TS少女の贖罪~女になった逆行元勇者は、勇者パーティーの一員として死に物狂いで戦う~   作:恥谷きゆう

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最終話 未来へ

 魔王討伐の報は、王国中を駆け巡った。それはつまり、王国民が魔物の侵略に怯えながら暮らす生活が終わりを迎えたことを示していた。

 

 けれど、王国に侵略してきていた魔物が全て死んだわけではない。

 魔王討伐のあの日、騎士団は豪雨に紛れて王国に入り込んでいた魔物を急襲した。騎士団長直々に指揮を執った作戦は成功。壊滅した魔王軍は、散り散りになって逃げたそうだ。

 今は、その残党を追う段階にある。

 

 

 魔王軍の残党を倒すための戦いに赴く前、俺はオスカーと話をしていた。俺の背中には、もはや使い慣れた大剣。そして、体のところどころには高そうな防具がついていた。これは、俺が騎士団に入ってから与えられたものだ。

 

「本当にメメは騎士団に入るんだね」

「ああ。ひとまずは魔王軍の残党を討伐するまでって約束だがな。……騎士なんてガラじゃないと思ったんだが、まあアストルに借りもあるしな」

 

 それに、魔王亡き後の魔物がどんな攻撃に出るのか分からない。王国の犠牲を減らすためにも、俺の知識を活かしたい。

 

「それに、もう誰にも死んでほしくない。……まあ、理想論だがな」

「いいと思うよ、その理想論。青臭くて、メメっぽくないけど、いい」

「……そうか」

 

 オスカーは空を見上げた。つられて俺も青空を見上げる。突き抜けるような、雲一つない快晴。それは俺の未来の如く、どこまでも広がっていた。

 

「オスカーは、もう進む道は見つけたのか? 元勇者の名前があれば、引く手あまただろう」

「いや、まだ迷っているよ。勇者の力を失った今の僕になにができるのか、考えているところ」

「そうか。まあ、力がなくなっても剣の振り方を忘れたわけでも、魔術の使い方を忘れたわけでもない。好きにすればいいさ」

「……一つ、漠然とやりたいことがある」

「おお、なんだ」

 

 魔王討伐後のオスカーがどうするのか、俺は聞くのを楽しみに待った。

 

「メメみたいに、誰かを導く人になりたい。自分の経験を活かして、誰かに剣や魔術、戦いについて教えることができればいいって。……まあ、未熟な僕にできるかは分からないけどね」

「いいんじゃないか。俺にできることがあれば手伝うよ」

「ありがとう」

 

 オスカーには剣の先生なんて似合うかもしれないな。彼の言葉を聞いて、俺は漠然とその姿を想像した。きっと、優しくて人の気持ちを考えられる彼は、自分が直接戦うよりも、誰かを助けることの方が向いている。

 

「カレンとは話し合ったのか?」

「うん。まあでもカレンは中央教会に入って忙しそうだからね。中々会う機会がなくって」

 

 カレンは、一番人を助けられるから、と治癒などの依頼が最も多く来る中央教会に所属していた。評判も良く、彼女は聖職者としての名声をどんどん高めているようだ。魔王軍の残党との戦いでも、最前線に立って治癒をしているそうだ。

 このまま頑張っていれば、そのうち中央教会内での発言権もどんどん増すだろう。

 

「カレンには魔物の後処理が落ち着いたら中央教会の浄化を内部から手伝ってもらうからな。多分もっと忙しくなるぞ」

「うわあ、メメのむちゃぶりに付き合わされるカレンは大変だなあ」

「失礼な。カレンならできるさ。他人のために一生懸命になれる、優しいカレンならな」

 

 オスカーは俺の言葉に同意するように静かに頷いた。きっと、彼も同じように思ったはずだ。

 

「オリヴィアの方は、カレン以上に栄転しているみたいだね」

「ああ、魔法学院の卒業から一年で教授の地位に定着だからな。前代未聞だよ」

 

 魔法学院の教員としてのオリヴィアの評価は高いらしい。分かりやすい授業と、生まれで差別しない平等な態度。

 彼女は今、体系化の進んでいなかった魔術について、誰でも習得できるようにテキストにまとめているらしい。

 俺も、どうすれば魔術を分かりやすく伝えることができるのか、アドバイスを求められたりしていた。

 彼女の教える実践的な魔術は魔法学院に新たな派閥を作り、今では「実戦魔術派」ではなく「オリヴィア魔術派」という大層な名前まで背負っているらしい。きっと、歴史書に彼女の名前が載る日もそう遠くない。

 

「でも、どんどん道を切り開いているオリヴィアの目にはメメしか映っていないみたいだね」

「そうなんだよなあ……まったく、どうしてああなったのか」

 

 オリヴィアは、事あるごとに俺に会いに来る。さらには、家に養子として来ないか、とか一緒に魔法学院で教鞭をとらないか、とか色々とアプローチをかけてくる。俺も彼女のことは好きだから構わないが、彼女の将来を考えると色々と不安だ。

 

 未来へと進んでいる仲間たちの華やかな姿を思い返していると、なんだか急に自分が彼らと同じように前へと進めているのか、不安になった。

 

 俺は、本当に過去を清算して未来に生きることが赦されるのだろうか。

 

「なあオスカー」

「なに?」

「俺は、贖罪できたのかな。彼らに、報いることができたのかな」

 

 死に続けて殺し続けて、それでも俺は未来を歩いていいのか。オスカーは、俺の突然の言葉にも真剣な表情で答えてくれた。

 

「……百年生きてない僕には、分からないよ。──でも、それよりも大事なことがある」

「それは?」

「それは、メメはこの世界でたくさんの人を救ったってことだよ」

「そう、か」

 

 何人殺してしまったのかではなく、何人救ったのか考えるべき。オスカーの端的な言葉は、俺の胸に優しく染みた。少しだけ気持ちの晴れた俺は、オスカーの目をはっきり見て告げた。

 

「じゃあ、もう少しだけ人を救うことにするよ」

「うん、頑張ってね」

「ああ、頑張るよ」

 

 より良い未来のために、俺は今を生きるとしよう。

 




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