうだった。ずっと、足を引っ張ってきたのかもしれない。

 

 こんな言い方は狡い。

 決意を鈍らせるような言葉を吐くつもりはなかったのに。

 

 涙を救うように、モルガンが頬を撫でる。

 お前も泣いているくせに、彼女の涙を指で掬う。

 

 

「ラスカ、私はずっと貴方に支えられてきました。貴方が居たから私は此処まで走れた」

 

「支配という形でしか、愛せなかった私を貴方はずっと寄り添って、愛してくれた」

 

「私も怖いです。でも、貴方がいるから」

 

「私の意志は、心は、愛は、貴方がきっと覚えてくれるから、辛くはありません」

 

 

 涙を流しながら笑った。

 辛くない。覚えているから。だから、負けられない。強がって、自分は悲しくないと、別れを悲しませないようにラスカは笑った。

 

 

「今度こそ、聞いてもらえますか?」

 

 

 彼は頷いた。

 頬に伝わる涙が、必死になってそれを隠そうとする全てが愛おしく見えた。

 

 

 

 

「私は–––––貴方を愛しています」

 

 

 

 

 モルガンは優しくキスを落とした。

 とても甘くて、強くて儚い生命の鼓動が聞こえた気がした。

 

 これまで、さまざまな旅路があっただろう。

 彼女もまた、ラスカに支えられ、変わっていった。二人とも寄り添わなければ、きっとこうはならなかった。

 

 敵となり、殺し合い、そして、相棒となり、夫婦となり、そして運命となった。

 

 

「スピネルを、私達の娘を頼みます」

「任せとけ」

 

 

 今は、誰にも負ける気がしなかった。

 そうして、幻術は解除されていく。モルガンの番になった。

 

 

「君が最後だモルガン」

「言われるまでもありません。ラスカ」

「ああ、分かってる」

 

 

 聖剣になったら俺に使ってほしい。

 モルガンが瞳でそう俺に伝えていた。モルガンは炉心の扉を歩いていった。燻る星の焔、太陽にも等しい妖精炉の熱、己の経験を鎚と化し、我が身を叩き上げ、一振りの聖剣がここに誕生する。

 

 妖精炉に腕を突っ込んだ。

 本来なら炭になりかねない灼熱も、まるで祝福するかのように剣の鼓動が伝わってくる。

 

 刀身は蒼く、そして儚く、美しい長剣。

 これが聖剣エクスカリバーの姉妹剣。名は既に決まっている。

 

 

「真名は【希望を紡ぐ勝利の剣(エクスカリバー・ル・フェイ)】」

 

 

 世界樹の賢者トネリコとして、そして妖精を憎みながらこの国を守る異聞帯のモルガンとして、六千年もこの世界で戦い続けた偉大な女王の名前。剣と成りそれでも高貴溢れるようなその在り方にラスカは笑う。

 

 

「この世界で最も美しく、最も強い女王の剣」

「魔術回路が凄まじく活性化されてる。これじゃあ最早冠位クラスだ」

「何、今ならマーリンを殺して俺が冠位に」

「止めてくれないかい!?」

 

 

 いや行けるんじゃね?ワンチャン。

 まあ多分、この剣を持って英霊となったら俺はキャスターじゃないだろうけど。

 

 刀身を撫で、額を当てて目を瞑る。

 まだ熱が燻っているのか、刀身から熱が溢れている。

 

 

「モルガン」

 

 

 ただ一言、ずっと思っていた事を口にした。

 

 

 

「この世界で、俺にとってお前は俺の希望(ほし)だったよ」

 

 

 ずっと追いかけて、隣に立って、幸せだった。

 だから、待っていてくれ。きっと全部終わったら俺もそっちに行くだろうから。

 

 

 

 

 ……To be completed。




 
 ……クラス『役を羽織る者(プリテンダー)』の可能性が検出されました。

どちらのルートが好み?

  • アルトリアルート
  • モルガンルート
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