デート・ア・ライブ 士織イフ   作:翔兎(とびうさ)

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長らくお待たせしました!

活動報告でも言ってた通り、描写などが小説のまんまになりかけていたので、
一部に個人の見解とか、オリジナル要素を付け足して投稿しました。
少しは納得した感じになりましたが、文字数がかなり増えましたw

まぁ、今後もこのような感じで1話1話大事に書いていこうと思っているのでよろしくお願いします。


『十香』

<フラクシナス>の転送装置で士織は一瞬のうちに学校に降り立った。

周りを見渡すと校舎の壁が削り取られたかのような大穴が空いており、そこから学校へ侵入した。

 

『姉さん、精霊の反応はそこから階段をあがって三階、手前から四番目の教室よ』

 

「わかった。ありがとう」

 

校内に入るとすぐに琴里から無線が入り、指定された教室に向かうため、近くの階段を上がって行く。

 

そして、辿り着いた教室は士織にとって、少しだけ見慣れた場所だった。

 

「ここ、二年四組。私の教室だ」

 

「あら、それは都合がいいわね。地の利とまでは言わないけど、知らない場所より良かったでしょ」

 

新学期が始まってそう日が経っておらず、慣れた場所とまでは言えないが、下手な場所よりかは確かにマシである。

あの改造された物理準備室とか……

 

士織は意を決してゆっくりと教室の扉を開いた。

 

「……あ」

 

夕日で茜色に照らされた教室。その前から四番目、窓から二列目──ちょうど士織の席に、この間の少女が片膝を立てるように座っていた。

 

不思議なドレスに幻想的な輝きを放つ目、その姿が夕日に照らされた姿は、士織も言葉を失うほどに美しかった。

 

「──ぬ?」

 

士織の存在に気づいたのか、ぼうっと黒板を眺めていた少女が目を開いてこちらを見ていた。

 

「こ、こんばんは、また会え──」

 

少女に警戒されないように、挨拶をしながらゆっくり近づこうとしたが、少女が無造作に手を振ったと同時に、黒い光線が士織の頬を掠めながら通り抜ける。

直後に士織が入ってきた扉や廊下の窓ガラスが、音を立てながら崩れ散った。

 

 

「……ッ!?」

 

一瞬の出来事に士織はその場で立ち止まる。頬からは切ったような痛みが伝わってきた。

 

だが、士織は臆することなく再び歩み始めようとする。それに対し少女が腕を掲げると、手のひらに頬を掠めていった光線と似たような黒い光が塊となって輝いていた。

 

また、攻撃される。そう感じ取った士織は咄嗟にその場で両手を広げた。

 

「待って、私は敵じゃない!」

 

士織がそう言い放つと、少女の手に集まっていた光の塊が輝きを失い、ゆっくりと少女は腕をおろした。

そして、また一歩、少女に歩み寄っていく。

 

「お願い落ち着いて話を──」

 

「──止まれ」

 

少女は士織の足元の床をめがけ指先から光線を放ってきた。まだ少女は警戒を解いていたわけではないようだ。

 

「おまえは、何者だ」

 

「わ、私は──」

 

『待って姉さん』

 

少女に名乗ろうとしたが、無線越しに琴里に静止される。

 

「ど、どうかしたの……?」

 

インカムに聞き返したが琴里からの返答は無かった。

〈フラクシナス〉でなにかあったのだろうか、数秒待っても琴里から返答は来ず、士織は立ち尽くしていた。

 

「……もう一度聞く。お前は何者だ」

 

返答のない士織に苛立ち始めた少女が、さらに鋭い視線をこちらに向けてきた。

『姉さん。聞こえる? 私の言う通りに答えて』

 

「う、うん」

 

このままでは、不味いと思い何かを言おうとした矢先、やっと、インカムから琴里の声が響いた。

 

『──人に名を訊ねる時は自分から名乗りなさい』

「──人に名を訊ねる時は自分から名乗りなさい………えーっと」

 

自分は一体なにを言わせられているのだろうか、そう考える間もなく少女の機嫌が明らかに悪くなった事を感じ取ると、士織は咄嗟に回避行動をとった。

なぜなら、目の前の少女が今度は両手で、光の玉を作りだし士織目掛けて投げつけてきたのである。投げつけられた光弾は床に命中しそのまま一階まで貫通していった。

 

『あれ、おかしいな』

 

「おかくないよ……お姉ちゃん今死にかけたよ!?」

 

むしろ、なんで大丈夫だと思われたのだろうか、琴里は微塵の疑問も持たず言ってくる。

 

「これが最後だ。答える気がないなら、敵と判断する」

 

士織が立ち上がるのを見て少女が最後の通告を士織に発した。

 

「私は五河士織。ここの生徒です。あなたに敵対するつもりはありません」

 

このまま刺激しては話し合いなどできないと考え、自ら名乗り敵対の意志がないことを伝えたが、疑いの目を向けたまま少女はゆっくりとこちらに近づいてきた。

 

「──そのままでいろ。おまえは今、私の攻撃が届く範囲にいる」

 

「わかりました」

 

張り詰めた空気の中、少女はじっくりと士織の顔を見ていると、急に少女は何かを思い出したかのように眉をひそめた。

 

「おまえ、前に一度会ったことがあるな?」

 

「う、うん! 今月の一〇日に街中で!」

 

覚えていてくれたことが少し嬉しかったのか、緊張感のあった士織の表情が少し明るくなり、声のトーンも少しあがった。

 

少女も士織のことを思い出したのか「おお」と言いながら相槌を討った。

 

「思い出したぞ。何やらおかしなことを言っていた娘だな」

 

これで、ようやく少女との会話が進められると思ったが、少女の表情がまた険しくなり、士織の長く青い長髪を掴み、顔を上向きにさせた。

 

「──痛ッ!」

 

『ちょっと! 姉さんの髪をそんなに乱雑に掴むなんて! こいつ、いい度胸して──』

 

『……琴里、少し落ち着きたまえ』

 

インカムから琴里のいつになく荒げた声が聞こえと、それを宥める令音さんの声が聞こえてきた。

 

「……確か、私を殺すつもりはないと言っていたか? 彼奴等の仲間ではなさそうだが、そんな見え透いた嘘。言え、何が狙いだ! 私を油断させて、殺しに来たのだろう?」

 

敵意がないことを信じて貰えない。いや、信じれるほど人間を信用していないのだろう。

常に人間に命を狙われている環境で生きているのだから無理もない、士織はそう思うと髪を掴まれている痛み以上に、胸が締め付けられるように痛かった。

 

「──人間は……」

 

声と手に力が入り、士織は少女に訴えかけるように続けた。

 

「あなたを殺そうとする人たちばかりじゃない!」

 

士織のその力強い言葉に反応するように、少女は士織の髪から手を離し、驚いた様子でじっと士織の顔を見ていた。

 

「……そうなのか? 私が会った人間たちは、皆私は死ななければならないと言っていたぞ」

 

「……そんなことないよ。私はあなたに死んでほしいなんて思ってない」

 

士織は真っ直ぐに少女を見つめる。その視線と言葉に圧倒的されたのか、少女は一歩身を引いた。

 

「死んでほしいなんて思ってない」今までそんなことを言われたことがなかった。そんな言葉を自分に言ってくるような、得体の知れない人間がいるとは思いもしなかった。

心が揺らぐ、嘘をついているようには思えないが、少女はまだ少し士織を信じることができなかった。

 

「……私を殺すつもりがないなら、お前は何をしに現れたのだ?」

 

「……それは──」

 

『姉さん。また選択──』

 

インカムからまた琴里の声が響いたが、士織は止まらず、自分の思いを声に出した。

 

「あなたに会うために来たの」

 

「私に? 一体なんのために」

 

「私はあなたとお話がしたい。──だから、私はここに来た」

 

「……どういう意味だ?」

 

少女は、本当に訳が分からなかった。自分のことを殺しに来た人間は何人もいたが、話がしたいなどと言われたのは初めてだった。

 

「深い意味なんてないよ。私はあなたとお話がしたい。内容だってなんだっていいの。気に入らなかったら無視してもいい。でも、一つだけ分かってほしい」

 

士織はひと呼吸置くと、少女に伝えたかった言葉を言い放った。

 

「──私は、あなたを否定しない」

 

それが、存在を拒まれ続けた少女に士織がどうしても伝えたかった言葉だった。

昔、父や母、琴里が自分に手を差し伸べてくれたように、今度は自分が少女に手を差し伸べたかった。少女を救うと誓った士織にしかできないことだったから。

 

「……っ」

 

士織から真っ直ぐな思いをぶつけられた少女は、思わず士織から視線を逸らすと、唇をぎゅっと噛み締め、ゆっくりと士織を見つめ直した。

 

「……シオリ。シオリといったな」

 

「──うん」

 

「本当に、おまえは私を否定しないのか?」

 

「本当だよ」

 

「本当の本当か?」

 

「本当の本当」

 

「本当の本当の本当か?」

 

「本当の本当の本当」

 

少女が聞き返して来るたびに、士織も即答で答える。何度聞かれようとも、この答えは変らない。

 

「──ふん、だ、誰がそんな言葉に騙されるかばーかばーか」

 

少女は士織の言葉を否定してはいるが、への字に結んだ口と複雑そうな表情から、士織は少女の言っていることが本心ではないことが分かると、思わず笑みを浮かべた。

 

「……むぅ。な、何を笑っておるのだ。お前と会話するのは……その、あくまで情報の為だからな。うむ、大事。情報大事」

 

「うん、今はそれでいいよ」

 

先程までの張りつめた空気はなくなり、少女の表情も和らいでいる。

 

そして、少女が教室を見渡しながら少し士織から離れると、インカムから琴里の声が響く。

 

『姉さん、暴走しすぎよ』

 

「あー……ごめんね……」

 

琴里からの無線を無視していたのを思い出し、熱くなりすぎたと少々反省をする。

 

『良いわ。そのおかげで、精霊との会話が可能になったことだし、上出来よ。そのまま会話を続けて』

 

「うん、分かった」

 

琴里との会話を終えると同時に教室を歩き回っていた少女が足を止め、士織の方を振り向いた。

 

「シオリ」

 

「なにかな?」

 

「──早速聞くが、ここは一体何なんだ? 初めて見る場所だ」

 

「えっと、ここは学校。で、ここは学校の中にある部屋──教室。私と同世代くらいの生徒が勉強する場所なの。その机に座って、こんな感じで」

 

士織は目の前にあった机の椅子を引いて座り、いつもの学校の風景を想像しやすいようにジェスチャーを交えて少女に伝える。

 

「なんと」

 

椅子に腰掛け、机の上でノートを書く素振りをしている士織をみながら、少女は目を丸くしていた。

 

「これに全て人間がおさまるのか? 冗談を抜かすな。四〇近くはあるぞ」

 

「本当だよ。いつもなら、この教室いっぱいに人がいるの」

 

見せてあげたい。この教室に沢山の生徒がいて、友人と楽しく話し合ったり、勉強している普段の景色を見せてあげたい。

少女を見ると、彼女もそんなに歳が離れているようには見えない。

 

もし、叶うのならば、彼女も一緒にいつもの学校に来て、みんなと楽しい時間を過すことはできないだろうか……。

それが叶えば少女の人間に対する考えもきっと変わるはずだ。

 

「ねぇ──」

 

ふと、少女の名を呼ぼうとして言葉が詰まる。

 

【……名、か。──そんなものは、ない】

 

初めて彼女に出会ったときに言われたことを思い出した。

そうだ、彼女には名前すらなかった。

 

そのことに気づくと士織はまた少し表情を曇らせた。

 

「ぬ?」

 

そんな、士織の様子に少女も気づいた。

 

「……シオリ、お前は私の事を<プリンセス>とは、呼ばないのだな」

 

<プリンセス>。それが少女の識別名である。

 

人間側が少女の「存在」に対して勝手につけた名前。そんなのは彼女の本当の名前ではない。

 

「それは、あなたの名前じゃないから……」

 

「……そうだな、私もあの呼び名は気に入らん。だが、会話を交わす相手がいるなら、名は必要だな」

 

そう頷きながら、少女は近くの机に寄りかかると士織に言い放った。

 

「──シオリ。お前は私を何と呼びたい」

 

「……え?」

 

少女の言っていることが理解できず、困惑している士織。

だが、構わず少女は続けた。

 

「私に名をつけろ」

 

「……」

 

まさか、そんなヘビー級なことを言われるとは思いもせず、そのまま押し黙ってしまう。ペットに名を付けるとかそういうレベルではない。

 

「わ、私が!?」

 

「ああ。どうせシオリ以外と会話をする予定はない。問題もあるまい」

 

いや、問題はないのだろうが、難題すぎる。

 

相手は精霊。だが、それ以前に自分と年齢が離れていなさそうな女の子。変な名前を付けるわけにはいかない。

 

考えるを巡らせていると、琴里からの無線が入ってきた。

 

『落ち着いて姉さん。こちらでも、いくつか名前の候補を上げてみるわ』

 

「お、お願い」

 

<ラタトスク>でも、どうやら名前の案を出してくれるようだ。

……正直にいうと、少々不安ではあるが、今は琴里たちの力も借りたい。

 

そして、士織が再び少女の名前を考えてだした数秒後。

 

『トメ』

 

と、琴里から名前を提示された。

 

「……」

 

が、士織は押し黙ったままである。

 

『ちょっと、姉さん聞こえてる? トメよトメ。彼女の名前はトメよ』

 

聞こえていないと思われたのか、念を推して三度も少女の名前候補を告げられた。

困り果てた様子で士織は一度、少女に背を向けると、後ろを付けている小型カメラに視線を送り小声で正直な感想を伝えた。

 

「……ごめんね琴里。それは無い……かなぁ」

 

全国のトメさんすみません。

 

『な! 美空(びゅあっぷる)とか振門体(ふるもんてぃ)とか聖良布夢(せらふぃむ)よりマシでしょ?! 古風があって良い名前じゃない! 私だって困ってる姉さんのため──』

 

『……すまないねシオリ。琴里のことはこちらに任せて、精霊との対話を続けてくれ』

 

怒っているということは、「トメ」は琴里が考えたのだろうか? 少し悪いことを言ってしまったと思うと同時に、間に割り込んでくれた令音に心の中で感謝する士織であった。

 

だがそれよりも、琴里が言っていた、名前すら分からない単語が気になる。<ラタトスク>は一体、少女にどんな名前を付けようとしていたのか……

変な名前を提案される前に自分で考えるしかないと悟り、士織は頭を抱えながら少女の名前を再び考え出す。

 

少女のことを想いながら、一つ名前が浮かんでは消えて、浮かんでは消えていく。

そんなことを繰り返していく内に、一つの名前が浮かび、その名を口に出した。

 

「──十香」

 

「ぬ?」

 

「……ど、どうかな?」

 

「……」

 

少女はそのまま黙り込んでしまった。

 

気に入って貰えなかったのだろうか? 

四月一〇日に出会ったから『十香』。そんな安直な理由で浮かんだ名前だったが、士織には何故か違和感が無かった。

 

「──トーカとは、どう書くのだ?」

 

「──え? あ、うん、それはね」

 

少女が士織に訊ねると、士織は黒板の前に立ちチョークで『十香』と書いた。

 

「ふむ」

 

その二文字を見た少女は、士織の横に立つと指さきで黒板をなぞる。

すると、少女の指がなぞった部分が綺麗に削れ、汚いながらも『十香』の二文字が記される。

 

「こうか?」

 

「うん、そうだよ」

 

「……」

 

少女はじっと自分の書いた文字を見つめる。

そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「シオリ」

 

「なにかな? ──十香」

 

その名前聞いた少女は……十香は大きく目を見開き、士織の方を向いた。

 

「そうだ! 私は十香だ! それが私の名だ。素敵だろう?」

 

「うん」

 

どうやら、自分の付けた名を気に入ってくれたらしい。少し気恥ずかしい気持ちだが、とても嬉しかった。

 

「シオリ」

 

と、十香がまた呼びかけてきた。

 

「十香」

 

士織はすぐに十香の意図を汲み取り、名前を呼び返すと、十香は花が開いたかのように、にぱっと万弁の笑みを浮かべた。

 

初めて見る十香の笑顔に士織も思わず心を奪われそうになる。世界に否定し続けられた少女がみせた笑顔は、誰よりも何よりも美しかった。

 

できることならば、十香にはずっと笑顔でいて欲しい。

そんなことを考えていたが、突如として右耳に琴里の声が響いた。

 

『姉さん、今すぐ床に伏せて!』

 

「……ッ!?」

 

慌てながらも琴里の指示通り床に伏せると、その直後に爆音と震動が教室まで伝わってきた。

 

そして今度は、大きな銃声を何発も鳴らしながら、教室の窓ガラスが一斉に割れていった。

 

「一体、何が起こっているの?」

 

『外からの攻撃みたいね。精霊をいぶり出すためじゃないかしら。──姉さん、無事?』

 

「私は大丈夫、それより十香は?」

 

士織が辺りを見回すと、十香は無傷のまま先程までいた場所に立っていた。

 

だが、その表情からは笑顔が消え、ひどく痛ましい表情をしながらじっと割れた窓ガラスの外を見ていた。

 

「十香……」

 

その名を呼ぶと、十香はゆっくりと士織の方を向いた。

 

「早く逃げろ、シオリ。私と一緒にいては、同胞に討たれることになるぞ」

 

士織という唯一自分の事を肯定してくれる人間を見つけ、「十香」という名前を与えられ、何かが変わるかもしれないと期待したが、それらは全て銃声に書き消され、一人の現実へと引き戻された。

 

せめて、士織だけは巻き込まないようにと思い十香は告げたが、

 

「……嫌だ」

 

士織の気持ちは何一つ変わってはいなかった。拳に力を込めて恐怖を払いのけ、その場にとどまりじっと十香を見つめていた。

 

「な、なにを言っておるのだ! これ以上ここに居てはシオリが危ないのだぞ!」

 

十香は続けて士織に忠告をするが、士織は頑なにその場を動こうとしない。

 

『時間があまりなさそうだらから、私も姉さんに本当は逃げて欲しかったのだけど、姉さんならそう言うと思った』

 

半分呆れたような琴里の声がインカムから聞こえてきた。

 

「あはは……琴里、ごめんね」

 

『謝らなくていいわよ、──流石は私のお姉ちゃん。じゃあ、妹からの素敵なアドバイスをあげる。死にたくなかったら、できるだけ精霊の近くにいて』

 

「……わかった」

 

士織は十香に近寄ると、そのまま丁寧に膝を曲げて十香の足元に座った。

 

「危ないのはわかってる。けど、今私は十香とお話がしたい。それに、この世界のこと知りたいんでしょう? 私が答えれることなら何でも答えてあげる」

 

「……!」

 

士織の行動にまた驚きを見せる十香だったが、同時に嬉しさもこみ上げ、少し頬釣り上げ士織と向き合うように座った。

 

その瞬間、ガガガガガ──ッと音たてながら、また銃撃が始まったが、二人が座っているその空間はだけは、銃弾が避けて通っているようだった。これも十香の力なのだろう。

 

弾丸が飛び交う中で、士織と十香はおしゃべりを続けていた。十香が質問してそれを士織が答える。ただ、それだけの内容だが二人にとっては、とても貴重で楽しい時間であり、次第に二人とも笑顔を浮かべながら話していた。

 

『姉さん、数値が安定してきてるわ。可能なら姉さんの方からも質問してみてちょうだい』

 

しばらく話し合っていると、不意にインカムから琴里の声が聞こえてきた。

 

琴里に言われた通り、十香に質問するために考えを巡らせ、そして士織は十香に尋ねた。

 

「ねぇ、十香。十香って……結局どういう存在なの?」

 

「む?」

 

士織が質問すると、十香は考え事をするように眉をひそめた。

 

「……知らん」

 

「わからないってこと?」

 

「そうだ。──どれくらい前だったか、私は急にそこに芽生えた。それだけだ。記憶は歪で曖昧。自分がどういう存在なのかなど、知りはしない」

 

「そうなんだ……」

 

「突然この世に生まれ、その瞬間にはもう空にメカメカ団が舞っていた」

 

「メカメカ……団?」

 

「あのびゅんびゅんうるさい人間たちのことだ」

 

「……ああ」

 

多分、ASTのことを言っているのだろう。確かに機械を装備している。メカメカ団……うん納得できなくはない。

 

と、その時。インカムからピンポーンと何かに正解したような電子音が鳴った。

 

『姉さん! チャンスよ』

 

「ちゃ、チャンス?」

 

『精霊の機嫌メーターが七〇を超えたわ。一歩踏み込むなら今よ』

 

「え? でも、何をすれば……」

 

他に何をすればいいかピンと来ず、士織は首を傾げて考える。

 

『んー、そうね。とりあえず……デートにでも誘ってみれば?』

 

「で、デートって、そんないきなり……」

 

琴里に言われ、士織は少し頬赤く染めながら戸惑う。

 

『女の子同士なんだから、慌てる必要はないわよ。それに親密度を上げるには大事なことよ』

 

「……うん、確かにそうなんだけど……でも、十香が現れるとASTが……」

 

『だからこそなのよ姉さん。今度現界したとき、大きな建造物の中にでも頼んでおくのよ。水族館でも映画館でデパートでも何でもいいわ。それなら、ASTも直接は入ってこられないでしょ』

 

「……うーん、確かに」

 

「シオリ、さっきから何をブツブツ言っているのだ」

 

さすがに琴里とのやり取りに集中しすぎたか、目を細めながら覗くように十香が士織の顔を見つめてきた。

 

「ご、ごめん。ただの独り言だから……」

 

「むう……」

 

慌ててごまかすが、十香からは疑っているような視線が送られる。

 

『ほーら、観念してさっさと誘った方がいいわよ。デートっ! デートっ!』

 

インカムの向こうからは、琴里以外にも数人のデートコールが右耳に鳴り響く。おそらく琴里が煽動した<フラクシナス>のクルーたちであろう。

 

士織は観念したのか「はぁ」とため息を吐き、気恥ずかしさを抑えながら十香と視線を合わせた。

 

「あのね。十香」

 

「ん、なんだ」

 

「そ、そのね……今度、私と……で、デートしない?」

 

何とか伝えることができたものの、恥ずかしさがこみ上げ士織は視線をそらす。だが、十香はキョトンとした顔をしている。

 

「デェトとは一体なんだ」

 

「あ、そうだよね……えっと、デートっていうのは──」

 

「デート」の意味を知らない十香に説明しようとしたが、インカムから琴里から少し大き目な声で無線が入った。

 

『姉さん! ASTが動いたわ!』

 

その声とほぼ同時に、半壊した壁の外から一人のAST隊員が現れ、十香を睨みつける。

 

「──っ!」

 

それは、士織の見知った人物、折紙であった。

折紙は十香から一度視線を外すと、今度は士織に視線を向ける。なぜここにいるの? そう言いたげな目だった。

 

思わず士織は折紙から目を逸らしてしまう。十香を救うためだが、友人の良心を裏切ってここに来たのだ。折紙に対しては申し訳ない気持ちになる。

 

折紙はまた十香に視線を戻すと、手にしている機械から光の刃を出し、十香に襲い掛かる。

 

「──無粋!」

 

十香は容易く光の刃を手で受け止めると、そのまま折紙ごと振り払った。

 

「……っ」

 

後方へ吹き飛ばされた折紙だったが、空中で姿勢を整えボロボロの床に華麗に着地する。

 

「ち──また、貴様か」

 

十香は軽蔑するように折紙に言うと、折紙も十香に冷たい視線を送りながら、見慣れない武器を手に取って構える。それを見た十香は、士織の方を一瞬見た後、足を軽く上げ踵を力強く突き立てるように足を降ろした。

 

「──<鏖殺公(サンダルフォン)>!」

 

十香が高らかに叫ぶと、教室の床から突然王座が現れた。

 

「……」

 

また、二人の殺し合いが始まる。士織はそれを感じ取っているが、呆然と見ていることしかできなかった。

 

『姉さん、離脱して! 一旦<フラクシナス>で拾うわ。できるだけ二人から離れなさい!』

 

「でも! このままじゃ十香と折紙が!」

 

何もできないことはわかっている。だが、大事な二人がまた争いを始めるのを、何とか止めたかった。

 

『ダメよ! このままそこにいれば、無傷ではすまないわ。今は私の言うことに従って!』

 

「でも!」

 

士織が琴里と言い合っている間に、十香は王座の背もたれから剣を抜くと、折紙に向かって振り降ろした。

そして、その衝撃波で士織の体は、校舎の外に吹き飛ばされる。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

『今よ、姉さんを回収して!』

 

琴里が言うと、士織の体は無重力に包まれ、一瞬にして<フラクシナス>に回収された。




十香を救いたい、自分もそう思いながら執筆してたので、変な思い入れなどがないといいのですがね。

とにかく、見ていただいた人に違和感がないように気を付けて書いていきたいともいます。
次回は一応デート回になりますね。

できれば、尊いシーンとか書きたい・・・・
まぁ、百合ならではこそのシーンを書けるよう頑張ります(笑)
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