戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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邂逅

 一度リアルに戻った睦希は随分久し振りな雰囲気でイザベラと2人だけの夕食を楽しみ、ALOについての感想を聞かれたので彼は答えた。飛行に使う仮想部位を動かすのに疲れたとか、首都まで帰ろうとした所でイザコザに巻き込まれたことなどを言いながら食事をし、夕食を終えて1時間ほど経ってから再度ALOにダイブした。

 

 首都カダンから竜の谷近くのオアシスまで転移し、多少飛龍型エネミーと出くわしながらも飛行してあのケットシーのNPCの居る休憩所に辿り着く。すでにキリトもその場に居たためクエストを再開させまた央都に向かっていく。クエスト開始時よりも目的地の距離は近付いているとは言えまだ暫く先なのは致し方ない、時折やってくる山賊だの飛龍型エネミーだのを倒していると2人の目に山に沿うように存在する龍の白骨死体が見られる。不意にヴァーディクトがそう呟くと、ケットシーのNPCがあの白骨死体の説明をし始めた。

 

 あの竜の死骸は大昔ここのヌシであったが、ある時やって来た巨大な災いがヌシの肉体を蝕み殺してしまった。山のヌシが変わってから暫くの年月が経とうとしていた頃、あるサラマンダーとインプがこの谷を通り休憩していたところ美しい女が2人のもとに現れた。その美女が言うにはその巨大な災いを倒して欲しい、倒さなければこの世は混沌に満ちるだろうと言って休んでいたサラマンダーとインプはその頼みを承諾した。

 

 三日三晩の死闘の末に、サラマンダーとインプは巨大な災いをインプ領近くの高山地帯の奥底に封印したという。ただその代償は大きく巨大な災いがもたらした毒が2人を蝕みそのまま帰らぬ人となった。そして2人が死んだと思われる場所に2本の剣が今も突き刺さったままなのだとか。それを聞いていたキリトとヴァーディクトは共通して何かのクエストフラグなのではと思いながら、央都へと向かって歩き続けていく。

 

 やがて彼らは眼下に広がる央都の街並みを一望する。世界樹の周りを囲むように存在する街はカダンとはまた違った趣のある場所で、世界樹を見上げるように視線を向ければ多種多様な種族のプレイヤーが僅かに何となく分かる程度に視認できた。目的地の入口にまで向かうと、そこでケットシーのNPCは歩みを止めて2人に向き合った。

 

 

「ここまで護衛してくれてありがとう。そのお礼といってはなんだけど、これを君たちに受け取って欲しい」

 

 

 渡してくれたのは報酬の3万ユルドと、装備アクセサリーの指輪であった。続けて2人を見ながら言った。

 

 

「それと、もしウチの店に寄る機会があるなら少しだけ割引するように言っておくよ。特別サービスってことでね」

 

「それは有り難い。贔屓にせねばならんな」

 

「是非そうしてくれ。じゃあ、またどこかで!」

 

 

 クエスト完了の表示が現れると、ケットシーのNPCは央都の街中へと向かっていく。ひとまずクエストを終了させたところで2人して伸びを行い、偶然の一致に対してキリトが若干の気恥しさを出したもののこの央都【アルン】に来た理由を思い出して2人はリズベットの店へと向かって行った。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 央都アルン。種族関係なく妖精が集うこの場所はレネゲイドと称されるプレイヤーたちの安息の地、というのは間違いとは言えないだろう。この場所に集まるプレイヤーは自らの種族に関する大なり小なりの様々なしがらみを嫌って目指す者が多い、そうした中立地帯ゆえの自由を求めて訪れる人々は後を絶たず央都特有のコミュニティが形成されている。

 

 そんな央都アルンの街並みに建つ1件の店に訪れた2人は店内へと入っていく。カランコロンと刻んだリズムでドアベルが鳴って彼らが入ってきた入口を見やるように店主であるリズベットが作業場から覗き込んだ。珍しいものを見たように若干驚きを隠さないまま彼女は近寄った。

 

 

「あら。あらあらあら、あのキリトが知らない人を連れてきた」

 

「どういう意味だよリズ。あと知らない人じゃなくて」

 

「ダイシーカフェで自己紹介したヴァー・ヴィーだ。覚えてるか?」

 

「…………ああ、あの時の! 随分と見た目が違うから分かんなかったわ!」

 

「俺としてはリアルとそこまで差異のないお前さんがたが物珍しいがな」

 

「普通そうなるはずなんですけどねぇ……いやホント何でだ?」

 

「まーまーそれは今良いでしょーに。で、何か用事? この人の……あー」

 

「ALOではヴァーディクトと。面倒ならVでも構わん」

 

「どもども、ならVって呼ばせてもらうわね。それで何かお探しの物でも?」

 

「防具の方を少々、鎧を見繕ってもらいたい」

 

 

 正直な話、店名にリズベット武具店とあるため防具は別の場所で買う方が良いのではとも思うが、少なくとも防具方面でも鎧ならばまだ通じているような微妙な反応を示し始めた。

 

 

「鎧かぁ……出来なくはないけど、良いものが造れるかって言われるとちょっとねぇ」

 

「難しいか」

 

「武器とか盾ならまだ分かるんだけど、鎧とかになるとまた勝手が違うしローブとかになると専門外だし。エギルの方ならまだ良いのは揃ってると思う」

 

「そうか、無茶ぶりを失礼した」

 

「あー良いって良いって。まぁついでと言ってはなんだけど武器は入り用かしら? 今のヤツに不満は?」

 

「ふむ。まぁ、欲しいとは思うがその辺は強化……あいや短剣の方は新調したいな。片刃のものに」

 

「おっ? 刀と短剣ねぇ……ふーん」

 

 

 リズベットは不意にヴァーディクトの装備である刀と短剣の方を見て、次に彼の周囲をぐるりと1周し全体を観察していく。品定め、という訳では無いが鍛冶師には鍛冶師なりのセンスというものがあるのだろうと思いながら甘んじて彼女の行動を受け入れていると、何やら怪訝な表情のままヴァーディクトに訊ねた。

 

 

「ねぇ、ちょーっと聞きたいんだけどさ」

 

「何だ?」

 

「今のVを見てると、何か噛み合ってないって印象が強いというか。何と言うか若干制限が掛けられてるような窮屈な雰囲気が出てるというか……たとえばその刀とか」

 

「おいリズ、幾らなんでもそれは」

 

「──分かるのか?」

 

「……はい?」

 

「なーんとなくだけどね。当たってた?」

 

「あぁ、お前さんの言ったことは多少的を得ている」

 

 

 納刀している刀を鞘ごと抜き取って、普段は防具や衣服によって隠されている鞘の裏側を見せる。何てことの無い装飾の1つもされていない黒色の鞘だが、注目してほしいのはそこではなく鞘にある綺麗に括られた下緒の方でありリズベットにこの部分を見せながらヴァーディクトは伝えていく。

 

 

「本来俺がよく使用する古武術では、この下緒を解いて帯に括り付けることで納刀状態でもある程度の自由を効かせるものなのだが、どうもシステム的な問題でこの下緒が解けんのだ。これが何とも鬱陶しいことこの上なくてな」

 

「あーナルホド、そっちの問題と」

 

ここ(ALO)では鞘の方はシステム上落ちないようになってるとはいえ、これだと上手く使いにくくてな……ともかくこの下緒を解けて自由に括り付けられる鞘が欲しいのが本音だ。勿論、短剣の方もそうだがな」

 

「ナールホドね、鞘ねぇ鞘……細工師の知り合いとか誰か居たかしら?」

 

「あいやその辺はまた別の機会に思い出すことがあれば教えてもらえれば有り難い。ひとまず今は片刃の短剣が欲しいが、在庫は如何なるものか?」

 

「ん、片刃の短剣ね。ちょっと待ってなさい」

 

 

 作業場の方に戻り、暫くして店のカウンターにズラリと並べられた片刃の短剣達が揃われる。ヴァーディクトは自身の種族値と武器の必要種族値や熟練度を参照しながら、使い心地を確かめる為に振るってみせる。彼の根底にある軍隊格闘術が染み付いた動きを伴ったナイフ戦闘の一例というものを披露しながら。やがてしっくり来た短剣を絞り込むと、それを購入した。

 

 新たに手に入れた短剣は刀身に装飾はなく溝もなく、真っ直ぐなものであった。全長から鑑みるに短刀やナイフというより脇差というような代物だが、脇差そのものでは無いためどう落とし込むか考えながらも付属の鞘に刀身を収めてアイテム欄に仕舞い、彼女に向けて礼を言った。

 

 

「助かった、恩に着る」

 

「それは良かった。刀の強化はどうする?」

 

「持ち合わせが少しな。また後にさせてもらうとする」

 

「おっけー。あ、そうそう細工師見つけたら連絡するからカード交換しておきましょ。そっちの方が早いし」

 

「相分かった」

 

 

 リズベットとヴァーディクト、互いにフレンド交換を行い一通りの用事を済ませると今度はキリトの方に向く。

 

 

「キリト、武器のメンテナンスは今する?」

 

「いや、また後にする。今はヴァーディクトさんを案内する方が先だし……っと、アスナからメッセージ。となるとシノンの方も到着した感じか」

 

「あぁ──あの」

 

 

 シノンの名を聞いてゆっくりと彼女はヴァーディクトの方に目線だけを動かし、妙な視線に気付いた彼がチラとリズベットの方を見やった。

 

 

「じゃあ俺たちも合流しましょうか」

 

「ん……そうするとしよう」

 

「あ、アタシも着いてくわよー。店番はNPCに任せれば良いし」

 

 

 そういった様子でリズベット武具店を後にし、既に到着したアスナとシノンの待つ場所に向かって歩き出していくのであった。

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