「俺は、夢でも見てるのか……?」
もう何年も前の事なのに、俺は未だにあの頃を鮮明に思い出す。
アイツらと、初めて顔を合わせた日のことなんて、特に脳裏に刻み込まれているのだ。
それから始まった苦難と葛藤と……言い出したらキリがない。
そして、あの頃から変わらず………こいつらの企む事はよくわからなかった。
「五つ子ゲーム…ファイナルだよ。愛があれば、見分けられるよね」
「とんでもない悪夢だ…」
side奏二
「馬鹿か⁉︎
三玖以外の4人、こんなお遊びでウェディングドレス着てんじゃねえ!
三玖も、お色直しはどうしたんだ⁉︎」
「まあ、ちょっと複雑だけど……」
「でも、思いついちゃったしね…」
「いやー、ツッコミが止まらねえなぁ?」
「何すっとぼけてんだ、お前これがあるのわかってたろ!」
俺にも噛みついて来た風太郎に、まあまあと宥める。
確かに、もうすぐ披露宴だってのに…こんな事して時間を食ってるなんて、バカのする事で。
風太郎の反応も、特段おかしなものじゃないが。
「人が何をどう感じるかなんて人それぞれだぜ?
確かにお遊びかもしれんが……こいつらにとってはそうじゃない。
それは分かってんだろ」
「いや、けどな……」
理解はできても納得はできないと、食い下がる風太郎に畳み掛けるように。
「ファイナルって言ったろ?
つまり、5年前からのこの5人の思いは……まだ着地点を見つけてない。
お前さんが導くんだ。5つの終わりを……そして、新しい始まりをな」
そんな俺の言葉に、しばらく風太郎は思考を巡らせだ様子だが、花嫁候補の1人が。
「そうだよ。
お遊びじゃないんだよ?
これでも花嫁の親族だからね……いや、私が花嫁本人だからね!」
「違うよ、私だよ」
「花嫁といえば私、私といえば花嫁!」
そこに1人、また1人と花嫁と名乗り……最後に。
「風太郎なら、わかるよね?」
どこか、祈るように……煽るように、風太郎の反応を窺っていた。
そして、そんな俺たちに頭を抱えたかと思えば。
「………ったく、少しは分別のつく大人になったかと思えば、相変わらずの馬鹿で安心しちまった。
俺を舐めんな」
何か吹っ切れたように、指を突きつけた。
「お前だ」
side奏二
「お父さん そして天国のお母さん。
私が今日、この日を迎えられたのは2人がいたからに他なりません」
長々とした準備期間に反して、結婚式と披露宴はもうすぐ終わりを迎える。
そして今、新婦の三玖によるメッセージを俺は参列者として聞いていた。
挙式では似非神父の俺が音頭を取ったが、披露宴では式場スタッフがその役割を果たしているからな。
「お母さんは、私が小さな頃にいなくなってしまいましたが、その教えと愛は、いつまでも私の中に残っています」
そんな訳で、俺はこれまでのことに思いを馳せる。
それまでもちょいちょい関わりがあったとはいえ……5年前、家庭教師の仕事が舞い込んでから、本当にいろんなことが起こって……俺たちの景色は一変した。
それまでいた世界は壊れ。
初めて芽生えた感情に戸惑い。
目を背けて来たものと向き合うことになった。
「そしてお父さん。
幼かった私は、気持ちの整理がつかずに反抗してしまう時もありました。
ですが……今、ようやくお父さんの気持ちを知ることができました。
お父さんが、私達のお父さんになってくれてよかったと……今ではそう思います」
もしもの話なんざ興味ないし、自惚れかもしれないけど。
この出会いがなければ……俺たちは今のようにはなれなかっただろう。
少なくとも、俺に嫁さんはいなかった。
「改めて、家族に感謝を申し上げます。
今日の私がいるのは、父と母……そして、姉妹のみんなのおかげです」
どこか感慨深いものを覚えていた俺は、つい先程終わりを告げた物語に思いを馳せた。
side風太郎
「俺を舐めんな」
いきがってそう言った俺だったが……内心、俺はこんな時を待っていた。
文化祭の最後の夜、俺は三玖を選んだ。
だが…それはつまり、他の選択肢を選ばなかったという事で。
俺は、他の姉妹たちに謝罪の一言も述べていなかった。
俺たちの日常は、きっとこれからも続いていく。
でも……ここで、俺たち7人でのラブコメディは終止符が打たれるのだ。
だから、伝えなければならない言葉を。
あの時伝えられなかった言葉を。
ようやく、口にする時が来た。
side一花
"長女の一花は、個性豊かな私達をまとめてくれるお姉さんです"
「お前が一花だ」
驚いた。
三玖の格好をした私に困惑していたのが、ずいぶん遠くにきたものだ。
いや、そのすぐ後に見破られちゃったからそこまで感慨深くもなかったか。
「正解。
お姉さんびっくりしちゃったよ」
昔のことを思い出しながら、いつもの髪型に戻している前では、フータロー君は調子が出て来たのか。
"みなさんもご存知の通り、大活躍している女優さんです"
「クールビューティーなんて世間は謳ってるが、俺は騙されねぇ。
自堕落、鈍間、惰眠を貪る、怠惰だ」
「そ、そこまで言わなくても……」
仮にも大活躍している女優に対して、失礼極まりないことを言い出す。
思い当たる節がいくつもあるのは事実だけどもね?
何年経っても変わらず、デリカシーのないフータロー君だったが。
「……だが、それでも強くあろうとする姿は、とても眩しかった。
大した長女だ、お前は」
何年経っても変わらず、不意打ち気味にクリティカルを出してくる。
そんな、デリカシーがなくて、突拍子もなくて。
「……だから、悪かった。お前の気持ちに答えられなくて」
不器用だけどすごく優しい、君のことが好きだった。
……おめでとう、フータロー君。
side二乃
"次女の二乃とは、反りが合わずにいがみ合うこともありました。
でも……それ以上に、強くて優しくて、女子力も抜群で。
私の憧れでもありました"
「で、お前が二乃だ」
「そうよ、正解よ!」
ついに、この日が来てしまった。
この日をもって……私のリベンジマッチは終わりを告げる。
私のこの恋は、終わるのだ。
「はいはい、よかったわね、次どうぞ!」
覚悟はしていた。
泣くまいと思ったが……声の震えは止まらなかった。
「なんで、こんな時に当てるのよ……露天風呂の時は当てられなかったのに」
当ててくれたという嬉しさと、今になって当てられてもという痛みが、つい口からこぼれてしまう。
そんな私を前に、フー君は少しだけ申し訳なさそうにしたが、それでも。
「お前の強さは、その人一倍の弱さの裏返しで。
あの厳しさも、勢いも……それだけ全力で、大きな愛情があったんだって今ならわかる気がする」
「その答えに気づかなくて……そして、答えられなくて済まなかった」
これだけは言わねばと言わんばかりに、この恋の終わりを突きつけてきた。
そんな彼に、私が返すのは……
「良いわよ。これまでフー君のことが好きだったのは、後悔してないから」
この思いを抱けたことは、決してマイナスなんかじゃないと、振り返る彼の背中を押すことだけだった。
……三玖、アンタは私が憧れだと言ったけど、私にとってもあんたは憧れだわ。
だから……フー君共々、これから絶対に幸せになりなさい。
side四葉
"四女の四葉とは、あまり妹という感じはせず……同じ立場で接して来た親友に近いかもしれません。
だからこそ、いつも誰かのために頑張れる四葉を尊敬しています"
「……お前が四葉なのは見当ついてた」
「……流石は風太郎君だね」
10年来の恋が実る事はなかったと言うのに、不思議と悔しいとか、妬ましいみたいな感情は湧いてなかった。
それは、確かに風太郎君のことは異性として好きだったけど……共に同じものを目指した、同志の門出を見ているような気分だ。
「俺が今、こうしてこの場に立っていられるのは……間違い無く、お前との始まりがあったからだ」
「私だってそうだよ……」
始まりは同じはずだったのに、私は意味のない道のりを闇雲に走り続けて来た。
自惚れて、間違えて、諦めて。
でも、その度に姉妹の思いを知って。
どうすれば良いかを考えて。
「それでも」って立ち上がって。
「私も、風太郎君との始まりがあって、本当によかった……」
今の私になれた。
抱いてきた理想通りの人生じゃないけれど……それでも、楽しくないかと聞かれれば、間違いなくNOと言うだろう。
だから……これからも歩み続けよう。
「これからは、誰よりも三玖にとって必要とされる君であり続けてね」
「……任せとけ」
私たちが目指した道は、きっとまだ終わらないから。
side五月
「……で、残るお前が五月だ」
"五月は私たちにとってはいつまでも可愛い末っ子です。
実際は……うじうじ悩んでばかりだった私なんかより、ずっとちゃんとしてるんですが。
いろいろなことに悩んで、迷って……それでも、前に進み続ける姿はとても眩しいものでした"
……この男は、この大事な大一番で何をやっているのだろう。
「フータロー……私が三玖だけど?」
「……え?」
まさか、三玖と私を見間違えてしまうとは!
余裕そうな表情を引き攣らせ、慌てて奏ニの方を向くが。
「あちゃー……こりゃやっちまったなあ?新郎さんよ」
やれやれとため息をつく彼に、上杉君は冷や汗を流した。
……うん、これ以上の意地悪はいいか。三玖にも悪いしね。
「なーんて。
じゃーん!五月でした!
どう?上手くなったでしょ」
「お、お前ら……ビックリさせやがって!」
「いやー、即興のアドリブにしちゃあうまいもんだろ、お義兄さん?」
「……とんでもねえ義弟ができたもんだ」
そんな訳でサッと種明かしをした私に、上杉君はおどろいたような顔をしたあとに。
「この際だから言わせてもらうが、お前に会ってからだ!
俺の人生が狂い始めたのは!
諸悪の根源、妖怪カレー喰い女!」
「な、なな、何ですって!」
言うに事欠いてすごく失礼なことを言ってきた。
私がちょっとした悪戯を仕掛けたのが先だが、言って良い事と悪いことがあるものだ。
「わ、私だって!あなたと会うまでこんなにデリカシーのない人がいるだなんて想像もつきませんでしたよ、この頭でっかち!
天然キス魔のスケコマシ!」
「な、何だと!」
せっかく祝い事の席だというのに、やはり彼にそう言った配慮はないらしく、私たちは相変わらずな口喧嘩に花を咲かせるのであった。
「やっぱりあなたとは、一生馬が合いそうにありません!」
「まったくだ、奏ニはよくあわせられるな!」
もう、そこにあの頃のわたしたちはいない。
1人で悩み、苦しみ、自棄になった私たちは。
「はあ…また始まったぜ」
「もう仕方ないよ…フータローとはね」
私に奏ニがいるように、今の君には三玖がいる。
私たちはもう、1人じゃないよ。
side奏ニ
今、俺は初めて自分の境遇に少しの不満を覚えた。
起こってしまったことに対して、どんな文句をつけても意味はないし……時は過去には戻せない。
でも、それでも……もしもを想起せずにはいられない。
俺にも、こうした家族が。
きょうだいが今もいたのなら?
だめだ。そんな寂しさは、この祝いの場には必要ないと言うのに……。
後ろめたさと眩しさを感じて、目を背けそうになった俺の耳に。
まずは、風太郎から。
「奏ニ……お前が補佐として側にいたから、俺達は今日この場に立てたし、この関係性になることもできた。今までありがとう。そして……」
"奏ニは、私たちに新しくできた弟です。
一見すると不真面目なんですが……それでも、困った時はすごく頼りになる存在でした。
そして、それはこれからも変わりません。だから……"
そして今、三玖から。
「「これからもずっと、よろしく頼む(お願いします)」」
なんだかんだで……ずっと心の底では欲しかったものが…言葉が届いた。
なんだ。どれだけ強がっていても…いらないふりをしても、やっぱり欲しかったんじゃないか。
「奏ニ……君はもう、1人じゃないんだよ」
守りたいと思える人たちが……家族が。
「……皆が、少なくとも私が側にいる」
あの精神世界みたいなところではノーカンだとしても、感涙なんて物とは程遠いと思っていた俺は。
「………ああ」
「だから大丈夫だよ。我慢しないで」
優しく輝く月の下。
頬を伝う涙を取り戻したのであった。
"みんながいなかったら、私の人生はまったく別のものになっていた事でしょう。
五つ子である事を呪いと感じた日々もありましたが……それ以上に、祝福と感じた日々が残っています。
「これだけ長く付き合ってりゃ、嫌でも覚える。
俺は家庭教師だったが……お前達からも多くのことを教わった」
"私はみんなと五つ子の姉妹として、生まれることができてよかったです。
他の家とは少し違って、側から見たら変なのかもしれませんが……"
「お前達に出会えた事は、数少ない俺の自慢だ」
"私は、そんな家族が大好きです’’
そして、その涙に俺は誓おう。
そんな俺たちが歩んでいく未来は……なんとしても守っていく事を。
side風太郎
「いやー、なんかあっという間だったな」
「うん……でも、誓いのキスの時のフータロー、プルプルしててかわいかったよ」
「ほっとけ」
式が終わり、らいはにタキシードを返しに行ってもらったのと入れ替わりで、控室にやってきた三玖と、俺は式場の通路を歩いていた。
いや、何気ない話の裏で、俺は三玖に誘導されているようだ。
「どこ行くんだ?」
「どこって……フータローは私とどこかに行くの、嫌?」
「いや、そんな事ないが…」
そんな、取り留めのない話と共に、導かれた部屋には。
「何してんだ?お前ら…」
「ご苦労様、良い式だったね〜」
机に地図を広げて、残りの姉妹達と奏ニが集結していた。
そして、その様子に俺はハッとする。
「お前らまさか……」
「そのまさかよ。新婚旅行だわ!」
「で、行き先に困ったから地球儀とダーツを使って…」
「バラエティ番組と勘違いしてない?三玖達が決めるんだからね?」
コイツらが、話し合ってる内容は理解した。だが……
「着いてくるつもりか⁉︎」
「正解です!」
なぜかリボンを振るわせている四葉が、楽しみそうに言うが……新婚旅行ってのは、夫婦2人で行く物だ。
これじゃあただの家族旅行である。
「こ、コイツらメチャクチャだ……」
「……うん。でも、そんなのいつものことだし」
何度目かもわからないため息をついた俺の隣で、三玖は。
「それに、みんながいた方がきっと楽しいよ」
間違いないと言わんばかりに微笑んだ。
「お前がそれで良いなら……って、おい!」
その笑顔を前に、意見を引っ込めざるを得なくなった俺が反応をする前に、三玖は姉妹達の中に入りどこが良いかと話を咲かせだす。
思わず唖然とした俺の隣で、奏ニは仕方ないと言わんばかりの顔で。
「いやー、コイツらには敵わねえぜ」
「お前は止める側だったろ、なんで一緒になってんだ!」
「いや、だって家族だし…」
「俺もその家族の一員だ!」
そうして、くだらない会話をする俺たちの前では、姉妹達の間で指差した場所に行くことが決まったようだが……多分、それじゃあ決まらない。
こいつらの好みなんざ……ああもう!
「ホント、めんどくせぇ……」
俺は、改めて感じた言葉が口から飛び出したのであった。
side奏ニ
「間も無く、ハワイに到着します。シートベルトをしっかりつけて衝撃に備えてください」
機長席にいる四郎のアナウンスを隣で聞いていた俺は、シートベルトを締めつつ手に持っていた冊子に目をやる。
そんな俺に気づいたのか、四郎がシートベルトを締めつつ。
「それは…しおりですか?」
「ああ……風太郎が読んでおけってさ。修学旅行かっての」
そう答えた俺は、イキイキとしたテンションでこれを作ったであろう奴の顔をおもい浮かべながら。
「めんどくせぇ……」
恐らくあの5人も思ってそうな事が、思わず口から漏れたのであった。
家庭教師の二重奏から始まった俺たちは、きっと続けていくのだろう。
めんどくさくて、騒がしくて。
取り止めもなくて、かけがえのないような……
そんな、俺たちだけの七十奏を。
いかがでしたか?
次回はいよいよ最終回、奏ニと五月の結婚式ですね。
今回で終わりにして、続きはなんでもありの方で書こうかと思ったんですが、やはりこの小説の主人公のお話で締めた方がいいかと言う事で、あと1話だけお付き合いお願いします。
それでは、次回もおたのしみに!