気づけば半年経ってた…だと…?
お待たせしました。
ありえないくらい話が先に進みませんが、石楠花くんは今日も元気です。
新個性発覚イベントなる人生で一度は体験してみたいハイパーイベントを達成した初日の訓練。
PM4時、俺たちは未曾有の事態に陥っていた。
「さァ昨日言ったね、『世話を焼くのは今日だけ』って!!」
「己で食う飯くらい己でつくれ!! カレー!!」
「「「イエッサ……」」」
みんな圧縮訓練が余程疲れたのか、AB組含めて元気な奴が一人も……いや飯田元気だな。率先して音頭を取ってくれている。素晴らしい逸材だ、石楠花ポイントを1ポイント贈呈しよう。
だが大多数が疲れているのであれば、俺も合わせるしかないよね。
「俺ぁ…もうダメだ…! 手に力が入ら……っ! 緑谷、俺の分を託す…! お前だけが希望なんだっ…!!」
「えっ!?」
「さっさと動けや舐めプシャコが!! テメェ図鑑読んでただけだろうが!! 率先して働きさらせクソが!!」
言葉の尖りが鋭いよね。
いい感じに乗り切れると思ったんだけどな、面倒丸投げ大作戦。そりゃクタクタボロボロの人の群れの中に、一切衣服が汚れていない血色のいい大男がいればバレるか、体力が有り余ってること。
それとも俺のことずっと見てたのか? 愛故にか、仕方ないね。ウインクしてあげよう。
「キショカス殺すぞ!!」
「とんでもねぇ罵倒」
新たな言語を作るなよ。仕方ねぇ、ここは元気が有り余っている私めが率先して動くしかないようだ。
「よし、カレーを作って行こうと思う。手始めに素材の厳選から始めて行こう。カレールーなど言語道断、スパイスを仕入れ、無農薬野菜を採取し、山から湧き出す天然水を汲むぞ。そのために班を3つに分けるから少し待て」
「「「日が暮れるわ!?」」」
日が暮れるか。だが食に妥協する奴は所詮二流止まり…、俺は一流になるんだ! だからこそ妥協は許さねェ! 新鮮な野菜を手に入れて最高のスパイスカレーを作るんだ!!
「峰田! お前はそれでいいのか!? 自分で採取した食材を調理して女性に振る舞うことこそ漢の誉れだろ! 何もかも諦めて採取時期不明の自身の努力が反映されてない食材に甘んじていいのか!?」
「よくねェ…、よくねェよ!!」
「そうだろう!! ならやることは分かるよな!?」
「あァ!! オイラが間違ってたぜ石楠花!!」
流石峰田だ、俺たちはやはり相棒だったのかもしれない。ソウルメイトに説明はいらない。流れるように近くの草木に向かう峰田の後ろ姿を見て涙が溢れそうになる。
「女性に料理を振る舞うにはやっぱ天然物に限るぜ!! 今ならオイラ何でも見つけられる気がする!」
「その意気だ峰田!!」
「あっ! 見ろ石楠花! この黒い塊……きっとトリュフだ!!」
「何だって!? 採取してみろ峰田! 慎重に…包み込むように両手でアプローチをかけろ!」
「おうよ! ……よっしゃゲット!! やっぱコレそうだぜ! 心なしか芳醇な香りがする…! オイラやったぞ石楠花! 天然物のトリュフを手に入れたぞ!! これでモテモテだ!!」
「それは猪の糞だな」
憤怒の形相で追いかけてきた。夢に出そうでした。
▽
峰田猪の糞採取事件を乗り越えて、俺たちは調理場に戻ってきた。
合宿から帰ったら頑張って合コンの席を用意することと、今から絶品のカレーを作ることで許してもらった。
ここで許してくれるあたりやっぱりヒーローだよお前。身長に反比例して器のデカさが違うよ。
「さっさと動けや!」
「元気だな爆の豪太郎くんは。さて、俺も作っていくとしますか! まずはスパイスから仕入れるとして…」
「その
「あっちにトリュフが落ちてたぞ。こっそり採取して自分の皿にだけ盛り付けたらどうだ?」
「猪の糞だろォが!!」
チッ! バレてたか。気づかずに盛り付けたら爆笑必須だったんだがな。
だがそんなことはどうでもいいんだ。爆豪弄ってる場合じゃねぇ。そろそろ俺も動き出さないと本気でヤバい。
もう俺を見る女子の視線が絶対零度だ。早く動けカスって目で伝えてくる。もしかして爆豪が裏で目で殺す視線の向け方講座とか開催してる?
しかも何故か「石楠花専用」と書かれたプラカードが設置された机があるんだけど。作業員俺1人だけ? 1人作って1人で食べろってか? 誰も目を合わせてくれねえ。
マジかよ。昨日しこたま作ったぜ? 今日ぐらい休みでも許してくれない? だめ? あっそう。
「まぁそんなこと考えてる間に仕込みは完了したわけだが」
「すげぇ! 残像出てた! 石楠花の包丁さばきが早すぎて残像出てたぞ!?」
「なんなんだよアイツ!? しかももう米炊いてるし!? いつ洗ったんだ!?」
「何で先に作り始めてた俺たちよりも早く完成しそうなんだよ!?」
「指パッチンで火をつけてたぞ」
「1人ト⚪︎コじゃん」
まぁ俺にかかれば瞬で完了する作業よ、食材が俺に語りかけてきてたわ。そろそろ体が光り輝いたり殴り飛ばして地球一周させるパンチが打てるようになると見たね。
「それよりもいい野菜ですね。やはりプッシーキャッツのお姉様方が仕入れる野菜は一味違うね。心なしか輝いて見えた」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ〜! 心を込めて仕入れたんだよ? …………イレイザーヘッドが」
「ズボラ無精髭寝袋おじさんが仕入れた野菜じゃカレーを楽しめねェよ!! 明日朝長時間トイレ確定じゃないか!!」
「お前飯抜きな?」
冗談ですやん先生、だからだから俺が作った飯を回収しようとしないでください。腹ペコで死んでしまいますよ僕ぁ。へっへっへ…!
「石楠花くん、やっぱり手際いいね!」
「男子高校生の手料理 Second season…!!」
「我らもご一緒させてもらおう」
「アチキらと先生2人も石楠花カレーをいただくにゃん!」
マジかよ俺のカレー大人気じゃん。
俺のカレーが人気ってことは、俺自身も人気ってことか(福神漬け理論)。
でもこの場合は技術が人気か……
「身体だけが目当てって訳か……」
「どういう理論?」
「くっ…! まさか身体だけが目当てだったなんて…っ! 見損なった……見損なったよピクシーボブ!!」
「どういう理論!?」
「流子…貴女…」
「まって違うから!?」
凄いな、冤罪ってこうやって生まれるのか。ピクシーボブが3人から詰められてるよ。ワラワラ。
成る程、こりゃ司法から冤罪がなくならない訳だ。ごめんよピクシーボブ、100%が罪悪感のMAX数値だとすると3.14%と小数点ぐらいの数値で俺の心が罪悪感で痛んでるから、それで勘弁してくれ。
とりあえずこの場から離れよう。ヒーロー同士積もる話もあるだろう。俺が近くにいちゃ話したいことも話せねェよな! 達者でなピクシーボブ! 多分日頃の行いだと思うよピクシーボブ!
「というわけで臨時コーチが来てやったぞ。感謝しろよ?」
「どういうわけかなァ!?」
訓練明けだというのにコイツも元気一杯だな物間。何がコイツをこんなにも元気たらしめてるんだ?
しかも手際いいなコイツ。
「アッハッハッハ!! 残念だったねェ!! 僕たちB組の欠点を探したいんだろうけどそうはいかないさ! 見たまえ僕の包丁さばきを! 君はこんなこと出来ないだろう? アーッハッハッハ!!」
「秘技 残像クッキング」
「なっ…何ィィィィィィ!? 馬鹿なぁぁぁァァァ!?」
急に競ってきたと思ったら、急に地面に手をついて項垂れ始めた。何だコイツ?
「だっ…だがまだ勝負は終わっていない! 残念だったね! 僕はスパイスの使い手で……」
「土を触った手で調理再開しようとするな。手を洗え」トンっ
「くぺっ!?」
あっ、拳藤の姉貴に首トンされて崩れ落ちた。改めて何だコイツ?
「それで? 石楠花は一体どうしたんだ? 手伝ってくれるんならありがたいけど」
「あぁ、そのために私が降臨したのさレディー達。ほら、順番にこちらにお尻を向けて四つん這いになりな。最後の仕上げに坐薬を入れてあげるから」
「「「死ね!!」」」
「くぺっ!?」
プロボクサーもビックリなすげぇ良い一撃が顔と鳩尾と右脇腹と左脇腹と首筋と股間に突き刺さった。
確実に俺の命を刈り取りにきていて脱帽ものだよ。俺じゃなければ死んでるね。
とりあえず揺れる胸と赤らめた顔を視界に収めつつ、高画質で脳内に保存したのちに意識を失った。
▽
【悲報】目が覚めると全員カレー食べ始めていた件について
マジで? そんなことある?
誰か1人くらい待ってくれていても良くない?
みんな一心不乱にカレーかき込んでるじゃん。誰もこっちを見てくれねぇ。クラスメイトの1人がボコボコにされて地面に捨てられてるんだよ? (自業自得)
ヤバい、カレー > 石楠花 の方程式が完了してしまっている。これは由々しき事態だ。石楠花は寂しいと死んじゃう生物だという事をみんな忘れてるんじゃないか?
あと水をお供えしてくれた誰かありがとう。出来れば助け起こして欲しかったな。
まぁいい。そんなことよりカレーだ。俺の作ったカレーどうなった? 石楠花はお腹が減りすぎると死んじゃう生物だということをみんな忘れてるんじゃないか?
「ごめんね石楠花くん。先に頂いてるよ!」
「ガツガツハフハフ!!」
「慈悲の心とかないんか?」
マジかよプロヒーロー。半分無くなってるじゃねえかプロヒーロー。俺の扱いが分かりすぎてるだろプロヒーロー。何無言で食ってんだよイレイザーヘッド。
生徒を助け起こすより先に食欲が優先されるなんてことあるん? 僕ぁ傷つきましたよ! 自業自得だけど傷つきましたよ僕ぁ!
「まさか相澤先生が生徒の安否よりもカレーを優先する男だったなんて…っ! 見損ないましたよ! 俺とカレー、どっちが大事なんですか!?」
「自業自得のバカを救うより、目の前の冷えかけるカレーを救う方が大事だ」
「くっ! 確かに俺でもそうする!」
くそっ! 論破されちまった! なんて完璧な論破なんだ!
もしかして先生はダンガンでロンパな存在だった…?
「先に食べちゃっててごめんね? ほら、石楠花くんの分、大盛りだよ!」
「結婚しようマンダレイ」
「うん、いい「させるかァァァァ!! ピクシー全力妨害!」」
なんか目の前でキャットファイトが始まったよ。まぁいいや、俺はカレー食っとこ。流石俺、うまうま。
相澤先生が呆れた目ですげぇ見てくる。腹減ってるのか? 俺のカレーはあげないよ?
「お前、いつか刺されるなよ?」
「大丈夫です。俺の腹筋は刃物を通しません」
「そういう問題じゃねぇ」
大丈夫さ、何があったとしても俺が刺されることはないね。蝶のように舞いながら華麗に避けるねきっと。
でも女の子なら避けずに刺されて抱きしめるかもしれない。愛があれば刃物の痛みなど気にもならないね。
だが、愛。愛ねぇ………
いつかは見つけてみたいものだ。心の底から湧き上がる、抑えきれない感情というモノを。
「そうだ先生、そこの茂みにトリュフがありましたよ。採取して自分のカレーに入れたらどうですか?」
「それ猪の糞だろ」
地獄の狼煙が上がるまで、あと1日。
林間合宿編佳境、coming soon