デート・ア・ライブ 士織イフ   作:翔兎(とびうさ)

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大変お待たせしてしまいました

やっと、完成したぁぁぁ

1、2週間の予定でしたが、
思いっきり3週間超えてました

ちょっと、リアルが忙しかったのと、
今話の序盤をどう進めるか悩んでいましたら、かなりのお時間かかってしまいました。

あと、前回に十香が登場予定と書いていたのですが、文字数の都合上次回に回しました。すまぬ十香

まぁ、今後もこれくらい時間がかかる可能性があるのでご理解ください!

感想、評価、お気に入りなどは増えているのでモチベーションはあります今後ともよろしくお願いします。


『また会うために』

士織がシミュレーションゲームによる訓練を始めてから約一〇日が経った。

 

「……や、やっと、終わったぁ」

 

コントローラーを片手に持ち、「うーん」とうめき声を出しながら背筋を伸ばす。

 

ディスプレイの画面には「Fin」の文字と共にヒロイン達と主人公の幸せそうなCGが映し出されていた。

 

「はぁ、思ったよりいいお話だった……大変な目にもあったけど……」

 

そう言った士織の目元は少しだけ涙が溜まっていた。

 

ゲームのシナリオに感動したのは間違いないのだが……後半は難易度が上がり、幾度となく士織の古傷を抉るような写真、音声、動画が画面に表示され続けた。

 

「……ん、まあ少し時間はかかったが、第一段階はクリアとしておくか」

 

「一応CGコンプしたみたいだし、とりあえずは合格としておこうかしらね。姉さんの慌てふためく姿がこれ以上見れないのは残念だけど」

 

後ろにいた令音と琴里それぞれ呟く。いたずらな笑みを浮かべている琴里を士織は涙目で見つめる。

 

「大丈夫よ姉さん、約束通りデータは返すわ。で、次の訓練だけど……生身の女性にしましょ」

 

「え、もう? いきなりすぎない?」

 

琴里から次の訓練内容を聞かされて少し動揺する士織。

 

現実に近いシチュエーションがあったとはいえ、先程まで士織が相手にしていたのは、決められた選択肢を用いて口説くゲームの中の女の子。それをクリアしたからといって、現実の女性に通じる保証はない。

 

「悪いけど時間が押してるから手段を選んでる暇はないの」

 

「……わかった」

 

精霊と出会ってから既に一〇日以上が経過している。いつ現界してもおかしくはない、ここは琴里に従うのが懸命だろう。

 

「そうと決まれば、相手は誰がいいかしらね……」

 

琴里がそういうと、横にいる令音が手元のコンソールを操作し始める。

 

すると、机の上に並べられたディスプレイに学校内の映像がいくつも映し出された。

 

「……そうだね。まずは無難に、彼女なんてどうだろう」

 

令音はディスプレイの端に映っているタマちゃん先生を指しながら琴里に提案する。

 

「──ああ、なるほど。彼女なら心配なさそうね」

 

令音の提案に琴里が納得するのを見て、士織は嫌な予感を感じ取った。

 

「れ、令音さん。もしかして……」

 

「……ああ。次の訓練なんだが、とりあえず、岡峰珠恵教諭を口説いてきたまえ」

 

「やっぱりですか! 無茶ですよ!」

 

少し顔を赤くしながら、思わず叫ぶ。

 

「でも、本番はもっと難物に挑まなきゃならないのよ?」

 

「うっ……それは、そうだけど……」

 

確かに、本番の相手は精霊。ましてや、初対面の士織を殺そうともしてきた相手だ。

 

「……最初の相手としては、かなり適任かと思うがね。恐らくシオリが告白したとしても受け入れはしないだろうし、ぺらぺらと言いふらしたりもしなさそうだ。……それとも女子生徒の方がいいかい?」

 

「うっ……先生でお願いします」

 

「……よし」

 

令音は頷くと、机の引き出しから小さな機械を取り出し士織に渡した。

 

「……本番、精霊が出現したら、その小型インカムを耳に忍ばせて、こちらの指示に従って対応してもらう。今回はその実戦を想定した訓練も兼ねている。……まずは、耳につけてみたまえ」

 

「わかりました」

 

渡されたインカムを令音に言われた通り右耳にはめ込む。

 

次に令音は机の引き出しからマイクとヘッドフォンを取り出すと、マイクに向かって囁いた。

 

『……どうかね、聞こえるかな?』

 

「ひゃっ!?」

 

はめ込んだインカムから令音の声が響くと、士織は可愛い悲鳴を上げながら肩をびくっと震わせた。

 

『……ちゃんと、声は通ってるね。音量は大丈夫かい』

 

「は、はい大丈夫です……ちょっとビックリしちゃいましたけど……」

 

士織がそう答えると、令音は机の上に出していたヘッドホンを耳に当てた。

 

「……うむ。そちらの声も拾えている。問題はなさそうだ」

 

「え? これにもマイクついてるんですか?」

 

「……ああ。高感度の集音マイクが搭載されている。必要な音声だけをこちらに送ってくれるスグレモノだ」

 

「へぇー……」

 

なんだか、やっと秘密組織らしい支援を受けていると感心する士織。

 

「準備はできたかしら? ターゲットは今、東校舎の三階廊下よ。姉さん、早速だけど向かってちょうだい」

 

琴里が指を差しているモニターにタマちゃん先生が映し出されている。

 

その場所ならここからそう遠くない、士織は決心というよりは何かを諦めたように一度息を吐くと、軽く身だしなみを整え扉の方に向かった。

 

「……そちらの動向は超小型の高感度カメラで常に確認しておく。虫と間違って潰さないようにしてくれ」

 

士織が周りを確認すると、確かに小さな黒い物体が浮遊していた。

 

「わかりました。気を付けますね」

 

そして、士織は物理準備室を出て、タマちゃん先生の所へ向かった。

 

階段を下りるとすぐにタマちゃん先生の姿が見えた。

幸いなことに周りに生徒は居ない、士織は素早くタマちゃん先生に近づいた。

 

「タマちゃん先生」

 

本人しか聞こえないくらいの声で呼ぶと、タマちゃん先生はその場に立ち止まり振りかえる。

 

「あれ、五河さん? どうしたんですかぁ?」

 

「えっと……あ、あの──」

 

物理準備室で決心は固めていたが、はやり本人を目の前にすると少しばかり緊張感が増してきた。

 

『──大丈夫、落ち着いて姉さん。これは訓練だから、しくじっても死んだりしないわ』

 

「そうはいっても……」

 

「え? なんですか?」

 

インカムから聞こえた琴里の声に答えたが、それに反応してタマちゃん先生が首を傾げている。

 

「い、いえ、なんでもないです……」

 

『……君が最初の訓練でしたゲームのセリフを使うなんてどうだい? あのゲームの攻略対象に年上の教師もいたはずだろう』

 

『それは、名案ね。ゲームの主人公になりきってみなさい。……姉さんペナルティーの映像でも、散々決めセリフを言ってたじゃない』

 

令音から確かに良いアドバイスがきたが、隣にいるであろう琴里がそれを題材にからかってきた。

 

「もう! それは言わないでよ!」

 

また、自信の黒歴史を掘り返され、思わずその場で叫んでしまった。

 

「あ、あの、五河さん……どうかしたんですか……」

 

「うっ、ご、ごめんなさい何でもないです……」

 

インカムから微かにだが、クスクスと琴里が笑っている声が聞こえる。

 

落ち着けと言われたと思ったら、急にからかってきたり、ここ最近は琴里に手のひらの上で転がされてる気がする。

 

とにかく、これ以上先生を待たせるわけにもいかず、士織は頭の中にセリフを思い浮かべながら、意を決して口を開き始めた。

 

「先生って、本当に可愛らしいですよね」

 

「き、急にどうしたんですか? 先生をからかっちゃダメですよぉ」

 

「からかってなんていませんよ」

 

「い、五河さん……?」

 

士織はゆっくりと先生に近づき、真剣な目をしながら手を握った。

 

「私、先生の事、本当に可愛くて魅力的な女性だと思ってて、ずっと……その……気になってたんです」

 

「……だ、ダメですよぉ。五河さん、私は先生で女性なんですから……」

 

やはり、教師として女性として、差し迫る士織をはぐらかそうとしているが、その顔は徐々に赤く染まっていった。

 

士織も何か変なスイッチが入ってしまったのか年上の女性を口説く積極的な年下の女性を演じ切っていた。

優しくタマちゃん先生の頬に優しく手で触れながら囁く。

 

「先生とか、女性だとか関係ないですよ。むしろ、先生の魅力に気づかない世の中の男性が悪いんですよ。──先生、こんなに可愛いのに……嫌じゃないなら、私が全部貰って上げますよ? た・ま・え先生」

 

直後、その言葉にタマちゃん先生がぴくりと反応した。

 

「……本気ですか?」

 

「……あっ」

 

タマちゃん先生の雰囲気が変ったことで、士織は我に返ると、いろんな意味でやってしまったと、青ざめながら後悔し始めた。

 

「本当ですか? 貰うってことは結婚してくれるってことですよね? 同性婚が認められる頃には、私もう三〇歳超えちゃうんですよ? それでもいいなら今から血判状を──」

 

先生だから、同性だからといって、はぐらかしていた先生はどこへ行ったのやら、士織の袖を掴み滲みよってくる。

 

「ご、ごめんなさい先生! 私には、そこまでの覚悟ありません!」

 

叫びながらタマちゃん先生の手をほどき、士織はその場から逃げるように駆け出した。

 

『……なかなか、やるじゃないか』

 

『へぇ……姉さんにあんな才能があったなんてね。バッチリ映したから、今後のためにもいいデータになったわ。……あ、でも、わかってると思うけど男子には絶対にやっちゃダメよ!』

 

と、久々にインカムから二人の声が響いてきた。

どうやら、士織の新たな黒歴史誕生の瞬間をバッチリと見られていたようだ。

 

「……うぅ……もう、どうしてこんなこと──―」

 

「……!」

 

恥ずかしさのあまり、手で顔を覆いながら走っていたため前を見ておらず、曲がり角で歩いてきた生徒とぶつかり転んでしまった。

 

「いったた……ご、ごめんなさい、大丈夫?」

 

そう言いながら体を起こすと、目の前に居たのは折紙であった。

 

「って、折紙……あ、本当にごめんね……」

 

尻もちをついている折紙の手を伸ばすと、その手を掴み折紙もゆっくりと立ち上がった。

 

「平気。士織は?」

 

「うん、私も大丈夫だよ」

 

「そう。なら良かった」

 

折紙がその場から立ち去ろうとしたその時、右耳のインカムから声が響いた。

 

『──ちょうどいいわ姉さん。彼女でも訓練しておきましょう』

 

「えぇ……ちょっと待って、それは──」

 

「どうかした?」

 

琴里に対して言った「ちょっと待って」という言葉に反応したのか、折紙は数歩歩いた所で立ち止まると、振り返り士織の方へと振り向いた。

 

「へ、あ……うん、あの、ちょっとね」

 

「……?」

 

まさか、折紙が反応するとは思わず、ブンブンと手を振りながらテンパる。

 

そんな士織を、無表情だが首を傾げながら、折紙はじっと見つめる。

 

『同年代のデータも欲しいのよね。それに精霊とは言わないまでもAST要員。その子も周りに言いふらすタイプとは思えないし、いい訓練相手にはなるんじゃない?』

 

「で、でも……折紙は……」

 

『精霊と話したいんでしょ?』

 

「うっ……ずるい」

 

そう言われると、従わざるをえない。ずるい一言である。

 

さっきみたいにやりすぎなければいい、そう考えて士織は折紙を口説き始めた。

 

「……あのね、折紙」

 

「なに」

 

「わ、私ね。前に折紙が話しかけてくれて、名前で呼んでくれて、とっても嬉しかったんだ」

 

本心だった。最初は声をかけられて驚いたけど、名前で呼び合えて、嬉しくて友達になれた気がした。

 

「……そう」

 

声は素っ気なく、表情に大きな変化はないが、驚いたのか少しだけ目を見開き返事の前に少しの間ができていた。

 

「私も、嬉しかった」

 

「……そっか、なんだか照れちゃうな……あはは」

 

士織は折紙を見つめ直しながら、再び頭の中で紡いだ言葉を声に出した。

 

「あの時からね、折紙のことがきになって……気が付いたら折紙の事ずっと見てたんだ」

 

「そう……私も士織も見ていた」

 

「……ふぇ!? ……あ、そうだったんだ」

 

気持ち悪がられないか不安だったが、予想外の返事に士織の方が驚かされてしまった。

 

確かに何かと折紙が居る方向から視線を感じたり、たまに目と目が合ったり、そんなことが多かった事を思い出しが、今は折紙を口説くことに集中しないと。

 

「……それだけじゃなくてね。折紙のこと考えるだけで、ドキドキしちゃうんだ」

 

「私も、士織のことを考えるとドキドキしてる」

 

「……!?」

 

また、不意をつかれ本当にドキッとさせたれてしまい、少しだけ顔が赤くなってゆく。

 

「そ、そうなんだ……なんだか私たち気が合うね」

 

「合う」

 

──ここから、どうすれ良いんだろう。告白しなきゃ意味がないけど……でも、これは訓練だし……

 

それとなく雰囲気はよくなったが、考えがまとまらない士織。そんな頭の中がグルグルした状態で、士織は思いついた言葉を声に出した。

 

「なら、私たち付き合っちゃう? ……って、なに言ってるんだろ私」

 

『それは、さすがに展開が急すぎるわよ』

 

インカム越しから琴里に突っ込まれてしまった。たしかに、これでだだのナンパ師みたいである。

 

「構わない」

 

「………え? 構わないって」

 

また、思いもしない答えが、帰ってきた。

 

「付き合っても構わない」

 

「……ッ!?」

 

一瞬、折紙の言っていることの意味を理解できなかった。

 

最初に言い出したのは士織の方からだったが、知り合って間もないのに、こうもあっさりと交際を受け入れるだなんて……

いや、真面目そうな折紙のことだ、もしかしたら何か勘違いをしているかもしれない。

 

「えっと、付き合うって、どこかに一緒に出かけてくれるってことだよね?」

 

「……? そういう意味だったの」

 

折紙は首を少し傾けながらそう言った。

 

どうやら、そっちの意味ではないらしい。ということは……

 

「じゃ、じゃあ、折紙はどういう意味だと思ったの?」

 

「私との交際のことかと思っていた」

 

「……あ、あはは……」

 

交際。間違いなく今、折紙はそう言った。

まさか、このような事態になるとは、言いだした本人として、少しばかり責任感を感じる。

 

「……違った?」

 

士織が慌てているのを感じ取ったのか、少し残念そうな表情を折紙はしていた。

 

「う、うんん、違わない……よ」

 

「そう」

 

少し表情が明るくなった折紙を見た瞬間、士織は後悔した。

なぜ、「違わない」なんて、言ってしまったのだろう。いや、でもまだ今なら、今ならまだ間に合うかもしれない!

 

「あ、あのね折紙、本当は──」

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──

 

 

 

発言を訂正しようとした瞬間、空間震警報が学校に鳴り響いた。

 

そして、鳴り止むと同時に今度はインカムから琴里の声が響いてきた。

 

『姉さん。空間震よ。一旦<フラクシナス>に移動するわ。戻ってきて』

 

「琴里。もしかしてこれって、あの子が……」

 

『ええ、その通りよ。出現予測地点は──来禅高校よ』

 

とうとう、この時が来てしまった。精霊が、あの少女がここへやってくる。

今度こそ救う。士織は心の中で決意を固めた。

 

「わかった。すぐに戻る──―っ?!」

 

と、その場から走り出そうとした瞬間。

 

「どこへ行くつもり? シェルターはそっちではない」

 

背後にいた折紙に腕を掴まれた。

 

「えっと……ちょっとトイレに」

 

「シェルター内にもトイレはある」

 

「……だよね」

 

なんとか、この場から逃げ切ろうと適当な理由を言ってみたが、言い訳理由の鉄板ネタである「トイレ」ではダメだった。

 

折紙は士織の腕を放して手を握り直すと、校内のシェルターへと向かった。

 

今すぐこの手を振りほどいて、<フラクシナス>に回収して貰うことも可能であったが、折紙も士織のことを思っての行動なのだろう。

自分のことを、心配してくれている友人の行動を否定はしたくない。

 

折紙に引っ張られながら、士織は小型カメラに向かって「後で行く」と口だけを動かし、バレないように琴里と令音にメッセージを送った。

 

『わかったわ』

 

そしてすぐに、インカムから琴里の声が聞こえると、折紙と共に一旦シェルターへと向かった。

 

シェルター前に付くと、既に何人かの生徒が列を作っており、相変わらず慌てているタマちゃん先生もいた。

 

「私は急用がある。士織は避難して」

 

「うん……」

 

折紙は士織の手を放すと、この間と同じく一人で昇降口の方へ走って行った。

 

「……折紙。ごめんね」

 

折紙の姿が見えなくなったのを確認すると、士織もその場から走り去った。

 

 

◇◇◇◇

 

時刻は、一七時二〇分。

 

校内の生徒が避難する中、琴里と令音に合流した士織は<フラクシナス>に移動していた。

艦内は以前来た時より少し慌ただしく、クルーたちも手元のコンソールを操作しながら言葉を交わしていた。

 

そして、令音となにかを話し合っていた琴里がゆっくりとこちらに近づいて来た。

 

「姉さん、早速だけど働いてもらうわ。準備しておいて」

 

「うん、わかった」

 

だんだんと緊張感などが高まってきたが、すでに覚悟は決めている。

 

「──もう士織さんを実戦登用するのですか、司令」

 

隣にいた神無月が士織を見ながら琴里に話した。

 

「相手は精霊。失敗はすなわち死を意味します。訓練は十分なのでしょ──げふッ」

 

「私の判断に意見するなんて、偉くなったものね神無月。罰として今からいいと言うまで豚語で喋りなさい」

 

「ぶ、ブヒィ」

 

この二人のやり取りを見ていると、たまに琴里の将来が少し心配だ。そんなことを思いながら士織は琴里を見つめていた。

 

「琴里、そこまで言わなくても……神無月さん心配してくれてありがとうございます」

 

一応、自分のことを心配してくれたのだと、士織は笑顔で神無月に感謝を伝える。

 

「な、なんと、もったいなきお言葉! この神無月恭平! 士織さんの優しさに──ぶへぇっ!」

 

「誰が止めて良いと言ったのかしら神無月。それに姉さんがあなたのような豚に慈悲の言葉を述べているのだから、這いつくばって感謝しなさい!」

 

「ブヒィ! ブヒヒィ!」

 

その場にひれ伏しながら、ひたすら豚語で何かを語りかけて来る神無月に、さすがの士織もちょっと引き気味になり何も言えなくなった。

 

「さて、姉さん。いい知らせがあるわ」

 

「……いい知らせ?」

 

言って琴里はキャンディーを咥えたまま棒を上向きに立て、一つのスクリーンを示す。

 

スクリーンを見ると、学校に赤いアイコンが一つ、そしてその周囲に黄色いアイコンがいくつも表示されていた。

 

「赤いのが精霊、黄色いのがASTよ」

 

「……で、なにがいい知らせなの?」

 

「ASTを見て。さっきから動いてないでしょ」

 

士織は数秒スクリーンを見めたが、確かに黄色いアイコンに動きがない。

 

なぜだろう……そう思いながら首を傾げていると、琴里が続けて説明してくれた。

 

「精霊が出てくるのを待ってるのよ。CR-ユニットは狭い屋内での戦闘を目的として作られたものではないのよ。精霊は校庭に出現後、半壊した校舎に入り込んだみたい」

 

スクリーンに映し出された校内の様子を見ると、校庭に空間震によって作り出されたくぼみができており、道路や校舎の一部も綺麗に削り取られていた。

 

「ASTのちょっかい無しで精霊とコンタクトを取れるなんて、こんなラッキー滅多にないわよ」

 

「……なるほどね」

 

先日、精霊と出会ったときは、その後すぐに戦闘が始まっていた。あんな状況で彼女とまともに会話するのは不可能であろう。

 

そんなことを考えていると、一つの疑問が浮かび士織は琴里を見つめた。

 

「ちなみになんだけど……精霊が普通に外にいた場合は、どうやって私と精霊を接触させるつもりだったの?」

 

「……………」

 

しばらく、考えているような素振りをみせたが、そのまま姉がいる方向とは別の方向を向き琴里は無言を貫いた。

 

「……まさか、戦闘している中に放り込む気だった?」

 

「そ、そんな危ないこと姉さんにさせるわけないでしょ! ASTを隔離したり、かく乱させたり、ちゃんと候補はいくつか考えてたわよ!」

 

それが、聞けただけでもほっとした。

 

「と、とにかく時間が惜しいわ。姉さん、インカムは外してないわよね?」

 

「うん、着けてるよ」

 

と、右耳に装着したインカムを指で刺しながら琴里に見せる。

 

「よろしい。カメラも一緒に送るから、困ったときはサインとして、インカムを二回小突いてちょうだい」

 

「うん、わかった……」

 

ようやく精霊と再び会える。だが、いざ本番となれば少しだけ不安と怖いという感情が芽生え、手が震える。

 

でも、すぐその手は小さく温かい手に包まれた。琴里が察してくれたのか自分の手を握ってくれた。

 

「大丈夫よ姉さん、私がついてる。それに姉さんは一回くらい死んでもすぐにニューゲームできるわ」

 

「そんな、私はゲームのキャラクターじゃないんだから。でも、ありがとう琴里」

 

冗談を挟みながら励ましてくれた妹のおかげで、心の準備も整った。

 

「じゃあ琴里、行ってくるね」

 

「いってらっしゃい、おねえちゃん」

 

手を離して艦橋に向かって歩みだす。

 

彼女を口説くとか、惚れさせるとか、そんな大それたことは考えていない。

 

今はただ、あの少女にあって話がしたい。

 

彼女にまた会うために、ここまで訓練などをしてきたのだから………古傷を抉られた記憶しかないけど。

 

転送装置に乗り込む。士織の姿は一瞬で消え精霊の居る学校へと転送された。




今回から、タイトルを二字から変更してみました。
まぁ、十香に今回再会できなかったので、かなりタイトルに悩みましたが……

とりあえず、普通のタイトルも使ってみたかったので良い機会になりました。

次回こそ十香当時させます

ご覧いただきありがとうございました

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