とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

145 / 176
第一四五話、投稿します。
次は一月一九日水曜日です。
※一四三話の題名の〈〉内が変わっておりますが、内容に変わりはありませんのでご容赦ください。


第一四五話:〈信仰外地〉で多くの会話を

「で? 十字教を(おとし)める邪神がこの国にまで一体何のようなワケ?」

 

真守の目の前には前方のヴェントが敵意を抱かせるような挑発的な表情で座っていた。

 

ここは軍事施設の休息所のような場所で、エリザリーナに住居を用意するまでここで待てと真守と垣根は言われた。

丁度いいから真守はエリザリーナ独立国同盟にいる前方のヴェントと顔を合わせようと思い、エリザリーナに呼び出してもらったのだ。

そのため真守と垣根と同じテーブルには、前方のヴェントと共にサーシャ=クロイツェフが座っていた。

 

「欲しいものがあるんだ。だからここに来た」

 

真守が前方のヴェントの質問に答えると、前方のヴェントは怪訝な顔をした。

 

「欲しいもの? ……まあ、アンタが欲しいものつったら十字教関連じゃないと思うケド。何が欲しいのか参考に聞いてもいいかしら? 邪魔してやるわよ」

 

「少なくともお前が考えつくモノではない。それにお前が邪魔できるようなモノじゃないし」

 

真守が即答すると、ヴェントは舌に付けて口に咥えていた十字架をぎりと、歯噛みする。

それでも即座に気持ちを切り替えた。

絶対能力者(レベル6)であり十字教を冒涜する存在である真守を相手に、一々怒っていては時間が勿体ない。

 

「フィアンマのクソ野郎の野望をぶっ潰すのが先だから、ここでアンタとヤり合う気はアタシにはない。……でも、私たちの神を愚弄して敵に回したことは許さない」

 

「別に許さなくてもいいぞ?」

 

真守がひょうひょうと答えると、そこで口を開いたのは二人の険悪ムードを感じていた垣根だった。

 

「……真守。お前何しやがったんだ? この女はお前が十字教の神を愚弄(ぐろう)してるってこと以外で怒ってるようだが……いつもみてえに戦って仲良くなってねえのかよ?」

 

垣根は真守にこそっと耳打ちする。

いつもならば真守は戦った相手と和解し、手を取り合うことができるようになっている。

だが前方のヴェントはそれに当てはまらないようなのだ。

そのため真守が絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した○九三○事件で何があったか垣根がこっそり説明を求めると、話が聞こえていたヴェントはギロッと垣根を睨む。

そして真守を親指でさしながら、真守が口を開く前に苛立ちを込めて吐き捨てるように告げた。

 

「このクソ女はアタシの前で十字架を粉々に砕いたのよ。それが愚弄(ぐろう)以外の何になんのよ」

 

「……お前、そんなことしてたのか?」

 

垣根が十字教の由来ともなっている十字架をこれみよがしに砕いた真守に思わず引いていると、真守はムッと口を尖らせた。

 

「ヴェントの『天罰術式』を壊すためにはそれが手っ取り早かったんだ。別に悪意を持ってやったわけじゃない」

 

「『天罰術式』……その十字架がそうなのか?」

 

垣根がヴェントが口に(くわ)えている舌につけたピアスから伸びた十字架が自分を昏倒させた術式だと警戒して見ると、ヴェントは肯定した。

 

「そうよ。……と言っても、このクソ邪神に調整してあった術式を完璧に破壊されたから、ろくな力を出せないけど」

 

ヴェントはそこで盛大な舌打ちをする。

真守はそんなヴェントへと柔らかく微笑みかけた。

 

「ヴェント」

 

「何よ。笑いかけないでくれる? 気持ち悪いから」

 

ヴェントは心底嫌そうにしながらも、返事をする。

そんなヴェントへと真守は躊躇(ためら)わずに声を掛けた。

 

「良い夢は見られたか?」

 

ヴェントは真守の問いかけに薄く目を見開く。

そして真守から視線を逸らした。

 

「…………アンタに見せられた夢がいいものなワケないでしょ」

 

「そうか」

 

真守がヴェントの言葉に頷いて、次にヴェントの隣に座っていたサーシャ=クロイツェフに視線を移した。

ヴェントと話したいことはもう話し終わったからだ。

 

「それでお前が天使を降ろした素体、フィアンマの探しているサーシャ=クロイツェフか?」

 

「第一の回答ですが、確かに私はロシア成教、『殲滅白書(Annihilatus)』所属のサーシャ=クロイツェフです」

 

自己紹介をしたサーシャの服装を見つめて、真守は顔をしかめる。

 

サーシャは赤いスケスケの薄い布を黒いベルトでめちゃくちゃに拘束した奇妙な拘束服に、同じ趣向のニーハイソックスを履いている。

しかも首にはリード付きの首輪、そして足には足枷をしているのだ。

どこからどう見ても奇人変人、ヘンタイの服装である。

 

「その拘束服は『天使の力(テレズマ)』を封じ込めるために着ているのか? ……そんなことをしても、お前は『素質』を持っているだけで無意味だと思うんだが」

 

流石の拘束服でもスケスケの布地にする必要はない。

そのためそういう趣味なのか真守が若干引きながら声を掛けると、サーシャは淡々と答える。

 

「第二の回答ですが、これは以前から上司に強制的に着せられているものです。付け加えますと、決して私の趣味ではありません。」

 

「……その上司も狂ってるが、その命令に服従してちゃんと着てる辺り、お前も十分狂ってんな」

 

垣根はサーシャをゲテモノを見る目で見つめて思わず告げる。

 

「第三の回答ですが、無礼者ですね。私は狂ってなどいません」

 

サーシャが少し怒った口調で主張する中、垣根はサーシャの外套内部の腰辺りを見た。

 

「腰からバールやらのこぎりぶら下げているお前に説得力なんかねえぞ」

 

「第四の回答ですが、これは処刑(ロンドン)塔の七つ道具というもので、立派な霊装です!」

 

「……なんでロシア成教がイギリス清教の霊装持ってんだ…………?」

 

あべこべすぎるサーシャに垣根が困惑していると、真守は垣根の腕をちょいちょいと引っ張って告げる。

 

「垣根、これ以上ツッコミを入れてはならない。平然として嫌がってないってことは、どうやらそういう趣味の気があるらしいから」

 

「はん。変態に好まれそうな御大層な趣味だな」

 

垣根が呆れた様子で趣味が悪いと断じると、サーシャはぷるぷると震える。

 

「第一の質問ですが、あなたたちは何か勘違いしていませんかっ!?」

 

サーシャの悲しい問いかけが響くが、真守と垣根の中ではサーシャは既に奇人変人の類に入ってしまっている。

 

それを(くつがえ)すことは、奇妙な服装を平然と着ているサーシャにはできなかった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守と垣根はヴェントとサーシャに会った後、エリザリーナが用意してくれた住居へと(おもむ)いていた。

1LDKの家屋に鍵を使って入ると、真守は電気や水道、ガスなどのエネルギー関連を確認する。

その間垣根は住居の状態を確認しており、何か不備があれば未元物質(ダークマター)で補強していた。

 

「垣根。言っておくことがある」

 

エネルギーを生み出す能力者と『無限の創造性』を持つ能力者として自然に垣根と役割分担をした真守は電気プラグとHzの確認をしながら垣根に声を掛ける。

 

「なんだ?」

 

垣根は連れてきたカブトムシに命令を出しながら真守を横目に見た。

 

「ここは学園都市の外だからAIM拡散力場が薄い。だから私は超能力者(レベル5)としての能力を基盤として戦うことになりそうだ」

 

「薄い? なんだよ、薄いって。ここら辺に能力者はいねえから、AIM拡散力場なんて俺らやカブトムシ(端末)以外発してないだろ?」

 

垣根が真守の言葉に首を傾げていると、真守は淡々と事実を説明する。

 

「学園都市の外の機関には、妹達(シスターズ)が体の調整のために割り振られている。あの子たちが外にいるからこのエリザリーナ独立国同盟にもAIM拡散力場が薄く展開されてるんだ」

 

「そういやそうだったな。人造能力者つってもあいつらの素体は超能力者(レベル5)の御坂だ。各地に散ってるが、薄いくらいにはAIM拡散力場は展開できんのか」

 

垣根は妹達(シスターズ)を学園都市外に配置したところに何か上層部の意図を感じながらも納得する。

そんな垣根の前で、真守は真剣な表情になった。

 

「ここは勝手知ったる学園都市じゃないから。……ちゃんと情報を集めて動かないと危険なんだ。垣根も分かってくれるか?」

 

「お前に言われなくても分かってる。情報網に関しては、連れてきたカブトムシを量産体制にしてるからすぐに構築できる。偵察としてもロシアの方にも飛ばすから、お前は要らねえ心配しなくていい」

 

「………………うん」

 

真守は少し間を置いてから頷き、ベッドへと腰かける。

真守が物欲しそうにしている。

真守の一言でそう気が付いた垣根は意地悪く笑いながらも優しい声音で真守に話しかけた。

 

「どうした? してほしいことがあったら言わねえと分かんねえぞ?」

 

「…………こっち来てほしい」

 

「おう」

 

真守がぽんぽんと自分が座っているベッドの隣を叩くので、垣根は応じて真守の隣に座り、真守の細い腰を抱き寄せる。

真守は垣根に抱き寄せてもらったので、そっと垣根の腰に手を回してぎゅーっと抱き着いて頭を預ける。

真守は垣根にくっつきたかったのだ。

くっつきたいのに遠慮していた真守に以前との変化を感じながらも、垣根は真守のことを抱きしめる。

真守は垣根に抱きしめられながらぽそっと呟く。

 

「垣根。一緒に来てくれてありがとう」

 

「お前のためならどこにだって一緒に行ってやる。……絶対に一人にはしない。だからお前は何も不安に思う事なんてねえんだよ。分かったな?」

 

「……うん」

 

「ここまで言ってもらってもまだ不安なのかよ?」

 

垣根が元気づけても真守の声が暗いままなので、垣根は呆れながらも真守の頭を撫でて安心させる。

 

「……ううん、不安なんてない。私に不安なんてないから、垣根は気にしなくていい」

 

「…………そうか。分かった」

 

垣根は何が不安か真守が話してくれないので顔をしかめるが、無理やり聞き出そうとせずに真守のことを腕の中で抱きしめながら、気になっていた話題を口にした。

 

「お前はヴェントにどんな夢を見せたんだ?」

 

先程、真守はヴェントに良い夢を見られたか、と問いかけていた。

垣根はそれが気になっており、自分に頬をすりすりと摺り寄せる真守に問いかけたのだ。

 

「アイツは昔、弟と一緒に遊園地の事故に遭った。致命傷だったが、輸血すれば助かる傷だった。でも二人分の輸血が足りなくて、弟の方が身を引いてヴェントを助けたんだ。事故を起こして弟を見殺しにした科学をヴェントは憎んだ。憎くて憎くてしょうがなかったんだ」

 

真守はヴェントの記憶を覗いて得た情報を、淡々と垣根に伝える。

 

「アイツの弟は医療という科学を信じて、姉を助けてもらうために自分の命を譲った。ヴェントは弟が信じている科学を憎んでる。それって弟の気持ちを踏みにじっているってことだろ? ……だからあいつの記憶の中にある弟を再現して、夢の中で優しく(さと)しただけだ」

 

垣根はヴェントの過去と自分がやったことについて説明する真守を見て、寂しそうに笑った。

 

「……お前、本当に神さまやってんだな」

 

「別に私はアイツの神さまじゃない。アイツが信じているのは十字教だからな」

 

真守が事実を告げると、垣根はそっと真守の頭に頬を摺り寄せながら切なそうな声で告げる。

 

「…………俺の前では、」

 

「うん?」

 

垣根がそこで言葉を切ったので真守が顔を上げると、垣根は真守のことを真剣な表情で見つめながら自分の気持ちを真守に伝える。

 

「俺の前では神さまなんかやらなくていい。俺にとってお前はたった一人の大切な女の子だ。それ以上でもそれ以下でもねえ。……分かってんだろ?」

 

「……うん。ありがとう、垣根」

 

真守は垣根へとふにゃっとした安堵の表情を見せた。

 

「垣根、だいすきだぞ」

 

垣根はぎゅっと控えめに抱き着いてくる真守の小さな体を抱きしめながら頷く。

 

「……俺も、愛してる」

 

「うん」

 

垣根は頷く真守を優しく抱きしめる。

不安なんてないと真守は言うが、それでも真守がずっと何かを気にしているのを垣根は知っていた。

神さまの思考は分からない。

それでも言葉にしてくれれば分かる時が来るかもしれない。

だから垣根は真守が何を思っているか言ってほしかったが、強く出られずにいた。

 

「真守。俺は、いつまでもお前のそばにいる」

 

垣根は真守の首筋に頬を摺り寄せながら呟く。

 

「……ありがとう、垣根」

 

真守は垣根から体を離して、自分から垣根へと触れるだけのキスをした。

垣根はそんな真守のことをもう一度深く抱きしめる。

真守は柔らかで愛しい垣根の命を感じながら、そこでそっと目を伏せた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

早朝。垣根はベッドから起き上がって携帯電話を手にしていた。

 

(かたわ)らには惰眠を(むさぼ)っている真守の姿があり、垣根は真守の髪の毛を優しく撫でながら携帯電話をイジッて目的の人間へと電話を掛けた。

 

〈おはよう。……と言っても、こちらはお昼なんだけどね〉

 

垣根が電話を掛けた相手は八乙女緋鷹で、緋鷹は軽い調子で声を掛けてきた。

 

「時差があるのは承知してる。それで? 学園都市の方は今どうなってる?」

 

〈少しきな臭いわ。……ああ、きな臭いって別にロシアに負けてるとかそういうことじゃないのよ〉

 

垣根の問いかけに渋い反応をした緋鷹の言葉を聞いて、垣根は頷く。

 

「そんなことはこっちも分かってんだよ。だから連絡したんだ」

 

垣根はここ数日、ロシアと学園都市の戦争の様子をカブトムシに調べさせていた。

学園都市の科学力がロシアに負けるはずがない。

その証として学園都市はロシア中に基地を幾つも作っており、空は学園都市の超音速戦闘機に完全に支配されている。

 

〈現地にいるあなたがそう思うってことはよっぽどって事ね〉

 

学園都市は事を隠して進めたがる傾向がある。

それでも本当にやるべき事ならアビニョンの時のように徹底的にやる。

そのどちらにも該当しない学園都市の動きに違和感を覚えた垣根に、緋鷹は掴んでいる情報を伝えた。

 

〈何か探し物をしているらしいわ。それがどんなものかは分からないけれど〉

 

「探し物、か。それで? 学園都市は俺たちに追手を放ったか?」

 

超能力者(レベル5)第一位で絶対能力者(レベル6)である真守と超能力者(レベル5)第三位である自分が学園都市から出れば、どう頑張ったって上層部が連れ戻しに部隊を派遣するに決まっている。

それを見越して垣根が問いかけると、緋鷹は垣根に学園都市の動向を伝える。

 

〈今のところ、そういう動きはないわね。なんてったって真守さんは学園都市から離反する理由がないし、『枷』が嵌められているからそもそも離反なんてできない。エリザリーナ独立国同盟へ行った目的が果たせれば帰ってくるとアレイスターに思われてるんじゃない? ……でもね〉

 

「なんだよ。もったいぶらねえで教えろ」

 

垣根が急かすと、緋鷹は慎重な声音になって告げる。

 

〈他の人間に対しては追手が派遣されているわ。上条当麻、一方通行(アクセラレータ)、浜面仕上にね〉

 

「は? ……ちょっと待て。上条当麻は分かる。でも後の二人がなんでそこで出てくんだ?」

 

垣根がローマ正教徒のいさかいに全く関係のない二人が出てきて眉をひそませると、緋鷹は何か資料を見ているのか、紙をガサガサとめくる音が聞こえてきた。

 

〈まずは一方通行(アクセラレータ)の方。あなたたちがエリザリーナ独立国同盟に旅立った後、彼は最終信号(ラストオーダー)を連れて学園都市から逃走したのよ。彼は『第二候補(スペアプラン)』。真守さんが『第一候補(メインプラン)』として安定期に入ったから彼はもう不要だから優先度は低いけど、問題は最終信号(ラストオーダー)の方なの〉

 

最終信号(ラストオーダー)がAIM拡散力場をコントロールするための入力装置(コンソール)だからか?」

 

垣根が以前真守に聞いたことを思い出して訊ねると、緋鷹は頷く。

 

〈ええ。情報が下りてこないから分からないけれど、それで連中は彼の逃亡を全力で追っているみたいなの〉

 

一方通行(アクセラレータ)はなんで最終信号(ラストオーダー)を連れて逃げたんだ?」

 

〈彼女を救う手立てを探しているらしいわ。それでロシアに向かっているみたい〉

 

最終信号(ラストオーダー)を救う手立てがロシアにある? 学園都市が科学技術のトップだ。ロシアにそんなのがあるとは思えねえ」

 

垣根は不可解に思って顔をしかめるが、すぐに気づいたことがあって目を薄く開いた。

 

「まさか魔術で最終信号(ラストオーダー)を救おうとしてんのか? でも一方通行(アクセラレータ)は魔術なんて欠片も知らねえだろ。誰がアイツをそそのかしたんだ?」

 

〈分からないけれど、それでも一方通行(アクセラレータ)最終信号(ラストオーダー)を連れてロシアに向かったのは確かだわ〉

 

垣根は緋鷹の言葉を聞いて眉をひそめる。

実際、深城が天使になってしまった○九三○事件で深城を助けたのは魔術の知識を持つインデックスだった。

科学で救えなくても魔術で救える可能性は十分にある。

それでも、どうして一方通行(アクセラレータ)は科学の街で打ち止め(ラストオーダー)を魔術で救えると知ったのだろうか。

誰に教えてもらったのだろうか。その相手は一体何を考えているのか。

 

「……分からねえこと考えても仕方ねえな。それで? 浜面仕上……あの無能力者(レベル0)はどうしたんだよ?」

 

〈彼はね、『計画(プラン)』を崩壊させる存在なの〉

 

「なんだと?」

 

一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)が直面している問題はAIM拡散力場に関することなので真守に少なからず関係している。

浜面も浜面で真守と関係している問題を抱えていることに垣根は警戒心を抱いた。

 

〈浜面仕上は暗部抗争で死ななければならない因子だった〉

 

緋鷹は上層部からもたらされてた情報を垣根に伝える。

 

〈でも超能力者(レベル5)第五位、麦野沈利を撃破して生き伸びてしまったの。何の価値もない彼が自分の手で何かを手に入れようとしている。それが『計画(プラン)』を狂わせるかもしれないの。だから浜面仕上を抹殺、そして彼が連れて行った滝壺理后を『回収』するために上層部は追手を出したのよ〉

 

「『計画(プラン)』に支障が出た場合、真守に何の影響がある?」

 

もし浜面仕上のせいで『計画(プラン)』に縛られる真守に何か問題が出るのであれば絶対に何とかしないといけない。

真守のためならば手段を選ばない垣根が警戒していると、緋鷹は軽い口調で告げた。

 

〈今のところは特にそういうこともないみたい。さっきも言ったけど、真守さんは『第一候補(メインプラン)』として安定期に入っている。これ以上不必要に手を出すことはしなくていいのよ。アレイスターからそれに関しては前に報告が来ていたから、確実だわ〉

 

「……そうか。今奴らはどこにいるかは……分からねえよな」

 

ロシアに来ているならば居場所を知っている方がいいと判断するが、それでもそんな情報を緋鷹が持っているとは思えずに途中で歯噛みする。

 

〈ええ。それでも浜面仕上の方は超音速旅客機で逃げたから大体の位置は分かるわ。一方通行(アクセラレータ)の方はロシアを既存の交通網を使って移動中じゃないかしら。彼には何も後ろ盾もないし〉

 

「そうか」

 

〈……で、真守さんは? どう?〉

 

垣根が山積する問題に顔をしかめていると、緋鷹は話題転換をして真守のことを垣根に訊ねた。

 

「悠長に眠りこけてる。まあいつものことだな」

 

垣根はすぅすぅと寝息を立てて眠っている真守の柔らかな猫っ毛の髪の毛を撫でながら告げる。

 

〈真守さんがエリザリーナ独立国同盟に行った目的は分かった?〉

 

「欲しいものがあるとは言ってた。それが何かは分からねえ。でもどんな形にしろ、それが手に入るって真守は分かってるみてえだ。だからそれを見つけて必ず帰る。あんまり気負わずに待ってろ」

 

垣根が真守の口から断片的に聞かされた情報を統合して緋鷹に伝える。

すると緋鷹は垣根の優しさに触れて微笑みながら、電話の向こうでゆっくりと頷いた。

 

〈ええ。真守さんのこと、お願いするわ〉

 

垣根はそれから一言二言緋鷹と話をしてから通話を切った。

それから垣根はすぅすぅと眠る真守を見つめていたが、しばらくしてから真守は目を覚ました。

真守は目を擦りながら体を起こして垣根を見上げた。

 

「……おはよう、垣根」

 

「おはよう」

 

垣根が真守の額にキスすると、真守はふにゃっと笑った。

 

真守は何を求めているのか。

謎は深まるばかりだが、垣根はとりあえず準備を始めて、エリザリーナのもとへと向かった。

そして今日するべき事を聞き、行動を開始した。

 




〇九三〇事件は真守ちゃんが絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)するということが主題でしたので、あの時にヴェントに何をしたのか描写できませんでしたが、ここで回収できました。
あと緋鷹がとても優秀。なんでも教えてくれる。


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。