遊戯王世界に転生したら、ラスボス達に懐かれました   作:今こそ一つに

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気付いたらまた二ヶ月経ってました。怖いですね。


絶望とはどんな効果だ? いつ発動する?

 庭に出て、デュエルディスクを構える。正直、ディスクやソリッドビジョンを使わずにデュエルしたいけど、相手はラスボスの一角、三幻魔だ。『座ってデュエルしたいんだけど』とか言ったらどんな目に合わされるかわかったものじゃない。

 

 五メートルほど離れた位置に、宇里亜(うりあ)が立つ。女の子らしい、シールなんかが貼られた髪色と同じカラーのディスクを展開する。

 

「いっくよー、キョウジお兄ちゃん!」

 

『気を引き締めろよ、キョウジ』

 

 アストラルのように腕組みをして(そば)に浮いているe()・ラーに小さく頷いた。

 

「「デュエル!」」

 

 リアルソリッドビジョンが展開され、フィールドが構築されていく。ディスクが選んだ先攻は、宇里亜だ。

 

「アタシのターン! えーっとねぇ、カードを四枚セット。

 これでエンドだよ」

 

 四枚の裏向きのカードが投影されて、宇里亜がターンを終える。

 宇里亜のデッキは、(トラップ)モンスターを軸にしたリシドみたいなデッキだ。TF(タッグフォース)シリーズだと『(みかど)』も混ぜて使っていた気がするけど、ボクの知る限りでは持っていないはず。

 

 将来的には《天獄の王》とか使うのかな、なんて思いつつ、カードを引いた。

 

「ボクのターンだ」

 

 手札はまぁ、いつも通りだ。e・ラーとの契約の影響で運命力が上がったらしいボクは、何枚か新しいカード(それも蜘蛛絡みじゃないカード)を入手できたりしたんだけど、引く事は出来ていない。

 

「《地雷蜘蛛》を召喚だ。更に、魔法カード《エクシーズ・レセプション》。

 その効果で、《地雷蜘蛛》と同じレベルの《ナチュル・スパイダーファング》を手札から特殊召喚するよ」

 

 フィールドに並ぶ、二体の蜘蛛たち。どちらもレベル4にしては高い攻撃力を持っているけど、当然デメリット効果もある曲者(くせもの)たちだ。

 

「じゃあ、アタシもカードを使っちゃう!

 リバースカード、《苦文様の土像》! この子は発動したら、モンスターになって特殊召喚されるよ!」

 

「ッ、来たか・・・・・・」

 

 表向きになったカードから出現したのは、六つ脚の奇形な像だ。

 

「もういちまい! 《地雷蜘蛛の餌食》も発動だよ! この子もモンスターになって、正面のゾーンに特殊召喚! 同じ列にいるお兄ちゃんのモンスターを破壊しちゃう!」

 

 奇しくも正面に居るのは《地雷蜘蛛》。《地雷蜘蛛》が《地雷蜘蛛の餌食》の餌食になる、ゲシュタルト崩壊しそうな絵面が繰り広げられる。

 

「それと、《苦文様の土像》の効果! アタシのカードが魔法・罠ゾーンから特殊召喚されたとき、フィールドのカードを破壊しちゃうよ!」

 

 《苦文様の土像》から紫色の怪しいオーラが立ち上ったかと思うと、《ナチュル・スパイダーファング》が突然意識を失ったように脱力し、そのまま破壊された。

 

 宇里亜にはまだボクのエクシーズモンスターについては知られていないし、たぶん攻撃力の高いモンスターを警戒したんだろう。

 

『・・・・・・キョウジよ。あのカード、さっき貴様の使った蜘蛛がモチーフのように見えるが?』

 

「そうだよ。ボクが前に宇里亜にあげたんだ」

 

『敵に塩を送るとはどういう了見だ、キョウジ! 追い詰められているではないか!』

 

「仕方ないだろ、まさか宇里亜と戦うなんて思ってもなかったんだから!」

 

 宇里亜には聞こえないように、小声でe・ラーへと弁解する。

 あのカードをあげたのは、まだボクが前世の記憶を取り戻す前だ。そんな時からラスボスとの戦いを想定するとか、無茶が過ぎる。

 

 ともかく、今の手札だとこれ以上の展開は難しい。いま無理して展開しても《苦文様の土像》に破壊されるだけだろうし。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだよ」

 

「アタシのターンね! ドロー!

 あ、来ちゃった。きゃはっ☆」

 

 そのドローに、ボクは『カン☆コン!』というSEを幻聴する。

 

「リバースカード、発動だよ。《シェイプシスター》!

 この子も、モンスターになって特殊召喚だよ」

 

 現れたのは、流動的な肉体を持つ女性型の悪魔。確か、チューナーでもあったはずだ。今は、関係ないけど。

 

「行くよ、キョウジお兄ちゃん!

 三枚の永続(トラップ)をコストに、特殊召喚! 《神炎皇ウリア》!」

 

『ギャハハハハハ! 久しぶりの召喚(シャバ)だ! アガるなぁ!』

 

 炎と共に、真紅の身体を持った魔龍が降臨する。そのサイズは巨大で、一体で宇里亜のフィールドのほぼ全域を埋め尽くすほどだ。

 

「ねぇねぇ、見て見て! すごいでしょ、このカード!」

 

「・・・・・・うん、凄いよ」

 

 威圧感とかプレッシャーとか、色々。立っているだけで気圧されるくらいには。

 けど、ここでぼんやりしてては負けに直結する。ボクは宇里亜に頷きながら、ディスクを操作しカードを発動した。

 

「でもごめんね、リバースカード《進入禁止!! No Entry!!》。

 フィールドのモンスター全てを、守備表示にするよ」

 

『なぁっ!? テメェ、俺の活躍の機会を!』

 

 効果がOCG版と同じなのは確認済みだ。なら、特殊召喚成功時のタイミングで使っておかないと、不味い。

 

「あ、もう! そのカード、ウリアの効果で破壊しようと思ってたのに~!」

 

 むくれて頬を膨らませる宇里亜。神炎皇の効果は、魔法・罠のチェーンを許さない魔法・罠の破壊。前世では何とも思わなかったけど、今では強力無比な効果に感じる。

 

『ほう? 罠をコストにするだけでなく、除去まで出来るのか。そこそこやるようだな。

 まぁ、我の《絶望神アンチホープ》ほどでは無いがな!』

 

 いや、あっちの方が数倍強いと思うぞ。少なくとも、《神炎皇ウリア》にデメリット効果は無いし。なんなら、神炎皇の攻撃力は墓地の永続罠の数だけ上がるし、アンチホープも戦闘破壊される可能性がある。

 

 だからこっちをチラチラ見るのはやめてくれe・ラー。このデッキにアンチホープは入ってないから。お前がこっそり入れたのは知ってたし、さっき抜いたから。

 

「じゃあ、こっち! リバースカードだよ。

 《アポピスの化神》、この子もモンスターになって特殊召喚されるよ」

 

 あれは、リシドの使っていたカード。この世界では一般的なカードみたいで、普通に出回っている。

 

「バトル!

 《アポピスの化神》で、攻撃! ダイレクトアタックだよ!」

 

 戦士を傀儡とした古代の蛇が、その剣をボクへと振るう。避けようのないボクは、せめて痛みが少なくなるよう、腕を交差させて攻撃を受ける。

 

「ッ、・・・・・・」

 

キョウジ LP4000→2400

 

「やったぁ!

 それじゃ、《マジック・プランター》を発動だよ。《アポピスの化神》を墓地に送って、二枚ドロー!」

 

『しかも、これで俺様の攻撃力は更に上がるぜ~!』

 

 《マジック・プランター》、今までは入っていなかったカードだ。いつの間にか入手していたんだろう。この世界じゃよくあることだ。

 それに、これで神炎皇の攻撃力は4000になった。守備力は上がらないのが唯一の救いかな、ボクのデッキにはモンスターを守備表示にする手段がそれなりにある。

 

「カードを二枚セットして、ターンエンドだよ、キョウジお兄ちゃん!」

 

 手札を全部伏せた宇里亜。彼女がどんな罠モンスターを所持しているのか、ボクも把握しきれていないし、ここは慎重にいかないと。

 

「ボクのターン、ドロー」

 

 引いたのは、見慣れないカード。最近になって入手した、前世では見たことのなかったカードだ。ここまで来ると、もうオリカがどうとか気にしていられないな。

 

「魔法カード、《蟲惑の(いざな)い》を発動するよ。手札のレベル4・昆虫族である《インフォーマー・スパイダー》を捨てて、二枚ドローする」

 

 初めて手に入れた時は、目を疑ったものだ。あまりに強い効果で。

 前世でもインフレが続いていたら、こんなカードが出ていたんだろうか。

 

「更に、《竜咬蟲(ドラゴンバイト)》を召喚! その効果で、手札から《グランド・スパイダー》を特殊召喚する」

 

 竜を思わせるフォルムのワームが現れると同時に、その身体から蜘蛛糸でぶら下がっていた土色をした蜘蛛が着地する。

 

『レベル4のモンスターが二体、()くぞキョウジ!』

 

 言われるまでもない。

 

「ボクはレベル4の《竜咬蟲》と《グランド・スパイダー》の二体で、オーバーレイ。

 エクシーズ召喚!」

 

「え、エクシーズ召喚!?」

 

『エクシーズ召喚だぁ?』

 

 宇里亜がびっくりして目を見開き、時代的に融合以降の召喚方法を知らない神炎皇が怪訝な声を上げる。

 

「現れろ、《No(ナンバーズ).98 絶望皇ホープレス》!」

 

 黒雲の中から現れたのは、無機物らしい黒い物体だ。それが変形し、展開し、『98』の数字が刻まれるのと同時に漆黒の戦士が完成した。

 アニメなんかで『ナンバーズ』が登場するときの演出だけど、まさか実際に目にする日が来るとは思わなかった。

 

「行くよ、バトルだ!」

 

「じゃあ、ここだね。

 リバースカードだよ! 《地縛死霊ゾーマ》を発動!」

 

「・・・・・・地縛、死霊?」

 

 知らないカードの登場に、ボクは眉をひそめた。《死霊ゾーマ》なら把握してるんだけど。

 まさか『地縛神』関連とかじゃないよね?

 

「へへん、教えてあげる!

 この子もモンスターになって特殊召喚されるんだけど、もし戦闘で破壊しちゃったら、破壊したモンスターの攻撃力を倍にしたダメージを与えちゃうんだよ!」

 

「攻撃力の、倍!?」

 

 とんでもないカードじゃないか。初期ライフがアニメ基準で4000しかないのに、そんなダメージを受けたらひとたまりもない。実際、ホープレスの攻撃力は2000あるから、効果を使われたら一発で敗北だ。

 

『フン。ならば無視してあの生意気なトカゲへ攻撃すれば良いだけの話ではないか』

 

『そうは問屋が卸さねぇんだぁ、年増。子供の話は最後まで聞けよ~』

 

『貴様! また年増などと!』

 

 ラスボス同士が低レベルな言い合いをしているが、スルーする。

 

「あ、それと~。相手の攻撃可能なモンスターは、この子に攻撃しなきゃいけないんだよ!」

 

『なんだと!?』

 

 なるほど、攻撃誘導──と言うより、攻撃の強制か。どこまでも厄介なカードだ。

 

『ま、マズいぞキョウジよ! なんとかなるのか!?』

 

「なんでボクより焦ってるんだよ、e・ラー・・・・・・」

 

 と言うか、ホープレスの効果を忘れているんだろうか。自分が産んだのに。

 

「《No.98 絶望皇ホープレス》で《自爆死霊ゾーマ》に攻撃。

 その瞬間、ホープレスの効果発動だ。モンスターの攻撃宣言時、オーバーレイユニットを一つ使う事で、そのモンスターを守備表示にする」

 

 アニメ風に言うなら、新月から取って『ニュームーン・バリア』とかになるのかな。

 ・・・・・・やめよう。ZEXALで新月とか厄ネタでしかないし、ニューとか名乗るのもカッコ悪い。口にする事は無いだろうけど。

 

『よ、よくぞ凌いだキョウジ!』

 

「え~、ズル~い! なにその効果!」

 

 (豊満な)胸を撫で下ろすe・ラーと、肩を怒らせている宇里亜。取り敢えず、あの罠モンスターは何とかしないと。

 

「メインフェイズ2だ。

 ボクの墓地には昆虫族モンスターしかいない。よって、《神炎皇ウリア》と《地縛死霊ゾーマ》をリリースして、このモンスターを特殊召喚できる!

 来い、《マザー・スパイダー》!」

 

 地面が割け、神炎皇と瘴気を纏った死霊が引きずり込まれていく。中に居るのは、巣を張った巨大な蜘蛛だ。その大蜘蛛は入れ替わるように蜘蛛の巣から飛び出し、ボクのフィールドに着地する。

 

『なっ、この俺様が! こんな、ただのモンスターにぃ・・・・・・!?』

 

 大地の亀裂に飲まれ、《神炎皇ウリア》の姿が消滅していく。足掻くように咆哮を上げるが、いくら三幻魔だとしてもデュエルのルールには抗えない。

 

「悪いな、神炎皇。ボクは宇里亜とは普通にデュエルしたんだ」

 

 いや、リアルソリッドビジョンの時点で、ボクにとっては普通じゃ無いんだけど。でも、家族と命や大切な物を賭けてデュエルするのは、もう嫌なんだ。

 《マザー・スパイダー》。これまでのデュエルでは使う機会が来なかったけど、記憶を取り戻す前のボクのエースだ。ちょっと、いやかなり気持ち悪い見た目をしているが、今はその背中が頼もしい。

 

「アタシのウリアが、やられちゃった・・・・・・さっすが、キョウジお兄ちゃんのエースモンスター」

 

『何を言っているんだ小娘。キョウジのエースは《絶望神アンチホープ》だぞ』

 

 違います。

 

「ボクはこれでターンを終わるよ」

 

 ターンエンドを宣言したのと同時に、右手に痛みが走る。それは熱を伴ってボクを内側から掻き回すように浸食してくる。

 

「ぐっ・・・・・・!?」

 

『キョウジ?』

 

 胸の奥から、突き動かされるような衝動が溢れてくる。どこかに消えてしまいたい、このデュエルから逃げ出してしまいたい。そんな感情が、ボクを支配しようとする。

 

『キョウジ! どうしたのだ、キョウジ!?』

 

「キョウジお兄ちゃん?」

 

「・・・・・・なんでもないよ、宇里亜」

 

 どうにか強がって笑顔を作る。右手の甲に目を向ければ、そこには『98』の数字がタトゥーのように刻まれていた。ただの数字じゃなくて、特徴的な──《No.98 絶望皇ホープレス》の右肩にあるのと、同じ数字だ。

 

(そうか。『ナンバーズ』は使用者に取り憑いたり、心の闇が増幅されるんだ)

 

 今までは、ボクの『ナンバーズ』たちは、誕生経緯こそ特殊だったけど、ただのカードだった。でも前回の究極神とのデュエルで、『ナンバーズ』として覚醒した。だから、『ナンバーズ』としての性質も得てしまったのか。

 

『キョウジ、その手・・・・・』

 

「デュエルに集中しよう、e・ラー」

 

 けど、そんな事は気にしていられない。このデュエルも、負けられないんだ。逃げて良いハズも無い。

 

「だいじょーぶ? 体調悪いの?」

 

「大丈夫だって。それよりほら、宇里亜のターンだ」

 

「う、うん・・・・・・アタシのターン!」

 

 カードを引く宇里亜。その瞳には、ボクへの心配と、寂しさへの恐怖が見える。

 だから、ボクは何でも無い風に微笑んだ。寂しがりなこの子を、守りたい。

 

「大丈夫なら、手加減しないから!

 いっくよ~、リバースカードだよっ! 永続(トラップ)、《ハイパーブレイズ》!」

 

「アレは・・・・・・」

 

 見覚えのあるカードだ。三幻魔に関連したカードだったはず。

 

「このカードの効果で、手札一枚を捨てれば、墓地から《神炎皇ウリア》を特殊召喚できるんだよ!」

 

 ぶっ壊れじゃないか! いや前世基準だとそうでもないんだけど、この状況においては不味い。

 

 地面から炎が吹き出し、大地が割れる。不死鳥の如く舞い戻ったのは、天空竜の模造品だ。でもその強さは引けを取らない。

 

『残念でしたぁ~! 俺様がそんな簡単にやられるワケね~だろ!』

 

「バトル! 《神炎皇ウリア》で、お兄ちゃんのホープレスに攻撃!

 《ハイパーブレイズ》の効果で、ウリアが戦闘するとき、デッキから(トラップ)カードを墓地に送れば、ウリアの攻撃力と守備力は、お互いの場と墓地の罠カードの数の千倍になるんだよ!」

 

 ぶっ壊れじゃないか!!(二回目)

 今の《神炎皇ウリア》の攻撃力は7000、ボクのモンスターは守備表示とは言え、そんな攻撃を受けたらボクの身が保たない。

 

「ホープレスの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使うことで、攻撃モンスターを守備表示にする!」

 

『チィッ、またかよ!』

 

 ホープレスの展開した翼のような盾がウリアの顎を揺らし、その攻撃を妨げる。

 

「防がれちゃった。

 でもアタシ、知ってるんだよ。エクシーズモンスターは、素材がないと効果が使えないって!

 だから、キョウジお兄ちゃんのそのモンスターも、もうすぐ倒しちゃうから! きゃはっ☆」

 

 その通りだ。もうこの効果は使えない。

 モンスターはまだいるとは言え、あの攻撃力なら一発でも食らったらアウトだ。ボクが立っていられない。

 

「アタシはこれでエンドだよ」

 

 だから、このターンで決めなきゃいけない。

 

「ボクのターン、ドロー」

 

 直ぐにでも逃げようとする身体を叱咤して、カードを引く。e・ラーと契約した影響か、はたまた幸運の女神が微笑んでくれたのか。

 勝利への道筋を掴んだボクは、手札にあったカードをディスクへと配置する

 

「《アトラの蟲惑魔》を召喚。そして速攻魔法、《エクシーズ・アライン》を発動、その効果で《マザー・スパイダー》のレベルを《アトラの蟲惑魔》と同じ、4にする!」

 

 この効果の後、ボクはこの二体と同じ種族のモンスターしかエクストラから出せなくなるけど、問題ない。

 

「ボクはレベル4になった《マザー・スパイダー》と《アトラの蟲惑魔》でオーバーレイ! エクシーズ召喚!

 来い、《No(ナンバーズ).70 デッドリー・シン》!」

 

 銀河が爆発し、金属のような輝きを持つ楕円形の球体が現れる。しかしそこから八つ脚が突き出し、花が開くように頭部が展開される。全身に虫らしい生物的なディテールが描かれていき、腹の部分に『70』の数字が刻まれるのと同時に、ボクの左腕に痛みが走った。

 

 今はデュエルディスクをしているから確かめられないけど、ボクの身体に『ナンバーズ』の数字が刻印されたんだろう。今度は普段抑えている欲望が湧き出してきた。

 お腹いっぱい食べたい、美味しい物を食べたい、悪夢に魘されずに眠りたい、デュエルをやめて惰眠を貪りたい、e・ラーを襲ってしまいたい、e・ローのエロい身体を組み伏してそのまま──いや待て、最後の方のは駄目だ、どう考えても。

 

 どうやら、デッドリー・シンによってボクの欲望が強くなってしまっているみたいだ。正直、自分は欲が薄い方だと思ってたんだけど、本能に結びついているモノはどうしようもない。

 

『キョウジ! 貴様、また・・・・・・!』

 

「デッドリー・シンの効果発動! 素材を一つ使う事で、相手モンスターを次のスタンバイフェイズまで除外する!」

 

 e・ラーの声を聞いているとアレな方の欲求が加速しそうなので、意図的に遮った。ええい、視界の隅で胸を揺らすな、本当に目に毒だから!

 

『グォッ!? くっ、そがぁ──!』

 

 デッドリー・シンの放った蜘蛛糸が神炎皇を絡め取り、動きを封じて放り投げる。相手は三幻魔、自力で帰って来るだろうけど、それでも次のターンまではかかるだろう。

 つまり、このターンで決めれば良い。

 

「ホープレスを攻撃表示に変更して、バトルだ!

 行くよ、宇里亜!」

 

「もう、キョウジお兄ちゃん、おとなげない~!

 ・・・・・・でも、勝負は勝負だもんね。いいよ、来て!」

 

「ホープレス、そしてデッドリー・シンで直接攻撃!」

 

 黒騎士と巨大蜘蛛が、それぞれ攻撃の姿勢に入る。頼むから、宇里亜に怪我はさせないでくれ・・・・・・!

 『ナンバーズ』との繋がりが深まった結果か、二体のモンスターはあくまで宇里亜に直接当てずに攻撃を成立させ、ライフを削りきった。

 

宇里亜 LP4000→2000→0

 

 デュエルが終了し、ソリッドビジョンが消えていく。究極神の時とは違い、《神炎皇ウリア》はまだ力が弱かったようで、孤児院の庭は壊れたりしていない。

 そう考えると、ここでデュエルしたのはちょっと考えなしだった。今後もラスボスと戦う事になるだろうし、対策を考えないと。

 

「あ~ん、負けちゃった~!

 キョウジお兄ちゃん、いつの間にあんな強いカード持ってたの?」

 

「ちょっと、色々あってね」

 

『ふふふ、我とキョウジとで生み出したのだ。強いに決まっているだろう』

 

 本当にマジで黙っててくれないかな、e・ラー。今そういう事を言われると、自制が効かなくなりそうだ。

 

「じゃあ、ボクはちょっと疲れたから、部屋に戻るね。

 宇里亜も、デュエルする分には良いけど、ディスクを使うのはこれくらいにしておいたら?」

 

「うん、そうする! きゃはっ☆」

 

 ボクとデュエルして満足したのか、明るく笑った宇里亜はデュエルディスクを外して孤児院の中に戻っていく。

 

『待ってくれよ嫁ちゃ~ん』

 

「待つのは貴方だ、《神炎皇ウリア》。ボクが勝ったんだ、言うことを聞いてもらう」

 

 しれっと宇里亜に付いていこうとした神炎皇の精霊を引き留める。正直、今すぐにでも寝てしまいたいけど、やるべきことはしなきゃ。

 

『・・・・・・ハァ~、いいぜ。言うこと聞いてやるよ。なんだ、俺をその年増にでも食わせるのか?』

 

『何度も言わせるな、我は年増では──キョウジ?』

 

 e・ラーを手で制して、神炎皇へと向き直る。

 

「そんな事はしない。

 ちょっと、ボクらに服従してもらうだけだ」

 

『──ほう? この俺に、服従しろと?』

 

 神炎皇ウリアの纏う気配が変わる。この世界においてどうやって生まれたのかはわけらないけど、腐っても神の名を持つカードだ。ボクみたいな一般人に従うなんて、癪なんだろう。

 

「そうだ。ただ、そうしてくれたら、宇里亜の元に居てくれて構わない。

 結婚とか、宇里亜に力を分け与えるとか、(さら)うとか──そういうのは、許せないけど」

 

 ボクの言葉に、神炎皇はこちらを睨んだ。よっぽど腹に据えかねているらしい。

 

『舐めるなよテメー。人間ごときが、この俺を服従させられるとでも──』

 

「なら、e・ラーに取り込んでもらうだけだ。

 ちなみに、コレは同じような目に合った究極神のカード」

 

 ボクが《アルティマヤ・ツィオルキン》の亡骸(カード)を見せれば、神炎皇の動きが止まる。どうやら、本気度が伝わったらしい。ダラダラと冷や汗を流している。

 

「無茶な要求をするつもりは無いんだ。むしろ、宇里亜や他の子たちが危ない目に遭ったら、守って欲しい」

 

『──やー、あの、ハイ。します、服従。

 流石に、存在ごと取り込まれるのは、どうにもできねぇ・・・・・・』

 

 折れてくれたみたいだ。・・・・・・良かった。もしウリアをe・ラーに食わせて、ハモンやラビエルが仇討ちとかしに来たら困る。

 究極神には仲間とか居ないみたいだったし、そもそもボクは気を失ってたからどうにも出来なかったけど。

 

「えっと、ボクとしては、貴方に協力して欲しいんだ。神炎皇ウリア。

 その、みんなの幼い頃の写真が入ったアルバムとかなら見せられるから──」

 

『一生付いていきますぜ旦那ァ!』

 

 急に距離を詰めて()(へつ)らってくるウリア。

 嘘みたいな食いつきの良さに、今度はこっちが面食らってしまう。

 

『良いのか、キョウジ。この変態、何をするかわからないぞ』

 

「その辺りは追々考えるよ。今は・・・・・・とにかく休みたい」

 

 食欲と、睡眠欲と、性欲と──自分の中の欲求が強まっているし、逃げ腰なボクの心の暗い部分が顔を出している。取り敢えず、一旦休みたい。

 

『・・・・・・キョウジ。その、両腕は』

 

「『ナンバーズ』を持っていると、心の闇とか、欲望とかが強くなるんだよ。程度の差はあるみたいだけど」

 

 なんでe・ラーが知らないんだ、と思ったけど、漫画版には無い設定なんだっけ。

 

『──そうか。すまぬ、我はそれをどうにかする事は出来ない。

 それもまた、『絶望』なのだろう。我と契約した以上、我が貴様の絶望を減らすのは、難しくて──』

 

「うるさいな、その唇(ふさ)ぐぞ」

 

『──な、はっ? えっ???』

 

 しまった、しおらしい態度のe・ラーがあんまりにもエロ──もとい、目に毒で、普段なら考えもしない言葉が口を突いて出た。

 

『ヒュー、言うねぇ旦那!』

 

『キョウジ? 待て、何を言われたのだ我は? キョウジ??』

 

 e・ラーとウリアの声が遠ざかっていく。ボクは意識を保てなくなり、その場に倒れ込んだ。




キョウジ
e・ラーとの契約に加えて、『ナンバーズ』のデメリットも背負う事に。
『98』によって現実から逃げたい気持ちが強まり、『70』によって三大欲求が増加した。
今後もナンバーズを使う度に増えていく模様。
むしろこんだけe・ローと一緒に居て性欲を発散してないで居られたのが異常。

e・ラー
この後キョウジを部屋まで運んだが、ずっと顔が赤かった。押しに弱いタイプ。
散々『年増』と言われた後だったので余計に揺さぶられた。
ウリアのことはあんまり良く思っていない。

神炎皇ウリア
大人しくするつもりは無かったが、なんだかんだキョウジを気に入ったので暫くは言うこと聞いてやるかと思っている。
e・ラーの事は年増としか思っていない。
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