①
隆誠と達也は、最近ひとつの厄介な悩みを共有していた。同性である自分たちが付き合っていると、深雪とほのかに誤解されていることに。
どれだけ否定しても、二人の少女は妙に確信めいた視線を向けてくる。その度に、隆誠は『どうしてこうなった』と天を仰ぎたくなるのだった。
その日、生徒会の業務で隆誠は珍しく深雪と二人きりで作業をしていた。達也ではなく自分が選ばれた理由は分からないが、誤解を解くには好機だと判断し、意を決して口を開く。
「なぁ司波さん。俺と達也は、君が思ってるような関係じゃないって何度も言ってるんだけど」
「そのような事を言って、紛らわしい行動をしているではありませんか」
深雪は手を止めず、しかし視線だけは鋭く隆誠へ向けてくる。その冷ややかさに、隆誠は内心で嘆息した。
紛らわしい行動をしていたのは否定できない。
達也と昼食を取っていた生徒会室で、市原鈴音から託された質問書を手渡していたところを、深雪とほのかに見られたのだ。
よりによって、達也が隆誠から封筒を受け取る瞬間。その光景は、どう見ても『ラブレターを渡している』ようにしか見えなかったらしい。
「紛らわしいって……そっちが勝手に思い込んでるだけだろうに」
「何か言いましたか?」
深雪がジロッと横目で睨む。隆誠は素知らぬ顔で流した。
「いや、別に。……それより、兄に何も言わなくて良かったのか? ここで君と二人きりで作業してるって知られたら、それこそ面倒なんだが」
「兵藤くんがお兄様と二人で仕事するより、わたしの方が良いと判断したまでです」
「そうかい……」
深雪は淡々と言うが、隆誠は何とも言えない表情になる。
なぜなら、深雪は気付いていない。扉の向こうで達也が臨戦態勢で待機していることに。
兄としての警戒心なのか、妹への過保護なのか。達也は扉の影で静かに息を潜め、いつでも動ける状態だ。
(兵藤、もし深雪に不埒な事をすればその時は……!)
その気配は、隆誠には手に取るように分かる。まるで『妹に近づく男を監視する兄』そのものだ。
――本当に面倒臭い兄妹だ。
隆誠は心底そう思いながら、深雪の横顔を見つめた。
②
生徒会の業務を進めている最中、隆誠はふと達也の様子がおかしいことに気付いた。
達也の視線が一瞬だけ鋭く揺れ、周囲の
「……おい司波。まさか今、
「………」
達也はわずかに眉を顰めながらも無言になる。その反応だけで十分だった。
隆誠はため息をつき、達也の腕を掴んで生徒会室の隅にある別室へと連れていく。
「全く。俺が近くにいるのに
呆れた声で言いながらも、隆誠は達也の状態を確認する。達也の視界は今、隆誠の存在によって自動的に閉ざされている。
理由は省くが――達也は隆誠や特定の人物に対して、
「すまない。深雪に何かあった瞬間、すぐに範囲を広げてしまうのが癖になってしまってな」
「出来ればその癖を今の内に直して欲しいんだが」
「無理だ」
即答。隆誠は呆れを通り越して、もはや諦めの境地に入りかけていた。
「そこはせめて善処すると言って欲しかったぞ……」
妹に関わることとなれば、達也は一切妥協しない。それを理解していても、隆誠は頭を抱えたくなる。
そんな隆誠の心情を無視するように、達也は淡々と催促する。
「そんな事より、出来れば早く封印を解除して欲しいんだが」
「はいはい。司波さんや光井が来る前にさっさと済ませて――」
隆誠が達也に近づき、封印解除の準備を整えたその瞬間。
バタンッ!
突然、扉が勢いよく開いた。
隆誠と達也は同時にそちらへ視線を向ける。慌ただしく駆け込んできたのは、深雪とほのかだった。
「兵藤くん! それは一体どういう意味ですか!?」
「私達が来る前に達也さんと一体何をするつもりだったの!?」
「「……………………」」
隆誠と達也は、揃って沈黙した。内心で、また誤解されたと。
深雪の瞳は怒りと不安で揺れ、ほのかは顔を真っ赤にして震えていた。どう見ても『二人きりで何かしていた』と思われている。
隆誠は頭を抱えたくなる衝動を必死に抑えながら、達也と共に弁明を始めた。
その裏で、隆誠は深雪とほのかに気付かれないように、そっと達也の封印を解除する。
(本当に面倒臭い兄妹と友人だ)
隆誠は心底そう思いながら、二人の誤解を解くために延々と説明を続けるのだった。
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