ヨークシンをナワバリにするマフィアの間で、ある噂が流れた。最初は末端の構成員の与太話かと思われていたが、それは次第に上層部まで広がっていった。
内容は、全身黒づくめスーツの若い男が、末端の構成員を捕まえて
それだけならば特に何も問題は無かったが、問題は探している人物にこそあった。ソイツはよりによって「アンダーソンを継ぐ者」を探していたのだ。
ここ、ヨークシンのマフィアの間では、その名を持つ者は最重要人物であり、調べるだけでも禁忌だ。だからこそ、構成員達はこぞって排除にかかったが、ものの見事に全て返り討ちになった。
マフィアは舐められるのだけはいけない。すぐさま例の男について調査がなされたが、全くの空振りに終わる。マフィアの中でも情報を専門とする者が、防犯カメラに映る姿を見て解析したのに、だ。
曰く、ソイツは
だが、
だが、彼らは
その段になって漸く〝彼〟の耳にも届く。〝彼〟の決断は早かった。即座にソイツを丁重に自分のもとに呼んでこい、と幹部に指示を出したのだ。周りは強硬に反対したが、〝彼〟は聞かなかった。ただ、「約束がある」とだけ伝え、後は沈黙した。〝彼〟がそう言うならば周りは聞くしかない。幹部は仕方なく部下に指示を出して手筈を整える様に伝えた……。
◇
予想はしていたが、やはり相当上の地位にいるらしい。アンダーソンという単語を出しただけで過剰に反応して突っかかってきた。逆に言えば、マイケルの子孫は上手いことやっているという証だろう。突っかかってきた戦闘員には
やはり、あの企業名はマイケルのメッセージか。会社概要のパンフレットを見ると、創業200年になるらしい。かなりの老舗だ。世界中まで手を伸ばし、物品輸出入の貿易を行う傍らで、世界中に支社を作ってネットワークを広げていた。
そして…代表者こそ違う名前だが、創設者の中の片隅に確かに「マイケル・アンダーソン」の名前があった。
気づいたら、いつの間にか涙が流れていた。私にも〝泣く〟と言う事ができるらしい。
…まだ私は〝人間〟のようだ。
マイケルは私がいつ帰って来てもいいように手筈を整えていたのだ。これ程の大企業群を創設し、世界中に根を伸ばして…。やっぱりアイツは凄い奴だ。だからこそ、アイツの子孫にはきっと…会えるだろう。
◆
マフィア共もコケにされたと思ったのか攻勢を強めて来たが、烏合の衆が幾ら集まっても同じだ。悉く返り討ちにしてやった。勿論五体無事には帰したが。一度銃火器で囲まれたので、《纏》で威圧して気絶させた。奴等もこれで私が念能力者と気づくだろう。
やがて、念能力者が5人程来た。まぁ、マフィアの用心棒ならこんなものだろう。改めてマイケルの凄さが分かる。彼なら多分殲滅出来るだろう。能力の相性もあるから何とも言えないが、実力的には圧倒的な差がある。
私も面倒なのは嫌いなので、能力を使われる前に強めの《練》で怯ませた。2人程恐慌状態になって失神してしまったので、もう少し加減をしないといけないか…。残った骨のある奴等にメッセージを残したからきっと伝わるだろう。
◆
数日後、私の前に豪華なリムジンが停まった。前世でもカケラも縁が無かった車だな。中から執事の様な男性が降りてきてこう言った。
「アンダーソンを名乗る方、我が主人がお呼びです。是非お乗りください」
私はどちらかと言えば
「……毒は効きませんか」
とシレッと言った。普通はバレたら殺される危険もある筈だが、実に堂々としてる。肝が据わってるな。実はこの執事も中々出来る。ハンター下位クラスはあるだろう。流石に中枢にいる人物の執事ともなれば鍛えられているという事か。
「毒は効かないんだよ……
「貴方は……本物かもしれませんね」
と、執事は呟いた。やはりマイケルは多分何か言い遺していたな。さて…漸く辿り着くな。何が待っているだろうか…
◆
着いた先は大きな邸宅だった。ここはヨークシンでも一等地だった筈だが、こんな邸宅を構えると言う事はよっぽどの経済力だな。
車で庭を通ってる。かなりの敷地の広さだな。3分位走った所で玄関に降ろされた。城…とまでは言わないがかなりの豪邸だ。隠した《円》で確認した所、セキュリティもかなり高い。機械系は分からないが中々のものだ。
お目当ての人物にほんのちょっと期待したが、マイケルでは無かった。
玄関では、恰幅のいい人物が待ち構えていた。…結構地位が高い筈だがいいのだろうか? そして…〝彼〟は強力な念能力者だ。マイケル…とまでは流石にいかないが、少なくとも執事より強い。年齢はやや高齢だな。60…ぐらいか。
「
「これはご丁寧にどうも。名乗りが遅れて申し訳ない。私はカーム=アンダーソン。〝家族〟に会いに来た。聞きたい事もある。宜しいか?」
「……
「承知しました。ではこちらにどうぞ」
そう言ってジョンは引っ込んでいった。ヴィンセントと言うらしい執事が私を案内する。屋敷は《円》で確認したとは言え、かなり複雑な廊下や部屋の造りになっていた。襲撃防止用だな。ひとしきり廊下を歩き、大きな応接室に辿りついた。先にジョンがソファーに座っていた。
「改めて、ようこそ。カームさん。どうやら〝私〟を探していたらしいね」
私も対面のソファーに座って言った。
「その通り。しかし、
「……それはどういう意味かね?」
「
「……それだけでは根拠が薄いな。だが、古いマフィアのしきたりには通じているらしい」
「この邸宅の1番奥に1番力を持つ者がいる…。〝彼〟がそうだろう。恐らくこの会話も聞いてる筈だ。マイケルの事だ。子孫にも『ドンは強くあらねばならん』とか言って訓練を施していたのだろう。そして、そのオーラはアンタよりも〝彼〟の方が私にとって馴染みの深いものだ。アンタは能力で姿を偽装しているしな」
「………ご名答。まさかそこまで分かるとはな…。確かに私は〝影武者〟だ。そういう能力でね。しかし、安易に〝彼〟のもとに行かせる訳にもいかないのだ。そこは分かってくれるかね?」
「当然だな。で、何をしたらいい?」
「こちらの用意した質問に幾つか答えて貰おう。先ずはそこからだ」
「分かった。何でも聞くがいい」
「では、第一問。マイケル=アンダーソンが念能力に目覚めたのはいつだ?」
なんだそりゃ。本人確認のクイズか?
「あれはマイケルが7歳から8歳になる時だな。半年で目覚めたからかなり才能があったと思う」
「正解…。では第二問。コンシリエーレとしてマイケル=アンダーソンを支えたジョセフ=ルチアーノの初の彼女はいつ出来て、その名前は?」
…本格的にクイズになってきたな。まぁいい。気がすむまで付き合おう。
「忘れもしない。奴が15の時だ。舎弟の妹と付き合いだしてね。名前はリンダだったか…あれから私が旅立つまでの長期間、関係は続いていた筈だ」
「…それも正解。彼はその後にリンダさんと結婚している。…では次だ…」
それから延々と似た様なマニアックな質問が続いた。正直、私にとっては過去の思い出は相当辛いものだ。早く終わってくれないか…と思った時、ハッと気付いた。これは
確認だけなら数問で出来る。だからこそ、これは
質問は100にも及んだ。最後に
「これが最後の質問だ…。マイケル=アンダーソンと、カーム=アンダーソンの間で交わされた『血の掟』の内容は?」
………。
やはり、そうか……。マイケル、本当に…すまない…
「……マイケルは、ファミリーのドンに相応しい男になる、と。そして私は……生きてる限りは、1年に1度は…必ず、必ず…帰る、と…」
「………正解だ。さて、全問正解だ。もっと喜べよ。笑ったらどうだ? なぁ。カーム=アンダーソン」
「…………」
「……例え全問正解しようが、本人とは確認出来ねぇ。能力で心を読むとか、過去の証言や資料を丹念に読み解くとかいくらでもやりようはある。だから付いてこい…。最後の確認をさせてもらう」
そう言うと、彼は立ち上がり私を促した。私は中々立てなかったが、執事のヴィンセントさんに促され、漸く立ち上がった。
着いて行った先は中庭だった。
「ウチに伝わる伝承では、
「……」
彼は自分の擬態を解いた。中から出て来たのは筋肉質の壮年の男だ。
「
…彼の言葉に返す言葉も無い…。私は…
「分かった……。これも私の〝罰〟。故に
「漸く見られるツラになったな。いいぜ。ビリビリ来るね。…楽しみだ」
私は隠していたオーラを解いて《纏》をした。
「な……何だ…これは……これが人間1人のオーラか!?」
続けて全身から細胞を駆動し
ゴゴゴゴゴ…
「馬鹿な………これは…
彼は震え出し、その場に倒れ込む。既にヴィンセントさんは倒れ伏し、失神している。だが私は
「そこまでだ!」
我々を止める声が聞こえ、私は一旦《練》を解除した。
「ド…ドン……!」
「カルロ、済まなかったな…。そして…カーム=アンダーソンさん。こちらの無礼を心からお詫びする! 本当に申し訳無かった」
そう告げて出て来たのは、
【
使用者:カルロ=マッセロ
・変化・具現化系能力
他者に成り変わる能力。オーラを体に纏い、肉や服に近づけて限りなく本人と同じ容姿になる事が出来る。ジョジョで言うイエローテンパランス。オーラの質も似せる事が出来る為、見破る事は困難。だが、僅かに違和感が出る為、見破れない事は無い。影武者としては最適な能力。