なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「お久しぶりですね、キーアさん」
「…………」(こくり)
「……?えっと、今日はなんというか、お静かなんですね……?」
「おおっとそれには私が答えよう!実はちょっと前にキーアはうちの極秘な感じの手伝いをしてくれてね!ちょっと今声が出ないんだ!なので気遣って貰えると嬉しいな!」
「えっ、そうだったのですかせんぱい!?」
「…………」(こくり)
あの後、事情を知るものとして少しは手伝ってあげよう、なんて言葉と共に協力者となったライネス。
……面白がっているだけなような気がしないでもないけども、実際私一人ではフォローしきれないのも事実なので、こうして手を回してくれるのはありがたいわけなのだが。
……こう、その。更なる説明の手間を後積みするのは、ちょいとどうかと思うわけでですね?……あ、はい。それくらいは必要経費、ですか。
「奇跡も、魔法も、ないんだよ」*1
「仮にも魔法少女が言う台詞ではないなぁ」
おおっと、溢れ出る哀しみが思わず言葉になっていたようだ、反省反省。
気を取り直して、改めて今回の案内人であるはるかさんに、
こちらもまた、キーアと同じく『お久し振り』の挨拶から始まったのだが……。
「……あの、私の顔になにか?」
「あ、すみません。……似てるなーと思いまして」
「世界には自身と同じ顔を持つ者が三人居る、なんて話もありますから」
「あはは、ですよね。すみません、変なこと言って」
はるかさんの返答にいえ、と返して、彼女が他の参加者に挨拶をしに離れていくのを見送る私。
……惚けてるように見えて、意外と鋭いというか、なんというか。
(意外と要注意な人、ということかな?……で、その姿の君は本当に外面を整えるの上手いよね、ここからだと心臓がバクバクしてるのすぐにわかっちゃうけども)
(……正直死んだかと思った)
(どんだけバレたくないのさ……)
バレたら死ぬ、というのが今の私の結論なので。
そんなことをCP君に返せば、彼女からは呆れたような気配だけが返ってくるのでしたとさ。
「どうも、私が今回の検査の担当をさせて頂く担当者になります」
「これはこれはご丁寧に。私、【異界憑依事件対策係現場支部・なりきり郷】の管理者、八雲紫でございますわ」
今日の責任者であるという白衣を着た女性と、ゆかりんが話すのを見る私達。……私も含めて、みんな驚いたような表情を浮かべているが、その理由はとても簡単である。
「──あら、どうしたのかしらみんな?鳩が豆鉄砲……いえ、大砲でも直撃したかのような驚きようですけれど」
「わかってて言ってらっしゃるのですね、それは?」
「ふふふ、ちょっとした冗談よ、そんなに怒らないで頂戴な」
みんなを見渡して、優雅に微笑む貴婦人。
……いつものロリッ娘なゆかりんではなく、そこに立っていたのはアダルトな姿の八雲紫、だったのである。
自身への境界弄りもできる、みたいな事は確かに言っていたけれど、こうして目にするのは初めてなので、みんな度肝を抜かれているわけだ。
……いやまぁ、私としては別の意味で、気が気ではないわけなのだけれども。
(おいィッ!?なんでわざわざはるかさんの目の前でそれをやったっ!?案の定なんかはるかさんがこっちを見る目が、疑いまみれになってんだけどぉっ!?)
(あら、ごめんなさいね。でもほら、統治者として他所の人間と対峙するのであれば、ある程度の威厳はないと……ね?)
(そりゃそうだけどもさぁっ!?)
なーんでよりにもよって
……ほら見てみなさいよ、はるかさんの滅茶苦茶疑ってる様子!
小さい人が大きくなれる、みたいな実例を示されて、疑念が確信に変わりかけてるよね多分!
前回出会った時には『八雲紫の秘書』って肩書きだったのも合わせて『なんで今日のキーアさんは、八雲さんに付き従ってないんだろう?』とか『やっぱり、キリアさんとキーアさんには何か関係が?』みたいな事を考えてる顔ですよあれは!
CP君の隠蔽技能は、バレたら自動的に真相にたどり着くヤバい地雷源なんですけどォッ!?
(ああ、そこについては大丈夫よ)
(なにが!?)
(その話、私も横から聞いてたから。だから大人の姿になった訳でもあるし?)
(……はぁ?いや、何を言って……)
(ふふっ、そぉれ☆)
こちらの困惑を他所に、紫が華麗にウインクをすれば。
……あれ?なんかこう、ちょっと感覚がずれたような?
そんな困惑を元にはるかさんの方に視線を向ければ、さっきまでの様子はどこへやら、今は普通にマシュと談笑をしていたのだった。
……えっと、どういうこと?
(
(なんと、そんな便利な技が……!?)
(いやまぁ、そんなに軽々しく使えるものでもないのだけれど、ね?)
そうして詳しく聞くところによれば、この大きい紫は昔から外での仕事とか、大きな力を必要とする場面で使ってきた、いわば変身状態みたいなものなのだという。
小さいゆかりんと比べて『境界を操る程度の能力』への親和性が上がる反面、能力を多用すると息切れやら目眩やらが起きるうえ、その状態で元に戻ると一月ほど大きくなれなくなるやら、能力がほとんど使えなくなるやらで、とてもではないが多用できるものでもないらしいが。
それでもまぁ、ここぞと言う時には切ることを辞さない切り札、でもあるそうで。今回は切り時だ、と久しぶりにお披露目したのだという。
(今、貴方に掛かっている認識阻害の境界を少し弄ったわ。少なくとも今日のうちにバレる事はない、と思うわよ。無論、迂闊な行動を取らなければ──の話だけれどね?)
(流石は紫様!全てにおいて抜かりなし!*2信じてました!紫様ならやってくれるって!ばんざーい!)
(なんという素早い手のひら返し、僕じゃなきゃ見逃しちゃうね)*3
CP君が横からツッコミを入れてくるが、そんなものは些細なこと。
よもやよもやのパーフェクト紫様なのである、ここはひたすら持ち上げるしかなかろう!みたいなテンションなわけである。
(……ん?いや待った、もしかして紫様も変身少女区分なのでは?)
(まぁ、そうとも言えるかもね。実際はこの姿が対外的な対応用だって知ってるのは、私の直接の上司さんくらいのものだけれど)
そんな中、ふと思い付いたことを彼女に聞いてみれば、返ってきたのはかもね?みたいな反応。
……まぁ、でもそうか。現状でさえトップとして便利屋として、結構忙しそうなゆかりんである。
実際はもっと頑張れますよー(但し体は壊す)とか、そんなの周囲には言えんよなー。
(そもそも今回は貴方のお披露目ですもの。脇役が目立っても仕方ないでしょう?)
(……そういえばそうだった……)
(マシュのお披露目を今回に合わせたのも、より目立つであろう貴方の方に、視線が集中することを期待してのモノ。頑張ってみんなにアピールして下さいな、聖裁少女さん?)
(……はぁい、キリアがんばりまーす)
一応、フォローとか考えてくれてた事についてはありがたいのだけど。……結局、この姿で頑張らなければならないことに変わりはない、というのはどうにかならなかったのだろうか?
……なんて詮なきことを思ってしまう、私なのでありましたとさ。
「じゃあ一番手、なのはいきまーす!レイジングハート!」
『setup』「おおーっ、これぞ魔法少女!いいですよいいですよー、MS力がぎゅんぎゅんあがってますよー!」
で、今は計器やらなにやらを近くに置いた、体育館みたいな場所で色々と実験しよう、みたいな感じでみんなが変身するのを眺めているところ。
なのはさんがレイジングハート*4を持っていたのであれ?と似たような感じのシャナが、
「にゃはは……今のレイジングハート、変身アイテム扱いになってるみたいでAIが入ってないんですよね」
「なるほど、インテル入ってないわけね」*5
「いん」
「てる?」
「……なんでもないから忘れて頂戴」「んー、紫様も中々のMS力。年上系のような年下系のような、不可思議な感じがたまりませんねぇ~」
なのはさんの発言に、ゆかりんが冗談を飛ばしたのだけれど……えっと、ごめんねゆかりん。流石にこの姿の時にはネタにはノれないよ……。
ショボくれた感じになってしまった彼女に、内心頭を下げつつ、改めてなのはさんが持っている杖に視線を向ける。
レイジングハートと言えば、本来は高性能なAIが搭載されたインテリジェントデバイスであるのだが。
今の彼女が手にしているそれは、原作の区分に直すとストレージデバイスになるようだ。……なんというか、ちょっと寂しくもあるような。
「次は私だな。『Imyuteus amenohabakiri tron──』」「
お次は翼さんで、確か聖詠……だっけ?*6
雑に言うと起動コマンド的なそれを高らかに歌い上げることにより、彼女らが胸に抱く聖遺物は形を変える──みたいな感じだったような?
……うーむ、なのはさんの杖も大概だけど、翼さんの格好もメカメカしいというかなんというか。
まぁ、だからこそ動くと
それとは別に、あのシンフォギアが本当に『アメノハバキリ』*7なのか、みたいな疑問もなくはないのだけれど。
……仮に原作と同じく本物であるのなら、正直なりきり云々の前に
「ああ、確かにこれは『アメノハバキリ』だが……同時に、私の元から切り離せないものでもある。なのはのデバイスが、変身アイテムとして保持されているように。私のこれも、私が私足る証として定型化されているのでしょうね」
「要するに、彼女の手元から離しようがないから調べられもしない、みたいな感じね」
「なるほど、それはまた難儀というか……」
ふむ、変身するのが一種の個性でもある彼女達は、変身できないことを嫌ってそこら辺のアイテムが付属するけれど、代わりに
うーむ、奥が深いというかなんというか。
「で、次は私とライネスなんだけど。……そもそも私の方には変身シーンとかなかったし、ライネスも普通の魔術師としての比較のために来てる感じだから、そういう口上とかはなし!」
「まぁ、私が変身……とか、それこそ
その次のりんちゃんとライネスは──、うん。
りんちゃんの方が素直にカレイドルビーだったのなら、変身シーンとかもあったのかも知れないけれど。
……ゲスト出演中は普通に魔法少女姿のままだったからか、シームレス変身である。……どっちかと言うと特撮っぽいというか。
で、ライネスはそもそも変身とかしない、普通の魔術師枠での参加らしい。……ってことは、一応使えるのかな、魔術。
「本当に一応、だけどね。魔術基盤があるような無いような、不可思議な感覚ゆえにあんまり成功もしないし、ほとんど意味のないモノになっているけどね」
「なるほど、それはなんとも珍妙な……」
ふむ、型月世界の魔術は基盤を通すもの。
それらは信仰によって支えられるモノだけど、こっちにもそういう信仰は
いやまぁ、私は魔術師ではないので正確なところは全くわからないのだけど。
で、いよいよ私の番。……だと思っていたのだけれど。
「…………」
「え、えっと。何か私がしましたでしょうか?」
今日の責任者である白衣の女性。
……なーんか、気になるのである。
具体的には、なんか愉快な何かが裏で動いているような、というか。
……ふーむ。
「いえ、なんでも。──それでは参ります」「おおーっ、来ました来ました!今回はこれを見るために来たんですから、しっかり映像に納めなくては!」
「───そこだぁっ!!」
「へっ?え、あ、ちょっ、へぶしっ!?」
変身するふりだけして、ちょっと虚空に視線を巡らせれば。
……なんか、彼女の後方ちょっと上に浮かぶ違和感が。
なのでそこに的確な投擲を打ち込むと、現れたのは──、
「あいたたた……。ふふふ、流石のMS力だとお褒め致しましょう。何を隠そう魔法少女関連の研究者とは仮の姿、皆さんご存知、無敵のマジカルルビーちゃんですよ~☆」
そんな、トンチキ発言をする魔法の杖、だったのでした。