明日羅は幼馴染の大和が彼女を作っていた事が許せずに彼と無理心中を図った。
その後、彼女は気づいたらアスラン・ザラに転生していたのである。
幼馴染の大和も主人公であるキラ・ヤマトに転生していると直感した彼女は、今度こそ思いを伝えるために自ら戦場へと赴くのであった。

2021/8/31/0000までの晒し祭り杯参加作品
本作品に限らず参加作品の積極的な評価をよろしくお願いいたします。

1 / 1
付き纏ってうろついて

 大和君は私の2つ下の幼馴染みだ。

彼は少し茶色っぽい髪色でこれは母親ゆずりらしい。

血液型はA型で顔は少しあどけない感じだが、時折見せる表情には凛々しいものもある。

 

 そんな彼と私は家が隣なので両親同士の仲も良く、小学校はよく一緒に登下校をしていた。

中学校はさすがにお互い部活の練習が忙しくなり、中々登下校が合わない事の方が多くなった。

この事に対して私は人知れずに涙を流した事もある。

その大和くんが私と同じ地元の高校に合格したと聞いた時は我が事の様に喜んだ。

 

「大和君おはよう!今日からまた一緒に登校できるね!」

「おはようございます。それじゃ僕は急いでるので……」

 

 高校の入学式も終わり、今日は一緒に登校する事が出来る初の日である。

だけど私が家の前で待ち受けていた所、大和くんは挨拶もそぞろに自転車でさっさと行ってしまったのだ。

この時の私はウフフ、照れなくても良いのにと今思えば呑気に思っていた……。

 

――――

 

 その日の夜、私はゲーセンで『機動戦士ガンダムVSガンダム』の最新作であるアーケードゲームをプレイしていた。

このゲームは基本的にMS(モビルスーツ)と呼ばれる人型の機体を戦わせるゲームである。

ゲーム内BGM設定は『あんなに一緒だったのに』にしていて、私が使っているMS(モビルスーツ)はイージスという名前の赤いやつだ。

どちらも私が初めて視聴したガンダムシリーズのアニメである『機動戦士ガンダムSEED』のエンディング曲とそのアニメに登場するMS(モビルスーツ)である。

 

「やっぱり明日羅さん強いわ、相手二人とも有名コテだったのにおかげで完封勝ちできたし」

 

 1ゲームが終わると隣にいる相方が声をかけてきた。

明日羅というのは私の名前だ、なおこいつは断じて私の彼氏ではない。

このゲームは基本が2VS2のモードしか無いので、仕方なく組んでいるだけである。

藍色の髪でそこそこにスタイルも良い私は度々男子から声をかけられる事も多かったが、その度に断ってきた。

あまりにもしつこい相手にはこのゲームで私に勝ったら付き合ってあげると言ったこともある。

もちろん結果は毎回私が勝ったのだが、あまりにも勝ちすぎたのでゲーセン内では『東高の赤い悪魔』など変な通り名を付けられてしまった。

 

「今度の店内大会さ、俺と一緒に出ようぜ?優勝賞品とかは全部あげるからさ」

「私、大会なんて興味ないから。もう今日は帰るね」

 

 なおも懇願してくる相方の声には耳をかさずに、私は席を立つと出口へと歩いていく。

私がこのゲームを遊んでいる理由はただ一つ、大和君と一緒にゲーセンに来た時に初めてプレイしたゲームだからだ。

そして退屈な夜を潰したいだけなのもある。

 

(明日は大和君と一緒に登校できれば良いのだけれどなぁ、できれば帰るときも……)

 

 そう思ってふと店の中を振り返った時に見てしまったのだ。

大和くんが店内のクレーンゲームコーナーで他の女と談笑しているのを……。

 

――――

 

 寒空の下で先に帰宅した私は家の前で大和君が帰ってくるのを待つ。

 

「あれ、明日羅さん?どうしたんですか?」

 

 帰ってきた大和君は私に気づくとキョトンとした顔で聞いてきた。

昔は「明日羅お姉ちゃん」と呼んでくれたのに、その言い方だとまるで他人のようではないか。

 

「ちょっと明日羅お姉ちゃん、大和君に聞きたい事があってね。この女の事なんだけど」

 

 そう言って私は生徒手帳を彼の前に投げた。

生徒手帳には不知火レイという名前が記されていてポニーテールヘアの女の写真が挟まっている。

大和君はその手帳を拾い上げると検分し始めた。

 

「この生徒手帳ってもしかしてレイちゃんの?何でこれを明日羅さんが持ってるのって……これ血が付いてるよ!?」

「彼女がちゃんと律儀に胸ポケットに生徒手帳を入れてるもんだから、刺した時の血で濡れちゃったのよ」

 

 私が教えてあげると、大和君は押していた自転車をその場に放り投げ、尻餅をつく。

 

「ま、まさかレイちゃんを明日羅さんが?で、でも何で??」

 

 なおも腰が引けている彼を尻目に私は制服のポケットから隠していたコンバットナイフを取り出すと、一気に大和君の方へと詰め寄る。

それで大和君の心臓をひと突きすると彼は動かなくなった。

 

「ダメじゃないの、私以外の女と仲良くしちゃあ」

 

 私はしゃがみこんで大和くんに膝枕してあげると、彼の目蓋を手で閉じてあげる。

 

せめてこの月明かりの下で静かな眠りを

 

『あんなに一緒だったのに』の1フレーズである。

そんな思いを込めて、私は再び左手でナイフを構えた。

 

「うふふ、これでやっと私達の心が一つになるのね」

 

 大和君の心臓をひと突きしたナイフで私の胸も刺すと、視界が赤く染まっていくのだった……。

 

――――

 

「大和君、あなた大和君でしょう?」

「アスラン、じゃない明日羅さん?」

 

 終わらない明日というのは本当にあるようで、どうやら運命は私達二人を再び巡り合わせたいようであった。

  辺りが燃え盛る格納庫の中で、二人は運命の再開を果たしたのだから。

 

―――

 

 話を少し遡ると、気づいたら私は『機動戦士ガンダムSEED』の世界に転生していたのだ。しかも前世の記憶を持ってである。

そして今世では男に生まれ変わっていた。

だが、性別が変わった事よりも更に驚くべきことがあったの。

 

「もしかして私、アスラン・ザラになってる??」

 

 藍色の髪に少しデコが広い顔立ち、何と私はこのアニメの主人公キラ・ヤマトのライバルキャラであるアスラン・ザラに転生していたのである。

 

 なお女の勘はまだ健在だったようで、前世で幼馴染みだった大和君もこの世界に転生している事を直感で感じ取った。

もちろん大和君の転生先は主人公のキラ・ヤマトにである。

 しかし私が転生に気づいたのは大和君一家がプラントを去ってからで、アカデミー卒業間際の時期だ。

記憶が戻っていればどんな手段を使ってでも彼をプラントから出さなかったのにとは思うが、まあ嘆いても仕方ない。

二人の赤い糸は繋がっているのだから、このまま原作通り進めば私達は白いMS(モビルスーツ)ストライクの上で再会できるのである。

 

 そうと分かればと、まず手始めに私は許嫁であるラクス・クラインとの婚約破棄を行った。

あんな歩く時にダースベイダーのテーマが聞こえてきそうな二面性の女とデートしないといけないなんてまっぴらだからである。

これには両親、特にクライン家との関係悪化を危惧した父からは猛反対されたが母に味方になって貰ってなんとか説得してもらった。

母は本来であれば後に『血のバレンタイン」』呼ばれる核攻撃事件で犠牲になっているはずだったのだが、私がその標的となっている農業用プラントに行く予定を妨害したおかげで事なきを得ていたのである。

 

「あなた、当人同士が結婚したくないというのであれば無理に婚約を結ぶのも宜しくないかと」

 

 この一言が決定的になって、父も婚約破棄を認めてくれた。

悪いね父上、貴方を戦争に駆り立ててた原因が母上というのは前世の記憶で知ってるの。

あと母上からは「貴方は男じゃなくて女にコーディネートして貰うべきだったわね」と度々言われてる。

どうも仕草が女性っぽいらしい。

これは気をつけなくては、それが原因で下に見られたりしたら困るからね。

 

―――

 

 そしてようやくストライクの上で二人は運命の再会!

まずは大和君の横にいる邪魔な女を排除しなきゃ。

そう思ってナイフを投げたけど、大和君はあろうことかその女と二人一緒にストライクのコクピットに転がり込んでしまった。

 

「何してるのよ大和君!これじゃ原作と違うじゃない」

 

 原作では隣の女の人がキラをコクピットに押し倒していたのに、これでは逆ではないか。

とはいえセーフティーシャッターも閉められてしまったので、私も原作通り自分のMS(モビルスーツ)であるイージスに乗り込むことにした。

 

ーー

 

 私がイージスに乗って外に出たら、既に大和君のストライクと1機のジンが戦闘している所だった。

ジンは私が所属しているザフト軍の主力MS(モビルスーツ)であり、鳥の鶏冠のような物を付けた頭部が特徴的なMS(モビルスーツ)だ。

 

「アスラン!お前はそいつを持って早く離脱しろ!」

 

 ジンに乗っているパイロットが私に通信を入れてきた。

中々のイケメンボイスで、私は前世では中の人の曲をヘビロテした事を思い出し懐かしくなる。

ちょっと惜しい気もするけど、私はイージスの装甲を灰色から赤色にして戦闘態勢にすると両腕からビームサーベルを出した。

 

「聞いているのかアスラン!こいつは俺がやるっていってるだろ!?」

 

 何やら喚いているが、私はそのジンに向かって二本の光る刃を振り下ろす。

両腕を失ったジンは棒立ちになった。

 

「アスラン!?貴様……まさか裏切」

 

 その台詞を言い終わる前に今度は右足のビームサーベルでジンを蹴り上げる。

刃がジンのコクピットに突き刺さったのを確認すると、私はストライクの方へと通信を入れた。

 

「大和君!私よ!聞こえてるでしょう!?」

「その雰囲気、本当に明日羅さんなのか……でも何でミゲルを殺したんだよ!?」

 

 そういやジンのパイロットはミゲルって名前だったわねと私は言われて思い出した。

足のビームサーベルをジンから引き抜くと、ジンはその場に崩れ落ちた。

中のパイロットは助かっていないだろう。当然そのつもりで刺したのだけれども。

 

「私が殺さなくても、後で大和君が殺しちゃうことになってたでしょ?だから私が代わりにやってあげたのよ」

 

原作にて確かにストライクの初戦ではミゲルはジンを撃破されるも、何とか脱出には成功していた。

でも、その後にソードユニットを装備したストライクとの再戦で命を散らしたのである。

 

「僕は誰も殺さずに、この戦争を終わらせるつもりだったんだ!」

 

 大和君が叫ぶ。

どうやら大和君はゲームだとよくある死亡キャラ生存ルートをやりたかったらしい。

前世の幼少時にヒーローごっこをする大和君の姿はとても素敵だった。

だけどようやく二人巡り合ったのだ。今世の彼には私だけを見て欲しい。

 

「素晴らしい考えね大和君、でもあなたは私だけを見てればいいのよ。だから……」

「自分の目的のためなら邪魔者は消すと?だからレイちゃんも殺したのか!?」

「さっきから何を話してるの?貴方あのイージスに乗ってるパイロットを知ってるの!?」

 

 私達の会話に不協和音が紛れ込んできた、先程の女である。

 

「マリューさん、今はこの場から離脱することを優先します。OSの書き換えも今終わりましたから、その話は後で!」

 

 そう大和君が言うとストライクはジャンプして遠くに着地した。

私も追おうとしたのだが、それをバッテリーの警告音が邪魔をする。

 

「何よこのポンコツ!もうパワーがやばいっての!?動きも遅いしまったく使えない!」

 

 イージスの装甲がまた赤色から元の灰色へと戻ってしまう。

私は悪態をつくが、どんどんストライクは遠ざかっていく。

このままでは母艦へと戻るのも精一杯かもしれない。

私は仕方なくここは追跡を諦め、帰投を優先することにした。

 

―――

 

 母艦への帰投後、ミゲルがMIA(作戦行動中行方不明)になったのについてはもちろん質問を受けたが私は見てないとシラを切った。

 

「そうか、ところで君はあの連合のMS(モビルスーツ)とは接触しなかったのか?」

 

仮面を付けた私達の隊長であるラウ・クルーゼが私に再度質問をぶつけて来る。

あの連合のMS(モビルスーツ)とは大和君が乗っているストライクの事だろう。

 

「いえ、そのMS(モビルスーツ)は見ておりません。私もあの場を脱出するのに必死だったので」

「ふむ、私の見当違いだったようだな」

 

 大和君が不利になりそうな情報をこの仮面に教えてやる義理はない。

 

 それから原作通り私達は大和君達がいるアークエンジェルって母艦を追跡することになった。

とは言え私はこの戦力じゃアークエンジェルを落とすのは無理って知ってたから、あまり乗り気になれない。

 

追っている途中でアークエンジェルに救助されたラクスがこっちの母艦に来たんだけど、その受け渡しは私じゃなくてディアッカって金髪褐色肌の別のパイロットが指名されて大和君と話す機会さえ与えられなかった。

そしてこっちの母艦に来たラクスは終始私とは眼すら合わせようとしなかった。

 

「ラクス、プラントへの迎えの艦が来たみたいだよ」

「そうですか」

 

 迎えの船が来たことを伝えた私に対してこの一言だけである。

あまりにもラクスが私に対して冷たい態度を取るものだから、艦内ではあらぬ噂を立てられることになった。

これだから世間知らずのお姫様は困るのである。

 そんな問題児のラクスをプラントに帰した後、アークエンジェルがアラスカに降りるって情報を得てその前に仕留めるって算段になった。

第8艦隊という大規模な艦隊が護衛についてるけど、原作ではコテンパンにされていたなという事を私は思い出す。

だが、この戦いは原作通りとは行かなかったのだ。

 

「最初の砲撃でこんなに被害を被るなんて」

 

 戦闘中に私はイージスのコクピット内で舌打ちする。

ザフト軍の艦隊は第8艦隊の砲撃により少なからず被害を受けていた。

大和君がきっと何か入れ知恵をしたのだろう。

でなければ長距離砲撃でここまで損害を受けて苦戦するなんて話は聞いていない。

 この作戦の顛末はアークエンジェルがアラスカへの降下を諦めて、北アフリカに降下するはずなのである。

しかし、このままでは予定通りアラスカに降下してしまう。

 

「早くストライクを、大和君を見つけないと……いた!」

 

 もう時間がないという所で、私はようやくストライクの姿を見つけることが出来た。

 

「明日羅!」

 

 向こうも私の姿を認めたようである。

私はイージスをMA(モビルアーマー)形態に変形させると、その鉤爪のような四本脚でストライクに取り付いた。

 

「この状況下で何するんだ明日羅!二人共このままでは無事じゃ済まないぞ!」

「良いのよそれで、私は大和君と一つになれさえすれば……他のことはどうでも!」

 

 ストライクが何とか逃れようともがいているが、絶対に離すものか。

大気の摩擦熱でコクピット内の温度が上昇していく。

そんな私達のMS(モビルスーツ)の下に戦艦が潜り込んできた所で、私の意識は途切れた。

 

―――

 

 気づいたら私は部屋で拘束されていた。

聞いた話によると、やはりアラスカへの降下は失敗したようである。

それからは長い勾留生活になってしまったが、ある日食事を持ってきた赤い髪の女の子が私に質問をぶつけて来た。

前世の記憶によれば、この女の子の名前はフレイって名前だったと思う。

 

「あんた、キラの友達なの?」

「友達じゃない、私達は両思いの恋人なの」

 

 私が恋人って答えたことにフレイは若干引いたようだった。

 

「恋人?何よそれ……そもそもあんた口調が男のくせに女っぽいし、やっぱりコーディネーターって皆頭おかしいのよ」

 

まあこの悪女に私達の気持ちなんて分からないだろう。

それでも私はちょっと癪に障ったので前世の事を少し話してあげた。

 

「でも私は前世では女だったの。そして大和君とは一緒に遊んだり、学校に通ったりしたわ。あなたには分からないでしょうけどね」

 

 何かまた悪態を付いてくるだろうと思ったら、フレイは黙ったままである。

 

「前世?う、頭が……」

 

 フレイは突然頭を抱えて入口のドアから離れていってしまった。

 

「行っちゃったか、大和君は今日も来てくれないのねぇ」

 

 私は再びベッドにふて寝すると、そのまま時がすぎるのを待つのだった。

それから砂漠での戦いは無事に終わったらしく、ディアッカが同じ部屋に入ってきたりしたけどそれ以外は特に何の進展も無い。

 

 後、またフレイが部屋を訪ねてきた。

しかも部屋に入ってから開口一番に大和君が行方不明になったと喚き立てるのである。

 

「あんたヤマトが死んじゃったかもしれないのに、何で平気なのよ!?」

 

 そう言われても、私はその後の顛末を知ってるからとはもちろん教えない。

私が黙っていると、フレイはナイフで斬りかかってきたけどそれは通りがたった男性陣が止めてくれた。

この事件があったからか、私達二人の部屋にフレイは出禁になったらしい。

変わりに他の人達が食事を運んでくるようになった。

 

「どうやらこの船、アラスカについたらしいぜ。俺達もようやくここから出られるかもな」

 

 フレイの事件から数日後、ディアッカがどこから仕入れたのかこの艦の状況を話し始めた。

 

「ナチュラルの捕虜収容所がどんなもんか知らねえけど、流石にここより酷いなんてないだろうよ。アスランもそう思うだろ?」

 

 私に話を振ってくるが、私がいつも通り何も言わないので彼はため息を吐くとまた寝転がった。

 

 アラスカについてから数日後、何やら艦内が騒がしくなった。ようやく戦闘が始まったらしい。

で、戦闘が終わったら大和君はフリーダムという名前のザフトの新型MS(モビルスーツ)を持って帰ってきたとのことである。

この艦の人達は皆喜んでるけど、私は不満だった。だってせっかく戻ってきたのに会いに来てくれないんだもの!

 

そして大和君でもフレイでもない人物が私達を訪ねてきた。

 

「私はこのアークエンジェルの艦長のマリュー・ラミアスだけど、今日はあなた達にお話があるの、いいかしら?」

 

 連合軍の白い制服を着た女性、このアークエンジェルの艦長が直々に私達の所に来たのである。

彼女は私と大和君がストライクの上で再開した時に、大和君の隣にいた人物でもあった。

 

「私達は地球連合軍を抜けてオーヴに亡命することにしたの。だから貴方達も中立国であるオーヴで解放するわ」

 

 ディアッカはようやくこの艦を出られるって喜んでたけど、私は大和君と一緒に戦いたいって気持ちを伝えてみた。

 

「大和君と一緒に戦いたいんです。ここで戦わせてください」

「気持ちは嬉しいけど、これから私達の戦いはより過酷になっていくのよ」

「構いません。大和君と一緒ならどんな敵とでも戦ってやりますから、もちろんそれが地球連合軍でもザフト相手でも同じです」

 

 私の決意表明にディアッカが「おいおい、アスランまじかよ……」って言ってたけどそれは無視した。

しかしマリューさんはなお渋る表情を見せる。

 

「実は……あなたはザフトに一刻も早く返した方が良いってキラ君が言ってるの。だからあなたとは一緒に戦えないわ」

 

 私がいないと次の原作展開で地球連合軍の新型MS(モビルスーツ)群に対抗できないでしょうに、一体何を考えているのやら。

と思ったけど、好意的に考えてみれば大和君はこれからの戦闘に私を巻き込みたくないのかも。

彼なりに私を心配してくれているのかもしれない。

 

「分かりました。大和君の言ってる通り船を降ります」

 

 そう考えた私は大和君の意思を尊重することに決めた。

突然の心変わりと思われたのかマリューさんもディアッカも本当に?という顔で私を見る。

二人に対して私は笑顔を返す。

 

「本当に船を降りますよ私は。それとマリューさん、最初にあった時にナイフ投げたりしてすいませんでした」

「あの時は敵同士だったんだから、あなたが謝ることではないわ……それじゃキラ君にもあなた達が艦を降りる事を伝えてくるわね」

 

 そう言うと踵を返してマリューさんは部屋を出ていった。

 

―――

 

 後日、オーヴに地球連合軍が侵攻してくるという日。

私無しでどうするんだろう?と思ったら大和君はジャンク屋や傭兵稼業の人達に援軍を頼んだらしい。

ハンガーにはオーヴの量産型MS(モビルスーツ)であるアストレイ以外にも赤や青色のMS(モビルスーツ)、それにジンまでが揃っていた。

確かにこの戦力なら勝てるかもしれないわねと思いつつ、私とディアッカはそれぞれのMS(モビルスーツ)であるイージスとバスターに乗りオーヴを離れる。

気づいたらディアッカは居なくなっていたけど。

 

 それからは地球の戦況がザフト側に取って悪くなったので私はジブラルタル基地から宇宙へと上がった。

宇宙からは次の地球連合軍の目標であるボアズの防衛を任されることになった。

原作だとここは核ミサイルですぐに木っ端微塵にされてたから、そこは注意しないといけない。

多分大和君がそれは阻止してくれると思うけど。

 

 そしてついに開戦となり、やっぱり核ミサイルは大和君が阻止してくれた。

私が乗るはずだったジャスティスに誰が乗ってるのか謎だったけど。

でも地球連合軍は諦めてないらしく、ボアズを素通りしてやっぱりプラントに向かおうとしてきた。

 

「ジェネシス?」

 

 戦闘中に誰かが通信回線でその名前を呟く。

その通信を聞いて、やっぱりこの世界でもそれ完成してたんだと私は思った。

 ジェネシスは巨大なレーザー兵器である。

そしてジェネシスから発射された巨大な光の熱線が地球連合軍を焼き尽くしていく。

 でも地球連合軍はまだ諦めていないらしく、軍を再編して最後の攻撃に出てくるようであった。

まだやるのねぇと私も思ったが、ジェネシスへの攻撃も原作通りではある。

 

 なので私もジェネシスの防衛を任される事になった。

その時に思ったんだけど、私が乗っている機体がイージスのままだ。

まあ私の本来の後継機であるジャスティスは誰かに取られちゃったから、これは仕方ないか。

 

「来たわね、大和君」

 

 ジェネシスの警戒にあたっていると、ようやく思い人を乗せた機体がこちらに来てくれた。

フリーダムに追加装備であるMA(モビルアーマー)のミーティアユニットを装備している。

 

「明日羅!また僕達の邪魔を!」

 

 彼もこちらに気づいたのか、ミーティアからミサイルを乱射してきた。

MA(モビルアーマー)は強力な兵器ではあるが、前世の知識がある私にはその攻撃を避けるのはさほどの事でもない。

 

「違うわ!ジェネシスなんてどうでもいいのよ」

 

 そう言って私は大和君にビームサーベルで斬りかかる。

だが。この攻撃はミーティアからフリーダムを離脱されて回避されてしまった。

 

「僕達の邪魔をしないって言ったじゃないか!」

「そうよ、ジェネシスなんてどうだっていいでしょう?私と一緒になりなさい大和君!」

 

 フリーダムに再度接近しようとしたその時、1本のビームが私のイージスを掠める。

私がその方向を見ると、1機の灰色のMS(モビルスーツ)がこちらに向かってきている所だった。

 

「あの棘棘した大型のバックパックは見覚えがあるわね、もしかしてプロヴィデンス?」

 

 プロヴィデンスガンダムはこの機動戦士ガンダムSEEDの世界ではラスボス的な立ち位置に当たるMS(モビルスーツ)だ。

あのMS(モビルスーツ)には本来ラスボスであり、序盤で私の隊長だったラウ・クルーゼという仮面キャラが乗っているはずである。

原作ではザフトを離れたアスランと彼は敵同士と言っても良かったが、直接戦闘したシーンは無かったはず。

それに今の私は原作と違いザフト軍所属のままだ、それなのに何で私がザフトのMS(モビルスーツ)に攻撃されないといけないのか。

 

「大和君、わたしも思い出したのよ!」

 

 いきなりオープンチャンネルで聞こえてきた女の声、この声は聞き覚えがあった。

何とプロヴィデンスに乗っているのはフレイではないか。

 

「フレイ?どうして君が」

 

 大和君もフレイがプロヴィデンスに乗っているのに驚いているようである。

 

「私も前世の記憶を思い出したの、私はフレイじゃなくて不知火レイよ!」

 

 不知火レイ、その名前どこかで見たなと思ったら前世で大和君を拐かした女の名前だ。

許せない。この世界でも大和君に付きまとっていただなんて、そう考えた私はビームライフルを構えるとプロヴィデンスに照準を定めた。

緑色のビームを着実に憎き仇の機体に当てていく。

 

「きゃあ!」

 

 この女の方はMS(モビルスーツ)の操作になれていないようだ。

そもそもフレイがMS(モビルスーツ)に乗る展開なんて原作には無かったので当然の事ではある。

いくら転生チートでMS(モビルスーツ)を操作できるようになっていたとしても技量の差が戦闘では物を言う。

それに私はこのアニメを題材にした対戦ゲームでは今までに大和君以外に負けたこと無いのである。

 

「レイ!」

 

 フリーダムがプロヴィデンスを庇うように私の前に立ちはだかった。

 

「ここは僕に任せて、レイは他の皆と一緒にジェネシスを止めて!」

 

プロヴィデンスが背を向けて離脱しようとする。

 

「逃さないわよ」

 

そう言うと私はイージスの盾をプロヴィデンスに向かって投げつけた。

その攻撃はフリーダムが自らの盾でガードして防がれてしまう。

 

 だが、盾は囮だ。

続けざまに私はイージスをMA(モビルアーマー)形態に変形させて、その胴体から熱線を発射する。

そのビームの直撃を受けてプロヴィデンスが火球へと変わった。

 

「レイ?アアァァァァ!!!!」

 

 大和君の叫びとともに、フリーダムがビームサーベルを構えて私の方へと向かってくる。

今の彼の眼には私しか映っていない。

これよ、これ。私だけを大和君が見ている。これを望んでいたんだから!

 

「大和君、邪魔な女はいなくなったわ。もしかして私を殺す気なの?」

 

 私は問いかけてみたが、答えは返ってこない。

そしてこちらに向かってくるフリーダムの勢いはなおも止まらない。

 

「許さない。あなたは、あなただけは!」

 

 大和君はそう言うと、フリーダムはフルバーストの発射体制を取った。

この瞬間、フリーダムが持つ全ての火器の砲門が私へと向けられているのだ。

何という幸せな瞬間だろう。

 

ビームが発射された瞬間、私はステップを踏みながらその中へと飛び込んだ。

両腕にはビームサーベルを構えながら、彼の思いを受け取るために。

 

 気づいたら私はイージスから放り出されて宇宙空間を漂っていた。

自分の位置を把握するために地球の方を見てみると、何やら巨大な穴が空いたように雲がかかっている。

ジェネシスが放ったレーザーが地球へと直撃したのだろう。

 

 しかし、今は地球よりも大和君だ。

フリーダムの残骸は確かこちらの方向に飛んでいったはず、どんなに時間がかかろうとも彷徨いつづけることになっても。

 

 私が大和君の近くにいてあげるんだから。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。