「………となるわけだ。ねぇねぇイグザムぅ。今の仮説についてどう思う?」
古い遺跡のような場所で白髪赤目の何者かが問いかける。
「マーレイ…君、まだ居たの?さっさと帰ってくれって僕は言ったはずなんだけどな」
対して答えるのは声だけ。姿形は見えず、遺跡全体に声だけが響いている。
「そうだっけ?まぁ、いいじゃないか。友人が一人寂しく廃れた遺跡にいるんだ。話し相手になってあげようという気遣いだよ。受け取ってくれると嬉しいな」
「頼んだ覚えはないし、君と友人になった覚えもない。…はぁ、それで何の話だっけ?」
相変わらず気心の知れた友人同士の会話のようではあるが、双方ともに相手のことをかけがえのない友人と思っているわけではないのだ。
「そうやって最終的には会話に付き合ってくれるんだよね、君って。まぁ、簡潔に一言で言うなら「
「あぁ、なるほどね。僕は未だに「バグ」という表現に納得はしてないけど、言いたいことは分かるよ。凡人君がサムライ君とお姫さんに会ったことについて言っているんだね?」
「そうそう。あれらも「バグ」だ。特にサムライ君は異常個体だろ?」
「まぁね。お姫さんの方は明確なきっかけがあったけど、サムライ君は何もなかった。物心ついたときには武の頂を目指して走り始めていた。そしてその過程で本能すら捻じ伏せてしまった、か」
「うん。ただ邪魔だからという理由だけで世界の理すら超越してしまった異常個体。「バグ」の中の「バグ」。与えられた境遇ではなく自らの意思で逸脱したのだから、あの魔王なんかよりよほど異常だよ」
マーレイはイグザムの苦言も構わず、生きている存在に向かって「バグ」と連呼する。楽し気に笑いながら話していることも合わさって異様さが際立ってしまう。
「そうかもしれないね。正直、僕もアレについてはニエーナに同情する。あんなのが現れるとか想定できないでしょ」
「あはは、そうかもしれないね。でもさ、それが「ヒト」って存在なんだと私は思うよ」
「時に君や僕たちの想定すら超える「可能性」の具現存在、か」
そう、「ヒト」とはそういうもの。「ヒト」もまた「大いなる神」が生み出した存在。ソレが最初に持っていたモノをもとに生み出された最後の作品。
「そういうこと。それで話は戻るけど、さっきの話について君はどう思う?」
「振り返ってみれば僕の所に至った「バグ」は仲間を見つけていたり、その後に巡り合ったりすることが多かった。……世界から仲間外れにされて孤独を抱える者たちだからこそ、惹かれ合うのではないかな」
「傷を舐めあうということかな?なるほど言い得て妙かもね。滑稽で愛らしくて、まさに「ヒト」らしいと言えるだろう」
「どうして君はそういう言い方しかできないんだ…それで、君自身はどう思っているんだい?」
「うん、私かい?そうだね…」
すると、マーレイは僅かに考える仕草をする。
常に何もかもを理解しているように話すマーレイにしては珍しいことだった。
「おそらく、「バグ」が集まるんじゃない。
ややあって、マーレイは大げさな身振り手振りを加え、劇的に語り始めた。
「例えば“Speranza”の母親やサムライ君が良い例だ。ああいう唐突な「バグ」が周りに影響を与えて変えていってしまう。この場合、“Speranza”の父親やお姫さんが影響を与えられてしまった存在となる。まるで癌みたい…うん、そうか!そうだよ、彼らは癌なんだ!なるほど、そういうことだったのか!」
「……最後の「癌」呼ばわりはどうかと思うけど、それ以外は概ね納得できる。……もしかして、君が「凡人」を送り込むのは」
「その通り。唐突な「バグ」の再現。分かりやすく言うなら、癌細胞を移植するみたいなものさ。正直、私は送り込んだ「凡人」がどうなっても構わないんだ。死ぬまでに周りに少しでも影響を与えてくれれば、それだけで世界の崩壊は早まっていくのだし」
その言葉から明らかなように、マーレイにとって全ての存在は生きようが死のうがどうなっても良いのだ。「愛している」と口にするくせに、それが死んでも一切心は痛まない。
いや、或いは。「死」が生み出すものすら「愛して」しまっているから、こうなるのか。
「君みたいな奴に目を付けられた「凡人」君たちには心底同情するよ」
「あはは、何を言っているんだい?君も私が目を付けている存在だよ?」
「気持ち悪い。さっさと帰れ」
そこは、「試練の祠」。
数多の「バグ」が目指した最後の地。
それは今日も何も変わらず存在し続けている。