グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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05 天空闘技場のキルア

 

 リング上ではふたりの闘士が向かい合っている。

 

 一方は金色の長髪を持つ男。

 端正な容姿を持つ長身の闘士、カストロ。

 

 もう一方は黒髪を、肩口まで伸ばした少女。

 恐ろしく整った容貌の、少女闘士、ユウ。

 

 ともに纏うゆったりとした外套は黄と黒。

 身に帯びるオーラは力強く、驚くほど自然だ。

 

 試合開始とともに、ふたりは拳を交わす。

 最初はゆっくりと。徐々に速く。

 

 そして。

 

 

 ──消えた?

 

 

 高速移動じゃねぇ。物理的に消えてやがる。

 カストロも……増えた。まともじゃありえねぇ。

 

 これも念──オーラの力ってやつか。

 体を強化したり、武器を強化するだけじゃない。予想以上になんでもアリだ。

 

 

「ここで、ユウ選手がカストロ選手に【隠】を使っています。オーラを見えにくくする念の高等技術です」

 

 

 そう言って、ウイングはズシに【隠】を見破ってみせろと指示する。

 ズシは目にスゲエ量のオーラを集めて……ユウがパンチの際に、カストロにオーラを付けたことを指摘した。

 

 オレにはわからない。

 これが今のオレ──キルア=ゾルディックとズシの差。

 筋力、技量(スキル)、経験……どれをとってもオレのがはるかに上。

 

 けど、オーラに関しては及ばない。

 ただそれだけで、10対1000の技量差が吹っ飛ぶ。

 

 

 ──んにゃろう……面白ぇ。すぐに追い越してやっかんな。

 

 

 スゲーやる気出た。

 隣を見ると、ゴンも同じようにやる気出してる。

 

 オーラの修行は面白い。

 なにより、ゴンとスタートラインがいっしょってのが面白い。

 戦闘に関しては天と地ほどの差があるのに、ここではゴンは油断できないライバルだ。

 

 だから、余計やる気が出る。

 

 

 ──けど……こんなとこで出くわすとか、マジでどんなグーゼンだよ。

 

 

 ビデオ映像に映る闘士の一方に目を向ける。

 

 賞金首(ブラックリスト)ハンター、ユウ=ミルガン。

 天空闘技場では“神速の暗殺者”の異名を持つ、200階クラスで無敗の闘士。

 

 あの女とは、3度、顔を合わせた。

 

 一度目は、どこかの港街。

 護岸壁の上で空をながめる姿と、どことなく臭う同業者っぽさ。

 その不釣り合いな感じが気になって、声をかけたけど……実力がつかめなかった。

 

 二度目は、ハンター試験の一次試験。

 試験官として顔を出したあの女は、遮蔽物のない真っ暗闇の空間で、殺気を飛ばしてきた。

 

 ただそれだけで、死を想起した。

 本能が全力で逃げろと叫び声を上げた。

 あれは化け物だと、間違っても殺し合っちゃいけないと。

 その声に従って、ただ逃げた。試験が終わったあとは、目も合わせられなかった。

 

 三度目は、ハンター試験の最終試験。

 兄貴に詰められて、失格するために受験生を殺そうとしたオレを、その殺気で止めた。

 正直助かったと思った。あそこで──友達(ダチ)の目の前で殺してたら、あいつらも助けに来てくれたかどうか……そう思うと、ゾッとする。

 

 アレに関してはマジで恩人だ。

 まあ怖ぇーのは怖ぇーんだけど。

 

 

 ──あの女の“殺気”。アレは、兄貴と同じ力だ。

 

 

 不気味で恐ろしい、兄貴の力。

 あの女の力は、それと本質は同じで……より透明で純粋な、殺意が込もっていた。

 

 家を出てから、なんとかあの力の正体を知りたいと思ってた。

 天空闘技場で、ウイングの“舌”を見せられて、コレだと思った。

 念の存在を知り、兄貴の力の正体を知って……その修行の最中に、オレはあの女と、ビデオ越しに四度目の邂逅を果たす。

 

 天空闘技場での活躍は、少し調べればわかった。

 7戦全勝。200階クラスでもトップレベルの強者たちを相手にして、その成績。

 一流の賞金首ハンターなんだから納得とはいえ、強い。カストロも強いが、まるで子供扱いだ。

 

 

 ──いや、戦闘技術は微妙に素人クセーとこが見え隠れしてんな。

 

 

 身体能力は化け物。

 戦闘技術は高いものの専門職(プロ)未満。

 だが、オーラの運用に関しては、ほとんど理解できない。

 

 

 ──それだけ今のオレとユウ(あいつ)で差があるってことか。

 

 

 兄貴とあいつじゃ、さすがにあいつのほうが下だ。

 少なくともコレを超えられるくらいにならねーと、話にならねーよな。

 

 よし、と拳を打ち鳴らす。

 まずはズシを超える。次にユウ。いずれは、兄貴も超えてやる。ゴンよりも先に、だ。

 

 本当に。

 友達で、ライバル。

 そんなヤツがそばにいるのは──楽しい。

 

 

 

 

 

 

 その場面に立ち会えたのは、偶然だが偶然じゃない。

 ロクでもねー連中がオレたちに目を付けてるのは知ってたし、仕掛けてくるとしたら今日あたりだと思っていた。

 

 一本足義足のギド、隻腕のサダソ、車椅子のリールベルト。

 新人狩りの連中が、どんなロクでもねーこと企んでくるかと思っていたら……ズシに狙いを定めてきやがった。

 

 

 ──ちっ。きっちり警戒されてやがる。

 

 

 物陰で様子を見ながら、舌打ちする。

 今のオレじゃアイツラ程度でも()()()じゃ厳しい。

 かといって人混みのど真ん中でスイッチ入れるのもなー。

 

 

 ──ウイングに声をかけるか……いや、メンドくせぇ。

 

 

 アイツらが欲しいのは200階クラス(ここ)での勝ち星だ。

 オレは兄貴の強さの秘密さえわかりゃ勝敗に興味はねぇ。

 勝ち星でもなんでもくれてやって、穏便に帰ってもらうか。

 

 そう思った、その時。

 

 

「そこまでだ、君たち!」

 

 

 黄色い影が走った。

 そう見えたときには、サダソが吹き飛ばされ、見えない左腕に捕えられたズシの身は解放されていた。

 

 

「──野蛮人の聖地(ここ)で力以外の謀略(もの)を持ち込むのは歓迎できないな」

 

 

 言って構えた男には見覚えがある。つーかさっきも見た。

 

 武闘家カストロだ。

 技量(うで)もオーラも、新人狩りとはレベルが違う。

 3人はすごすごと引き下り、去っていった。ズシは……気絶してるだけか。

 

 

「サンキュ。えーと、カストロ選手。助かった」

 

 

 姿を現し礼を言うと、カストロは、いっそ胡散臭いほどに爽やかな笑みを返した。

 

 

「礼は不要だよ。この天空闘技場を愛する者として、当然のことだ。どうやらキミは当事者らしいが……事情を聞かせてくれるかな?」

 

 

 

 

 

 

 ウイングの部屋。

 気絶したズシをベッドに寝かせ、ゴンとウイングを交えて、カストロに事情を説明する。

 

 新人狩りの三人のこと。

 彼らに目をつけられていること。

 警戒していたところ、ズシを狙ってきたこと。

 

 

「……油断していました。これは私の落ち度です。すこし窮屈な思いをさせるかもしれませんが、当分は側を離れないようにします。ズシにはあとで謝らなくては」

 

「あんたが罪悪感感じることじゃないと思うぜ。アイツらが性質(タチ)ワリーだけだよ」

 

 

 ウイングは、昏昏と眠るズシを見ながら、拳を握り込む。

 

 

「でも、ま、連中失敗したな」

 

「……キルア?」

 

 

 ゴンが、声をかけてくる。

 不満、不安、不納得。感情未満のなにかを言葉にしきれない。そんな感じだ。

 

 

「なんでもアリならコッチのが上ってことだよ」

 

 

 相手は念使い。

 なるほど闘技場(ここ)でルールありでなら分が悪い。

 あるいは複数で固まって警戒されたらお手上げだ。

 

 けど、闘技場の外でなら。

 暗殺が選択肢に入ってくるなら。

 風呂、トイレ、睡眠中。相手が気づかないまま()()()()()()にすることも出来る……やんないけど。

 

 

「心配すんなよゴン。脅すだけだ。あんな三下わざわざ()んねーっての」

 

 

 まだこっちを見てくるゴンに弁解する。

 

 

「ううん。違うよキルア。それは心配してない……ただ」

 

「ンだよ。ただ?」

 

「悔しくない? 向こうがズルしてきたからって、こっちもズルしてとっちめようとか」

 

「いや、ゴン。お前じゃそもそもズルしても勝てねーって」

 

「それだよ! キルアに任せっきりになるのが嫌なんだよ! オレが!」

 

 

 やっと納得いった風に、ゴンが声を上げた。

 こいつはホントに……

 

 

「じゃあお前はどうしたいんだよ」

 

「それは……考える! 今から!」

 

 

 コイツはホントに……

 

 

「ゴン君、キルア君。少しいいかな?」

 

 

 と、カストロが手を挙げた。

 わざわざ断る必要ないのに律儀なヤツだ。

 

 

「──察するところ、キルア君は正当でない手段で新人狩りの問題を手っ取り早く片付けたい。だがゴン君は、キルア君だけが手を汚すことに納得できない……で、合ってるかな?」

 

「んー、ちょっと違う……かも。納得できないのは、オレの弱さ? いや、あいつらの強さのほう、なのかも?」

 

「あのな、ゴン。自分でもわかってねーこと、こっちに聞かれても困るっての」

 

 

 ホントになにが言いたいんだっての。

 だいたいオレらと新人狩りじゃ技量(うで)が違う。

 たしかにあんなオーラ以外は雑魚って連中に勝てねーってのは納得いかね──やべ。ゴンの気持ち、ちょいわかったかも。

 

 

「ふふふっ。なるほど、ゴン君のやりたいことがわかった気がするよ」

 

 

 カストロが笑う。

 相変わらず笑顔が爽やかすぎてイラッとくる。

 

 

「──敵は強い。でも、どうあがいても勝てないレベルじゃない。修行をして強くなって、ぐうの音も言わせないほどの勝ちを、奴らに叩きつけたい」

 

「それだ!」

 

「それだ! じゃねーよ! 一朝一夕にそこまで行けねーの、自分でもわかってるから、さっきからお前悩んでたんだろ!」

 

 

 ゴンの顔面に指差しながら突っ込んでると、またカストロが笑う。

 

 

「いいじゃないか。それをやろう。私もぜひ協力させてくれないか」

 

 

 オイオイ。

 なんでコイツそこまで協力的なんだよ……初対面だよな?

 

 不審な目を向けていると、カストロはあわててつけ加える。

 

 

「もちろん、君たちの念の師匠──ウイングさん、キミの領分を侵すつもりはない。ただ協力させてほしいんだ」

 

「なぜか、って、聞いていいか?」

 

 

 あんまりにも、オレたちに都合がよすぎる。

 こいつが底抜けのお人好し、って風にも見えないし……

 

 

「そうだね、理由は……キミたちの戦いが、この天空闘技場に多くのものを残すだろうと思ったから、かな」

 

「どういうこと?」

 

「それがなんの得になんだよ」

 

 

 ゴンといっしょに尋ねると、カストロは、また笑う。

 

 

「そうだね。キミたちは──ユウ=ミルガンという闘士を知っているかい?」

 

「──っ」

 

 

 知らないはずがない。

 だが、その名前がここで出てきたことに驚いた。

 あの女と(バト)ってたことはもちろん知ってる。けどその名前がなぜいま出てくる?

 

 

「知ってるよ! あとからだけど、カストロさんとの試合も見た!」

 

 

 この際、素直に聞けるゴンの存在がありがたい。

 裏がないのがわかってても、オレはどうしても裏を読んじまう。正直ムダに疲れる。

 

 

「ありがとう。まさにその試合の時に、私は彼女に言われたんだ──たくさんのものを貰った天空闘技場に、なにか返したいと」

 

 

 カストロは当時を思い返すように、しみじみと語る。

 

 

「彼女との戦いで、私は多くことを教えられた。そして託された。彼女の天空闘技場への思いを。だから、機会があれば私もと思っていた。そして、今がその機会だと思った……それだけさ」

 

 

 なんというか、つくづく。

 あの女との奇妙な縁は、続いてるらしい。

 

 

 

 

 

 

 そして、17日後。

 オレとゴンは目的を果たした。

 

 

『──ゴン選手、キルア選手、両名ともギド選手、サダソ選手、リールベルト選手相手に圧倒的実力を見せつけ破竹の3連勝ーっ! この勢いは誰にも止められないーっ!』

 

 

 

 

 




グリードアイランド・クロスにおつき合いいただき、ありがとうございます。
次章リメイクの目処が立つまで、お時間いただくことになると思います。お待ちいただけましたら幸いです。
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