聖女アーシアが悪魔を憎んだ日。 作:ユメノオワリ
兵藤一誠は目の前の客人に緊張を強いられていた。
主であるリアス・グレモリーとテーブルを挟んで、先日兵藤家にやって来た3人のシスター達が座っている。
彼女らの話を纏めると、教会が管理していた聖剣エクスカリバーが堕天使のコカビエルに強奪され、その捜索の為に駒王町にやって来た事。
そしてこの件に関して駒王町の悪魔は一切干渉するなという警告とも脅迫とも取れる条件を突き付けてきた。
悪魔側からすればふざけた話である。
教会と堕天使のいざこざをこの町を巻き込んでおいて、干渉するなときた。
そもそもそのコカビエルという堕天使がその気になれば、駒王町を吹き飛ばすくらい簡単な実力者だと言う。
それを黙って静観しろなどと言われて納得出来る訳もない。
気になるのは先程から一言も話さないアーシアと名乗った少女。
彼女は簡潔に名前だけ告げて交渉は2人に任せているのか、手を組んで出された紅茶を見ているだけ。
(1番話が通じそうなんだけどなぁ……)
一誠の昔馴染みであるイリナとその同僚であるゼノヴィアという少女は、自分達の都合を押し付けるだけ。
一応こちらの防衛行動には口出ししないらしいが、どうしてトラブルを持ってきた連中にそんな事を決めつけられなければいけないのか。悪魔側からすれば話にならないと追い返したいくらいだ。
「それで、コカビエルを相手にそちらはどれくらいの戦力を用意しているのかしら?」
戦力の規模が分からなければ一般人への隠蔽にどれだけの人員を投入すれば良いのか判断出来ない。
リアスの質問に対してゼノヴィアの返答は意外なものだった。
「今回の件で教会が派遣したのは我々だけだ。というより、調査の為にこっちに来ていた先遣隊は既に連絡を絶った。恐らくはコカビエル達に殺されていると思われる。今のところ増援の予定はない」
「……呆れたわ。いくら貴女達が
たったの3人でコカビエルとその手下相手にどうにかなると思っているのなら、それは思い上がりというものだ。
ゼノヴィアが反論しようとすると、ティーカップの液体を眺めていたアーシアの顔が僅かに上がる。
「死なせません」
首に下げている十字架を弄りながら話す。
「ゼノヴィアさんとイリナさんは、私が絶対に死なせません。死なせて、なるものですか……!」
決して強い口調ではなかったが、断固たる決意を口にするアーシアに周囲が呆気を取られた。
一誠が気になったのは、その碧眼。
綺麗な瞳なのに、その眼光は暗く、底なし沼のような恐怖を植え付けてくる。
その眼をつい最近見たような気がした。
重くなってしまった空気を少しでも軽くする為か、イリナが努めて明るく振る舞う。
「ま、そういうことね! 難しい任務だってのは理解してるけど、私達だって死ぬつもりで戦う気はないわ」
「そうだな。それに我々は最悪、エクスカリバーの核の回収、もしくは破壊出来ればいい」
それからは互いに簡単な取り決めを行い、3人が席を立つ。
しかし、そこでリアス・グレモリーの“騎士”である木場祐斗が彼女らを引き止める。
前に出た木場を見て、一誠はアーシア・アルジェントの瞳に映った暗い光がここ最近の木場に似ているのだと気付く。
「君とは初対面の筈だが?」
「僕は、君達の先輩だよ。失敗作だったらしいけどね」
過去に、教会が行った聖剣計画という実験。
選ばれた者にしか使えない聖剣の使い手を人工的に造り出す計画。
木場祐斗は当時の被験者にして唯一の生存者。
他の仲間達失敗作として処分された。
だから木場はエクスカリバーに強い恨みを抱いている。
主人の手前、抑えようと努めていたが、実物を見た事で我慢の限界に来ているようだ。
「やめなさい祐斗! 貴方、自分がなにをしているのか
「すみません部長。でもこれだけは譲れないんです」
今にも魔剣を創り出しかねない祐斗。
彼の敵意と殺気に当てられて、ゼノヴィアとイリナも自分のエクスカリバーに手をかけている。
そこでアーシアがゼノヴィアの手を握った。
ゼノヴィアがアーシアを見ると、その顔色が優れない事に気付く。
「悪いが、君の希望を叶えるつもりはない。我々には任務があるのでこれで失礼する」
「逃げるのかい?」
「アーシアの具合が悪いみたいでね。それに、この件でそちらが堕天使と組まない限りはこちらも手を出さないという約束を破るつもりはない」
負けるつもりはないが、今は余計な事に時間と体力を費やす気はないのだろう。
「それでは、先程の条件を違えぬように」
それだけ告げると3人は部室から退室していった。
リアスは3人の少女が居なくなった後に祐斗を鋭い視線で見る。
「祐斗。貴方には話があるわ。ちょっと隣の部屋まで来なさい」
「……はい、部長」
リアスと木場もこの場を離れる。
ふと一誠はテーブルに残ったティーカップを見た。
ゼノヴィアとイリナの紅茶は半分以上減っているが、アーシアという子の紅茶はまったく減ってない。
一口飲むどころかカップに触れる事すらしなかったのに今気付いた。
予め取っていた安ホテルに戻った3人。
椅子に座るアーシアの額にイリナが手で触れる。
「大丈夫? アーシアさん……」
「はい。精神的な物だと思いますので」
実際にアーシアの顔色は既に元に戻っている。
「そう? 慣れない土地で疲労が出ちゃったのかしら?」
「かもしれませんね」
小さく微笑むアーシア。
「私とイリナは少し周囲を見て回ってくる。少しは土地を把握しておきたいからね」
「なら私も……!」
「いや。戦闘は避けるつもりだし、君はもう休んで明日に備えてくれ」
「……わかりました。どうかお気を付けて」
「帰りになにか買って帰るから、安静にしててね!」
そう告げると2人は部屋から出る。
1人になったアーシアはちょっとした疎外感を感じていた。
やはり、足手まといだと思われているかもしれないと不安になる。
椅子に座ったまま備え付けられた鏡に自分を写す。
「良かった……」
この土地の悪魔と接触した。
木場祐斗が聖剣に憎しみを抱くようにアーシア・アルジェントも悪魔を憎んでいる。
部室で顔色が悪くなったのは、自分の殺意を抑えるのに限界だったからだ。
膝に乗せている形見の銃を撫でる。
自分の憤怒と憎悪はあの日から少しも衰えていない。
あの部室で悪魔と顔合わせした瞬間に銃を引き抜きそうになった。
それは、まだアーシアがリカルドを失った痛みを忘れてない証拠だ。
「大丈夫ですよ、リカルドさん……」
感情に流されないようにアーシアは銃を両手で強く握った。
エクスカリバー編までは書きたいなぁ。
全5、6話で。