短編小説、3作品目は鬼滅の刃から煉獄杏寿郎と猗窩座のお話です。

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これは煉獄杏寿郎と猗窩座が交わした、小さくも固い、一つの約束のお話。


煉獄杏寿郎と猗窩座 〜 二人が交わした約束

 ──何も無い、闇。

 

 ただ無限に続く虚空(こくう)

 

 その道には、紅い彼岸花(ヒガンバナ)が咲き乱れていた。

 

 そこに一人(たたず)む男がいた。

 

 ──煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)、享年20。

 

 あの無限列車での戦いの直後に現れた十二鬼月(じゅうにきづき)上弦(じょうげん)(さん)こと猗窩座(あかざ)に敗れ、後輩へ意志を託して散った、柱の一人。

 

 彼は(あや)しげに咲く曼珠沙華(まんじゅしゃげ)を眺めながら、呆然としていた。

 

 ──するとそこへ、一人の男が寄って来た。

 

「やあ杏寿郎、久しぶりではないか」

 

 その男は、紛れも無く猗窩座であった。しかし以前までの覇気はなく、どこか弱々しかった。しかし煉獄は警戒し、

 

「猗窩座、何をしに来た。ここは死者の通る道。お前が来る場所では到底ないであろう」

 

「何を言う杏寿郎。俺も死んだんだよ」

 

 猗窩座の力ない笑みに驚愕する煉獄。「炭治郎とその兄弟子に殺られたよ」と付け加え、その場に腰を下ろす。

 

「江戸時代から鬼として沢山の人たちを(ほふ)ってきた俺が行く先は地獄だ。丁度いい、少し話そうではないか」

 

 煉獄は以前と全く違う猗窩座の様子に呆気に取られていながらも、猗窩座の隣に座る。

 

「……弱々しい、と言いたいのだろう? そんな事、自分が一番分かっているさ。──俺は何も守れない『役立たず』だからな」

 

 無限列車後のあの死闘──猗窩座は強き煉獄を心から褒め称え、そんな強さが衰え、散ってしまうのを心から嘆いていた。

 

 そして誰よりも「強さ」にこだわっていた。強さを追い求めていた。

 

 そんな彼は今、自分のことを「役立たず」だと卑下した。

 

「人間時代を思い出したんだよ。たった一人の恋人がいたんだ。俺は彼女を一生をかけて守ると約束したんだ。──だがその恋人は毒が投げ込まれた井戸の水を飲んで死んだ。──俺はただ自分が憎かった。あの花火の咲き誇る中、夫婦(めおと)になって一生守ると誓った約束を果たせなかったこと、そしてたった一人の大切な人を守れなかったこと。俺はそんな自分が許せなかった。──鬼となった後も、きっと無意識の内にその記憶が働いていたのだろうな。誰よりも強さを求めた。そしてあの時、圧倒的な強さを持つお前に鬼にならないかと勧誘した。その時の俺は、杏寿郎の考えが全くもって理解出来なかった。だがこうして人間だったときの記憶を戻した今考えると、杏寿郎は強さを持つこと以外にも、本当に素晴らしい人間だった。自分の命一つを犠牲にして周りの隊士や一般人を助け、そして隊士はその意志を継ぎ、強くなった」

 

 猗窩座はただ心に浮かんでは消える感情を言葉にしていた。ほぼ独白に近いそれを、煉獄は瞑目しながら聞いていた。

 

「杏寿郎。俺はお前のその意志の強さに感動した。──俺は地獄に落とされるから何年後かは分からないが……転生してお互い違う人生を歩むことになったその時は、どこかで絶対に再開しよう。俺は煉獄杏寿郎という人物が好きだ。その意志の固さと気高さに俺は感化されたんだ」

 

「……猗窩座、本当の名前は何と言うんだ」

 

狛治(はくじ)だ」

 

「鬼を滅してこその鬼殺隊。俺はその柱の一人として、あの時現場にいた人達を一人として死なせなかったことを誇りに思っている。勿論あの時は、体力が消耗した所を襲い、後輩を侮辱したことに怒りを覚えた。──だが今君の話を聞いて、君がどうして強さに囚われていたのか、強者を好み弱者を踏みにじったのか、ようやく分かった。きっと亡き恋人を守れなかったその記憶が、水面下で猗窩座という鬼に作用していたのだろう。──狛治」

 

 そこまで話すと、煉獄は手を差し出した。それに応じるように、狛治も手を取る。

 

「いつか来世で会おう。何年後かは分からない。そもそも転生なんて無いかも知れない。だがきっと俺たちは会える」

 

「俺もそう思っているぞ杏寿郎。──また会える日まで」

 

 二人はそう固い約束を交わし、立ち上がると、お互い逆の道を歩き、そのまま闇に姿を消した。

 

 ──弱者が嫌いな猗窩座が一番嫌いだったのは、人間時代の恋人を守れなかった自分自身だった。

 

 二人は死後、別々の道を歩むだろう。

 

 しかしこれからの輪廻転生の流れの中で、二人が再び顔を合わせる日が、きっと来るのだろう。

 

 死闘を繰り広げた猗窩座──狛治と煉獄杏寿郎。

 

 二人は容姿も生い立ちも違えど、どこか似た者同士だったのかもしれない。そしてあの時二人が相見え、煉獄が死ぬのは、運命だったのかも知れない。

 

 

 二人が通った後の道には、彼岸花が変わらず妖しげに光を放ちながら咲き誇っていた。



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